エンタメ拠点を沖縄に!音響、企画、翻訳…「裏方」の多角化で世界の顧客に“ワクワク”を

沖縄
フェルマータ . 株式会社 代表取締役
Yasunari Toyoda
豊田 康成

バブル期に音響の世界で多忙を極めた豊田 康成(とよだ やすなり)さんは、大阪から自然豊かな沖縄に拠点を移し、2009年にフェルマータ . 株式会社を設立。音響事業を軸に、Tシャツ製作や野菜販売、キャンプ場運営など多角的な事業を展開しています。裏方として支え続けた経験から、エンターテインメントの拠点づくりという夢に向かう豊田さんの挑戦と、その原動力に迫ります。

バブル期の多忙な音響の仕事を経て、沖縄で会社を設立

2009年に創業されたとのことですが、豊田さんのキャリアのスタートから教えてください。

高校時代にコンサート設営のアルバイトをした際、音響の仕事に興味を持ったのがきっかけです。その後、大阪の音響会社でキャリアをスタートしました。当時はバブル時代真っ只中で、イベントやコンサートなど、音響が必要な仕事が山のようにあって、年に3日間ぐらいしか休みがないほど、とても多忙な日々を過ごしていました。

充実していたように思えますが、なぜ沖縄に移住されたのでしょうか?

忙しすぎた反動だと思うのですが、もう少し落ち着いた環境で生活したいと思い、自然豊かな沖縄への移住を決めました。当初は音響の仕事を続けつつ、大阪と沖縄を行き来する生活でしたが、2000年以降は沖縄を拠点にしています。徐々に機材をそろえながら、しばらくはフリーランスとして活動していましたが、個人事業主では対応しきれない規模の案件や公共事業にも参入していきたいと考え、会社としての信頼性の向上が必要だろうと、2009年に法人化することにしました。

事業内容について詳しく教えてください。独立当初から引き続き音響関連がメインでしょうか?

そうですね。内容としてはライブやコンサートなどの音響、企業イベント、学会、表彰式などの企画・運営、同時通訳機材のレンタルなど、多岐にわたるサービスを提供しています。特に企業イベントでは、音響の設計から機材の設置、当日の運営までを一貫してサポートしています。
とはいえ、音響一本だけで事業を拡大していくのは限界があります。沖縄という小さな島ではありますが、実は音響系の企業が意外にも多く、他社と競争して仕事を奪い合うような関係にはなりたくないですし、さらにイベント需要が激減したコロナ禍という大きな転換点に見舞われたこともあり、近年はさまざまな事業に挑戦しています。

「沖縄にもっとエンターテインメントを」。音響事業から見えてきた沖縄の課題

新しい事業について伺いたいのですが、どのようなことに取り組み始めたのでしょうか?

例えば、コロナ禍での事業再構築補助金を活用し、Tシャツやデニムに伝統的な沖縄のデザインを取り入れた商品を作っています。また、オフィスの隣がたまたま野菜の卸売業者だったので、協力を仰いで弊社の倉庫スペースを八百屋として活用したり、野菜のインターネット販売を開始したりしました。これらの経験を通じて、食品廃棄や利益率の課題を痛感しましたが、ノウハウも得ることができ、その後ご縁に恵まれマンゴーのインターネット販売も手掛けられるようになりました。このように、困難な状況をチャンスに変える姿勢を大切にしています。

キャンプ場も運営されていると伺いました。

もともと劇場を作りたくてずっと準備していた資金を利用し、沖縄の北部に土地を購入しました。このキャンプ場では小規模なライブや自然を生かしたイベントを定期的に開催しています。宿泊施設というだけでなく、エンターテインメントと宿泊を融合させた体験型施設を目指しています。

エンターテインメントの拠点を作ろうとされているのですね。

長らくエンターテインメントの裏方をしてきましたので、いつかは自分の手で、「フジロックフェスティバル」のように宿泊しながら音楽やショーを楽しめる場所を作りたいと考えています。規模は100人程度の小規模なものですが、音楽やショーを通じて特別な体験を提供したいですね。
ただし、イベント開催は天候や季節に左右されるため、頻度を増やすのが課題です。

エンターテインメント事業は収益化が難しいと聞きます。

確かに収益を上げるのは簡単ではありません。公共機関や地方自治体と連携できれば可能性は広がりますが、現状では自主事業として細々と続けています。それでも「やりたいことをやる」という姿勢は変えずに取り組んでいきたいですね。

「県を挙げて取り組むべき課題」とは?伝統の解説を翻訳し、魅力を発信

主軸の事業である音響関連についても教えていただきたいのですが、同時通訳というのは具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

国際会議や展示会などMICE(マイス)での通訳事業が多いのですが、通訳会議をまとめている会社から依頼を受けて、通訳ブースを会場内に設置します。事前に会場内にいる人たちには、通訳された内容を受信するレシーバーを配布しておきます。
沖縄では、医療系の外国の先生が来られる会議や、観光客向けの公演など、需要が多様です。例えば、沖縄の伝統舞踊劇である組踊の公演では日本語での解説を中国語、韓国語、英語、日本語の4カ国語対応にしました。

おもしろいですね。沖縄はMICE事業を推進しているイメージがあります。

そうですね。MICE事業は盛んなのですが、一方で、組踊の公演のようなエンターテインメントのコンテンツ制作には積極的とはいいがたい。演者や場所のコストを考えると、チケット収入だけでは成り立たないんです。それでも、観光立県としてエンターテインメントは必要不可欠です。今の沖縄には、ニーズがあるにもかかわらず、夜に楽しめるエンターテインメントが明らかに不足しています。もっと県を挙げて取り組むべき課題だと、事業を通して実感しています。

“ワクワク”を提供する会社であり続けたい。「一歩進むことで次の道が見える」

ジャンルの異なる事業を数多く手掛けていらっしゃいますが、その原動力や、事業を展開するうえで大切にしていることは何でしょうか?

お客さまに喜んでもらうことが原動力です。また大切にしていることは、音楽や空間、ファッション、食べ物などすべて質がいいものを提供することです。例えば、Tシャツを作るならかっこいいもの、イベントではお客さまに満足していただける空間を提供します。特に沖縄では、空間やデザインへの意識がまだ希薄な部分も多いと感じているので、それらを改善し、ワクワクする体験を提供したいと常々思っています。
コロナ禍を経験して、エンタメなどは真っ先になくなる仕事だと痛感しました。だからこそ裏方として支えることに意義があると信じています。お客さまに楽しんでもらうことが、私たちにとって最大の喜びなのです。

そのような思いをお持ちだからこそ、エンターテインメントの拠点を、ご自身の手で作りたいと思っているのですね。

そうです。しかし、その楽しさや喜びを伝えたいと思いながらも、ターゲットを県内だけに絞ることには限界があると思っています。約140万人という県内人口ではビジネスのパイは限られているにもかかわらず、市町村ごとに複合施設やイベント会社が存在しており、さらに沖縄には低所得の問題もあります。しかし、観光客を主要ターゲットにすれば収益化の可能性は高まるので、そのための劇場運営を目指しています。

ビジョンや夢を教えてください。

ビジョンとしては特に決まっていません。音響関係の仕事は私自身が好きなので続けるとは思いますが、そこに縛られているわけではありません。とにかく、一歩進むことで次の道が見えるというスタンスです。これまでも、小さなチャレンジを積み重ね、その中でつながりが広がってきました。例えば、キャンプ場のつながりから音響の仕事が生まれるなど、予測できない広がり方をしてきました。世の中や人生は計画通りにいかないものです。その場その場で一歩進んで考え、チャレンジを繰り返す中で、次のステップが見えてくる。コンサルのように先を読み切って経営計画を立てるのではなく、試行錯誤しながら進めていきたいと思っています。

最後に、どのような方に参画してもらいたいと思いますか?

現在技術スタッフは十分にいるので、別の能力を期待しています。新しい提案を持ち込んでくれるような、個人事業主として成立するような方なら大歓迎です。例えば、アパレル系のスキルを持っている人が加われば、事業の幅が広がり、会社全体がいい方向に動くと思います。私自身好奇心が旺盛なので、何か新しい風を吹かせてくれる方と、ぜひ一緒に働いてみたいですね。

取材日:2024年12月12日 ライター:仲濱 淳

フェルマータ.株式会社

  • 代表者名:豊田 康成
  • 設立年月:2009年4月
  • 資本金:500万円
  • 事業内容:各種イベント企画、制作、運営、音響システムサービス、同時通訳機材運用、映像制作、アーティストブッキング、Eコマース事業、大宜味村 Camp fermate 運営
  • 所在地:〒902-0061 沖縄県那覇市古島2-5-19
  • URL:https://fermate.jp/
  • お問い合わせ先:098-943-1550

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