大手ECモール頼みからの脱却を図る野球用品専門ショップがオープン。自社サイトの“勝機”を掴むカギとは
- 名古屋
- 株式会社グランドスラム 代表取締役 坪井 大輔 氏
激化する一方の価格競争から脱却し、オリジナル性の高い商品で自社サイトを展開
昨年度の楽天市場での売上が3億6000万円。順調に売上を伸ばしてきたとのことですが、自社サイトでの販売をスタートしたのはどういう理由でしょうか?
2009年に楽天市場に出店して、昨年度は過去最高の売上も記録することができました。しかし、ここ数年、かなり価格競争が厳しくなってきていることも実感していたんです。薄利多売で商売をしているショップも乱立している状態で、価格競争に勝ち残れるような資本力がないと生き残っていけないという危機感は数年前から抱いていました。
そのような状況の中で、楽天市場やyahoo!ショッピングといった大手ネット通販サイト頼みからの脱却を考えていたわけですね。
自社サイトでの展開を模索していました。しかし、大手モールと同じ商品を同じ価格で売っていても売上は期待できません。ここにしかない商品を売っていかないと。
どういう商品になるんでしょう。
オリジナル性の高い商品です。たとえば、オーダーのグラブのように、「グランドスラム」でしか扱えないような商品を提供していかないといけません。
グラブにオーダー品というのがあるわけですか。
今はグラブひとつ取っても、内野手用、外野手用をはじめ、さまざまな種類の商品が出ていて、サイトにはグラブだけで数千点くらい揃っています。形や大きさは自由に選ぶことができますが、それでも“自分だけのグラブ"が欲しいという人もみえます。そういう方のニーズに応えるわけです。
どういう部分でオーダーに対応することになるんでしょう。
今のところ多いのは、「色」と「名入れの刺繍」のオーダーですね。好きな色のグラブをメーカーにオーダーで作ってもらったり、刺繍も、後工程では入れられない場所に、最初の工程の段階で入れてもらうんです。他にも、グラブの一部を1センチ単位で長さを変えてほしいといったオーダーにも対応しています。
そういうオーダー商品は他のショップではなかなか対応できないことなんですか。
自社サイトでオーダーに対応しているショップは、調べてみるとほとんどなかったですね。手間がかかるし、メーカーと綿密にやりとりしながらになるので、納期も1ヶ月、2ヶ月とかかります。お客さまからすると、よく知らないショップで買うのも抵抗があるのではないでしょうか。
自社サイトの知名度を上げるために、全国規模の草野球大会を開催
「グランドスラム」は敢えて自社サイトでのオーダー販売に乗り出すわけですね。楽天市場では8年になりますが、ショップとして知名度が全国に知れ渡っているわけではない中で、どうやってお店のブランドを確立していこうと取り組んでいるんでしょう。
今年初めから「第1回 全国軟式野球グランドスラム杯」という草野球の全国大会のプロジェクトが進行しています。500以上のチームがエントリーし、現在全国各地で予選が始まっているところです。
草野球の全国大会を「グランドスラム」が主催しているんですか。
今は子どもの世界でも、サッカーや他のスポーツに押されて野球をする子が減ってきていますよね。もっと野球人気を盛り上げるにはどうすればいいかと考えたとき、そのカギを握っているのは「草野球」だと思ったんです。お父さんが草野球に熱心だったら、家族を試合に連れて来て、その場で子どもが野球にふれる機会も生まれるでしょう。それで、草野球を盛り上げることのできる大会を開催できないかと考えているときに、ちょうど草野球大会を運営している会社とお話しする機会があって。
全国規模の大会を開催することになったんですね。
ネットショップは全国が対象ですから、「グランドスラム」の名前を浸透させるには全国規模の大会を開いて認知度を上げようと思い、1年目はなんとしても500チーム集めたいと思いました。途中までなかなか参加チームが集まらず、500という目標は高すぎるかとも思いましたが、WEB上で広告も展開して何とか目標を達成することができました。
1年目から500チームというのは、草野球の大会としてはかなり多いですよね。
最大規模でも1000チーム程度ですから、1年目としては上出来かと。来年以降は1000チームを目指していきたいと思っています。規模が大きくなって、メディアの後援も得られるようになるといいですね。
今年秋から地区予選がスタートして、来年にはナゴヤドームで決勝大会。グランドスラム杯と名前を冠した大会が注目されるようになれば、知名度を上げる効果は大いに期待できますね。
グランドスラム杯は営利目的の事業ではないので、収入は一切入ってきませんし、ホームページの作成や広告費などの経費はかなりかかりますが、グランドスラムの名前が浸透し、草野球の人気アップにもつながればと思っています。
野球用品専門サイトの可能性をどこまで広げられるか
現在、「グランドスラム杯」での知名度アップを足がかりに、自社サイトでの販売を強化していこうと取り組んでいる状況ですが、オーダー商品を扱うことの他には、どうやって差別化を図っていこうとお考えですか。
将来的には細かいオーダーにも対応しながらオリジナル商品を展開していくのが目標です。ただ、ハードルは高いですね。ネットショップでは実店舗のように手に取って形を確かめることができませんから。
それで、他のネットショップでもなかなかオーダーに対応できていないわけですよね。
できる限り、サイト上でわかりやすく伝えるためのページ作りが重要になってきますね。ページ上で細かいオーダーに対応していけるようにできれば。そのためには、サイト制作の人材が大きなカギを握ってくると思います。
現在、サイト運営の担当者の募集も行っていますね。
僕自身はWEB制作は専門外なんですが、ECサイト運営の経験者が数年前に一人入ってくれて、ページのつくりに手を加えてもらえるようになり、それからWEBでの売上が右肩上がりに伸びました。サイトを作る人間の能力は重要ですね。ただ、何でも一人の人間に頼り切りになるのは企業としてはリスクが大きいこと。仕事の幅を広げていくためにも、同じ仕事をできる人間が2人は必要なんです。
自社サイトの可能性はどこまで広げていけると考えていますか。
現在、「グランドスラム」ではグラブの修理などは受け付けていないんです。現物を見ないことには修理ができるかどうかの判断もできませんから。それが、たとえばスカイプでグラブを見ながらお客さまと直接やりとりできれば、修理にも対応できるようになります。野球用品専門店としては、そこまでやっていきたいと思っています。
目標は、コレだ!と思えるオリジナルブランド展開
アフターサポートもしてもらえるのは、購入者にとっては嬉しい話ですね。グラブは購入後にショップ側で“型付け"という作業も加えているんですよね。
野球用品専門店でしたら必ず行う工程ですね。グラブは最初は硬い状態ですから、まずは革を温めてから、専用の機械で叩き、それからグラブ台で手揉みしたりグラブハンマーで叩いたりして柔らかくしながら形を整えていきます
職人的な作業ですね。
1個のグラブに20分くらいかかります。グラブは1個1個、それぞれ特徴が違いますし、使い手によってボールの掴み方も違います。自分の掴み方に合わせて型付けしてほしいと望まれるお客さまにも対応できないといけません。長年の経験がモノを言う世界ですね。
高校、大学と野球部で選手生活をおくり、高校野球の監督も務めた坪井さんは、野球用品ショップの経営者であるとともに、生粋の野球人でもありますよね。そんな坪井さんの作る「グランドスラム」オリジナルグラブというのも見てみたいですね。
「グランドスラム」の名前がある程度認知されてきたら、オリジナルブランドを展開していきたいとは思っています。現在販売されているグラブも毎年のように機能が進化していますが、さまざまなグラブを扱っている中で自分の感覚として優れていると思う点にフォーカスして、コレだ!と思えるようなモノが作れたらとは思いますね。
今後のショップの展開に期待しています。ありがとうございました。
取材日:2017年8月30日 ライター:宮澤裕司
株式会社グランドスラム