アナログからデジタルへ、設立から40年、老舗デザイン会社の「変わらぬ姿勢」を支える「ディレクター」の重み
- 名古屋
- 株式会社オフィスオフサイド 代表取締役 クリエイティブ・ディレクター 柏子見 友宏 氏
入社した当時、デザインは「手作業」の時代。やがてマルチメディアの時代へ
柏子見さんが「オフィスオフサイド」に入社されたのは今から30年ほど前になりますが、当時のデザイン業界はどんな作業環境だったのでしょうか。
ちょうどバブル直前、時代の空気は華やかで、デザインはまだ手作業の時代。版下や写植という言葉が普通に使われていました。
印刷用の版下やラフスケッチを作るのに「紙焼き機」(トレスコープ)が使われていた時代ですね。
コピー機の拡大縮小が2段階できるようになっただけで「すごいな」って感心していたような時代です(笑)。新人デザイナーは1年中、暗室のような空間で紙焼き機と向かい合っているような状況でしたね。
パソコンを使うようになったのはいつ頃からでしょう。
入社した頃はレイアウト機能を持ったワープロが活躍していました。会社に1台しかなくて、交代で使っていました。でも、書体も少ないし、制約が多すぎて不自由に感じていて、数年経った頃に「MacintoshⅡ」を触ってみたら、これはけっこう行けるんじゃないかと。
パソコンを使い始めた時期としては、業界の中でもかなり早い方だったんじゃないでしょうか。
僕自身もそうですが、会社としても“新しもの好き"な傾向はありますね。90年代の初め頃にはかなりMacで仕事が出来るようになっていたと思います。その頃にはWebも活用するようになっていて、メールのやり取りも行っていました。マルチメディアという言葉がブームになった頃で、CD-ROMの電子カタログを作ったりもしました。
40代後半以上の人にとっては懐かしい時代の話ですね。
なぜ生き残り続けてこれたのか。企業の成長に寄り添い、長い年月にわたって築き続けてきた信頼関係。
版下や写植、紙焼き機といった時代から始まって、数々の変化の波を乗り越えて現在の「オフィスオフサイド」があるわけですが、デザイン会社として成功した理由はどこにあるとお考えですか?
2年前に自社のサイトをリニューアルしたんです。そのときに会社のこれまでの軌跡を振り返って、なぜ「オフィスオフサイド」という会社が生き続けて来られたのか、社員みんなで考えてみたんです。 そうした中で見えてきたのは、時代の動きの中でクライアントが減ってしまった時期もあったものの、おつきあいの続いたクライアントが業績を伸ばして行ったということ。どうして、そうしたクライアントと長く仕事を続けていくことができたのか。そこに答えがあるんじゃないかと。
クライアントとのつきあい方に答えのヒントがあるんですね。サイトのトップページのメッセージには、「より深く、より根本的に」「外注ではなく、パートナー」という言葉が並んでいますが?
「オフィスオフサイド」は営業職のいない会社ですので、積極的に新規クライアントを開拓するという動きはあまりしていないんです。特定のクライアントに深く入り込んでいくという形を取ってきました。そのスタンスが重要なんだろうと。
深く入り込むことによって、他社の入り込めない関係が出来上がってくるわけですね。
たとえば長年、住宅メーカーの販促業務を担当している中で、制作担当スタッフはかなり膨大な知識を身につけて、クライアントと共有しているわけです。同じだけの知識レベルを新しいデザイン制作会社にはなかなか求められないですよね。広告代理店を通さず、直接のおつきあいなので、担当者同士の結び付きも深まっています。
そうなると、クライアントの担当者にとっては、かけがえのない存在になりますよね。
「オフィスオフサイド」はクライアントにとって外部のハウスエージェンシー的な存在であるべきだと考えているんです。クライアントの企画担当者は忙しい方が多いですから、いかにして相手の手となり足となり、販促の効果を上げていけるか。そこがアドバンテージになります。
販促の提案、セールスプロモーション力も重要になりますね。デザイナーやコピーライターの方にもそういった能力が求められるのでしょうか。
「オフィスオフサイド」の創業者がよく口にしていたのは、「デザイナーはコピーが書けないといけない、コピーライターは絵が描けないといけない」ということ。最終的なアウトプットでは、デザイン、コピーという作業分担は必要だけど、企画提案段階では関係ない。デザイナーはコピーをイメージしながら、コピーライターはビジュアルをイメージしながら、アイデアを考えなければいけないと。
企画提案段階では、さまざまなスタッフが集まってアイデア出しをすることもあるんですか。
多い時は直接の担当者以外も加わって10数人くらい集まって企画会議を行うこともあります。デザイナーから優れたキャッチやアイデアが出ることもありますよ。同じスタッフばかりでアイデア出しをしているとどうしてもマンネリ化しがちだし、違った角度からの発想が得られる場にもなりますね。
業務の中心を担う「ディレクター職」に求められる能力とは
営業職のスタッフがいない「オフィスオフサイド」では、直接クライアントの窓口となって管理業務を担当するのはどういった職種の方になるんでしょう。
ディレクターという職種になります。クライアントに満足してもらえるような質の高い仕事ができるかどうかは、ディレクターの能力にかかっていると言ってもいいくらいですし、クライアントから指名され、結果を出せるディレクターを何人擁しているかによって会社の売上も決まってくるので、非常に重要な存在ですね。
「オフィスオフサイド」のスタッフリストには、ディレクターやディレクター・デザイナー、ディレクター・コピーライターという肩書きの方が名前を連ねています。非常に重要な存在ということですが、ディレクターという仕事の中身はどういうものになるんでしょうか。
入社して最初からディレクター業務にあたるということはなくて、まずはデザイナーやコピーライターとしてスタートを切ります。経験を積んで、ディレクターの仕事をこなすようになるんですが、本当に仕事の中身は多岐にわたります。
ディレクションという言葉からは、「方向性を決める」というイメージがありますが。
そうですね。ディレクターがデザイナーやコピーライターを兼務している場合もありますが、どちらにせよ、まずはクライアントとの打ち合わせの中で、企画の大まかな方向性を決めて、デザイナーやコピーライターのスタッフをセレクトし、マネージメントを行いながら、予算やスケジュールを仕切っていくのがディレクターの役割と言えます。
デザイナーやコピーライターが選手なら、ディレクターは監督という感じでしょうか。
そうなりますね。ただ、“名選手、必ずしも名監督ならず"という言葉もあるように、デザイナー、コピーライターとしての突出した才能と、ディレクターとして仕事ができる能力は、必ずしも比例しない部分もあります(笑)。僕自身は、デザイナーとしての才能よりも、ディレクション能力の高さが自分の特徴だと思っています。デザイナーやコピーライターとしてキャリアをスタートして、優れたディレクターになっていくためには、どういう能力が必要なんでしょうか。
クリエイティブの能力は言うまでもありませんが、何よりも大事なのはコミュニケーション能力ですね。クライアントの担当者が何を望んでいるのか、会話と想像力を駆使して掴み取らなければなりません。
クライアント自身も自分が望んでいることの答えをはっきりと持っているとは限らないですよね。
会話の中でヒントを引き出しながら、クライアントの状況に合わせて、「想像力」を働かせることが大切になります。望みをカタチにするための「アイデアの引き出し」を豊富に持っていて、その中から何をセレクトするかの判断も重要ですし、もうひとつ、自分のアイデア、想いを相手に伝えるためのコミュニケーション能力も大切です。まとめて言えば、「想像力」、「アイデアの引き出し」、「想いを伝える能力」、この3つの力を意識し、鍛えることが、ディレクターには求められています。
柏子見さんをはじめとした能力の高いディレクターの系譜が、「オフィスオフサイド」のデザイン業界での40年以上にわたる実績を支えてきたんですね。今後、ディレクター業務を目指す人にとっても有益なお話を聞かせていただきました。本日はありがとうございました。
取材日:2017年7月28日 ライター:宮澤裕司
株式会社オフィスオフサイド