体温のある広告を、ひとからひとへ そうして社会と繋がっていきたい
- 大阪
- 株式会社アデージ 代表取締役 十念 勝一氏
物書きを目指した先に、広告というフィールド
広告業界に飛び込んだきっかけを聞かせてください。
もともとは物書きになりたくて大学を中退、大阪の出版社に就職しました。活字の世界に何らかの形で触れていたかったんですね。でも出版社に努めて2年経った頃、どうしても自分の文章が書きたくて転職を考え始めました。その頃はまだ、広告業界に入りたいとは考えていなかったんですが。
なるほど。出版社では編集には携われますが、原稿を書く機会は少ないですからね。
ある日先輩から「文章を書く仕事に就きたいなら広告プロダクションを紹介しようか」と声を懸けていただき、25才の時にコピーライターとして制作プロダクションに入社しました。それが広告業界でのキャリアのスタートです。ところが最初は自分の書いたコピーがまったく通用しない(笑)。いまでも覚えているのが、大手ゲームメーカーの広報室長に「コピーライターの端くれ」と叱責され続けたことです。書いても書いてもボツになり、やっと活字になったのは入社して1年を過ぎた頃のことでした。プロとアマの違いにもがき苦しんだこの時代が、今の自分の基礎になっているような気がします。
そして32歳でアデージを設立。若くして起業されましたね。
その前に、制作プロダクションを辞めてから1年ほどフリーランスをしていました。代理店から取材や広告依頼をスポットで受けて、その都度ギャラをもらうカタチです。いろいろと新しい仕事にチャレンジできたのですが、代理店の意向と自分のディレクションが噛み合わずにジレンマを感じることが多くなってきたんです。ちょうど子どもが産まれたこともあり、どうせなら自分がつくりたい広告をつくれる環境を、ということでアデージを設立しました。
広告が、人生の羅針盤になることもある
御社は、不動産広告や学校案内が得意と伺っていますが。
まだ20代の頃、ある高校の渉外担当の先生から「キミが作った学校案内が心に届いて、高校進学を決めるきっかけになる」と言われたことがありました。なるほど、そうだなあと。仕事ってどうしてもルーティンになりがちじゃないですか、その方が楽だから(笑)。でも僕らが発信する広告を受け取った人たちは、その瞬間に迫られた決断の材料にしたりするわけです。ましてや、家を買うことや進路を決めることって何度もないですよね。そんな「人生の転機に立ち会っているかもしれない」というワクワク感と、「ワン・オブ・ゼムとして流しちゃいけない」という緊張感が、とても好きなんだと思います。
広告以外にもさまざまなジャンルに挑戦されているようですね。
僕たちの仕事はいろんな場面でプレゼンテーションを求められますが、そのノウハウを生かしてゼネコンさんなどの事業提案や設計提案をお手伝いしています。最近では、本社建て替えに伴いミュージアムを併設したい、といった企業様に対して展示室のディスプレイをご提案したり、建築士さんたちと共同で東京の建築設計コンペに出品して入賞をいただいたり。ほかには、友人への手伝いがきかっけで選挙広告なんかにも携わってきました。
0から1を生み出す、それがプロの仕事
表現することや広告をつくる上で何が大切だとお考えですか?
自分が書いたり、ディレクションしたり、プロデュースする広告は、自分で「面白い!」と思わなければ、絶対に相手には伝わらないと思っています。だから、まずはつくっている本人が楽しめる広告づくり。これを一番大切にしています。僕は、時代を追いかけるように広告をつくることが得意じゃない。そういう面ではとても不器用です(笑)。広告というのはとても変化が激しくて、つい20年前までは写植を貼って版下をつくり、製図ペンと定規で線を引いていました。それが今では紙媒体からWebへと広がり、視覚や聴覚だけでなく、味覚や触覚までを刺激しようとしています。それでも広告の核をなすコンセプトなりメッセージなりは、人から発信されて、人の心に着地していくもの。通り道がちょっとデジタルなだけで、面白い!と思う感性はやっぱりアナログなんです。そういった意味でも、コーポレートメッセージに掲げた「ひとからひとへ」が広告の本質だと思っています。
では、クリエイターの仕事とは?
Macがあればデザインできます。ホームページビルダーがあればホームページは作れます。でも、これはあくまでツールです。 0から1をどうやって生み出すか、それも在り来たりじゃない「1」を。それがクリエイターの仕事であり、醍醐味だと思っています。経験上、あるモノを瞬間的にとらえたら正面しか見えなかったものが、時間をかけて様々な角度から見ると違う面が見えてくることがあります。そうやって新しい発見ができるか、そこまで堀り下げられるかが、プロに求められることだと思います。
今後、クリエイティブについてどのような展開をお考えですか?
クリエイティブを発信するメディアとして、動画に注目しています。先ほどはデジタルをただの通り道と話しましたが、決して否定しているわけではありません。テクノロジーの進化によってインフラが整い、容量の大きな動画も今では手元でサクサクと動くようになりました。媒体が紙からWebに移行しつつある中で、読んで得る情報よりは、見て・聞いて得る情報の方が、圧倒的に伝達速度が速いんです。これからの広告は、より伝わりやすく、密度を濃くすることが求められますから、今まで平面でのみ表現してきた情報を、動画を生かしてより立体的に表現していければと考えています。
垣根を越えたクリエイティブをめざして
事業としては、どのようなことをお考えですか?
僕たちが広告を通じて社会とどう関わっていくか。そこにアデージの価値が問われていると思います。今、不動産関連のお仕事で街づくりから取り組ませていただいているのですが、住宅開発で大切なのは「人の循環」です。大型の新興住宅地は、若い世代を大量に呼び込む起爆剤になりますよね。でも、いちどきに集まった若者は、いちどきに年を取っていく。実は僕の地元でもこの問題に直面していて、高度成長期に開発された街がどんどん過疎化しています。そういう面では、街って社会の縮図だと思うんです。地域コミュニティを永く持続させていくには、開発者や行政がスクラップアンドビルド※1を繰り返すのではなく、人がその土地にどうやって根付き、生活し、次の世代に受け継いでいくのか。こういう課題をきちんと解決していくことが大切だと思います。今後は広告で培った視点やノウハウ、持ちうる情報を、そうした地域活性に役立てていける企業に育てていきたいですね。
※1 老朽化して非効率な工場設備や行政機構を廃棄・廃止して、新しい生産施設・行政機構におきかえることによって、生産設備・行政機構の集中化、効率化などを実現すること。(出展:ウィキペディア)
アデージ(adage)と言う社名からも、十念社長のこだわりを感じますね。
そう言っていただけると嬉しいです。設立当初、フリーランス時代の経験から「仕事のイニシアチブ(主導権)を取れる会社でありたい」という想いを込めてアドバタイジング・エージェンシーを略して名付けましたが、英語の adage には金言や格言といった意味もあります。人には何かしら、心の指針になる言葉がありますよね。有言実行とか、初志貫徹とか。それって言い換えれば、生き様だと思うんです。僕にとっても社員たちにとっても、この会社が自分たちの生き様を実行できる器であればいいな、そんな風に思っています。
取材日:2015年12月18日 ライター:フルキ ノリコ
企業名:株式会社アデージ
- 代表者名: 代表取締役 十念 勝一(じゅうねん かついち)
- 設立年月: 2001年9月
- 資 本 金: 3,000,000円
- 事業内容: 広告・印刷・媒体の企画・制作・代理 各種ディスプレイ・イベントの企画・制作 市場調査および商品開発提案システムサービス事業
- 所 在 地: 大阪市中央区本町橋2番23号1307
- TEL: 06-4792-5047
- FAX: 06-4792-5048
- URL: http://adagecoltd.com/index.html