元エンジニアが手掛ける 日本人のための乗馬ファッションブランド
- 大阪
- 株式会社ワールドマーケット 代表取締役 荒木 剛氏
海外勤務で悪戦苦闘した日々の先にあった、 自分の可能性を探る「起業」という新たな展望
まず、起業までの経緯について教えていただけますか?
私はもともと、半導体や液晶を製造する工場の生産ライン建設における施工管理を行うエンジニアとして働いていました。就職して3年後、台湾、フィリピンへ海外赴任し、20代後半までを過ごしました。 ですから、まったくの異業種からの参入ともいえ、今振り返ると、勢いだけの若気の至りで起業した面もあったかと思います。
専門的な話になりますが、半導体というのは空気中のチリやゴミに弱く、クリーンな空気環境の中で製造しています。 このため半導体は常時、不純物がないH20に限りなく近い超純水(ウルトラピュアウォーター)で洗浄し続けなければいけないのですが、この超純水を用いる生産ラインの建設を行うのが私の仕事でした。 得意先は国内外の大手メーカーで、現場で200人ぐらいを指揮して1年を掛けて完了させる十数億円の大規模プロジェクトにも携わりました。 まだ20代前半だった私は当初、責任が重大で苦労もしましたが、経験を積んで自分の裁量でいろいろとできるようになってからは、仕事にやりがいを感じていました。
毎日がハードで、トラブルが起きれば昼夜関係なく携帯で呼び出され、問題が解決するまで現場で一週間ぐらい寝泊りをしたり、仕事上でクライアントと衝突したこともありました。ですが、無事にプロジェクトが完了すると生産ラインの建設に関わったスタッフ皆でお祝いするなど、いつも一体感にあふれた、厳しくも楽しい職場でした。 仕事では主に英語を使い、現地で生活するため実地で中国語も覚えました。日本を離れて海外で働き、生活する機会を得たことは、自分の視野を広げるための大きな糧になったと思います。
その一方、会社組織で働くことの恩恵と自分の新たなアイデアを形作るまでの道のりの長さも考えるようになりました。折りしも当時の日本では、IT起業家たちが時代の寵児となっていました。そこにも刺激を受け、“自分は、組織を離れて一人でどこまでできるのだろう”、“20代のうちにチャレンジしてみたい”という気持ちが、自分の中で大きく膨らんでいきました。 職場の方々にはたくさんの叱咤激励をいただきながら、28歳でお世話になった会社を去り、10年前の2006年にワールドマーケットを立ち上げました。
創業当時はどのようなビジネスモデルをお考えでしたか?
最初は今とは違うことをビジネスにしようと考えていました。台湾に赴任していた頃、現地では日本のファッション雑誌やコスメがもてはやされていました。日本の商品が台湾で大変需要があることを知り、個人輸出を支援するようなインフラとしてのサイト構築をすれば、ニーズがあるだろうと考え、事業をスタートさせました。 今では大手ショッピングモールでも個人輸出ができるサービスを行っていますが、その走りともいえるネットビジネスでした。
この事業を立ち上げプレスリリースしたときには、ベンチャーキャピタルが興味を示し、話を聞きに来るなど反応もありましたが、大きなビジネスを展開する上での資金面や人材面などでの環境が整わなかったため、2年ほどでこの路線は諦めました。
また会社を立ち上げてからは、起業家の交流会にも積極的に足を運びました。そこではネットショップを運営している方と多く出会いました。 知り合ったネットショップのオーナーの方々に自分が海外にいたことを話すと、「オリジナル商品を海外で生産して店で販売したい」という依頼をいただくようになりました。エンジニア時代、現場で使用する機器の輸出入手続きを行っていた経験が活かせると思い、ネットショップの輸出入代行業務をスタートさせました。そのうちに自分でも商品を売るビジネスをしたいと考えるようになり、どんな商材がよいのかを日々検討していました。
学生時代の趣味がビジネスへと結びついた不思議なめぐり合わせ
ネットで売る商材として乗馬関連用品を選ばれたのはなぜですか。
学生時代、馬が好きで将来ジョッキーになることを目指す友人がいました。彼の影響で、京都競馬場の体験乗馬や近所の乗馬クラブの存在を知り、アルバイトで貯めたお金を費やし、乗馬クラブに通うようになりました。ですが、趣味であった乗馬が、まさかビジネスにつながっていくとは、夢にも思いませんでした。
ある日、実家に帰ったときです。かつて自分が乗馬をしていた頃に履いていた、くたびれた乗馬ブーツを見つけました。ふと「これ、売れるのかな」と考えたのです。
早速、ヤフーオークションに出品してみたところ、思わぬ反響があり、その古い乗馬ブーツはあっという間に落札されてしまいました。乗馬で使う装備は一般に高額商品ですが、“ほどほどの価格のものにも需要があるのではないか”、“乗馬関連商品の市場はまだまだ未開拓なニーズがあるのではないか”とひらめきました。
そこで、乗馬ブーツがどのくらいの価格で売られていて、仕入れ値がどれくらいかも調べて、海外に出向いて20万円の予算で乗馬ブーツを仕入れてみました。販売用のテストサイトをつくり売り出したところ、間もなく商品の在庫がなくなるほどの反響があり、これはいけるという手応えを感じました。そこから、乗馬用品に特化したビジネスが始まりました。
まだ開拓されていない潜在需要に宿る将来性
乗馬用品をめぐるビジネス環境はどのようなものでしょうか? また乗馬というスポーツの広がりという面も踏まえて市場の将来性はいかがでしょうか?
乗馬業界は景気に左右されにくい世界で、日本国内では競技人口が15~20万人程度といわれているようです。オリンピックの馬術競技で日本人がメダルをとるようなインパクトがない限り爆発的なブームはないかと思いますが、逆に競技者離れも起こりにくい安定したニッチな市場といえ、競技人口は微増傾向にもあります。
さらに、レジャー白書という余暇関連分野における需要・市場動向の統計データによると、女性がやってみたい趣味として、乗馬が上位にランクインしています。これは、機会があればチャレンジしてみたいという潜在的なニーズがあることを物語っています。そこへ上手にアプローチできれば、裾野が大きく広がる可能性を秘めている将来性のある市場だと捉えています。
現在は、ゴルフをする女性の方がたくさんいますが、かつて女性ゴルファーは少数派でした。何かのきっかけさえあれば、市場環境は変わっていくと思います。
特に力を入れている商品はありますか? また馬具、乗馬用品の企画・製造を手掛けられていますが、ものづくりへのこだわりがあれば教えてください。
昨年、EQULIBERTA(エクリベルタ)という自社の乗馬ファッションブランドをスタートさせました。輸入商品にはない、日本人の体格に合わせた、「日本人のための乗馬ファッションブランド」というコンセプトです。 当社は製造部門を持たないファブレス※1の体制ですが、品質管理とデザインについては経験豊富なアドバイザーを招き入れ、質の高い商品づくりに取り組んでいます。 例えば、乗馬で着るジャケットは見た目もファッショナブルですが、スポーツ競技という性格上、動きやすさや耐久性などの高い機能性も同時に求められています。 このためデザイナーには、ご自身も20年の乗馬歴を持ち、乗馬で求められる服飾の機能性を熟知していらっしゃる、日本では第一人者として信頼されている方に依頼しています。
また、海外の製造依頼先については、ドイツで開かれる世界最大の乗馬関連展示会(見本市)に足を運び、その出展企業から実際に話を聞き情報収集して、選定しています。
※1 製品の企画設計や開発は行うが、製品製造のための自社工場は所有せず、製造自体は他社に委託し、製品を調達、自社ブランドの製品として販売する。
乗馬というニッチな市場は口コミのインパクト大 だからこそ大切なお客様満足度UPのための取り組み
今年2月にスタートしたネット通販で購入した乗馬用品を自宅で試着できる「おうちで試着」について教えてください。
当社は大きなテーマとして「お客様満足度の追求」を掲げています。乗馬に親しんでいらっしゃる方の多くは乗馬クラブに所属していますが、これは、弊社の製品にご満足いただけたお客さまの声が口コミで伝わりやすい環境ともいえるのです。だからこそ、お客様に満足していただくことが大切であるため、できるだけきめ細かくサービスを提供できるように心掛けています。
乗馬用品選びはフィッテイングが欠かせません。乗馬ズボン一つとっても、体にぴったりとしたものを選ぶことが大切です。 ネット通販で適切なサイズ選びをすることは、実は大変に難しいのですが、これまでの発想を転換して、フィッティングで合わなかったものは“無料で返品、交換を承ります”というのが、「おうちで試着」のサービス内容です。
当初はこのサイズ選びの難しさを解決するために、かなり細かいサイズ表をサイト上に掲載したり、サイズが合わなければ返品のみ無料にしたりと、いろいろな方法を考えて試してきました。 実際に試す中で、商品の在庫確保をする必要性や返金などの事務手続き、返品された商品の検品など、かなり多くの手間も掛かることがわかるようになりました。そして、2~3年ほど掛けて試行・検証し、データを蓄積してきた結果、サービスとして展開できるスキームを確立できるようになったため、今年の2月から本格的に開始することになりました。 こうしたお客間様満足への取り組みにこだわり、積み重ねてきたサービスのブラッシュアップの甲斐あって、今ではお客様のリピート率は約8割を確保しています。
今後のビジネス展開や将来的な夢について教えてください。
乗馬関連のビジネスを行っていますので、今後、乗馬人口が増えていくことが大事だと考えています。 このため乗馬クラブさんとも協業の関係を築き、これまで捉えきれなかった潜在的な需要層に向けてアプローチしていきたいと考えています。乗馬の魅力を伝えるコンテンツの企画・制作は、これから特に力を入れていきたい分野です。
ですので、単に物品販売にとどまらず、乗馬クラブさんへの集客サポートや、乗馬への興味を啓発していけるような情報発信、乗馬を楽しむ方々に対し幅広くサービスを提供できるような事業も展開していきたいなと思います。 自社ブランドについては、質の良いものを提供することで価値を高め、将来はヨーロッパなど海外の乗馬業界にも認めてもらえるような存在に育て上げるのが夢です。
取材日:2016年4月13日 ライター:長谷川隆
株式会社ワールドマーケット
- 代表者名(ふりがな): 荒木 剛(あらき ごう)
- 設立年月: 2006年7月
- 資本金: 800万円
- 事業内容: 乗馬用品の輸入・製造・販売。
- 所在地: 大阪府大阪市中央区内本町1-2-11 ウタカビル6階601
- URL: http://www.world-mkt.com
- お問い合わせ先: 06-6314-6191