独自の発想で顧客の期待に応える「重宝機関」へ。バブル崩壊から回復した“元印刷所”の軌跡
福島県伊達市を基盤に「重宝機関」を掲げる株式会社CIA。印刷物をはじめ、Web、映像、イベント、ライブ配信など幅広いクリエイティブ業務を手掛けています。同社の代表を務める横山 光衞(よこやま みつえ)さんに、創業からの紆余曲折の軌跡や、ユニークな広報活動やアイデアを生み出す組織について、語っていただきました。
バブル経済時代を背景に、12の会社を経営する青年実業家に
会社創業までの経緯について教えてください。
地元の高校を出た後、東京の大学に進学したのですが、とにかく雀荘で麻雀ばかりしていましたね。大学卒業後も、しばらくは同様の生活を送っていたのですが、28歳のときに、現在の妻が住んでいたこともあって、福島に戻ってきました。父が当時、横山印刷所という印刷所を個人で経営していて、そこの中に自分が経営する会社として、シーアイエー株式会社を設立したのが、そもそもの事業の始まりです。
事実上、父の印刷所を引き継ぐような形となったのですが、バブル経済時代に向かっていく時勢もあって、大きい仕事もバンバン取れて、10年で20倍ぐらいに売上を拡大させました。社名のシーアイエーは、「Creative Ideal Association」(創造と知識の集団)から頭文字を取って名付けたものだったのですが、東京にもFBI(福島の便利な印刷屋)と名付けた支社をつくって、結構な人員を雇って、営業活動していました。
順調に事業を拡大されていったのですね。
当時、印刷事業で売上が勢いよく伸びていたので、ほかの事業にもいろいろ手を伸ばすようになりました。釣りが趣味だったので、アラスカへの釣りツアーを企画するような旅行企画会社をはじめ、出版社やお菓子屋、雑貨屋など、興味のあるものは次々と手を出して、一番多いときは12の会社を経営していました。おもしろいように、それぞれの事業がヒットして、自分はやり手の青年実業家だと勘違いするくらいには利益が出ていましたね。
しかし、バブルが弾けて、ひとつまたひとつと事業を畳まざるをえなくなっていき、しまいには綺麗さっぱりなくなってしまいました。唯一残ったのが、最盛期からはだいぶ事業縮小した印刷所だけでした。
そこからは印刷専業ですか?
印刷物はベースにありますが、時代に応じて、映像やWebなどのクリエイティブ領域を拡大させていきました。現在では、印刷に加え、ブランディングデザイン、イベントの企画・運営、ライブ配信、映像制作・撮影、システム開発などを展開しています。
特にコロナ禍の後からは、ライブ配信の需要がかなり増えており、それが新しい柱として成長しています。新しいものには、常に関心を持って、先進的に取り組んできたことが功を奏してきたとは思いますね。
また、2015年には、経済産業省が出資する優良中小企業向けのファンドから助成金を受けたことを機に、「シーアイエー株式会社」というカタカナ表記から「株式会社CIA」というアルファベット表記にして、会社を再設立しました。特に、事業活動自体を変えたわけではありませんが、新たな時代に向けてリスタートさせた形です。
ユニークな社外報や、インターネットテレビなど、独自色の強い会社へ
会社の強みについて教えてください。
当社は「重宝機関」と銘打っていますが、お客さまにとって重宝される会社をテーマとしています。印刷物や映像、Webといったクリエイティブ領域はもちろんのこと、イベントの企画・運営まで、トータルかつワンストップで引き受けることができるのは大きな強みです。お客さまが、ひとつひとつにわけて考えることなく、また細かいところまでご相談いただける存在でありたいと思っています。
広報活動がユニークですね。
月に1回「言いわけすんな!」という社外報を発行しており、もうじき400号になります。新入社員と若手社員が編集部員となり、お客さまを中心に配布しているコミュニケーションツールですが、社員の大喜利などをはじめ、最近の社内や社員のエピソードをユーモラスに伝えるような内容が中心となっています。コミュニケーションツールとしては一風変わった内容ですが、おもしろいものは単純に人を惹きつけますし、当社ならおもしろいものを提案してくれる、制作してくれるという期待感につながると思っています。適切な例えではないかもしれませんが、「踏み絵」みたいなものですね。この社外報をおもしろがってくれるようなお客さまだと、弊社との相性がいい気がします(笑)。
ちなみに、「言いわけすんな!」は社訓です。それから、新入社員たちがネタを考えるため、社内のいろいろな人たちとコミュニケーションを取る必要がありますので、会社の理解促進や社内のコミュニケーション促進という意味でも大きく役立っていますね。
また、月に1回、「今月の迷言」という形で、社員の考えたことわざや映画などのセリフのパロディの言葉を、ホームページで発表しています。これを年に1回「CIAカレンダー」という形でまとめて、毎年発行しています。
独自のインターネットテレビも配信されていますね。
もともとは、うちには映像もWebの技術もあるんだから、インターネットで映像コンテンツ配信できるんじゃないの?と思ってやってみたのが始まり。2004年でしたから、YouTubeすらなかった時代だったんですよ。当時はまだまだブロードバンドが普及しておらず、電話線を利用してデジタル信号で電話やデータ通信を行うISDNなどが主流。通信の回線速度が遅くて、まともに動画を視聴できる環境が整っていなかったんですが、おもしろおかしく天気を予報する番組とか、地震予知という名目で、ただひたすらナマズをライブ視聴する番組などを配信していました。
「インターネットテレビFDN」と名付けて、その後も、地域密着のネタや、新入社員が女子プロレスに挑戦する模様や、社員が滝行を体験する模様など、なんでもありで動画を配信していました。現在でも、定期的にコンテンツを作っており、YouTube上で2000本以上の動画を配信しています。「おもしろければ、なんでもあり」がテーマなので、社長の決裁も必要なしで、社員は誰でも取り組めるようにしています。
Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/@fdnitv
個性的な人材が集うことで、新しいことを意欲的に生み出していく
ライブ配信事業が伸びているそうですね。
コロナ禍で、イベントなどが大々的にできない時代となっていきましたが、小規模でも開催するイベントなどに、ライブで配信したい、視聴したいというニーズが急速に増えだしたんですね。当社では「インターネットテレビFDN」で蓄積してきたノウハウもありますし、その需要をうまく捉えていくことができました。テレビ向けの制作会社などに頼むと、イベント主催者にとって予算が見合わないことが多く、機材などは多少見劣りしても低予算でライブ配信できないかといった相談をだいぶ受けました。
現在では、プロ野球独立リーグ・BCリーグに所属する福島レッドホープスの試合のライブ配信を請け負っています。当初は、野球放送のノウハウもなくいまひとつでしたが、格段に配信のクオリティーも向上させることができ、多くのレッドホープスファンからも満足して視聴いただけるものになりました。
現在の組織構成は?
現在は、グラフィックデザインや、映像、Webなどの制作に関わる、いわゆるクリエイターが約10人、印刷関連が約10人、営業や経理、総務等が約10人で、およそ30人程度の構成になっています。経営会議の最中に、スマホに通知が来て、「イノシシが罠にかかった」と言って、会議そっちのけでとんでいく人など、個性的な人間が多いですね。私は「早く引退させてくれ」と常々言っているくらいなので、細かいことにはいちいち口を出さないですし、誰でも忌憚なくどんなアイデアでも口にできる環境だとは思っています。新規事業など大きなことはともかく、仕事の進め方など現場レベルでは社員発案のアイデアが採用されて実施したものも、枚挙にいとまがありません。ただ、もっと自由にやってほしいし、よりボトムアップ型の組織でありたいとは思っていますね。
若いクリエイターにメッセージをください。
自分から型にはまろうとしていく若いクリエイターが最近は多いようには感じています。「もっとがんばれ!」とは思いますね。そして、新しいことにチャレンジするためには、ほかの人と話をしてアイデアを膨らませていくのはひとつの手段だと思いますが、デザイナー同士や、ライター同士とかでばかり話をしていてはダメ。まったく違う異業種のような人と話をしていかなくては、新しい何かは生み出せないのではないでしょうか。
取材日:2025年2月10日 ライター:高橋徹
株式会社CIA
- 代表者名:横山 光衞
- 設立年月:2015年4月
- 事業内容:ブランディングデザイン業務、イベント企画・運営、ライブ配信、映像制作・撮影、WEB、システム開発、 出版・印刷 等
- 所在地:〒960-0719 福島県伊達市梁川町やながわ工業団地90番地の1
- URL:https://www.cia.co.jp/
- お問い合わせ先:024-577-0075