顧客に寄り添う幸福感で、地元密着のサービスを。子育ての合間の「リモートワーク」がきっかけ?
新潟県十日町市を活動拠点に、Webサイトの新規制作や運営管理、また最近ではITコーディネータとしてDX伴走支援などを行っているトラストラボ株式会社。代表の河合 里美(かわい さとみ)さんは、東京からUターンし、本格的に現在の業界へ入りました。無料講座を開催したり、電子書籍を出版したりと自身の経験や知識を惜しみなく社会に還元し、より良い未来を作ることに貢献している河合さん。その原動力、展望を伺いました。
子育ての合間の「リモートワーク」が業界入りへのきっかけ
会社立ち上げまでの経緯を教えてください。
結婚して子どもを授かったとき、「自然豊かな田舎で、ゆったりと子育てをしたい」という思いが募り、Uターンを決意しました。専業主婦として家族を支える毎日の中で、趣味としてWebサイトを立ち上げ、掲示板を作成。大好きな作家のファンサイトを運営しながら、全国のファンと交流を楽しんでいました。
この活動は、ただの趣味にとどまりませんでした。掲示板作成やホームページ制作、アクセス解析に少しずつ興味を持ち、プログラミングにも触れるように。やがてその経験が、再就職につながります。
当時、リモートで仕事をすることはまだ珍しく、「家にいながら働く」という働き方はほとんど知られていませんでした。それでも田舎にいながらスキルを生かし、子育ての合間にお小遣いを稼ぐ生活は、私にとって新しい可能性を感じさせるものでした。
好きなことを楽しみながら得たスキルが、やがて人生を変える扉を開く――そんな経験が、私の原点です。
そして子育ての方も落ち着いてきたのを機に、十日町のソフトウェア関連の会社に再就職することになりました。ちょうどそのときに立ち上げることになったWebサイト部門を任せていただくことになり、大手百貨店さんのWebサイトの運営管理を約10年担当させていただきました。そのあとに転機がやってくるんです。
転機とはどういったものですか?
知人に誘われ、2010年に一緒に新しい会社を立ち上げることにしたんです。3人で立ち上げたのですが、さまざまな理由で他の方は辞めていき、私だけが結果的に残る形に。16年からは代表を務めさせていただいています。
自分のした失敗がみなさんを成功に導く
現在の事業内容を教えてください。
現在は、Webサイトの制作と運営管理を主に手掛けています。ただ、時代とともに誰でも簡単におしゃれなWebサイトを作れるようになったため、最近では内製化支援に軸を移しています。
具体的には、新潟県の機関「NICO」に専門家として登録しており、登録プランを活用して5回の伴走支援を行っています。この支援では、制作者である私自身が制作のノウハウを直接お伝えするため、「まさかプロから学べるなんて」と驚かれることも多いです。それでも、利用者の方から「親切に教えてくれてありがたかった」といったお声をいただけるのは本当にうれしく、励みになっています。
またこれまでの経営とITに関する知見を生かし、ITサービスの利活用を促進することで、IT経営を実現させる専門家・ITコーディネータの資格を18年に取得。20年からはこの資格の普及を進める新潟県ITコーディネータ協会というNPO団体に所属し、そちらでもお仕事をしています。
ITコーディネータのお仕事をもう少し詳しく教えていただけますか?
ITコーディネータは、中小企業診断士の「IT版」とも言える仕事です。支援機関や民間の経営者の方々にDX(デジタルトランスフォーメーション)の面で支援を行うことが主な役割です。
DX支援といっても、すべての情報に精通するのは現実的に難しいので、ITコーディネータそれぞれが専門分野を持ち、得意な分野で力を発揮しています。この資格は経済産業省が推進する資格でもあり、信頼性も高いんですよ。
私自身、新潟県ITコーディネータ協会に所属しており、現在は会員担当の理事を務めています。会員数は約40人で、勉強会の企画運営なども担当させてもらっています。資格やDX支援に関心のある方々と、新潟県のDX支援の底上げに取り組んでいきたいと考えています。
ITコーディネータとして御社の強みはどこにありますか?
10人前後規模の建設業者や割烹、パン屋……。規模の小さい会社さんとは非常に相性良く、支援させていただいています。その要因は、私自身が小規模な会社の経営者であったことと、多くの失敗を経験してきたことにあります。みなさんが直面する問題には共通するところも多くあり、そういった面でのアドバイスができることが最大の強みですね。
挑戦から学んだ教訓「リスクへの対応やシステムの安全性確保が欠かせない」
他社にはない実績はありますか?
実は、「ママ人財」というサービスを立ち上げたことがあります。在宅ワークを希望するママさんたちと、企業の「ちょっとしたお仕事」をつなげるポータルサイトで、いわばマッチングサービスみたいなものです。
当時、私は法人向けにWebサイト制作をしていたので、そのお客さんと地元のママさんたちのスキルをうまく結びつけられないかなと思ったのがきっかけです。イラスト制作や翻訳、簡単なシステム開発など、地元のママさんたちが対応できる仕事をマッチングして、いくつか実績もできました。
でも、やっぱりマッチングサービスには特有のリスクがあって、それをどう解決するかが本当に難しかったんです。例えば、匿名性が高い分、もし悪意のある人が関わると、トラブルや危険が起きる可能性がある。それを完全に防ぐ仕組みがどうしても作れなくて、最終的には300人くらい会員が集まった段階でやめることにしました。
今思えば、力不足だったなぁというのが正直なところです。でも、2018年当時はまだマッチングサービスや在宅ワークが今ほど普及していなくて、社会的なルールも整っていなかったんですよね。時代の先を行く試みだったのかもしれません。
今なら、課題をクリアできる仕組みも増えてきているので、やっぱりタイミングって大事だなと感じています。そして、この失敗から学んだのは、どんなに良いアイデアでも、リスクへの対応やシステムの安全性を確保することが欠かせないということです。
失敗に終わったサービスではありますが、この経験は今の私にとっても大切な教訓となっています。挑戦から学んだ知識や気づきが、今後の事業やDX支援の場で必ず生きると信じています。
事業自動化の基盤は主婦時代の経験から
一方で、Webサイトの運営管理という側面での強みはいかがですか?
これまでにKindle版の書籍を3冊出版しました。この電子書籍は「自動的にお金を生み出す仕組み」の一例となっています。一度執筆し、出版手続きを終えれば、時間や場所に縛られることなく販売収益が発生します。規模は小さいものの、これこそ私が考えるデジタルトランスフォーメーション(DX)の形に近いものだと感じています。
もちろん、この仕組みを作り上げるには、最初の段階での努力やスキルの習得が欠かせません。しかし、一度形にしてしまえば、あとは少しの維持や改善を行うだけで、自分の手を離れてお金を生むサイクルが動き続けます。この仕組みが私の強みのひとつです。
さらに最近では、「Udemy」というポータルサイトを活用し、オンライン講座を展開しています。例えば、「もう悩まない!小さな会社向け WordPress セキュリティ講座」という、小規模事業者が内製化する際に最も不安に感じるセキュリティ対策をテーマにした講座を作成しました。このように一度講座を作り込めば、受講者の方が好きなタイミングで学べる仕組みが整います。これにより、時間を効率的に活用しながら、スキルを必要としている方々とつながることができています。
電子書籍やオンライン講座は、私にとって単なる副業ではありません。事業を効率化し、自動化していくための貴重な経験値を積む場であり、これらの取り組みを通じて得た知識やスキルを、今後のDX支援の現場で生していきたいと考えています。
このような取り組みの原点は、主婦時代に子育ての合間を活用して行っていたリモートワークです。子育てをしながらという限られた時間の中で効率的に仕組みを作り上げる経験が、現在の事業自動化の基盤となっています。
本について、詳しく教えてください。
現在までに3冊書いていて、1冊目は「ホームページの担当者になってしまったあなたへ 一人で簡単!ホームページ作成ワードプレス編」というもの。地方のホームページ制作会社として実際に行ってきた制作ノウハウを中心に広く浅くまとめています。
2冊目は「50代のおばさんがはじめて作った コピペでできるGoogleAppsScript スプレドシートのスマホ表示編」、3冊目が「Google Apps Scriptで作るスプレッドシートのスマホ表示」。この2冊は、3年間伴走させていただいた農業DX関係のお客さまとのやり取り時にあった、スプレッドシートのスマホ表示という課題を本にまとめたものになります。
1冊書き上げるのにどのくらいの時間を要するのですか?
1冊目は1週間程度でしたね。品質よりも書きたいことを重視。売れようが売れまいが関係ない。そんなスタンスで書いたのですが、読んでいただいた方々からは高評価をつけていただいて……。自分でも少し驚きましたね(笑)。
最重要視するのは「人を幸せにできるか」。コロナ禍で変わった仕事に対する価値観
今後、どういったジャンルのお仕事をしたいですか?
具体的にこれというのはありません。しかし、私は常に「その瞬間の自分が幸せな感覚でいることを最重要視」しています。幸福感というのでしょうか。昔は“いかにも!”という感じのガツガツとした営業を行っていましたが、新型コロナウイルス禍からは、「いかに自分を、周囲の身近な人を幸せにできるかが大切だ」と思うようになりました。そういった意味合いもあって、稼ぎを念頭に多くを取るのではなく、やりがいを重視した実のあるものに時間をかけられるようにと、会社の規模も小さくしました。10年後もこの考え方、スタイルは変わらないと思います。
外部の方と一緒にお仕事される機会はありますか?
ITコーディネータのNPOもそうですし、地元の商工業支援機関の方と連携して一緒にお仕事をしていますよ。
一緒にお仕事をする際、クリエイターの方の何を重視していますか?
誠実な人柄であることですね。目的を優先するあまり、お客さまの思いなどをさしおいて戦略・利益重視になってしまう方はご遠慮したいですね。そういったスタンスで臨んだ仕事だと、いくら成功したとしても、心が枯渇してしまう気がします。お客さまと伴走するような気持ちで、仕事に取り組める方とご一緒できたらうれしいです。
取材日:2024年10月25日 ライター:コジマタケヒロ
トラストラボ株式会社
- 代表者名:河合 里美
- 設立年月:2010年4月
- 資本金:600万円
- 事業内容:Web制作事業 Web制作支援事業DX伴走支援事業
- 所在地:新潟県十日町市を拠点に活動
- URL:https://trustlab.jp/
- お問い合わせ先:上記ウェブサイト内のお問い合わせフォームをご利用ください