手帳の活用で自身の在り方を“編集”。YouTube「せいかつ編集チャンネル」登録1.68万人
「編集の力でファンをつくる」をテーマに、お店や会社のコンセプトづくり、編集、取材・執筆などを手掛ける愛媛県松山市の株式会社せいかつ編集室。編集者でありライターでもある大木 春菜(おおき はるな)さんは、地元出版社の編集者やWeb制作会社のディレクターを経て、フリーの編集者となり、夫の壮一郎(そういちろう)さんと会社を立ち上げました。設立の経緯や事業内容、展望などについて、お話を伺いました。
学生時代から「編集」の仕事に魅せられ、多忙な編集の企業を2度も経験
せいかつ編集部を設立するまでの経緯について、教えてください。
愛媛県大洲市長浜で生まれた私は、小学生の頃から地域のマップをつくったり、旅日記を配ったりしており、「編集」の楽しさを感じていました。
岡山大学文学部卒業後は、地元で情報誌・Webメディアを発行運営している情報サービス企業へ入社。念願が叶い、編集の仕事に携われるようになりました。ただ、新人時代から担当することになった月刊誌の編集は、超が付くほどの激務でした。そういった生活を4年ほど続けた後、結婚を機に退職しました。
編集のお仕事を続けるため、個人事業主としてライター業を開業。その後、縁あってWeb制作・Web広告を行うITコンサル企業へ入社し、長男の出産を機に退職しました。
そこからまた、個人事業主に戻り、「せいかつ編集室」として本格的に活動していくようになりました。
多忙だった仕事の環境を変えるきっかけは、車が全損する大事故と長男の病気
長男を出産後、すぐに働き始めたそうですね。お仕事は楽しかったですか?
はい。すぐに仕事に復帰しました。
ただ「仕事をしていないと社会から置いていかれる」という謎の強迫観念に囚われており、ずっと仕事のことを考えていました。「仕事量をセーブしなくては」と頭では思いつつも、恐怖から止まれなかったのです。
働き方を変えようと思ったきっかけは何でしたか?
朝4時起きで原稿を書き、車の運転中ですら「一文字でも文字を書きたい!」という焦燥感に駆られていたとき、不注意から大きな事故を起こしました。
幸いなことにケガはしませんでしたが、“もし長男が横に乗っていたら”と思うと、ゾッとします。車も買い替えが必要な程に大破してしまい、稼いだお金も一気に失ってしまいました。動かなくなった車を見て「このままではダメだな」と感じたのです。
その頃、長男が自家中毒という病気になってしまいました。「親からの過度なストレスで自家中毒になってしまった」といった内容のドキュメンタリー番組をたまたま見たばかりだったので、「私が息子にストレスを与えているのでは?」と不安になりました。その後、小児科の先生に「感受性が強い、感性の豊かな子って証拠だよ!」と励ましてもらい、気持ちがラクになりましたが、これをきっかけに「ちゃんとこの子に向き合おう」と、仕事にブレーキをかけることができました。
「自分は何がしたいのか?」を自問し、自らを“編集”
働き方を変えるために、まず何から見直すことにしたのですか?
手帳には分刻みで行動予定を書き、しっかりと時間管理をしていました。しかし、to-doリストも活用しながら効率的に動いているつもりなのに、時間が足りない。
困った私は、効率化のプロにアドバイスを求めました。そこで気付かされたのは、“やっていることが多すぎる”ということ。ある時は「デザイナー」、またある時は「イラストレーター」と紹介されていた私は、「自分は何がしたいのか?」と考えるようになりました。
家族が増えた喜びと同時に訪れた、大木家のターニングポイント
その後、生活にどのような変化が起きたのでしょうか?
2016年に、第二子を出産しました。生まれた次の日、障がいがあることが分かったのです。
平日は毎日子どもを通院させるため、これまで通りの働き方はできそうにありません。今後について、夫の壮一郎さんに相談したところ「じゃあ、俺が辞めるよ」と言ってくれたのです。
「僕は、今働いている会社も仕事もとても好きだけど、それより春菜さんの仕事は天職だから続けた方がいい。家事育児がサポートできるよう残業がない職場に転職するから、春菜さんは今の編集の仕事を続けて」と。壮一郎さんは安定志向だと思っていたので、とても驚きました。

夫:壮一郎さん
現在のせいかつ編集室、代表の壮一郎さんと一緒に仕事をするようになった、きっかけを教えてください。
転職活動中、ダメもとで「せいかつ編集室っていうのがあるんですけど、どうですかね?」と壮一郎さんに言ってみました。すると「今までの売り上げを見せてくれる?」と前向きな返事をもらったのです。
改めて見てみると、売り上げは月によって大きく波があり、ガタガタでした。「これでは家族がやっていけない。安定して収入が得られる方法を、一緒に考えよう。3年頑張ってみて、ダメだったら違う方法を考えよう」と話がまとまり、家族でせいかつ編集室を一緒に運営することが決まりました。
「編集」の力を使った伴走スタイルの誕生
壮一郎さんが一緒に会社を運営されるようになって、どのように変化しましたか?
最初の数週間、取材同行してくれていた壮一郎さんに「営業は春菜さんがやった方が良い」と言われました。正直意外だったのですが、取材中、先方の悩みを解決していく私の姿を見た壮一郎さんから「僕もずっと営業の仕事をしてきたけど、『取材』という形を取れば自然に相手も心を開く。このスタイルで、課題を解決していくメニューをつくればいいんじゃない?」と言われ、ハッとしました。それが月1でご訪問してお悩みを解決する、せいかつ編集室の「顧問編集」(旧「春菜のサブスク」)の始まりです。
「顧問編集」では、お客さまのコンセプトをしっかりとつくったうえで、SNSの運用アドバイス、情報発信などの相談役になります。時には、私たちがお客さまを取材しコンテンツをつくったり、オウンドメディアの運営・立ち上げをしたりしていますよ。
こちらは月額契約の半年更新なので、安定した収入源になりました。成立当初から「相談し放題なので、広報担当を1人雇うと思えば安いもの」とご好評いただいています。
また、事業内容を教えてください。
事業は、お店や会社のコンセプトづくり、顧問編集、取材・執筆、企業研修などの各種セミナー、手帳の書き方レッスン、YouTubeチャンネルの企画や立ち上げを行っています。
また、自社が運営しているオンラインショップ「コツコツ文具店」、手帳の書き方を発信する、登録者数1,68万人のYouTubeチャンネル「せいかつ編集チャンネル」などもあります。
2019年からオンラインサロンも運営。サロンメンバーとの対話・手帳の活用によって、それぞれの隠れた“天才性” を見つけて、育てていくコミュニティーです。メンバー同士で個人の“天才性”について考える 「天才発掘zoom」、私がメンバーに質問を投げかけることで新しい自分に出会える「30分スタエフ取材」などの企画がありますよ。 オンラインサロンも登録者数が100人に育ち、安定した収入源の一つに成長しました。
人々の生活を大きく変えた、社会現象がきっかけで生まれた人気コンテンツ
世界的に大流行した新型コロナウイルスは、会社に何か影響はありましたか?
ちょうどお腹に第三子がいることが分かって、「クリエイト実働部隊の私が動けない!どうしよう!」と思ったものの、オンラインが普及するなどで、自宅で働きやすくなったのは幸運でした。
そんなときに挑戦したのが、YouTubeチャンネルと、カレンダーや手帳小物などのオリジナルのアイテム作りです。
YouTubeで手帳の反応が良かったので、手帳に特化してみたところ、大成功でした。手帳アイテムと組み合わせたワークショップの開催や、オンラインサロンでの手帳術の公開と、手帳をキーワードにどんどん活躍の場が広がっていきました。
YouTubeは会社の広告塔へ成長し、オリジナルアイテムは主力商品となっています。
YouTubeのコンテンツと海外にも注目されるアイテム作りに、手応え
これから会社をどのように伸ばしていきますか?
長年続けてみて、「コンセプトを決めると伸びる」と気付きました。オリジナルアイテムとワークショップを組み合わせて、付加価値を高め、ここでしか得られない気付きや満足感を感じていただけるコンテンツを増やしていきたいです。今までは、手帳のYouTubeが広告塔になっていましたが、今後はテーマを変えたYouTubeやポッドキャストにも挑戦したいですね。
手のひらサイズのオリジナルカレンダー「せいかつ編集カレンダー」が日本だけでなく海外でも好評で、中国を中心に、海外からの発注が増えました。絵と一緒に書かれた言葉から、日常の気付きを促すのがねらいですが、現状は「絵柄が可愛い」という理由で購入いただき、ノートに貼っている方もいらっしゃるようです。
相手がだれであっても、編集の目線で魅力的に変えていい
取引先が、企業から個へ広がっている気がします。
はい。企業だけでなく、誰かのお悩み解決のお手伝いができることに、楽しさや喜びを感じています。
YouTubeやオンラインサロンに来てくださる人たちの中には、自分に自信がなく、どうすればよいか迷われている方が多くいらっしゃることに気付きました。
心に浮かんだモヤモヤを解消するために生まれた、オリジナルアイテムの「モヤモヤポン」は、心の中を整理するのにピッタリのハンコです。一旦立ち止まり、自らに問いを立てることで自分を客観視する手助けをするアイテムで、多くの方々から「おかげで気持ちの在り方が変わった」とうれしい反響をいただいています。
今後の目標や夢を教えてください。
編集の仕事を続けてきたことで、私自身も在り方を編集する機会に恵まれました。たくさんの仕事をこなす自分にこそ価値があると思い込み、分刻みで生きていた頃に比べ、ずっと気楽に日々を過ごせるようになっています。自分のやりたいことを行い、喜んでくださる方がいることが、本当にうれしい。
私の今年の目標は「感動する体験を、積極的に行動する!」です。日頃の小さな経験や気付きから、映画鑑賞や読書に家族旅行と、「なんでもコンテンツやネタになる!」という考え方に変わりました。
この経験や考え方を1人でも多くの方に届けたいので、そのうち出版にも挑戦してみたいです。人生、楽しく編集して笑顔いっぱいで過ごしていきたいですね!
取材日:2025年1月15日 ライター:山口 夏織
株式会社 せいかつ編集室
- 代表者名:大木 壮一郎
- 設立年月:2019年9月
- 資本金:50万円
- 事業内容:お店や会社のコンセプトづくり・顧問編集・取材と執筆・各種セミナーと企業研修・手帳レッスン・YouTube企画や立ち上げ
- 所在地:愛媛県松山市
- URL:https://shs2.com/
- お問い合わせ先:HPよりお問い合わせを