映像業界をもっと良くするため、 専門性を伸ばす気軽な交流の場を作りたい

東京
株式会社AIR 代表取締役 木村 福夫氏
今回ご紹介する株式会社AIRは、ビデオパッケージ、CM、オーディオブックなどを制作する会社です。代表取締役の木村福夫氏は、テレビのニュース番組がフィルムの時代に放送局へ入社。その後、ビデオパッケージ制作の初期から関わり続け、パソコンも先駆けて導入。技術の変遷と共に今に至っています。設立のきっかけから、映像業界に対する思い、今後の夢、一緒に働く人に求めることなど、お話をお伺いしました。

パソコン黎明期に周囲のスタッフにも導入を説得。 先見の明が、今につながる

AIRを設立されたきっかけをお教えください。

40数年前、TBSサービスで映像制作をしていました。一緒に仕事をしていたプロダクションの営業プロデューサーから、「支援をするので会社を作りませんか?」と言われたことがきっかけです。

ご自身の意志でなく、頼まれての設立だったのですね。

人にお話できるような立派な理由ではありませんね(笑)。ただ、若い頃から「独立」は意識していました。看板で仕事ができるのはその会社にいる間だけですから、仕事の結果で次の依頼が来るようになりたいと思っていました。昔は会社が潰れることはないと一般的に思われていましたが、そんなことはないと思っていたことも大きいですね。

看板に頼らず仕事をしたいという気持ちがあったのですね。

高収入を得るより、やりたいこと=お客様の目的に応えることの方が幸せだと思いました。そのためには、いずれ映像だけでなく、印刷物やいろいろなものが必要になると感じ、早い段階でパソコンに興味を持ち、自費で購入しました。必死に覚えようしていたら「あいつは遊んでいる」と言われました(笑)。

パソコンのどのような点に興味を持たれたのですか?

時間内で仕事量の効率を上げるためです。たとえば、原稿を一から手書きで直すのでなく、既に作ったものを利用するなどです。ビデオのスタッフやカメラマンにもパソコンを使うよう依頼しました。手作業の方が早いと言われたこともありましたが、「絶対に変わるからやった方がいい」と説得し、強制的に教えました(笑)。 クリエイティブ能力があっても出来上がりまで時間が掛かっては意味がありません。プロは決まった時間にどれだけのクオリティのものを作れるかですから、そういった面での勝負をしたかったのです。

なぜ「パソコンの時代が来る」と信じられたのですか?

当時、雑誌の日経ビジネスや日経エレクトロニクスを読んでいました。海外の記事が多く載っていて、世界の動向が自然と見えてきたからです。いずれ日本もパソコンの時代になると思いました。

オーディオ技術者の言葉 「いいものは、いいデザインでなくてはいけない」に感銘

木村氏自ら手がけたロゴマーク。名刺や封筒で目に留めてもらうため、見た目の良さにこだわったデザイン。

木村氏自ら手がけたロゴマーク。名刺や封筒で目に留めてもらうため、見た目の良さにこだわったデザイン。

社名の由来についてお聞かせください。

まず電話帳の前の方に載るよう、50音順やアルファベットで先に来る名前を、と思ったからです。

ホームページには「制作現場で、空気のような存在でありたい」とありますね。

それだけでなく「自由でいたい」という思いがありました。空気はどんな形にもなりますから。社名で大事なのは格好良さでした(笑)。若い頃からオーディオが好きで、ドイツのクォード社のアンプを開けて中を見た時、部品の位置や色がすごくキレイで、音もいいのです。技術者のインタビューに「いいものは、いいデザインでなくてはいけない」とあり、「なるほど」と深く感心しました。

子供の頃から映像に興味はありましたか?

いいえ。ありませんでした。天体望遠鏡で空を眺めたり、宇宙やUFOの本が好きで、夢は天文学者でした。置時計を分解したりなど機械いじりも好きでしたので、理系の大学に進み、電気関係の勉強をしました。

なぜ理系から映像の道を選ばれたのですか?

大学4年の夏、遊ぼうと思ったら、周りは就職活動をしていました。僕は応募の仕方も知りませんでした(笑)。焦って求人票を見ると、新聞と放送関係が目に付きました。放送局を選びましたが、物足りなく感じた頃、放送以外の映像=ビデオパッケージも作ることになりました。クライアントは富士通、ソニー等、ハードメーカーが多く、技術のことが分かる自分に声が掛かりました。

会社は「家族」。違う視点を持つ人がそばにいることで、さまざまな考え方を共有できる

以前の会社と現在では、仕事の違いはありますか?

以前はハードメーカー中心でしたが、今は業種に関係なく手がけています。昔は放送用の設備しかなく、歌番組「ザ・ベストテン」を放送していた広いスタジオの端で、カメラマンも普段は番組を撮っている人達で、文句を言われながらも撮影してもらいました(笑)。ビデオパッケージの創世記で、技術革新と一緒に歩んできましたから、すごく面白かったですね。

創世記ならではのエピソードですね。

ドラマ制作で有名な人達が、どうすれば面白くできるかなど、演出面を教えてくれました。僕からは技術面を教えたり、毎朝、コーヒーを飲みながらいろいろな話をしていました。あの時代は恵まれていたなあと思います。今の若い人達にも、そういう場を提供したいですね。

設立して苦労したことをお教えください。

特にないのです。「苦労」と「努力」とは違いますよね。「苦労」はイヤだけれどやらなくてはならないことですが、イヤなことはやりません(笑)。消費者をごまかすような手法にはダメだと言って断ります。

逆に良かった点はどのようなことですか?

自由にできることです。と言っても、自分一人だけで仕事をしているわけではないので、ある程度ルールはあります。全くないと上手くいかないでしょうね。スポーツにルールがあることと一緒ですね。

会社を運営する中で、特にどういった考えを大切にされていますか?

会社は人の集まりなので、家族と一緒だと思っています。家族には血縁関係だけでなく、いろいろな形があります。大事なのは、同じ時間を同じ場所で過ごすことです。映像作りでは目的に合ったスタッフが集まりますので、それを家族と捉えています。人間ひとりの能力は限られているので、事を成すにはいろいろな能力が必要です。違う視点を持つ人がそばにいることで、さまざまな考え方を共有できます。

年齢・性別・職業・国籍を超えた、気軽な交流の場を作りたい。 そこから面白いものが生まれる

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今後の展望・抱負・夢などをお教えください。

ソフトバンク・孫正義さんの言葉「大企業に成り下がりたくない」がすごく印象的でした。これからは、小さな会社がネットワークを張って必要なアウトプットを生み出すことが主流になると思います。AIRがいろいろな会社やスタッフと組むことで、業界全体が良い方向に向かうことができないかと思っています。そのネットワークを作るために、いろいろな人と毎日のように集まって話せる場や機会が欲しいですね。 また、今はビデオパッケージとCMがメインですが、将来的にはCM制作会社にシフトしたいとも考えています。

木村様がドラマ制作の方達と話していたような体験が、今の人達もできるといいですね。

昔、パリで芸術家がカフェに集まったようなサロンがあると楽しいですね。専門外のジャンルに対しても好きなことを言って、専門家がそれに応えたり、逆に自分の得意ジャンルを教えたり…。利益を出したい・評価されたいなどと意識せず、年齢・性別・職業・国籍問わず集まって、5年・10年続けると、すごく面白い何かが出てくると思いますね。

「映像業界を良くしたい」と心底考えていらっしゃるのですね。

VTRメーカーの海外用プロモーション映像をハリウッドで制作した時、現地スタッフとの仕事で専門家の必要性を実感しました。打ち合わせには専門の書記がいて、1時間後にはスクリプトが配られました。仕事がキレイに分業化されているのです。「日本も、こうならなくては」と思いました。

他にはどのような違いがありましたか?

文字コンテに絵やOKカットを入れて編集できるソフトがあり、それを組み替えて香盤表(スケジュール表)もできる等、とにかく映像制作のシステムが整備されているのです。日本の映像制作業界を変えなくてはいけないと思いましたね。ハリウッドで勉強してきた人達を活用して、やり方を取り入れればといいと思います。

一緒に働く人に対して、会社としてどのようなことを求めますか?

まずは「人間性」です。クリエイターである前に人間であって欲しいですね。プラス、どこかクリエイティブな所があればうれしいですね。誰もが絶対に秀でた所を持っていますから。若い時は多少失敗してもやりたいことをした方がいいと思います。その時に与えられたことを楽しむ中で、生き方を学んで欲しいですね。

取材日:2015年6月2日

株式会社AIR

  • 代表取締役: 木村 福夫(きむら ふくお)
  • 設立年月: 2006年8月2日
  • 資本金: 300万円
  • 事業内容: CM制作、VP制作、audiobook制作、その他
  • 所在地: 東京都渋谷区神宮前4-19-8 アロープラザ原宿322
  • URL: http://www.air-z.com
  • 電話: 03-3401-1364

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