社会性と事業性の両軸で社会のプラットフォームに 社会貢献型ソーシャルペーパーにしか果たせない役目を
- 名古屋
- 株式会社中日メディアブレーン 代表取締役 江口 敬一 氏
社会と連動する媒体の誕生
起業される前は何をされていたのですか?
元々は中日新聞専門の販売店をやっていました。新聞の販売店には様々な社会的ニーズや、タイムリーな情報が集まってきます。 メディアに関わることは社会の変化に関われること。いつか自分のメディアを持ちたいという思いはあったので、市民の声がよく聞こえてくる立場にいたことが、新しい媒体を作ることに役立ったと思います。
起業されたきっかけとその想いを聞かせてください。
きっかけは、既に休刊したパパ向けフリーペーパー『Well Papas(ウェルぱぱす)』の創刊です。98年に起業し、中日メディアブレーンを設立しました。 1999年名古屋市が出した「ごみ非常事態宣言」をきっかけに、ゴミ処理場に予定していた藤前干潟の埋め立てを断念したことで、ごみ総量の減量が死活問題になり、排出者責任が問われ、新聞も例外ではなく「作りっぱなし、配りっぱなし」が問題視されました。 そこで「環境」をテーマに3R※の啓発、啓蒙と回収システムの構築などを提言する環境情報紙『Risa』を構想し中日新聞社に提案すると、すぐにゴーサインが出ました。
※リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)。
二大媒体のもう一つ、『ローズ』創刊の経緯も教えてください。
日本の介護保険制度が始まった2000年に、少子高齢化問題が浮上し、読者層に響くメディアとしてシニア情報紙『ローズ』を創刊しました。
社会性なくして事業性なし
フリーペーパーは名古屋でも激戦区だと思いますが、御社の事業の特徴は何ですか?
フリーペーパーには商業目的を主軸にしたコマーシャルペーパーと、社会的コンセプトや理念を持ったソーシャルペーパーと2種類あると思います。弊社は後者で、私は社会性なしに経済活動を行うことは非常に難しいと考えています。 以前は巷に多くのコマーシャルペーパーが溢れていましたが、現在急速に減少してきています。広告収入目的に無尽蔵に情報を載せるコマーシャルペーパーを読者は読みたいと思うでしょうか。一企業、一メディアとしての社会的責任や使命感を持って、読者の生活やより良い社会の実現のために有意義な情報発信をする媒体にこそ需要があると思います。
フリーペーパーである以上は広告収入も必要ですよね。社会性と事業性をどのように両立されていますか?
広告を頼りにすると、どうしても権限が(編集より)営業寄りになります。それゆえ、創業当初からいわゆる商業ベースにしたものではなく、環境や少子高齢などのテーマ性のある媒体を展開してきました。 そして広告専用の総合広告会社、株式会社中日BBを創立したことで、編集と広告を分断し、別個の収益を確保しました。紙面での広告比率は3割に抑え、中日新聞より厳しい広告審査基準を堅持し、記事体広告は作らないことにしています。
「社会貢献型フリーペーパーとして、市民、NPO等非営利組織、企業、行政と協働する」とホームページにありますが、具体的なビジネスモデルは?
弊社がクラスター(組織)とクラスターを結びつけて問題解決のためのネットワークを作るプラットフォームのような役割を果たすことです。社会基盤を構築することをイメージしています。そのためにはまずメディアとして周知されなければ連携は図れませんし、社会性が高くなければクラスター同士をつなげることもできません。実績により社会的信用を勝ち取り、発信できる強みを活かして自治体が抱える高齢化や観光などをテーマに、長い付き合いで関わらせていただいています。
自治体や大学とともに町おこし
どこからのどんないらい協働案件が多いのですか?
自治体からの村町交流や、過疎地と都市を結ぶ事業などが多いです。最近では、「世界一素敵な過疎の町」を目指す北海道檜山郡厚沢部町と中京圏のシニア層との交流を進めています。北海道石狩郡当別町では企業を誘致するためにテレワークが成り立つか実証実験を行い、実現性を確かめた上で、行政がインターネット環境の整備を行い、企業誘致の視察ツアーを行いました。 その他にも、お試し田舎暮らしや婚活ツアーなどユニークな企画で人の往来を活発にして地域の課題を行政とともに解決する提案を行いました。
観光客誘致の協働もありますか?
自治体との協働で、現地で観光資源を探したり、着地型観光※の企画やフリーペーパーの紙面で読者やローズ倶楽部会員への参加者募集も行います。
※観光客の受け入れ先(着地側)が地元ならではのプログラムを企画し、参加者が現地集合、現地解散する新しい観光の形態。
印象に残っている観光資源はありますか?
観光資源というものは都市部の人や第三者からみれば非常に魅力的でも、現地の人々にとっては当たり前であることも多いんです。例えば、北海道の布袋魚は地元の方にすれば雑魚同然で地域外には出回らないと言いますが、食べてみると身は柔らかく、鍋料理との相性が非常に良かったです。存在そのものを知ってもらうこともさることながら、美味しい食べ方が広まれば観光地域資源の発掘も手助けできます。
自治体のほかに大学との協働事業があるそうですが、どんな事業がありますか?
厚沢部町と愛知学院大学・同朋大学との協働で始めた「アウトキャンパス授業」は、今年で5年目を迎えます。過疎などの社会問題は、机上の講義だけで学ぶよりも現場に足を運びフィールドワークすることで、より大学の研究や学生自身の成長につながっています。
質の高い仕事でワークライフバランス
女性が多い職場だと伺いました、女性社員は活躍されていますか?
確かに男女比は1:9で女性が非常に多い職場ですね。弊社の女性陣をみていると、女性の戦闘力や現場力の高さを感じます。例えば、1人で商談に行き、話をその場でまとめ契約を取ってくるなど、女性の逞しさを日々感じています。
働きやすい職場環境にするために、待遇や制度面で配慮されていることなどがあれば教えてください。
特段ありませんが、現在、産後休暇と育児休暇を取得後、時短勤務をしている社員が2名おり、限られた時間のなかで生産性をあげて仕事をしてくれています。その2名に限らず、ほとんどの社員が18時頃には退社しているので、同業者に比べると非常に能率の高い仕事をしてくれていると思います。
確かに家庭をもつ女性などは特に時間的制約があり、量より質で勝負したいところですよね。現在、扶養者控除の法改正が議論されていますが、女性の活躍の面でも御社は先進的ですね。
今後は法改正や高齢化に伴い、親の介護をしながら働く人もますます増えてくると思います。育児や介護をしている人だけでなく、老若男女が働きやすいダイバーシティの観点が重要になってくると思います。
シニア世代の力を社会へ還元
御社が謳っている「社会貢献」の観点から、ホームページに記載がありました「自立型地域社会の確立」について教えてください。
現在、高齢者の医療や介護を税金で支援していますが、それには限界があります。しかし定年退職したシニア世代には40年かけて社会で培ったスキルや経験、知識があります。その資源をボランティアや働くことを通して、地域や社会の課題解決に活用できる「循環型自立社会」の仕組みづくりに取り組みたいと思っています。
「循環型自立社会」とは具体的にどんな仕組みですか?
一言で言うと、シニア世代の眠っている経験や能力が生かされ、地域に還元されることで、地域に循環が生まれ、自立型の仕組みを作れたらと考えています。 リタイアした65歳以上の人がボランティアをして介護に使えるコインを手に入れる「地域通貨」の発行を実践している自治体もあります。
「介護制地域通貨」、新聞で読んだことがあります。現時点で問題点は何ですか?
全国で決済する(どこでも使える)システムがないことです。引っ越したり田舎暮らしをしたりすると使えないのが問題です。また試験的な取り組み事例では、一定額以上たまるとボランティアをやらなくなったり、貯めるだけで使わなかったりなどの課題も発生しています。
シニア世代が働くためにはどんな仕組みが必要ですか?
個人が持つ技能や体験を経験資産として登録し、解決すべき課題に必要な知識とスキルをマッチングします。シニア世代の雇用を斡旋する「シルバー人材センター」などもありますが、硬直化して細かい希望に対応できていません。 技術職以外の一般職をリタイアした人の中には、自身の経験を過小評価している方が多いのですが、小さな企業やNPO法人などでは日常的な困りごとも多く、経験を生かせるスキルは必ずあります。またシニアにとっても働きたい時間に働くことで、年金プラスお小遣いが手に入るので、双方にメリットがあります。
取材日: 2016年10月28日 ライター: 望月佑香
株式会社中日メディアブレーン
- 代表者名(よみがな): 江口 敬一(えぐち けいいち)
- 設立年月: 1998年3月
- 資本金: 1,000万円
- 事業内容: 生活情報紙、環境情報紙、シニア情報紙の編集制作・発行、広報紙の編集制作など
- 所在地: 〒460-0008 名古屋市中区栄2-11-30 セントラルビル5F
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