クリエイティブに境界線はない。幅広い視点と他者への思いやりを持つことが、制作現場の環境改善と、すばらしい作品づくりにつながる

東京
株式会社dexi 代表取締役
Masami Ito
伊藤 正美

企画、キャスティング、美術など動画撮影・映像制作に関わる様々な案件を手がける株式会社dexi(デキシー)が、2024年4月、映像業界の人材育成ためオンライン教育サービス「Production Camp」を立ち上げました。
ファッション業界からキャリアをスタートし、まったくの異業種であった映像業界に飛び込んだ代表取締役の伊藤 正美(いとう まさみ)さんは「1人1人が自分の部署を超える視点を持つことが、制作現場の環境改善と、すばらしい作品づくりにつながる」と語ります。そんな伊藤さんが始めたオンラインで映像制作が学べる「Production Camp」や、そこでどのようなクリエイターの育成を目指しているのか、伊藤さんのこれまでのキャリアなどについて伺いました。

キャリアのスタートは全くの異業種、映像業界で起業した理由

dexi設立までのキャリアをお聞かせください。

デザイナー・山本耀司の世界観を表現しているメンズブランド「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」で30歳になるまでの10年ほど販売職を務めました。

映像ではなく、アパレル業界でキャリアをスタートされたのですね。独立し、他業種で起業したきっかけはどのようなものだったのでしょう。

理由は二つあります。一つ目は、2000年を過ぎた頃にファッション業界が細分化して、時代の流れが変わったこと。
二つ目は、ちょうどその頃にスタイリストとして活動していた専門学校時代からの友人が、フォトグラファーに転身して独立・起業しようとしていたことです。クライアントの当てはスタイリストとして活動していた頃のツテがあるとのことで、それなら一緒にやってみようかと。

経験がない異業種で起業することに不安はありませんでしたか?

それが、まったくありませんでした。子どもの頃から両親は共働きで、会社を経営していたため、会社の経営を身近なこととして聞きながら育ったからだと思います。

自分もいつかは経営者になるのだという思いがあったのでしょうか?

特に意識はしていないつもりでしたが、今思うと、働く両親の姿から自然と経営というものに興味を持っていたのかもしれません。また、Yohji Yamamotoに勤めていた頃、店長になる前から店長会議に出席させていただき、店舗の運営について早くから考える機会がありました。(笑)

“嘆く暇があるなら目の前のことを何でもやるしかない”と必死

不安がなかったとはいえ、事業を始めた当初は苦労もされたのでは。

事業は、スチール撮影の受託からスタートしました。設立から18年経った今だからお話できることですが、当時は分からないことだらけでしたね。キャスティングもしてほしいと言われて初めてモデル事務所をつぶさに調べ、ロケーションも探してほしいと言われて撮影に適したロケ地を初めて探し……。最初はすべてが見様見真似で、目の前を切り開くのに必死でした。
制作進行、スタイリスト、ラインプロデューサーといった職業名すら知らずに、いただいた仕事に満遍なく応えていました。また、フォトグラファーも撮影だけではなく、照明、演出、録音などもすべて1人でおこなっていました。
大変ではありましたが、苦労しているという感覚はありませんでしたね。会社を維持し、社員を食べさせていくには、“嘆く暇があるなら目の前のことを何でもやるしかない”と必死でした。

そうして少しずつ軌道に乗っていったわけですね。

スチール撮影の受託にもさまざまなオーダーがあることを知ってスタッフを7~8人に増やし、やがて企業VP(企業が特定の目的のために制作する短尺の動画/VPはVideo Packageの略)の仕事が舞い込むようになりました。
やれることは、なんでも挑戦してみたいと思う質なので、その後、映画撮影のお話をいただき、フォトグラファーから映像監督になった経歴を持つ向井宗敏さんに相談すると「ショートムービーを数本撮影してつなげればオムニバス形式の映画にできる」と言われ、チャレンジしようと決めました。その決断が、今日につながっています。

“視野が広ければ、それだけよい仕事ができる”

“視野が広ければ、それだけよい仕事ができる”

スタイリスト、フォトグラファー、ヘアメイクなどの手配、衣裳製作、キャスティングなど、動画撮影や映像制作に関するあらゆるセクションを請け負えることです。
また、映像業界で働きたい人のためのオンラインスクール「Production Camp」も展開しています。

特定のクリエイティブワークではなく、映像制作をトータルサポートしようと決めたのは、どのような思いからでしょうか。

僕自身が異業種から泥臭くチャレンジしてきた中で、結果にこだわらないスタイルの仕事をし続けたことで、“クリエイティブに境界線はない”という考えを持つようになったからです。
“視野が広ければ、それだけよい仕事ができる”というのが僕の持論です。たとえば、映像制作においてスタイリストがロケハン(撮影に使用する場所の下調べ)に同行できることはなかなかありません。しかし、撮ろうとしている作品はどのような場所が舞台なのかを知る前と知った後では、提案する衣装は変わります。

だからこそ、幅広い視点が必要であると。

特定の分野に特化したプロフェッショナルたちが集まる映画の制作現場で、部署間の情報共有や相互理解こそが、作品のクオリティにも影響すると考えています。
何らかのすばらしい才能を持っているのなら、何か一つを突き詰めたスペシャリストでもよいと思います。しかし、本当の意味でスペシャリストと呼べる人は、業界全体でもほんの一握りです。クリエイターが、互いに他部署のことも自分事として視野を広げることで、仕事や作品のクオリティをもっともっと良くすることできるのではないでしょうか。

他部署の動きを知れば、仕事のプライオリティが変わり、現場の環境がよくなる

Production Campについてお聞かせください。今お話いただいたような視野の広さを持ったクリエイターを育てることが狙いでしょうか。

それもありますし、映像業界で仕事をしたいからといって、最初から進む道を狭めてしまう必要はないとも考えています。さまざまな道を知ったうえで、その中から自分が邁進(まいしん)する道を選べばいいんです。
もし、特定の道だけを追い求めて挫折してしまったら、その人は映像業界をやめて別の業種に移るしかなくなってしまいます。しかし、幅広い知識を持っていれば、同じ映像業界内のほかの仕事を目指すことができます。興味を持って映像業界にきてくれた人が別の業界に移ってしまうのは、人材の損失でしかありません。
それに、他部署の動きを知れば、現場の環境がよくなります。

他部署の動きを知ると、なぜ、現場の環境がよくなるのでしょうか。

たとえば、制作部と呼ばれる部署の仕事の一つが「撮影現場を維持・保全することにある」ということを知ると、ゴミの片付け方やトイレの使い方が変わると思います。みんながキレイに使おうと気を付けることで、制作部の負担が減りますからね。そして、1人1人がその心構えを持てば制作部がほかの業務に注力できるようになり、結果として現場の環境がよりよいものになります。
逆に言うと、他の部署のことを考えられない人が多い現場は、1人1人に細かな作業がいくつも発生し、やがて全体の進行に遅れが生じます。
そういった理由から、Production Campでは、現場のルール、たしなみ、マナーを教えています。

異業種から来て、映像業界を見たからこそ他にはない強みを持つことができた

ビジョンや目標をお聞かせください。

会社としての目標は、今後もスタッフを増やし、全員に幅広い知識や視点を持ってもらうことで、一つでも多くの現場に同等のサポートやサービスを提供できるようになることです。
“映像制作のあらゆるクリエイティブをお手伝いする”という弊社の業態は他にはありません。僕がアパレルという異業種から来て、映像業界を少し離れたところから、人とは違う視点で見たからこそ、他社にない強みを持つことができたのだと思います。
この気付きが、Production Campにもつながっています。映像業界に興味を持ってくれた人に現場で必要な知識やルールを教え、目標を実現できるチャンスを増やすこと。これもまた、異業種から来たdexiだからこそできたと言えるのかもしれません。

取材日:2024年10月24日 ライター:蚩尤

株式会社dexi

  • 代表者名:伊藤 正美
  • 設立年月:2006年10月
  • 資本金:3,246万円
  • 事業内容:映像作品の企画・制作・キャスティング・撮影などクリエイティブワーク全般のサポート
  • 所在地:〒160-0022 東京都新宿区新宿1丁目1-14 YAMADA BUILDING 5F
  • URL:https://www.dexi.co.jp/
  • お問い合わせ先:上記サイトのお問い合わせhttps://www.dexi.co.jp/contact/

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