企業を擬人化し、“トレカ”に!?行政や学生デザイナーと連携し「ものづくりのまち」を盛り上げる
「匠の守護者」と題し、企業を“トレーディングカード化”し、まちを盛り上げたいーー。そんな思いを持って活動しているのが、新潟県燕三条(つばめさんじょう)エリアで活動している株式会社燕三条の代表を務める結城 靖博(ゆうき やすひろ)さんです。ほか2社の代表を務めるなど、精力的に活動されている結城さん。経歴や企業の“トレカ化”にいたった経緯、展望などを伺いました。
地域3社で経営し、まちづくりに奮闘中。これまでの経歴とは
株式会社燕三条のほかに、有限会社魚兵(うおひょう)、Connection(コネクション)の三つの会社の代表をされているとのこと。それぞれどのような位置づけなのですか?
大学を卒業した後、家業である魚兵が運営する料亭・遊亀楼 魚兵(ゆうきろう うおひょう)を7代目として継ぎました。
その後、ニートや不登校の子どもたちの社会復帰を後押ししようとコネクションを立ち上げました。しばらくして僕が所属する三条商工会議所の仲間たちとまちづくりをしようと設立した株式会社燕三条の代表も兼務するようになったという流れです。
コネクションは具体的にどのような会社なのですか?
僕はもともと、犯罪を犯した少年少女が社会に復帰するお手伝いをする更生保護のボランティアをしていました。幸い、時代が進むにつれてこのエリアにはそういった子どもたちがほとんどいなくなっていったんです。そんなときに、今度はニートや引きこもりの子どもたちが多い実態に気が付きました。ものづくりのまちである県内の燕三条エリアにはシール張りやパッケージングなどの内職が多くあるので、彼らに内職をあっせんすることで社会に出るきっかけをつくれないかと2014年に立ち上げました。

では、株式会社燕三条はどのようにして誕生したのですか?
そもそもは、産業観光のPRやモニュメント制作などシティーセールスをしている青年団体・三条商工会議所から端を発するトレーディングカードがきっかけでした。トレーディングカードの収益性が非常に高いこともあり、この事業を継続するための会社を設立することになりました。当時、関係者の中で最も若かった僕が今後の経験を積むためにも、とご指名いただき、代表を務めることになった次第です。それが2019年のことですね。
“あるモノが描かれた紙袋”が話題!アニメの力をまじまじと体験
トレーディングカードはどのような形で誕生にいたったのですか?
2016年にパリで行われた日本文化を発信する「ジャパンエキスポ・パリ 2016」に三条商工会議所青年部として出展し、燕三条エリアの金属加工品である包丁やニッパー、爪切りなどを展示しました。世界的に親しまれているアメリカ発のメディア・ナショナルジオグラフィックに特集されるくらい注目を集めたのですが、それ以上に注目を集めていたのが“意外なモノ”でした。
同燕三条ブースとして出展協力していただいていた、有限会社マルダイさんのオリジナルキャラクター「すのこタン。」が描かれた紙袋にブース展示物のパンフレットなどを入れて、来場者に渡していたのですが「その紙袋はどこにある?」「どこでもらえる?」などと、フランス人にピタッとハマったんですよね。初日で話題となって二日目からはブースにお客さまが殺到しました。“アニメ化されたかわいらしいキャラクター”がまさかの効果を発揮していたのを目の当たりにしたのが最初のきっかけだったんです。
その後、すぐにキャラクターなどをつくり始めたのでしょうか?
いえいえ、違います。行動を後押ししたのは、酒の席でのやり取りでした。僕たちの会では、酒の席での話はまず実践するというルールがありまして……。「パリでのあれ、企業を擬人化するという感じでやってみない?」と青年部の飲み会の席で話題を持ちかけてみたところ、「それだけでは波及しないだろうから、トレーディングカードにしてみないか?」「誰にイラストを描いてもらう?」などと、どんどんと肉付けがされていき、一つのプロジェクトとして形が見えるようになっていきました。
イラストはどなたが描かれているのですか?
新潟市内にある「日本アニメ・マンガ専門学校」の生徒さんにデザイン料をお支払いする形を取り、描いていただいています。
一人ひとりが各企業を訪問して企業のイメージなどをヒアリング。毎年35枚のカード新しく制作している、産学連携のプロジェクトで6年目を迎えました。
企業を“トレカ化”!?全国から問い合わせ殺到
そうすると、最初に出されたのは2018年ですか?
そうですね。パリでの体験から2年ほど経っていました。まずは日本でのお披露目となったのですが、相当反応が良かったのを今でも鮮明に覚えています。県内の全テレビ局をはじめ、各種メディア全社が会見に訪れ、取材をしてくださったんです。それまでもいろいろな企画でプレスリリースを打っていましたが、あれだけ多くの取材陣が来ることなんてありませんでしたから「あぁ、これは相当面白いことを始めちゃったんだな」って思いましたね。
この取り組みを継続するために、結城さんが株式会社燕三条の代表に抜擢されたのですね。
そのとおりですね。そして2022年、やっと海外でのお披露目ができました。最初はニューヨークのブルックリンでしたが、ここでの反応は散々でした。刃物やニッパーなど製品は褒めていただけるのですが、キャラクターモノに関しては、ヨーロッパとはまったく異なる反応で、あまり評価はされませんでしたね。
新潟県内での反応はいかがでしたか?
新潟県内での報道の話は先程のとおりですが、びっくりしたのは全国からの問い合わせの多さでした。「カードのルールを踏襲してうちの市町村でもカードをつくりたい」というお話が結構あったんですよね。ご当地トレーディングカードはうちのカード以外にも多く存在しますが、僕たちのトレカは対戦も可能なTCG(トレーディングカードゲーム)スタイルを取りました。これは全国的にも珍しく、ゲーム愛好者にもハマったんですよね。そのおかげでカードのルールを統一化することで違う市町村のカードと一緒に遊ぶことができ、汎用性が高まったのも良かったのだと思います。
そういったことを含めて、あらためて株式会社燕三条の事業内容を教えてください。
トレーディングカード事業、コスプレを楽しみながらまちを散策したり撮影したりする街コスイベント「コス☆サン!」というコスプレ事業、地元の工場を一斉開放し、見学や体験ができるイベント「燕三条 工場の祭典」の事務委託を行っています。それから新しく始めようとしているのが、「まちの人事部」事業です。先述のようにものづくりのまちであるこのエリアは中小企業が多く、人事部を持つ会社は多くありません。ここで人材面で地元企業をサポートすべく、新しい事業として展開を考えています。
求む!現場で技術を磨きたい人。まちや人の特性を生かした「人事部」で地元企業をサポート
結城さんの会社・コネクションの事業とも絡められそうですね。
はい、そうですね。実は、コネクションを10年続ける中で感じていることがあります。ある統計では新卒社員に求められる能力の第一位は「コミュニケーション能力」と言われています。一方で、ニートや引きこもりにも少なくない、発達障害のような子どもたちはコミュニケーションを取るのが難しい子も少なくありません。
しかしその代わり、パソコンに10時間も向かい続けられたり、ゲームだとしても一生懸命にやり切る力があったりします。お世辞もいえないけれど、同じ仕事をずっとやり続けてくれ、いい製品を生み出せる人は、ものづくりのまち・燕三条エリアにとって、必要な人材です。まちや人の良さや特徴を最大限に生かした「まちの人事部」をつくっていきたいなと思っています。
今後、どのようなスキルやモチベーションを持つ人と一緒に仕事をしてみたいですか?
学歴などはあまり気にしません。とにかく手を動かすのが好きだという方とご一緒したいですね。AIがより進んでいくこれからは手に職を持っている、職人さんは重宝されてくると思います。現場で腕を磨いて、自分の技術を上げていくのが苦ではない方こそ、僕らのまちに合っていらっしゃると思います。
取材日:2025年2月18日 ライター:コジマタケヒロ
株式会社燕三条
- 代表者名:結城 靖博
- 設立年月:2019年11月
- 資本金:30万円
- 事業内容:トレーディングカード事業 NFT事業
- 所在地:〒955-0045 新潟県三条市一ノ門1丁目4番33号
- URL:https://takuminoshugosha.com/
- お問い合わせ先:tsubamesanjo.inc@gmail.com