アニメ2025.03.26

クリエイティブな仕事であっても「社会人基礎力」が大事。ちゃんとした会社を目指す

東京
株式会社ドライブ 代表取締役
Chie Nakamura
中村 千枝

音楽制作事業とアニメーション制作事業を行う東京の株式会社ドライブ。6年前から中小のアニメ制作会社では珍しく新卒採用と育成に力を入れており、業界内でも注目されているスタジオです。また、アニメーター志望の若者からも注目されており、応募者の数は年々右肩上がりだと言います。代表取締役の中村 千枝(なかむら ちえ)さんに、アニメーターとアニメ業界にかける思いをうかがいました。

ボーカロイドの音楽プロデューサーを機にクラシック業界からエンタメ音楽の世界へ

株式会社ドライブ設立までのキャリアをお聞かせください。

私は10歳の頃から金管楽器のユーフォニアムを演奏していて、洗足学園音楽大学を卒業後にフリーランスの演奏家として活動していました。
その後、ヤマハ株式会社が2012年にリリースした「VOCALOID3 Library 蒼姫ラピス」に音楽プロデューサーとして企画から携わるご縁に恵まれてエンターテイメント業界の魅力に触れ、演奏家から転向しました。
そして15年に声優事務所である株式会社81プロデュースの設立35周年企画となるオーディオドラマCD「紫電改のタカ」の劇伴(劇中伴奏音楽。劇中で使用される音楽を指す)を手がける際に今も弊社に所属している音楽家の川﨑 龍と知り合い、音楽制作事業が本格化していきました。ドライブを設立したのもこの頃ですね。

いつか会社を設立したい、起業したいというような思いはお持ちだったのでしょうか?

それが、まったくなかったんですよ(笑)。ドライブを設立したのも、テレビ局から音楽制作のお声がけをいただいたときに「法人ではないフリーランスにはお願いしづらい」という話が出たからでした。

ドライブの現在の事業内容をお聞かせください。

音楽の制作と、アニメーションの制作を行っています 。音楽制作はアニメだけではなくCM音楽や実写ドラマの劇伴も受けているほか、アーティストのマネジメントも行っています。
アニメーション制作は、テレビシリーズの元請けを中心に、企業CMやゲームのPVなども手がけています。アニメに関しては、映像制作だけではなく企画の段階から担当する案件に力を入れています。

極限まで使い込まれた色えんぴつを見て生まれた使命感

音楽事業でもアニメーション作品に携わられていたことのですが、音楽制作とアニメ制作ではクリエイティブへのアプローチも大きく異なります。なぜアニメ制作事業に乗り出されたのでしょうか。

実は、最初はあまり乗り気ではなく、半ば強引に人に勧められて始めたんです。18年に、ふとしたきっかけでアニメーターを数名、中途採用することになりました。会社に運び込まれた彼らの荷物を見ていると、ずらりと並んだ色えんぴつは、何度も削られて短くなり、握れなくなったものを、ほかの色えんぴつとセロハンテープでつなげて使っていました──。その光景を目の当たりにし、胸に迫るものがありました。そして、「やるしかない」と覚悟が決まりました。
先ほどもお話ししたように、ドライブを設立したとき、何の覚悟も志も持っていませんでした。そんな私が経営者になっていったのは、このときからであったと思います。

業界でどう戦うかの知識がなければ、技能があっても生き残れない

アニメーターは出来高制のフリーランスという業態が多く、駆け出しの若手はまだ数をこなせないゆえに満足な収入が得られない……というのがアニメ業界の抱える課題のひとつです。しかし、ドライブはアニメ制作事業の開始当初から新卒採用に力を入れ社員として雇用し、固定給を支払っているとうかがいました。

はい。アニメ制作事業2年目から新卒社員を採用しています。ドライブのような小規模アニメスタジオが新卒のアニメーターを募るというのは極めて異例で、当時Twitter や学校の就職センターで話題になったようです。

どのような経緯や狙いで、新卒社員を取ることにしたのでしょうか。

社内でも中途入社組から「アニメーターが死に物狂いで描かなくなる。成長しなくなる」と反対意見が出ました。私も「ハングリー精神が芸事に磨きをかける」という考え方は理解できますし、確かにそういう一面もあるでしょう。しかし、収入が少なく満足に生活できない状態で、すばらしい芸術を生み出せるかというと私は難しいと思います。
雇用するのであれば10時出勤、19時退勤という勤務形態に合わせてもらう必要がありますので、絵の技術だけでなく、就業規則を守り、社会人として仕事ができ、1日8時間しっかり集中して絵を描き続けられる人を採用しようと考えました。
「アニメーター志望者でそれができる人はおそらく少ないです」とも言われました。しかし、私はそれを聞いて「絵の実力はまだ低くても、社会人として、きちんとした会社で働きたいと思っている学生はドライブの募集に集まってくれるのでは?」と考えました。

社員の離職率が低いことを裏付ける理由は手厚い社員教育とOJT体制

多くのアニメスタジオは、クリエイティブの面で高い技能を持つ人たちを業務委託やフリーランスという形で抱えていますが、御社では社員採用を重視しているとうかがいいました。

もちろん今も実力派のフリーランスアニメーターの方々の力をたくさんお借りしながら作品を作っています。
しかし、フリーランスの方々のお力を借りるだけでなく、社内で育成し、アニメーターの人口を増やさないと先はないと思っていました。 アニメーター新卒採用ではアニメーターとして絵を描く素養よりも社会人としての素養を重視し、選考では実技試験だけでなく筆記試験も実施しています。
アニメーターとして仕事をしていくのなら、もちろん絵を描く力や構図を考える力は大切です。しかし、アニメーターもほかの業種の仕事と同様に、ビジネスマナーやチームワーク、社会人としての知識を身につけることも同じくらいに大切です。
そうした社会人基礎力を持たなければ、どれだけ画力や絵のセンスがあっても業界で生き残るのは難しいと思います。

その一方で、技術面の社員教育にも注力されているとうかがいました。

ドライブのアニメーターは、入社1年目が紙とえんぴつで動画、2年目がデジタル動画検査、そして3年目から原画というキャリアパスが用意されており、室長が室員全員のカットを全チェックし、指導しています。
原画に上がるとレイアウトや構図を考える能力も求められますので、「カメラを趣味にして勉強しなさい」とも教えているようです。さまざまなものをファインダーの枠に収めて切り取ることで、どのような構図が優れているのかが分かるようになっていきます。

社内の業務改革で生産性向上を狙う

社員教育に加えて力を入れて取り組んでいることがあればお聞かせください。

アニメ事業を進化させる鍵は、制作進行の業務改革にあると考えています。 制作進行とは、スケジュール管理、作画に必要な資料の収集・整理、スタッフの手配、監督との打ち合わせなど、多岐にわたる業務を統括し、アニメ制作を円滑に推進する役職です。
まず、業務の全工程を徹底的に洗い出したところ、約900ものプロセスが存在することが判明しました。
次に、不要な工程を徹底的に削ぎ落とし、最も重要なクリエイティブに最大限の時間を割けるよう最適化。加えて、あいまいな業務フローには明確なルールを設定し、作業の属人化を防ぎました。現在は、さらなる効率化を目指しDXを推進しています。
制作進行業務の改革で、会社の利益を押し上げ、社員の賃上げを実現します。 この計画を、向こう3年で完遂するつもりです。

課題は、その会社の伸びしろである

近年、日本のアニメ業界はブラックな労働環境による後継者不足などで、岐路に立たされている、厳しい状態にあるという話をよく耳にします。中村さんはどう感じておられますか。

私は、日本のアニメ業界の未来は明るいとすら感じています。業界に、たくさんの課題があるのは事実です。しかし、まだ行き詰ってはいません。「この課題はもうどうやっても解決できない」といえるほど、私自身はまだ議論や検討、行動を重ねられていないと思うからです。
「課題がある」ということは「伸びしろが残っている」ということでもあります。日本のアニメーション業界は政府の支援が入ったり、国内のみならず海外のファンからも支持されたりと、追い風となる要因がたくさんあります。この追い風がやまないうちに課題を伸びしろに変えられれば、未来は十分に明るいと思います。

会社の展望をお聞かせください。

アニメ制作事業を始めたばかりの頃は、目の前にある仕事をただこなすだけで精一杯でした。数年が経って少し余裕ができ、業務改革に取り組めるようになったことで、ドライブは今やっと成長期に入ったと認識しています。
そして3~5年後には業務改革が実を結び、さらに若手社員がプロデューサークラスの実力を身につけることで、やっとこさ!皆さまに貢献できるようになるのではと考えています。

最後に、同じ業界で働く方たちへのメッセージをお願いします。

ドライブは、全スタッフがきちんとした社会人であることを目指して日々邁進(まいしん)しています。 アニメ業界全体を変えようなどという大それたことは考えていません。ただ、私たちの小さな取り組みが、結果としてフリーランスのクリエイターの方々を含め、業界のどこかで少しでも良い影響につながれば、それほどうれしいことはありません。
そのような制作会社に安心や信頼を感じていただける方たちとご一緒したいと思っておりますので、ご興味がありましたら、ぜひお声がけください。

取材日:2025年2月5日 ライター:蚩尤

株式会社ドライブ

  • 代表者名:中村 千枝
  • 設立年月:2015年5月
  • 資本金:250万円
  • 事業内容:音楽制作/アニメーション企画制作/アーティストマネージメント/原作開発
  • 所在地:〒167-0022 東京都杉並区下井草2-44-2
  • URL:http://drive-music.jp/
  • お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「Contact」より

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