「たとえ数億円が動くとしても、楽しくない仕事はやらない」クリエイターのプライドを守り続ける2人の起業家

東京
株式会社Funusual  代表取締役/クリエイティブディレクター 大野 佑太 氏、取締役/チーフプロデューサー 久住 克宏 氏
ウェブ動画を軸にしたプロモーションや広告展開を手掛け、クライアント企業の課題解決に向けて奔走する株式会社Funusual。「Funusual」=「楽しいを、日常に。」という理念のもと、視聴者がハッピーになれるようなバズる動画作りを手掛け、数多くの大手企業のブランディングにも携わっています。目指す未来には、映像だけに縛られない新たな事業アイデアも……。そのクリエイティビティはどこから生まれているのか、共同創業者である大野さん、久住さんにお話を伺いました。

「バーテンダー仲間」から「共同創業者」へ

(左)代表取締役 大野 佑太 氏、(右)取締役 久住 克宏 氏

お二人は共同創業者ということですが、どのようなきっかけで一緒に会社を起こすことになったのですか?

大野さん:元々、独立したい気持ちは強かったのですが、具体的なビジネスモデルが思いつかず、それでも「楽しいことを仕事にしたい」という漠然とした思いがありました。映像とは全然関係ない会社に勤めていたのですが、ある時GoProのPVを見て直感がひらめき、気づいたら退職届を出して行動に移してました(笑)。

久住さん:私は起業前にCM制作会社で働いていたこともあって、「カメラマンをやってみたら?」という話をしたんですよ。大野とは昔、同じクラブでバーテンダーとして働いていた縁で知り合いました。

大野さん:私のほうが後に入ったので、最初は敬語でしたね。「久住さん、あの……」という感じで(笑)。

今とはまったく違う世界でともに働いていたのですね。

大野さん:そうなんです。で、何年か後に共通の友人の結婚パーティーがあって、久々に再会してゆっくり話しました。互いの近況を報告して、将来やりたいことなんかを2時間くらい話し込んだかな。数日後には「一緒に会社をやろうよ!」って話になり、3カ月後にはもう法人にしちゃいました。

久住さん:思い出した! そんな感じだったよね。実は私は、昔から自分で会社を起こしたいと考えていたんです。でも一緒にやるパートナーは絶対に必要だと思っていて。クラブ時代から大野は独立したいと言っていたし、結婚パーティーで再会して語り合ったときに意気投合できたし、ぜひ一緒にやりたいと思ったんですよね。

制作陣や機材はミニマルで、最大限効果を発揮する動画作りを

現在手掛けている事業について教えていただけますか?

久住さん:ウェブ動画を軸にしたプロモーションや広告の企画・制作を手掛けています。

大野さん:映像といっても幅広いですが、テレビの世界はすでに完成されている感があるし、音楽などのプロモーションビデオを作りたいわけでもなく、集客などクライアントの課題解決につながるような仕事がしたいと考えていました。それでウェブを主戦場にしています。

Funusualはどんな強みを持っているのでしょう?

久住さん:「効果を出すバズ動画作り」ですね。大野が言うように、クライアントの課題を解決することこそが重要だと考えています。最近では大手のナショナルクライアントも増えてきましたが、創業時は小さな商店などの集客策を提案する機会もたくさんありました。テレビCMを作るような予算がなくても、ウェブ動画なら手が届く。

そこから派生して、クライアントのSNSアカウントを作って運用したり、動画配信広告の運用を提案したりという実績も積んできました。

大野さん:ウェブ動画なら、制作陣や機材はミニマルで、最大限効果を出せるクオリティの高い動画作りができるんです。例えば紳士服大手のAOKIさんの場合は、成人式を控えた若者をターゲットにして動画制作を行いました。視聴者の予想を覆すアクロバティックな動きを盛り込んだストーリーラインを作り、「AOKIのスーツの動きやすさ」を伝えています。このケースでは5名のスタッフで制作し、企画から完パケまで約3カ月というスピード感でした。

クライアントや視聴者のことを考えながら「できる限り攻めていく」

近年では映像以外の分野でも記事広告などのネイティブアドが浸透し、広告全体を通したクリエイティブが重要になってきていると思います。一方ではクライアントの意向も汲まなければいけないのが広告の定めでもありますよね。広告主との折衝で苦労することはありますか?

大野さん:そうした面もありますね。広告なので、クライアントの要望は当然加味して作らなければいけません。とは言え、クライアントの要望通りにやった結果、全然おもしろくない動画になってしまうこともある。そんなときはしっかり折衝しなければいけないと思っています。

私たちの使命は、視聴者とクライアントの接点を作ることなので。そのために全力で企画し、「うざがられない広告映像」を作りたいという思いを常に持っています。CMなんだけど、視聴者もハッピーになれる。そんな動画にすることが一つのゴールですよね。

ちなみに、「動画をバズらせる」コツというのは……?

久住さん:それは誰もが知りたいことですよね(笑)。クライアントからもそうした要望が非常に多いです。企業秘密になってしまうのであまり多くは語れませんが、ポイントは「最初の数秒」です。そこでいかに興味を惹きつけられるか。

大野さん:「クライアントがどこまで踏み切れるか」も重要だよね。

久住さん:うん。ウェブの場合はテレビで言うところのBPO(放送倫理・番組向上機構)のような組織による規制がないので、より自由に作れるんですよ。私たちがウェブ動画にこだわっている理由の一つでもあります。

一方では、炎上対策も大切なのではないでしょうか。

久住さん:もちろんです。クライアントや広告代理店の意向を尊重し、あらゆる層の視聴者が見ることを想定して制作します。とは言え、「できる限り攻めていきたい」という気持ちは忘れないようにしているんです。

これは個人的な考えですが、ネット炎上って今後は少なくなっていくんじゃないかな? と思っています。世の中で炎上騒ぎになっているものの中には、寄せられた100件のコメントのうち99件はポジティブな内容なのに、1件だけのネガティブなコメントに対して過剰に反応しているような側面もあるじゃないですか。ブランドイメージの毀損を避けるため、どうしても企業は過敏に反応してしまいますが、「反応し過ぎ」を批判されることだってあります。世の風潮が変わっていけば、炎上事案も必然的に減っていくんじゃないでしょうか。

新しい事業を始めるときの基準は「楽しそうかどうか」

今後はどんな事業を仕掛けていきたいと考えていますか?

大野さん:これはまだアイデアベースですが……。「一般ユーザーの企画案をブレスト的に集められる」サービスを作りたいと考えています。

例えば、通勤電車に乗っているときにスマホなどで動画を見ていて、「こんな映像があったら面白いんじゃないか」と思いつくことは、ありませんか? そういうアイデアを一般ユーザーにどんどん投稿してもらって、面白いものをプロが形にしていくんです。

映像は「企画が8割」と言われています。ですが、一から企画を立ち上げて絵コンテを作って……とやっていくと、それだけで1週間はかかります。企画案をもっともっとスピーディーに出すために、一般の人の力を広く借りたいんですよ。採用された人には、企画料としていくらかはお支払いできると思います。「新しい形のクラウドソーシング」のようなものを作りたい思っていて、社内やパートナーとの間で煮詰めているところです。

久住さん:広告主にとってはテストマーケティングにもなります。一般投稿のアイデアを見ることで、ユーザーが普段どんなことを考えているのか、どんな動画が好まれるのかを事前に知ることができるんです。

視聴者の潜在ニーズって、絶対にあると思うんですよね。それを可視化できる場を作り、声を集めて企画にしていく。より尖ったクリエイティブを発揮できると思います。

大野さん:他にも考えていることはいくつかあって。我々は、やりたいことがありすぎるんですよ(笑)。

久住さん:創業時から映像だけにこだわるのではなく、「世の中のニーズをビジネスにしていきたい」と思っているので、形はいろいろあっていいんです。たまたま最初にハマったのが映像だったというだけで。

だから「Funusual」=「楽しいを、日常に。」なんですね。社名に映像の要素がないのはどうしてだろう? と考えていました。

大野さん: 将来的には映像クリエイターを育成したり、映画などのコンテンツ向けの事業部を作ったり、あるいはまったく異なる分野の仕事を始めたりと、いろいろな可能性を実現していきたいと思います。

ただし、どんな事業を始めるにしても絶対に大切にしたいのは「楽しそうかどうか」ということです。1件の商談で数億円が動いたとしても、自分たちが楽しくなければやらない。これはもう絶対に譲れないですね。

クリエイターとしてのプライドを持って仕事を楽しめているか

そんな思いを踏まえて、今後はどんな人と一緒に働きたいと考えていますか?

久住さん:「映像だけをやりたい」「映像を極めたい」と考えている人には、今日私たちが話している内容はあまり刺さらないかもしれません。逆に、今私たちが考えているような新しい可能性に興味を持ってくれる人がいい、と。ベンチャーらしく柔軟に変化しながら、いろいろとやっていく。その可能性に面白みを感じてくれる人と一緒に働きたいです。

領域や分野に縛られず、自由に考えていける会社なので、映像だけではなく、芸能プロダクションやスタジオ経営も始めるかもしれません。

大野さん:うん。「いろいろなことに挑戦したい人」は私たちとウマが合うと思います。もちろん、映像制作現場の経験者にも来てほしいです。CM制作会社で企画立案や制作進行、クライアント折衝などを経験してきた人なら、すぐにでも一緒にやりたいです(笑)。

映像分野に関して言うなら、どんなスキルを求めますか?

久住さん:撮影では、ウェブ動画でもシネマカメラがスタンダードになってきています。低予算で最大限のクオリティを求められる世界なので、こうした機材を使うことが前提になっているんです。これを使いこなせる人は心強いですね。編集なら、PremiereやAfterEffectsを使える人を望んでいます。

大野さん:加えて、「インスタ受けしそうな映像って何だ?」といったことにもアンテナを張り、日々考えられる人だと嬉しいですね。ミーハーになる必要はないですが、流行はそれなりに知っておかないといけないので。

久住さん:社員はもちろん採用していきたいですし、外部のパートナーについては今、どれだけいてもいい状況です。フリーランスの方には積極的にお会いしていますね。それぞれの得意領域を伺って、マッチする制作案件をお願いしています。

この記事を見ている方の中には、映像系のクリエイターとして活躍していたり、目指していたりする方も多いと思います。最後にぜひ、メッセージをお願いします。

大野さん:一流のクリエイターになれば、フリーランスでもすごい収入になると思うんです。ただ、一つの映像を作るにしても、お金のためだけではなく、ちゃんと目的を持って、思いを込めてやならければならないと思います。

企業から依頼してもらえるのはとてもありがたいことだし、うれしいことですが、要望に沿って固い映像を作っているだけでは、どれだけお金になったとしても面白くないはず。「やればやるほどモチベーションが下がる」という負のスパイラルに陥ってしまうかもしれません。

これは何より私たちが心がけていることですが、だからこそ「Funusual」なんですよ。一つひとつの案件に目的意識を持って、楽しい仕事をするのだ、と。

久住さん:映画監督の頂点に立つような人なら、予算と時間をかけて好きなだけ面白いものが作れると思います。そこまで行くのは無理だとしても、クリエイターとしてのプライドを持って、クライアントのために力を発揮していくべきです。

映像を作るのは「誰かに喜んでもらいたい」という思いが根っこにあるはずですよね。それを皆が意識すれば、もっともっと面白いものがどんどん生まれていくはずだと思います。

大野さん:クライアントが満足できるクリエイティブを毎回提供できれば、予算や内容についてもしっかりと主張できるようになりますからね。Funusualならそんな経験をたくさん積めるので、ぜひ飛び込んできてください!

取材日:2017年6月6日 ライター:多田慎介

  • 企業名:株式会社Funusual
  • 代表者名(ふりがな):代表取締役 大野佑太(おおの・ゆうた)
  • 設立年月:2014年12月
  • 事業内容:映像制作(企画・撮影・編集・拡散)、 動画広告の企画・運用、SNSや動画共有サイトアカウントの運用
  • 所在地:東京都目黒区下目黒1-2-18 横河ビルディング2F
  • URL:http://www.funusual.jp
  • お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「CONTACT」から
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