NY出身の元海兵隊員、ITとゲームへの情熱を胸に沖縄で起業。英語力を武器に翻訳事業も展開
株式会社Left Foot Games(レフトフットゲームズ)の代表取締役カー・マシューさんは、米ニューヨーク生まれで元米軍海兵隊員。軍を離れ沖縄に本格的に移住したのちにIT業界でのキャリアを広げ、家庭と仕事の両立を目指し、起業しました。モバイルゲーム開発に始まり、現在はITコンサルティングや翻訳など多岐にわたる事業を展開しています。ITとゲームへの情熱をもとに、独学で築いた技術と独自の視点で道を切り開き続けるカーさんに、これまでのキャリアや事業への思い、展望を伺いました。
ニューヨーク出身の元海兵隊員が沖縄でゲーム制作を始めた理由とは?リスクへの不安に打ち勝ち起業
アメリカのニューヨーク出身だと伺いました。沖縄に来るきっかけから教えていただけますか?
もともと海兵隊に所属しており、2001年に沖縄の米軍基地に赴任しました。04年に除隊し、一度ニューヨークに戻ったのですが、再び沖縄に帰ってきました。
再び沖縄に来ようと思われた理由は何ですか?
当然ながら軍にいる間は制約が多かったので、沖縄でごく普通の生活をしてみたいと思ったのです。当初はとにかく一般市民として住んでみたかったので、いくつかの仕事を転々としていました。そのなかの一つにゲームの制作会社があり、そこではじめてゲーム開発の仕事に携わることになりました。
ゲーム作りにはご興味はあったのでしょうか?
実は子どもの頃からゲームやパソコンには興味があって、幼少期には、父が持っていた古い大型のパソコンで遊んでいました。モノクロ画面で、最初はプログラミング言語のBASIC(ベーシック)などを使っていましたね。高校に入ってからは、関数電卓を使って簡単なゲームも作りました。
それはすごい!高校時代からゲームを作っていたんですね。
はい。ただ、海兵隊員を辞めた後に就いていた主な仕事はハードウェア系でした。パソコンの組み立てや修理、プリンターの管理などです。
ゲーム開発の会社に転職してソフトウェア系の業務に切り替わり、1年余りの間に、企画と営業、特に海外営業とユーザーサポートを担当していました。しかし、担当していたタスク以外、特に自社開発のゲーム作りに深く携わりたいと思うようになり、次第に独立を意識するようになりました。そこで、リスクを承知のうえで自分の会社を立ち上げることにしました。
また、当時は幼い子どもが2人おり、会社員だとどうしても夜遅い帰宅になってしまうことにも悩んでいました。ワークライフバランスをもっと大切にしたく、自分の会社ならそれが叶うだろうと考えたことも、起業した理由の一つです。
ゲーム開発からITコンサルティング、映画翻訳まで。新しい事業開拓で売上を伸ばす!
Left Foot Gamesを立ち上げてからは、どのようなゲームを作るようになったのでしょうか?
主にモバイルゲームの開発で、それと並行して他社の受注案件にも携わっていました。
今でも引き続きその事業がメインになりますか?
設立当初はゲーム開発がすべてでしたが、今では一部になりました。というのも、モバイルゲームの業界はレッドオーシャンで、そこのみで勝負するのは厳しい状況になってしまったからです。家族や社員のために、ゲームに限らず幅広くさまざまな業務を行う必要にかられました。そこで、システム開発やゲーム開発の受託、ITに関するコンサルティング、セキュリティ対策など、主にITに関連する仕事を増やしていきました。
また、私がニューヨーク出身ということで、英語を生かして日本企業が海外進出するサポートもしています。逆に海外からのニーズがあれば、日本企業を紹介することもあります。また最近ではIT以外に、映画の翻訳などの英語事業も始めました。
一方、ゲーム関連のイベントを主催することもあります。例えば、以前は沖縄本島の各地でeスポーツイベントを主催していました。近年では、21年から始まり、今年で4回目となる米軍基地内でのアメリカ生まれのポップカルチャーの祭典「コミコン(コミック・コンベンション)沖縄」の運営に関わっています。今年は少し忙しくて準備にあまり参加できませんでしたが、過去3年間はすべてのプロセスに関わりました。
新しい事業に積極的に取り組むには新規の取引先が必須だと思うのですが、どのように開拓してこられたんですか?
オフィスにこもって作業しているだけでは人脈は広がりませんので、とにかく外に出て営業する時間を増やしました。また営業だけでなく、沖縄県中小企業家同友会の会員になったり、沖縄県情報産業協会に所属したりと、さまざまな団体とのコネクションを作りました。
このような団体は経営者が経営について勉強する場ではありますが、異業種の経営者とコミュニケーションを取れるので、皆さんの経営に対する思いや情熱を直接聞くことができます。自分の困りごとも相談できるので、すごく心強いです。特に沖縄情報産業協会はITの団体なので、同じくIT関連の経営者や営業担当者とも話ができ、人脈が広がりますね。その成果もあり、取引先やクライアントも順調に増えており、県内の企業のほか、県外の映画翻訳のお仕事も増えつつあります。
家族が最も大切。ライフワークバランスを大事に自身の強みも生かした事業を
御社の強みは何だと思われますか?
現在の社員は私1人ということもあり、スピーディーに動けることが強みの一つになっています。
また私のポリシーでもあるのですが、ワークライフバランスを大切することも強みと言えると思います。ゲーム会社は忙しいイメージがありますが、人生の基盤は家族ですから、まずは家族を大事にすることこそ、仕事への原動力につながるはずだという信念を持っています。
そのような経営方針と強みのなかから生まれた事業のなかで、特に成功したものや特徴的なものを教えてください。
自社のモバイルゲームで一番ダウンロードされたのは、「ABADUST(アバダスト)」というそろばんゲームです。特にシンガポールのApp Storeでフィーチャーされ、ユーザーからも良いフィードバックをもらいました。
また、映画翻訳の事業に関しては、現在進行形で手ごたえを感じています。依頼主から良いフィードバックをいただいたり、国際映画祭などで作品が評価されたこともあったりと、作り手の想いがしっかりと伝わっていると実感しています。単なる翻訳ではなく、一定の字数で意味を正確に伝えることや、アメリカ英語のニュアンスなどをしっかり理解することが重要なので、その点では私の特性を生かせています。
沖縄を軸に、世界を視野に入れた企業へ成長させたい。「イニシアティブを取れる」クリエイター募集
今後のことを伺いたいのですが、どんな会社にしたいとお考えですか?
最近やっと新しい事業の柱ができたので、まずはそれを確立させて軌道に乗せたいと思っています。ある程度売上が安定して再び社員も雇えるようになったら、コンサルティング業務を強化したいですね。
今はゲーム開発よりもコンサルティングの需要が高く、特に情報セキュリティや中小企業向けの初歩的なコンサルティングには需要があります。ここをしっかりと伸ばし、余裕が出たらまたゲーム開発も再開したいと考えていますが、まだ道のりは長いですね。とはいえゴールは分かっているので、時間はかかりますが、その道筋に向かって進んでいる最中です。
沖縄を拠点にこれからもお仕事を続けたいと思っていらっしゃるんですね。
はい。実は会社のロゴに沖縄に関連した意味が込められています。沖縄を拠点にしながら、沖縄と海外をつなげるような会社にすることが大きな目標です。
最後に、今後社員を積極的に採用していきたいとおっしゃっていましたが、どんなクリエイターと一緒に働きたいですか?
クリエイティブで、イニシアティブを取れる方ですね。自分で考えるなかで分からないことがあれば聞けばいいですし、「これは自分にできる」と思えば積極的にやってみる人がいいです。待つだけじゃなくて、自ら行動する方、成長していける方と一緒に、会社も成長させていければ本望です。
私自身ができることには限りがあります。例えばゲーム業界においては、どんどん新しい技術が生まれてきていますので、現在進行形で学ばれている学生さんや若い人の方が、私よりもずっと知識を持っている可能性が高い。また、正直私は絵がさほど得意ではなく、以前は得意な社員にデザイン面を担ってもらっていました。再びゲーム開発に取り組むためには、最新の知見を持っていたり、絵が得意だったりする社員が必要です。だからこそ、まずは今取り組んでいる事業を安定させて、売上を伸ばしていくことに全力を注いでいきたいですね。
取材日:2024年10月24日 ライター:仲濱 淳
株式会社 Left Foot Games
- 代表者名:カー マシュー(Matthew Kuhr)
- 設立年月:2016年4月
- 資本金:239万円
- 事業内容:ゲームの開発、ITコンサルティング、英語翻訳
- URL:準備中
- お問い合わせ先:090-9789-9273