WEB・モバイル2016.08.10

大量の知識を得ることで 独自の発想を持てる!

大阪
株式会社AZ 代表取締役 藤堂高義 氏
Webの運用型広告を手掛ける株式会社AZ。 運用広告は、画面に映し出される寸前のわずか0.1秒の間に、1つの枠を巡る激しい入札競争を競り勝たなければならないそうです。そのために一体何が必要なのか?代表取締役社長の藤堂高義さんは、ホームページ制作会社から一転、独自のやり方で運用広告の世界を突き詰め、わずか4年で急成長を遂げました。大学卒業後、すぐに起業という経歴は、さぞかし順風満帆だったのかと思いきや……。意外なお話を伺ってきました。

「やりたいことに勝負をかけて終わろう!」と覚悟

大学卒業後、就職せず起業されているというのは、すごく異色だと思うのですが、学生の頃からの計画だったのですか?

いえ、行き当たりばったりですよ(笑)。ただきっかけは学生時代ですね。 ITと初めて関わったのが、大手携帯会社の学生向けプロジェクトに参加して、コンテンツやアプリの制作に携わったときでした。実はプロジェクトの参加条件は「ホームページ制作」が出来ることでしたが、出来るふりをして参加しました(笑)。 実際にシンクタンクの企業に勤めるプロの方から教わる、IT業界にまつわる様々な知識がすごく面白くて、この世界で仕事がしたいと思うようになりました。 そこから独学で制作を学び、当時の「ITでベンチャービジネスを」という起業ブームもあり、「自分たちでやろう」と、ノリで起業を目指しました。

そして勢いに乗って、右肩上がりに発展されてきたのですね?

残念ながら違います(笑)。実は、IT 以外で手掛けた仕事が全然上手くいかず、半年くらい京都の木屋町で飲んだくれていた時期もありました(笑)。 「これじゃあダメだ」と、ホームページ制作の会社を設立したら、今度はITバブルが崩壊して現実の壁にぶち当たりました。起業さえすれば、いずれ上場して儲かると思っていたんです(笑)。 それでも4年ほどホームページ制作の仕事を続けた2007年頃、お客様に「ホームページを作ったけど売上が上がらない」と言われて、改めてお客様にとってのホームページの意味を考えるようになりました。

「SEO 対策」が注目され始めた頃ですよね?

そうです。初めて「SEO」の本を読んだときは、検索エンジンから人を呼べることにびっくりしました。でも学ぶうちに、自然検索(オーガニック・サーチ)よりネット広告のほうが市場規模に10倍の差があると気づいたんです。この時「どうせやるならインパクトの大きい広告がやりたい」と、ヤフーの広告代理店に応募し、採用されました。けれど、現金収入があるのはホームページ制作の仕事だったので、広告の仕事にシフトできないまま、とうとうリーマンショックと東日本大震災のあおりを受けて仕事が激減、3人まで会社規模を縮めざるをえなくなってしまったのです。

とても苦労されてきたのですね。では、どうやって、今の「AZ」の姿になったのでしょうか?

本当に行き当たりばったりなんです(笑)。 でもとことんまで追い詰められた時、どうせなら「やりたかったことに勝負をかけて終わろう」と思い、「全力で広告をやる」と決意しました。 お世話になった社長さんには「お前は目の前のことを上手くこなす能力が高いあまり、ビジネスモデルが破たんしても自分で自分を延命させ、最悪な段階まできた。もう決めたことに打ち込むスタイルに変えろ」と言われました。 それで、一旦制作業務をすべて手放し、広告業務だけに絞ったのです。 これが、めちゃくちゃ良かった。

総合的でないこと、広告ひとつに絞ったことが、逆に強みに

広告だけに絞って、良かったことは?

まず利益の出し方が全く変わりました。 もちろん、初めは仕事の依頼は減りましたが、予算規模が大きな顧客から指名がかかるようになりました。 というのも、ここ数年、Webマーケティングをお願いしても広告だけイマイチ反応が悪いという状況が、多くなってきています。弊社に指名が入るようになったのも「広告だけを専門に扱う会社があるらしい」と注目され始めたからです。関西では広告に特化した会社は珍しい存在でした。

広告を専門に扱うことで、それまでとは違ったアプローチができるようになったということでしょうか?

そうですね。企業が自社の捉え方を間違えていることはよくあるんです。 「アクセス数も多く、ネット経由のお客様が多い」と思っていても、データ解析をすると、一度サイトに来た方は二度と来なかったり、逆にネット環境以外の広告が成果を上げていたりする状況が見えてくるのです。 お客様は気づいていない時でも、我々はデータを基にフィードバックできるので、例えば「あるターゲットに向けて、サイトを分けたほうがいい」と提案すれば、お客様が制作会社に指示を出し、その結果、数字が上がるということが起こるのです。

せっかくなので、そのまま「制作」まで手掛けたらいいのではないでしょうか?

ところが、違うんです。 以前は、制作からSEO解析、広告まで総合的な対応を目指していました。けれど広告以外を全て手放したおかげで、広告に集中し、深い知識や多くの経験値を得られました。制作から離れ、指示する立場に徹するからこそ、客観的な視点でこうしたアプローチができるのです。

つまり広告に絞って、総合的でないことが、逆に強みになったのだと思います。

「お客様の商品を理解した予算配分や入札を掛ける」作業を、 どれだけマニアックにできるか

現在のお仕事は、具体的にどんな内容になるのですか?

そもそも運用広告とは、希望の枠に広告を載せるために入札を掛けるものです。わかりやすい例では、グーグル検索結果の上部や右脇に表示される、サーチ広告があります。検索したキーワードに合った広告が1ページに5~6個ほど表示されます。この枠に載ること、それも上の方に位置するほど、そのページを開いた人の目に留まりやすくなります。 そこでこの広告枠を巡り、全国規模で入札取引が行われるのです。 例えば、「不動産・大阪」というキーワードが検索された時の広告枠を、1クリック100円で入札するという設定をしておくとシステム内で入札が争われ、適した額の広告サイトが表示されます。 この入札価格を、高く設定すると1クリックあたりが高いため損します。でも低くし過ぎると競り負けて表示されません。これらを加味し、お客様のビジネスに合ったキーワードを選定し、価格を調整して入札するのです。

なかなかシビアな取引ですが、競り勝つための、ポイントは何でしょう?

検索をかけホームページを見に行く人に合わせてどの広告を出すのか、日常の様々な要素を加味することが重要です。 台風が来れば予定がキャンセルになり、家に籠ったり雨宿りで店に入ったりしますよね。 その暇を持て余し、スマホを触ります。 こうした時、買う予定で比較検討していた商品を「今、買おう」ということになるのです。他にも、天気、気温、経済や社会情勢に関するニュースなどが影響を与えますし、ECサイトであれば、土日に商品を受け取るため水曜に買う人が多いので、水曜の入札価格は上げるといい……など、お客様の要素は無限にあります。 つまり「お客様の商品を理解した予算配分や入札を掛ける」作業を、どれだけマニアックにできるかというのが、他社に競り勝つポイントであり、我々の仕事になるのです。

なるほど、運用広告の専門家になることで、お客様の期待に応えているのですね?

例えば、毎日同じ価格で1か月間適当に入札を掛けることもできます。ただ正直、成果は出ません。 当社では、商品ごとに細かく予算の配置を変えたプランニングをします。「安定して成果が出ているワードについては、月予算の半分をあてる」、「リスクは高いが、当たる可能性を感じるワードについても、いくらか掛ける」などと、予算の割り振りを提案しています。 だから、広告運用会社を当社に変えるだけで、同じ予算なのに高い成果を得られるようになるのです。

自分がNO.1プレーヤーになり 「僕について来なさい」と言えるようになる

広告だけに絞ろうと決めた時、ノウハウや知識はどのように得たのですか?

Google(グーグル)とYahoo! (ヤフー)は、代理店向けの勉強サイトを充実させているので、そこで1から猛勉強をしました。多分普通に仕事をしながら、社内教育を受けていれば、そのサイトの情報量は多すぎるので補足位にしか読まなかったでしょうね。でも実はめちゃくちゃたくさんの内容が、きちんと書かれています。そこを網羅しました。

なるほど、大量の知識を得ることで、現在の“マニアック"さを手に入れたのですね?

いえ、やっと最低限、全部の機能や業務知識を得たという感じです。 でも応用が利くようになりました。 もし社内教育の知識だけであれば、すでに使っている機能や自分たちの発想の中で、機能を使うので広がらず、段々発想は狭まっていきます。ところが僕の場合その縛りがなく、全部知ったために、実はこんなことができるとか、この組み合わせでこんなことができるんじゃないかとか、既存の代理店にはない発想を持てたと思います。

すごく深いお話ですね。効率を重視するビジネスシーンでは見逃しがちな視点だと思います。大勝負をかけたからこそ、見つけられたノウハウだったのですね?

そうです。それに経営的にもターニングポイントでした。 起業して初めの頃は、小さな会社の役割分担をわからず、後輩の「社長は経営に専念してください」という言葉に甘えていました。知識がそれほどなくても、得意なしゃべりに任せて仕事を取り、会社を経営できていたのです。200人規模の会社だったら、それでもなんとかなったのかもしれません。でも今振り返れば、経営者ごっこだったなと思います。 結局、規模を縮小すると、そうはいかなくなりました。そこでやっとマネージャーであることを止め、初めてプレーヤーになったのです。 これは僕にとっても、大きな覚悟をした瞬間でした。 とにかく猛勉強して、誰よりも深い知識を身につけました。自分がNO.1プレーヤーとなり「僕についてきなさい」と言えることで、部下を育てられるとわかったんです。

就業規則を全員で決めたことで、労働することの意識が変わった

御社では普通の企業とは少し違う、「就業規則」があるようですが?

その時いた従業員全員で就業規則を決めました。社労士の先生も交え、勤務時間や残業の扱い、それ以外にもキャリアの仕組みや教育システム、研修内容なども含めすべて全員で話し合って決めたのです。 だから、自分の有給の日数を把握して、ちゃんと使い切りなさい、就業規則を覚えなさいと、指導しています。

全員で決めたことで、何か変わりましたか?

そうですね、休みをきちんと取る意味とか、会社の目標を基にルールを作っていること、そのためにやってほしいことがあるという話が、社員の中で通じるようになりました。 「労働することの意識」が変わったと思います。 「就業規則」は会社の足腰みたいなものですよね。ルールがしっかりすれば、社内もしっかりすると思うのです。

独自の立ち位置、独自の見せ方を自身で作り、唯一無二の存在へ

株式会社AZ 代表取締役 藤堂高義氏

今後はどのような事業展開を目指しているのでしょう?

最近の業界の流れとしては、「何でもできます」という広告会社は少ないですね。デザイン戦略を考えるのが得意な会社、ブランディングから設計までが得意な会社など、強みを専門に扱っています。クリエイティブと関係がなかった分野からも、Webマーケティングの世界への参入が始まっていますし、我々も、規模では先行している大手の会社に勝てないので、独自の立ち位置、独自の見せ方を自身で作らないといけないと思っています。 もう少し戦略側に寄せた機能に特化し、いままでにないビジネスモデルに変えていきたいですね。 僕らが先だったという立ち位置を早く作りたいです。

その場合の鍵は何になると思いますか?

クリエイティブです。 最近グーグルは、さまざまな要素を加味した自動入札というシステムを作りました。我々が分析し、人の手でやっていた設定入力を、放っておいても自動的にやってくれる機能です。 そのため次の一手と考えているのが、バナーの中のクリエイティブで差が出るという考え方です。 新たに参入してくる企業は、システムやコンサルに強くても、クリエイティブは弱い。 クリエイティブの設計もわかった上でデジタルマーケティングができるコンサル会社は、今のところ日本には見当たりません。その唯一無二の立ち位置になりたいですね。

取材日: 2016年7月19日 ライター: 東野敦子

 

株式会社AZ(エーズィー)

  • 代表者名(よみがな): 代表取締役 藤堂高義(とうどうたかよし)
  • 設立年月: 2004年7月
  • 資本金: 1,000万円
  • 事業内容: 運用型広告運用、メディアプランニング、ウェブマーケティングコンサルティング、アクセス解析、 コミュニケーションデザイン設計、各種ツール代理・導入支援、担当者教育・セミナー
  • 所在地: 大阪府大阪市北区西天満6丁目7−2 新日本梅新ビル 4F
  • URL: http://www.azkk.co.jp/
  • TEL: 06-4950-4974
  • FAX: 06-4950-4975
  • e-mail: info@azkk.co.jp

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