コミュニティの力でクリエイターが「活きる」世界を実現したい。代表の実体験が開発の原点
クリエイターとファンの「輪」を生みだし、日本のクリエイティブ業界を後押しする。東京のオシロ株式会社は、クリエイターやアーティストらと、そのファンとのコミュニティを構築するコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」を手がけています。代表取締役・杉山 博一(すぎやま ひろかず)さんが開発に踏み切ったのには、過去のクリエイター時代に味わった挫折経験がありました。「日本を芸術文化大国にする」と壮大なミッションを掲げる杉山さんに事業が生まれた経緯などを伺いました。
アーティスト・クリエイター時代の「孤独」がプロダクトの原点に
お名前は杉山一博さんですが、いただいた名刺に「御城(おしろ)博一」と社名を取り入れたお名前も入っていて、ユニークですね。
全社員の名刺にも「御城」という名字の面もあります。弊社設立のきっかけとなったプロダクトに「一国一城の主」になってほしいと思いを込めたのが由来です。そこには社員を家族のように思って会社を作ってきたこともあり、そういう思いを込めています。
珍しい試みで、思わず目にとまってしまいました。さて、杉山さんは「元アーティスト&デザイナー」と自称されていますが、現在、クリエイターとしての活動はないのでしょうか?
クリエイターとして32歳まで活動していました。
30歳まではアーティストとして絵を描きながらデザイナーとして半径5メートルにいる友人や知人の仕事を手伝うという二足の草鞋で活動していました。そして、30歳を機にアーティスト活動には終止符を打ち、32歳までをフリーランスのデザイナーとして企業からの仕事を請け負っていました。
現在はクリエイターを支えるサービス「OSIRO」を運営されていますが、当時の苦労も背景にはあるのでしょうか?
はい。僕自身、アーティスト・クリエイター時代に独りで創作する孤独を味わいました。創作活動の孤独はいいのですが、人との関わりが薄いまま創作活動を続けるのが辛く、それは健康にもよくないと感じていたこともありました。
そういった経験から、今を生きるクリエイターが、孤独に創作活動を続けない環境づくりを目指しています。
事業家への転身後「失敗」も経て「OSIRO」を開発
32歳でクリエイターから事業家へと転身。「日本初の金融サービス」を共同起業されたそうですね。
当時、アメリカでは浸透していた金融サービスを「日本にも普及させたい」と熱く語る人にほだされ、一緒にやることになったんです。
金融業界は未知の世界でしたが、デザイナーの経験も生かして「マーケティングやブランディングの分野では役に立てるんじゃないか」と思い、創業取締役として金融サービスをおこしました。当初は苦労したのですが、起業から5年目でようやく軌道に乗りはじめたこともあり、次は「自分だけでプラットフォームを作りたい」と考え、新たな事業を立ち上げました。
それが、40歳で新たにリリースされたシェアリングエコノミープラットフォーム「I HAV.」。そこからどのようにOSIROが生まれていったのでしょうか?
「I HAV.」は自分のスキルや使っていないモノをマッチングさせるプラットフォームでした。例えば、イラストレーターの方であれば「絵を描けます」と自分がお持ちの強みを登録して、ニーズが合うお客さんとマッチングします。モノも扱っていたので、アーティストが彫刻作品を登録し、レストランが展示する場所ということがマッチングしたこともありました。ただ、結果としてサービス自体は失敗しました。
その後、外資系企業の日本法人の立ち上げの代表や企業課題・デザインコンサルティングをしながら、ニュージランドに移住することを本気で考え、二拠点生活を送っていました。
しかし日本が経済大国としての国際的なプレゼンスを失いつつあることに、後ろ髪を引かれる思いを持っていました。このままでは日本が立ち行かなくなる。その前に日本が大きなポテンシャルを持つ芸術文化に注力し、国際的なプレゼンスのある状態、つまり「芸術文化大国」へとシフトしていくべきだと考えていました。
そんな思いを持っていたある日、行き違いからニュージーランド行きの飛行に搭乗できなくなってしまい、ふと「日本を芸術文化大国にしなさい」という言葉が落ちてきたんです。まさに青天の霹靂(へきれき)のような出来事でしたが、これはアーティスト・クリエイターを経験し、挫折や孤独を味わった僕だからこそまっとうできる天命だと思いました。
そこから、日本を芸術文化大国にしていくためにどうすればいいか、アーティストやクリエイターが「活きる」ためにはどのようなサービスであるべきかを考えました。そうして開発したのが、コミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」です。
つながりがない人々の「輪」から生まれた奇跡も。OSIROでクリエイターらを支援
「OSIRO」について、詳しく教えてください。
OSIROはクリエイターやアーティストがファンと交流するためのコミュニティを運営できるサブスクリプション型のサービスです。
もともとアーティストやクリエイターの方々に向けたサービス開発をしていたので、コミュニティオーナーさんの世界観を最大限表現できるようにコミュニティ内のデザインやワーディング表現を自由にカスタマイズできます。
また、作品を販売できる独自開発の「カートレスEC機能」やプラットフォーム内でのサブスクリプションプランを組める機能も標準搭載し、ファンからの継続支援も受けられます。
加えて、OSIROは開発思想を「人と人が仲良くなる」としています。つまり、クリエイターやアーティストとファンが「1:n(多数)」で交流するだけではなく、コミュニティに参加するファン同士のコミュニケーションも活発になり「1:n:n」の交流が生まれることを志向しています。そうすることでファン同士に絆が生まれ、「応援団」となり、そこが応援者の居場所になることで、継続的に「お金とエール」をアーティストが受け取れるサービスにしたいと考えたんです。そのため、OSIROは交流が促進されやすい仕組みや機能が随所に施されています。
杉山さんが「OSIRO」のβ版をリリースされたのは、2015年12月でした。現在ではクリエイターとファンをつなぐプラットフォームでは競合他社も多い印象ですが、当時は珍しかったのではないでしょうか?
そうだと思います。当時からクリエイターがファンと交流するモデルケースはあったんです。特定のクリエイターが作ったFacebookグループ上でファンとコミュニケーションでき、サブスク決済を提供するサービスは見たことがあります。ただ、金額がきちんと支払われたかをクリエイター側が確認しなければならない手間があり、そうした課題解決も「OSIRO」のヒントになりました。
「OSIRO」の核となるコンセプトを、伺いたいです。
先ほどお話した開発思想「人と人が仲良くなる」、これに尽きます。イメージするのはラジオ番組のリスナーです。同じ番組を聴いている人同士で、本来はつながりがないのに、コーナーのラジオネームを聴くだけでなぜか親近感が湧くじゃないですか。
「OSIRO」もつながりのないコミュニティから人の輪を作るコンセプトは同じです。日本をはじめ、先進国で「孤独」が社会問題化していますが、サービス立ち上げから現在までには社会環境の変化もあり、私たちのサービスが今起きている大きな社会問題を解決できることになるなんて思ってもいませんでした。
サービスではクリエイターがコミュニティーを介してファンとの交流を図るのはもちろん、決済機能による作品の販売などもできます。実際、「OSIRO」を通して生計を立てられるようになった事例もありますか?
たくさんあります。例えば、当時20万人以上の登録者がいた書評YouTuberの方は、YouTubeの広告収入と「OSIRO」のサブスクリプション収入で十分に稼げると見込んで、会社員から独立され、クリエイターだけで食べていく道を歩まれました。
彼のコミュニティではメンバーと一緒に書籍を作り、ベストセラーになるというミラクルもありました。今では「カフェインレスのコーヒーブランドを立ち上げたい」と願うファンの方のために、コミュニティによる収益の一部を出資して、夢を描く人たちのサポートもされています。
クリエイターが「創り続ける」社会を実現したい
まもなくβ版リリースから10年目を迎えますが、当初、描いていたビジョンは実現できていますか?
最初の一歩目は形にできたと思っています。先の書評YouTuberの方のような事例もありますし、絵を描くアーティストの方では「OSIRO」でつながったファンの方々の応援もあり、個展を大成功させた方もいるんです。ファンの方々の熱量を受けて、クリエイターが生活への不安を抱えることなく、活動する基盤を作れている手ごたえはあります。
今後のさらなるサービスの拡充も、検討されているのでしょうか?
壮大な話になりますが「OSIRO」というオウンドプラットフォームを通じてアーティスト自身のオウンド経済圏を築けるサポートをしたいと考えています。クリエイターが「一国一城の主」として、自分の「国」をオンライン上で持てる世界の実現を計画しています。近い将来には実現したいと思っていますね。
トップクリエイターも、今は無名ながら才能あるクリエイターのいずれも「OSIRO」を介して活躍できる社会を作り、日本発の新たなカルチャーが生まれるのを見守りたいです。
最後に、サポートされるクリエイターの方々へ、成功をつかむためのメッセージをお願いします。
僕は30歳でアーティストの道をあきらめてしまいましたが、できるなら「創り続けてほしい」とは思います。今頑張っている方々には、死ぬ瞬間に後悔を残してほしくないんですよ。表現したいからする。それだけです。続けるためには生活基盤を整えるのも大事なので、無理はせず、創作へと没頭できる環境クリエイティブの土台を作るよう意識してもらえればと思います。
取材日:2024年11月15日 ライター:カネコシュウヘイ
オシロ株式会社
- 代表者名:杉山 博一
- 設立年月:2017年1月23日
- 資本金:5億2,440万円(資本剰余金含む)
- 事業内容:オウンドプラットフォーム 「OSIRO」の開発。「OSIRO」を利用したサイトの企画、制作、運用、管理
- 所在地:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第二ビル 8階
- URL:https://osiro.it/
- お問い合わせ先:050-5526-3110