“最強のデザインチーム”の限界の先に見えた 「ブランディング会社」という到達点
- 名古屋
- 株式会社レンズアソシエイツ 代表取締役/クリエイティブディレクター 矢野 まさつぐ 氏
華々しい仕事を手がけながらも感じた“虚しさ"の正体
20歳からデザイナーの仕事をスタートし、20代最後の年に独立。最初は一人で「レンズアソシエイツ」の前身となるデザイン事務所「オープンエンズ」を設立したわけですが、当時はどのような想いを抱いていたんでしょう。
デザイン会社に勤めていた頃には広告代理店と組んで、大手のクライアントの仕事も数多く手がけました。自分のデザインした広告ポスターが駅に大きく貼り出されていたりするのを見て、最初の頃は達成感も得られましたが、次第にどこか虚しさを感じるようになってきたんです。
自分のデザインしたポスターが多くの人の目に触れるのは、デザイナー冥利に尽きるのでは?
クライアントの顔がまったく見えなかったんです。どれだけ満足してもらえたのかもわからない。もっと仕事の規模は小さくてもいいから、人と人との繋がりを身近に感じられる仕事がしたい、相手の懐に深く入り込んで、長い関係の中で互いに成長していけるような仕事をしていきたいと思ったんです。
自前のクライアントを持たないまま独立したんですよね。
まったくイチからのスタートです。最初はひたすら知り合いの伝手を頼りながらでした。
営業活動はしなかったのですね?
“誰かいいデザイナーを知らないか"って話が出たときに、仕事をしたことのある人が真っ先に僕の名前を思い浮かべて紹介してくれるように、一つ一つの仕事をこなしてきました。それが僕にとっての“営業活動"でしたね。
紹介で仕事がくるのが一番だとお考えなのですね。
5万円の仕事でも50万円の価値があると思ってもらえる仕事を続けてきたつもりです。クライアントに対して常に“120%の出来栄え"を提供することが、次の仕事に繋がっていったのだと思います。
バスケットボールチームのようなデザイン事務所を作りたかった
一人でスタートした「オープンエンズ」は、その後、5名のデザイナーが所属する集団になりました。
最初からメンバーは5人にしようと決めていたんです。
5人という人数にこだわりがあるのですか?
中学でバスケットボールを始めて、20年以上続けてきました。5人のメンバーが一人ひとりはっきりした役割を持ちながら、全員で攻撃して全員でゴールを守る。そんなバスケットボールチームのようなデザイン事務所を作ろうと思っていたんです。優秀なデザイナーが集まって、全員がプレイヤーとして活躍する、最高のチームというイメージを描いていました。
チームづくりは上手くいきましたか。
結果的には失敗に終わりました(笑)。5人のメンバーの中に僕自身もプレイヤーとして参加していたんですが、あるとき、このチームには“監督"がいないことに気付いたんです。クリエイティブな人間だけが5人集まってもビジネスとしては成り立たないと。ビジネスを支える人間とクリエイティブな人間が車の両輪となって動かしていかないと、車は真っ直ぐ進んでいけないんです。
それでも、プレイヤーだけで、オープンエンズを10年間続けてきたんですね。
デザイン事務所はそういうものだと、それがカッコいいと思い込んでいましたね。ビジネス面を重視するのはクリエイターとして失格だと思っていたので、まともに営業もしませんでした。ギャラが良くない仕事でも面白そうだったら受けるし、ギャラが良くても面白くなさそうな仕事はあっさり断っていました。
たしかに、ビジネスとして見た時には問題がありそうですね。
それでも、オープンエンズの名前が知られるきっかけになった仕事の中には、予算よりもクリエイションの価値を重要視した仕事も多かったので、結果的に良かった部分もあったと思います。
クリエイティブな要素を生かしてクライアント企業の問題を解決
2013年にオープンエンズと他の2つのデザイン会社が統合して、レンズアソシエイツが誕生しましたが、どんな狙いがあったのでしょうか?
オープンエンズではデザイナーだけのチームで走り続けてきましたが、ビジネス面での問題だけでなく、クライアントの会社に対して自分たちができることの限界を感じるようになってきました。売上を上げていこうという目標に対して、ロゴやパンフレットを作るだけじゃなくて、たとえば素敵な社員食堂を作って社員のモチベーションアップに繋げるといった、クリエイティブを最大限駆使して会社全体を根本から変革していくような関わり方をしていきたいと思ったんです。デザイン会社の範疇には収まらない形になりつつあるので、最近、「レンズアソシエイツはデザイン会社やめました」って言っているんです(笑)
デザイン会社ではないとすると、何をする会社になるのでしょうか?
“ブランディング会社"という言い方をしています。クライアントの企業価値を高め、売上を伸ばすお手伝いをしていく。それが結果的に自分たちの利益にも繋がることになります。長いお付き合いをしながら、しっかり寄り添って仕事をしていくというスタイルですね。
コンサルティング的な役割も果たしていくということですか。
僕の中で、ブランディングはコンサルティングとは一線を画しています。僕らの仕事はあくまでもクリエイティブが中心となりますから、クライアント企業の問題解決の方法にもクリエイティブな要素を生かすという姿勢で取り組みます。たとえば、クライアント企業が社員間のコミュニケーションを高めたいと思っていて、そのために朝礼の導入を考えていたとします。ただ、朝礼をしても面白くないですよね。どうすれば、社員が積極的に朝礼に参加し、モチベーションが高まり、会社の空気が変わっていくか。その方法を、クリエイティブな要素を盛り込んで考えていくのが、僕らにとってのブランディングになるわけです。
朝礼にもクリエイティブな要素が盛り込めるということでしょうか?
たとえば、朝礼の前にみんなで体操をしたら目も覚めるし、リラックスした状態で朝礼が出来そうですよね。でもただラジオ体操では面白くないので、オリジナルの体操を考えるチームを社内で結成し、構想からお披露目までをムービーに収めて朝礼で発表し、翌日からみんなでオリジナル体操を朝礼の前にやったり、夏休みのラジオ体操のカードのようなものを作ったり、そういったところまでデザインしていきます。すると、そこから会話が⽣まれます。ただの朝礼だけではコミュニケーションを⽣み出さないけれど、そこにクリエイティ ブの要素を乗せることで、社員同⼠、新たなコミュニケーションの場が⽣まれるわけです。
すぐにでも実行に移せそうなアイデアですね。
いま、思いついただけですが。(笑)さまざまなアイデアを出して、そこに単なるデザインだけでないクリエイティブな要素を盛り込み、会社の空気を作るようなところまでお手伝いができたらと思っています。
24時間アンテナを張り巡らしてアイデアのヒントを探しています
クライアントは1業種1社と絞り込んでいますね。
ひとつの業界を専門にしたコンサルタントのように、ノウハウをコピー&ペーストして提供していくほうが、無駄がなくて儲かるかもしれませんが、そういうやり方はしていません。
1社ずつじっくりと向き合って仕事をしていくということですね。
50社くらいのクライアントとお付き合いがありますが、自分自身が50社すべてを経営しているくらいの気持ちで、24時間、365日、アンテナを張り巡らしてスイッチオンにしている状態ですね。テレビを見ていても、コンビニで買い物をしていても、何かヒントになるものが見つかるんじゃないかと思っていて。直接関係のない業界のことでも、アイデアに結び付きそうなことは全部頭の中に留めておくようにしています。
その積み重ねが仕事に活きてくるということですね。
クライアントと打ち合わせをしたり、現場を見せてもらっている中で、ふとしたことで閃いて、1個ずつ引き出しの中からアイデアを取り出して提案していくという感じですね。そうしたことの連続ですから、この仕事は飽きないですよ(笑)
最後に、共に仕事していくデザイナーに求めるものを教えてください。
デザイナーという仕事は役所に行くとサービス業に分類されるんですが、僕が手掛けているデザインやブランディングはサービス業ではなくて、「ホスピタリティ業」だと思っているんです。
サービスとホスピタリティの違いはどこにあると思われますか。
サービスというのはマニュアルがあって、画一的なもの。ホスピタリティはオーダーメイド、1点モノの答えを、50社のクライアントがあれば50社にそれぞれあてはめていく。マニュアルがないので、一つ一つ手探りで答えを出していかないといけない。手間のかかる作業ですが、唯一無二のものを生み出す楽しさがあります。一生続けていける仕事だと思っています。そんな“暑苦しい話"をいつも社内で語っているんですが(笑)、そうした想いを共有できる人と一緒に仕事ができたらいいですね。
取材日:2017年5月25日 ライター:宮澤裕司
株式会社レンズアソシエイツ
- 代表者名:代表取締役 矢野まさつぐ(やの まさつぐ)
- 設立年月:2014年1月
- 資本金:3,000,000円
- 事業内容:ホームページ制作・企画・運営支援、印刷媒体の制作・企画
- 所在地:〒460-0016 名古屋市中区橘1-6-8 後藤ビル2F
- URL:http://www.lens-associates.jp/
- お問い合わせ先:TEL)052-684-5442 FAX)052-684-5443