“NFTアートの返礼品”が叶える地方創生。札幌から東京に一石投じ「地域が豊かになる世界」へ
地域資源を生かしたNFTアートをふるさと納税の返礼品にすることで、地方創生を目指す札幌の株式会社あるやうむ。少子高齢化などが深刻化する地方の状況を「手助けしたい」という思いを抱いていた代表取締役の畠中 博晶(はたなか ひろあき)さんは、ある起業家との出会いを機に、革新的な事業を思いつきます。その取り組みとは一体なんなのか。地域にかける思いなども合わせて畠中さんに伺いました。
在学中に仮想通貨の魅力に出合い、ビジネスの世界へ。夢見ていた札幌移住を実現
会社立ち上げ以前のキャリアをお聞かせください。
東京で生まれ育ち、私立の中高一貫の進学校を卒業し、京都大学に進学しました。本当は北海道大学への進学を機に札幌移住を希望していたのですが、周囲の反対を受けてそのときは断念しました。
入学後は大学の勉強もしていましたが、在学中に始めた仮想通貨のトレードが面白くて夢中になってしまいまして。稼いだ資金で、卒業後に念願の札幌移住を決意しました。
北海道の何が畠中さんを惹き付けたのでしょうか?
札幌は世界で唯一、人口100万人以上の豪雪地帯です。街づくりという観点から見ても非常に特殊で、そこに興味を惹かれました。もともと街づくりに関する勉強が好きだったこともありますし、大学時代に日本各地を巡ったなかでやはり札幌がいいと思い、2020年4月に札幌に移住して北海道大学の大学院に進学しました。その年の11月には今の会社を設立しましたが、仮想通貨も盛り上がってきて忙しくなってきたこともあり、結果的には2021年の3月に中退し、事業に専念することにしました。
会社設立後の取り組みについて教えてください。
最初は1人でイラストレーターとコラボしてグッズを出すという事業を行っていました。同時進行で仮想通貨のトレードにも力を注ぐなかで、トレーダーに商品を買ってもらえる方法を考えたり、トレーダーとのコミュニティー作りを手伝ってほしいというお声をいただきました。仮想通貨業界のスタートアップ企業から業務委託という形でサポートしていましたが、それが人生の転機になりましたね。
それまではトレーダーと小さなビジネスの世界しか知らず、数10万円しか扱ったことがありませんでした。しかし、トレーダーたちが投資家から入ってくる何億円ものお金を動かす様子を見ていて、私もやってみたいなと興味を持ちました。
タイミングをつかんで第二創業をスタート。ふるさと納税の返礼品をNFTに
現在のお仕事内容を教えてください。
起業以前から、少子高齢化や人口流出による人材不足など、深刻化する地域の状況を目にし、何とか地域活性化の手助けができないかという思いをずっと抱いていました。そんなとき、帯広で開催された宇宙サミットである投資家に会いまして。話をしているうちに、地方向けにNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)の事業でスタートアップをしても面白いのではないかと思ったんです。そこで、起業アドバイザーの方に相談したところ、ふるさと納税とNFTを掛け合わせた取り組みはどうかというアドバイスをいただきました。その提案に投資家が興味を持ってくれたことで、現在の事業へとつながりました。
投資を受けて2021年11月にふるさと納税とNFTを掛け合わせた事業を始めましたので、2021年の12月が会社の第二創業にあたります。当時はWeb3を行う会社への投資熱が急激に高まっていましたので、タイミング的にもちょうど良かったのだと思います。
取り組みについて具体的に教えてください。
NFTは簡単にいうと、デジタルアイテムの所有権を示す特別な証明書のようなものです。本物はコピーした瞬間に本物のタグが外れるので、デジタル上で本物と偽物が区別でき、データを正規の流通ルートで手に入れたかどうかが分かります。現在はアートシーンやライブチケットなどで採用されていることが多いですね。
その仕組みを利用し、私たちはふるさと納税の返礼品として、NFTで本物と証明されたアートを寄附された方にお渡しするという事業を行っています。返礼品はご当地の観光資源を背景とし、ご当地のイラストレーターにキャラクターなどのイラストを描いてもらいます。そのコラボのための調整が私の役割です。
地域資源と組み合わせたイラストで一点ものを。全国の仲間とともに事業を展開
イラストレーターはどのように獲得するのですか?
地域とコラボするときに重視するのが、イラストレーターさんのファンが喜んでくれるかどうかです。そのため、地域資源と組み合わせた際の“映え”を考えつつ、NFTの世界ではかなり有名な方にX(旧Twitter)のDMなどで依頼しています。
イラストはパーツの組み合わせで作っていますので、例えば背景は同じでも、キャラクターの髪色を変えたり眼鏡をかけるなど、一つとして被らないように一点ものを作ります。NFTで貰った返礼品は通し番号が付いているので、発行枚数を有限にすればその分の希少性も高まります。1番大切なのは正規の流通経路で手に入れたという価値ですね。正規品をその日その場所で手に入れたというストーリー性も高い価値になります。
自治体の方へのご提案はどのようにしていますか。
NFTを用いたふるさと納税の返礼品を作ったのは全国でも私たちが初めてでしたので、最初はコラボする自治体の前例を作るために、さまざまなつながりを駆使してこちらから話を持ちかけました。最初に手をあげてくれたのが北海道余市町です。齊藤町長が先進的な方でしたので、こちらの提案にも興味を持ってくれました。
実際に取り組んだ結果、総務省からも返礼品の枠が広がったと感謝され、そこからほかの地域からの問い合わせが増えていきました。ただ、NFT界はニッチでイラストレーターも有限なので、たくさんの問い合わせに対して、さばき切れていないという課題はあります。
会社のスタッフはどのように採用しているのでしょうか。
友人の紹介とインターンの計5人で余市町の仕事をして以降、全国からお問い合わせが届くようになりましたので、その時々で必要なポジションに適した人材を採用してきました。新しい業界なのでピンポイントで人材を探すのは難しいため、できるだけ近い経験をしていた人を選ぶようにしています。今は8人のスタッフが全国各地に点在していて、打ち合わせなどはリモートで行っています。
クリエイターを巻き込んで地域を元気にしていきたい
地域おこし協力隊中心のDAOによる地域課題解決にも取り組んでいますが、具体的にどのようなことをしていますか?
デジタルコミュニティーと呼ばれているDAO(ダオ)は、NFTと対をなす私たちの主軸事業です。DAOとは、掲げたテーマに共感した人がオンライン上で集まってみんなで話し合い、個人あるいは集団でテーマに沿って実行する組織のことです。成功例を挙げると、人気インフルエンサーが創設したDAO組織「Ninja DAO(ニンジャ ダオ)」でしょうか。「1000年後も残る忍者のキャラクターを作りたい」というお題に共感した人が集まり、二次創作や漫画、小説が作られました。今では実際にアニメ化されたほか、スマホゲームにもなっています。そうしたDAOを運営するための資金調達として、参加権が付与されたNFTを発行するなど、NFTとDAOは互いにいい関係にあります。
私たちが提案しているのは、地域の課題をオープンにして、地域に関わりたい人にオンライン上で参加してもらうDAOです。参加者は地域に関係がなくてもいい。外からの客観的な視点も必要ですし、面白いアイデアが出て来るかもしれません。
DAOを利用したコミュニティーを作る場合、誰か代表が張り付いてずっと熱を入れ続ける必要が生じます。では誰がその役割を担うかと考えたときに、地域おこし協力隊という国の移住制度を活用しようと。デジタルツールに詳しくてオンライン上で人々を巻き込めるようなノウハウを持つ人、もしくは興味のある人を協力隊として送り込み、その人を3年間支援して一緒に地域のためのコミュニティーを作っていこうということです。国の移住制度を利用することで国からの支援も手厚いので、自治体も乗り出しやすくなります。
すでに取り組みは行っているのでしょうか?
2024年の4月から始めています。北海道では余市町や増毛町で実施していて、来年はもっと増える予定です。ほかにも日本で一番面積の小さい人口約3000人の富山県舟橋村と、温泉地として有名な和歌山県白浜町、鳥取市からもお声をいただきました。これで結果が出れば実施する自治体が増えていくと思いますし、増やしていきたいです。
クリエイターにメッセージをお願いします。
クリエイターにイラストや音声・動画作品などの制作を有償で依頼できる「Skeb(スケブ)」の、ふるさと納税版を作りました。こちらは、自分の好きなイラストレーターに好きなイラストを描いてもらえるサービスで、背景は自治体の観光資源や特産品など、その地域に関連したものを使います。通常はプロにイラストを発注すると1枚1〜3万円かかりますが、ふるさと納税ですので実質負担2000円で自分だけの作品が手に入るというのが画期的だと思います。
現在の背景は北海道えりも町の襟裳岬に限られていますが、手をあげる自治体が増えれば背景の選択肢も増えるので、イラストレーターの作風やファンの気持ちを考えつつ、年に1〜2カ所、自治体を追加していきたいと思います。
すべてのイラストレーターがふるさと納税の返礼品を作れる世の中が面白いんじゃないかなと思い、今はみなさんにDMを送って、参加をお願いしているところです。7月中旬に告知を始めて、11月の段階ではすでに1100人になりましたので、ここからさらに増やしていきたいですね。登録料も無料ですので、1人でも多くのクリエイターを巻き込んでいきたいと思っています。
展望やビジョンなどを教えてください。
投資家の約95%が東京にいて、彼らが東京に呼んだ起業家がお金を儲けるとそれが投資家に戻り、また富が東京に集まります。この再生産が繰り返されています。個人の目標でいえば、私が投資家になることで、これまでのように東京が何でもかんでも吸い上げていくという形に一石を投じたいですね。私が札幌で3〜10年かけて投資家となり、優秀な起業家がそれぞれ大切にしている場所で起業できるように投資し、地域が豊かになるような世界がくればいいなと思います。
取材日:2024年11月15日 ライター:八幡 智子
株式会社あるやうむ
- 代表者名:畠中 博晶
- 設立年月:2020年11月18日
- 資本金:1億2200万万円
- 事業内容:NFT・DAOを活⽤した地方創生コンサルティング・開発
- 所在地:〒001-0038 北海道札幌市北区北38条西6丁目2番23 カトラン麻生302号室
- URL:https://alyawmu.com/
- お問い合わせ先: (広報:田中)