職種その他2017.07.12

インターネット草創期を駆け抜けてきた“勝ち組”経営者。曲がり角を迎えて思い描くネットショップの“進化形”

名古屋
有限会社オーディーエー 代表取締役 小田 盛治朗 氏
楽天市場に出店している「厨房卸問屋 名調(めいちょう)」が「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2014」のキッチン用品・食器・調理器具ジャンル賞を受賞。2001年の楽天市場出店以来、業務用厨房機器のネットショップ販売の先駆者として走り続けてきた「有限会社オーディーエー」。ECサイトの成功者として、一見、順風満帆のようにも思える歩みの陰で、小田社長は、「試行錯誤の連続。“しくじり先生”に出演できるくらいの“勘違い”な経営もしてきました」と、自省の思いを込めながら成長の軌跡を振り返った。そして、今後の成長を実現するカギは「クリエイティブ」にあるとも。ネットショップ企業の成功者は、第2の成長期に向けてどのようなビジョンを描いているのだろうか。

ヤフオクでの出品がきっかけで、楽天市場出店を決断。想定外の注文を受けて新たな展開へ

2001年、楽天市場に厨房機器の専門店「厨房卸問屋 名調」を出店しました。楽天市場が1997年に開設したばかりで、Amazonも2000年にスタート。ネット店舗でモノを売るというビジネスは、また端緒に付いたばかりの頃ですよね。

インターネット回線を繋いでいる人間も周囲に多くはなかった頃ですね。私自身は仕事の関係でパソコンを使っていて、Macもジョブズがアップルに復帰する前から使っていました。インターネットも早い段階から身近な存在ではありましたね。

“ネットでモノを売る”ことも早い時期から体験していたのですか。

趣味でヤフオクを利用していたんです。パソコンに向かってばかりで、周りから見たらただのパソコンオタクのようにしか見えなかったでしょうね(笑)。でも、そこでネット販売に参入するきっかけとなる出来事があったんです。

趣味が実益に繋がるような出来事があったのですか。

当時は父が興した業務用厨房機器販売の「名古屋調理器材」で仕事をしていました。あるとき、取引先の飲食店から不要になった調理器具を20台処分してほしいという依頼があって、それをヤフオクに出品してみたんです。そうしたら、1台1万円で販売することができて。普段の商売は固定客が相手ですが、ネットの向こう側にも、日頃扱っているような厨房機器や調理器具を必要だと思う人がいるんじゃないかと思ったんです。

それで、楽天市場への出店を考えるようになったんですね。当時の厨房機器業界はどういう状況だったんでしょう。

バブル崩壊後の90年代半ば以降、低価格化の流れが進行してきて、厨房機器では中古リサイクルが人気を集め、調理器具も100均が台頭してきていました。昔ながらの得意先中心の厨房機器の販売だけでは先行きが見通せず、かといって、新規客の開拓も難しい状況でしたね。

そこでネットショップの展開へと。

楽天市場は出店料のハードルを下げてくれていましたが、それでも月5万円の半年契約ですから30万円かかる。すぐに父親が賛同してくれるとは思えなかったので、何とかお金を集めて自力で出店しました。寸胴鍋やフライパンなどを中心に調理器具を100点くらい出品しましたね。

売れ行きはいかがでしたか?

すぐに売上に結びつくことはなかったんですが、京都でカフェを開業するという人から厨房の什器一式の注文が入って。物流のことまで態勢を整えていなかったので、車に積んで自分で運んで、オーナーさんと一緒に現場で設置作業を行いました。

什器一式、かなりの金額になりますね。

100万円ほどの仕事になりましたから、大きかったですね。大型の業務用冷蔵庫もご注文いただいて、これはさすがに自力では運べない。名古屋のメーカーの担当営業に連絡したら、京都でも手配できますと。それまでは東海エリアでの商売でしたから、厨房の寸法確認を自分で行ってから担当者に連絡して納品してもらうという流れで、東海エリアしか対応してもらえないと勝手に思い込んでいたんですね。

それが、京都のお客さまの注文でも大丈夫だと。

メーカーには各地に物流の拠点があるから全国に対応できることが初めてわかった。それなら、今まで地元のエリアでしか扱えないと思っていた大型の厨房機器や調理器具もインターネットで注文を受けて全国的に販売することができる。当初の想定を超えて、ネットショップの可能性が大きく広がりました。今では当たり前になっているけれど、“大型の業務用冷蔵庫を全国に届けられるように取り組んだのは俺が一番最初だ”と自負しているんです(笑)。

大型の厨房機器を扱える目途が立ったことで、楽天市場への出店も軌道に乗ったわけですね。

最初は調理器具が中心でしたが、業務用の大型冷蔵庫を中心に大型の什器をショップに商品登録していきました。20万〜30万円する商品がインターネットの注文で売れていく。しかも、鍋、フライパン等も一緒に注文されて売れるようになっていって、出店して3年後には月商400万〜500万円まで伸びました。

商品点数を大幅に増やす「ロングテール戦略」が当たり、倍々ゲームの勢いで業績を拡大

楽天市場での売上が軌道に乗ってからは倍々ゲームのような勢いで業績を伸ばして、楽天市場「ショップ・オブ・ジ・エリア2010(東海地区)」を受賞しました。

当時注目されていたロングテール※戦略に目をつけて、売れ筋以外の商品の登録商品数も増やしていくことに注力したんです。その頃の平均的なネットショップの商品数が数千個だったのを、自分たちは数万個にしていこうと。分厚いカタログに載っている商品をすべてデータ化して登録し、どんどん商品点数を増やしていきました。

※インターネットを通じた販売において、主要な売り上げを稼ぐヒット商品以外の「ニッチで販売機会の少ない商品」を大量に取りそろえることで、全体として売り上げを大きくするというマーケティング手法。

それが売上アップに繋がった。

月商4、500万だったのが、半年もしない内に1,000万に。商品を増やすことがこんなに破壊力があるなら、これはやり続けるしかないと。とにかくカタログの商品を切り抜いては登録していって、2006年頃には10万点以上、売上も年商5億に届くところまで行きました。

月商ベースで10倍ですね。

もうイケイケ状態ですね(笑)。「今度は商品点数100万点を目指す」とぶち上げて、厨房機器だけでなく文房具や工具、理美容関係の商材など、専門店でなくても売れる時代なんだから、とにかく店舗にとって必要と思われるものを集めていけば面白いんじゃないかと思い込んで突っ走っていました。

右肩上がりの勢いは衰えることを知らず、2012年には年商10億を達成。「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2014」を受賞しました。まさに破竹の勢いでしたね。

年商10億を実現して初めて1人前の会社として認めてもらえるという思いがありました。10億の会社なら社員も胸を張って働けるようになる。当時は、“自分には何でもできる”という全能感に包まれていた気がします。今思えば、それが危険な徴候だったんですけどね。

急激な業績拡大の陰で、経営者として見落としていたものとは

順調に売上を伸ばしていた時期に、後から振り返って反省すべきであったこととは?

売上の数字しか見えなくなっていたからでしょうね。社員はひたすら確実に作業をしてくれればいいと。自分ひとりで結果を出してきたと勘違いしていました。「しくじり先生」に登場する社長みたいな話です(笑)。足元が見えていなくて。売上に対して商品の供給などのオペレーションが追いつかず、数字や時間に追われる中で社員も疲弊していたんだと思います。退職者が相次いだ時期もありました。

会社が大きくなる中で、社長と社員の間に距離が出来始めていたんですね。

社員も自分と同じ目線だと勝手に思い込んでいました。企業理念を作って想いを伝えようとしたり、社員の意識を変えようと経営セミナーで学んできたことに全社的に取り組んでみたりしましたが、急にそういうことに取り組んでも成果は上がりませんよね。

社員の意識変革、どこの企業でも試行錯誤されている部分だと思いますが。

社員の採用方法も見直すことにしました。それまでは、パソコンが使いこなせることを前提に採用していたのですが、ネットショップの仕事をしていく上で、もっと大切なことがあると思ったんです。

パソコンの技能よりも大切なこととは?

ネットショップの仕事というと、パソコンの前で注文のメールの対応をしたり、画像の加工をしたりというイメージが強いかもしれませんが、お客さまあってのショップですから、コミュニケーションが一番大切なんです。電話でもメールでも、しっかりコミュニケーションを取って、クレームの対応も含めて素早くレスポンスしていくことが求められているんです。

どういう人材を採用していこうと思われますか。

自分の扱うものを“好きである”ことが大事です。厨房機器が好きでなくてもいいけれど、料理や飲食店に行くことが好きな人。自分の好きなことならお客さまとも的確にコミュニケーションが取れる。ショップの扱う商品の一種“専門家”が店舗の対応をしてくれるというのが、本来のネットショップのあるべき姿ではないかと思っています。

アウトソーシング化を進めながら、社員のクリエイティブ要素を引き出していく方向へ

今後のオーディーエーはどのような方向へ向かっていくのでしょう。

いま、配送や登録、受注関係の仕事はアウトソーシングの比率を高めているんです。社員は“考えること”を仕事にして行ってほしい。色々な情報を仕入れてきて、アイデアを出し合って、それが実現して商品になって売れたら嬉しいじゃないですか。会社全体でそういう方向へ向かっていければと思っています。

今までにないモノも作り出していこうとされているのでしょうか。

クリエイティブであることが一番です。みんなで業界の“iPhone”を生み出そうと。今の時代、破壊力のあるビジネスモデルが生み出せれば、あっという間に業界の勢力図が変わってもおかしくない。そういう可能性は皆、秘めていると思うんです。アイデアがあれば、ぜひチャレンジしていってほしい。そのために、社内ベンチャー的な制度を作ろうと思っています。

ネットショップの世界でもクリエイティブな要素がモノを言うわけですね。

世の中にないモノを作るのが自分の中ではクリエイティブなことだと思っているので、そういうモノを生み出して、この業界や世の中を変えていくようなことをやってみたい。スティーブ・ジョブズが好きですから(笑)。アイデアを形にするのは非常にエネルギーを使うけれど、楽天に出店した時もそうでしたし、ロングテールなんてできるわけないと言われながら、分厚いカタログを半年で全部商品化した。一度やるって決めたらできる。やるって決めることが大事なんです。決めたら後は前に進んでいくだけです。

取材日:2017年5月25日 ライター:宮澤裕司

有限会社オーディーエー

  • 代表者名:代表取締役 小田 盛治朗(おだ せいじろう)
  • 設立年月:2004年4月
  • 資本金:1000万
  • 事業内容:オンラインショップ運営事業、ECサイト開業支援・コンサルティング事業、卸販売(B to B)、開業支援(飲食、理美容)・コンサルティング事業、 店舗デザイン、企画
  • 所在地:〒451-0043 愛知県名古屋市西区新道2-15-6菊井イーストビル3F
  • URL:http://odainc.co.jp/index.html
  • お問い合わせ先:上記ホームページお問い合わせより、お問い合わせください。

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