WEB・モバイル2016.07.20

多様性を受容できる 豊かな働き方ができる会社へ

札幌
株式会社スケッチクリエイト 代表取締役社長 畑中裕有氏
今回訪問した企業は、雑誌の企画・編集や企業Webサイトのデザインなどを多く手がける札幌のデザインプロダクション「スケッチクリエイト」。独立までの背景と、ご自身のルーツともいえる農業分野でのデザインの可能性を探る新たな挑戦、単なるデザインプロダクションという枠にとらわれない今後の展開についてお話いただきました。

会社という器をデザインする経営者に

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御社の事業について教えてください

デザインプロダクションとして、紙媒体のグラッフィックデザインや、Webサイトのデザインを手掛けています。大手出版社の定期刊行物や、大手旅行会社の冊子、CI(コーポレート・アイデンティティ)としてロゴ制作が多いですね。最近はWebデザインの仕事も増えてきたとは感じていますが、やはり紙媒体の仕事が7割近くを占めています。出版社や広告代理店からのBtoBの仕事がメインで、企画や編集まで一手に請け負う雑誌やフリーペーパーの制作も行っています。昨年シリーズ最新号が発行された、札幌のスープカレーのムック本のアートディレクションも担当しました。こういった本もそうですが、企画の内容や規模によってはブレーンとなるライターやカメラマンとチームを組んで、一緒にプロジェクトを進めています。

デザイン業界を目指したきっかけは何だったのでしょうか

子どもの頃から絵が好きで、絵に関わる仕事をしたいと思っていました。昔はデザイナーという職業を意識したことがなく、絵に関わる仕事と言えばイラストレーターやアニメーターくらいしか思い浮かばなくて。とにかく“イラスト”と関係がありそうな札幌の専門学校を調べ、進学しました。東京や美大にも憧れましたけど、とにかくお金がかかるものですから、仁木(にき)町にある実家から毎日片道1時間半かけて通っていました。通学時に車内でよく本を読みましたね。卒業後は小さなデザインプロダクションに就職しましたが、その時はデザイナーではなく営業職としての入社でした。自分をどう売り込もうかと考えながら話をしていたら、「商談得意そうだから営業でやってみませんか?」と誘われまして(笑)。

ご自身がデザイナーだったわけではないのですね

学校ではデザインを学びましたが、結果としてデザイナーになったわけではないですね。顧みると学生時代も就職当時も、まだMacが一人一台という環境が整っていない時代でした。その背景もあってか、就職後のデザインプロダクションでは自分で手を動かしてデザインを組むことよりも、たくさんの案件をこなすために、メインでは営業及び制作ディレクターとしての動きをしていました。そのため、データの構造はわかるのに自分では操作できないという(笑) その時は、いつか独立をしたいと思っていたので仕事が発生する過程も経験しておいた方が良いかなという気持でした。その後、役員として迎えてくださり、営業部長や新規事業として社内で立ち上げた企画部の部長も務め、取締役として5年務めた後に独立をして今に至ります。

途中、デザイナーへ方向転換しようとは思わなかったのですか?

デザイナーを志していたのに、結果として営業的な業務がメインなわけですから、一般的には夢が破れたかのように見えるのかも知れません。もしかすると、当時は多少そういう後悔の気持ちもあったかも知れません。とくにデザイナー志望の人間の視点では、対極的に見えると思います。しかし、その頃お世話になっていた成長著しい東京のデザイン会社の社長から「デザインとは何も紙の上だけのものではない。会社をデザインすればいいじゃないか。」と言われ、目からウロコが落ちました。そういう考え方もあるか!と。会社をデザインする=マネジメントですよね。そこで私の意識も大きく変わったのだと思います。

農業分野でデザインの新たな役割を構想中

ナログのほうが頭に入りやすいと農業新聞をスクラップして情報収集している。

アナログのほうが頭に入りやすいと農業新聞をスクラップして情報収集している。

現在、力を入れている分野は何ですか。

農業分野のデザイニングについて、昨年からかなりアンテナを高く張って活動しています。生産者と消費者をつなぐ広報・販促支援や、ブランディングのサポート業務を担う、農業の将来を描こう、という意味で「アグリスケッチ」と名付けました。現在、農業分野はとても注目度が高まっています。農地取得の法改正があったり、助成金も増えたり、様々な業界からの参入や、新たなビジネスがどんどん広がっています。農家という自己の背景を客観化するためにも、まずは知るところから始めようと思って、コツコツ情報収集をしてきましたが、プロジェクトも2年目になり少しずつ人の動きや業界の流れがわかるようになってきました。

どうして農業なのですか?

会社を起した時から、3期目には何か新しいことを始めようと決めていました。そこで実家の家業でもある農業について、クリエイティブな視点で考えてみようと思ったのです。農業分野におけるデザインの役割はまだ広がりがあると思いますので、競合も多いですがチャンスも多い、魅力的な分野だと感じています。また、デザインプロダクションである「スケッチクリエイト」を発展させるとは、どのようなことかと考えた時に、それは単にデザイン自体の受注件数を増やしたり、単価を上げたりといったことではないと思いました。デザインはあくまで手段であって、目的に対する企画とセットで取り組んでいくものですから。紙やWebデザインの制作案件を探すだけではなく、クライアントと目的を共有し、例えばヒアリング過程で新しい事業展開などがニーズとして出てきた場合は、そこを達成するための企画提案の部分から、参画していきたいと思っています。

具体的な成果物はありますか?

最近の仕事として、東京の大手仲卸会社からの発注で熊本産しょうがの品名シールを作りました。面白い仕事でしたよ。生産者さんも想定よりも相当インパクトがあったのか「すごいものが来た!」と、とても喜んでくれて、場が変わるとデザインの評価や位置づけも変わるんだなと改めて実感しました。

商品名シールとなると、商品の数だけありますものね

Webでも実店舗でも買い物をする時には必ず商品があり、そこにデザインの表現の場があります。見られる機会も多いですし、商品シールは比較的小さなものが多いので作業効率も良いです。会社を起す時に、最初は「A4サイズのものしか作りません!」くらい振り切ったコンセプトの会社にしようと考えていました(笑)。社名もAを4つ並べて「AAAA(エーフォー)」とか。格付けのトリプルAよりすごい!みたいな。何でもできるデザイナーが一番ですが、寡占化に埋もれます。そうでないなら何か得意なものに特化したほうがいいですし、さらに小さいものならコストやリスクも少なく参入しやすい。例えば、シールやDM、Webのバナーなど、考える時間はもちろん必要ですが、アイデアさえ決まれば実際の仕上げ作業の時間は10ページのパンフレットを制作するより短い、そして見られる機会は多い。我々のような後発の小さなデザインプロダクションが継続して利益を出していこうと思ったら、“最小にして最大”を狙って“最小のスペースに最大限尽くす”を実践したいと思います。

最小単位でフットワーク軽く活動できる、 多様な働き方ができる環境づくり

ところで事務所には、いわゆる「時短勤務」のデザイナーさんもいるのですね。

はい、16時までの時間で働いてくれている方も数名います。能力はあるけどフルタイムで働くのは難しいという方は、潜在的に多いと思います。特に主婦の方が多いのですが、そういった方々も能力を発揮できる場があるといいなと思っています。例えば、1日3時間しか働けないなら、その3時間でしっかりとした結果を生み出す仕事をつくれないか。作業時間の単位が細かいのであれば、必然的に制作物のサイズも小さい方がいいという単純な発想です。

先ほどの「小さい制作物」とつながる話ですね

私は、主婦の方は世の中で一番働き者だと思うのです。特に時間に対するコスト意識がものすごく高い。私自身も結婚して子供が生まれ、子育てをしながら働いている女性のたくましさにとても感心させられました。フルタイムでないと責任のある仕事ができないということではなく、そういった人たちに任せる仕事や働き方の仕組みを色々と考えて試しているところです。テレワークという手法もありますが、クリエイティブにマッチしたやり方を模索しています。例えば、今社内には私の妻も含め主婦が3人いるのですが、その3人で食品やキッチン用品のプロモーションプロジェクトを構想中です。「エプロンスケッチ」なんて名称を少し前から考えていたのですが、面白そうじゃないですか?実際に商品を使っている主婦ならではの実情に即したアイデアは貴重ですし、目線の近い方が考えたほうが効率も良いと思うのです。

「アグリスケッチ」の次は、「エプロンスケッチ」ですか!私も主婦なので参加したいです(笑)

これからは時間もそうですが、所属についても1カ所に縛られない、機動性の高い働き方が増えてくると思います。フリーランスの方がプロジェクト単位でチームを組んで動くのと同じようなイメージです。私自身も、昨年の7~11月は週に最低1日は事務所を離れて仁木町の実家で農作業をしていました。収穫業務に向かうという意識です。朝5時に札幌を出発していました。こうした往復を自分で体験として持つことで農業とデザイン業を包括できるような機能的な仕組みづくりができないかと考えています。私が経営者だから好きなことができるという話ではなくて、従業員側からもどういった働き方をしていきたいか、会社に属しているならその会社という場をどうやって上手く自分の将来に使っていくか、考えて行動していく時代になっていると思います。実(じつ)があってネットが活きる。基本は実業にあると思っています。

そういった働き方に、興味がある方は多いと思います。

私自身、できることは限られていてそう多くはありません。ですので、周りにいる優秀な方々の協力を得やすい環境や、関係・ネットワークづくり、そこで知り合った方たちと一緒にデザインを通してどういった貢献ができるか、農業分野も含めてですが、狭い視野ではなく複眼的に考えていくことが今後の私のミッションだと考えています。

取材日: 2016年6月10日 ライター: :小山佐知子

 

株式会社スケッチクリエイト

  • 代表者名(よみがな): 代表取締役社長 畑中裕有(はたなか やすなり)
  • 設立年月: 2013年5月
  • 事業内容: 広告、宣伝販促物の企画・編集・制作・広報コンサルティング、 ウェブサイト構築、各種デジタルコンテンツの企画・編集・制作、など
  • 所在地: 札幌市中央区南1条東3丁目10-1-1北海道日伊文化会館 新館3階
  • TEL: 011-200-0701
  • FAX: 011-200-0702
  • URL: http://www.sketchcreate.jp/
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