発信者だからこそアンテナを張り巡らせ 激変する映像業界で新境地の開拓に挑む
- 大阪
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株式会社ytv Nextry
総務センター次長・企画開発部長 中澤 哲矢 氏
AVセンター次長・ポスプロ部長
城戸 隆一 氏
全国ブランドの総合プロダクションを目指して
まず、会社の沿革について教えてください。
中澤さん:1970年にytvの関連会社として報道取材を主な業務にした「株式会社八島フィルムサービス」が設立されたのが始まりです。
その後、音響効果などを手掛ける「株式会社サウンドエフェクト」と、編集などを行う「株式会社よみうりテレビ映像」が設立され、八島フィルムサービスから社名変更した「株式会社映像企画」を存続会社として合併されて現社名となりました。それが2011年で、全国的にもブランド力のある総合プロダクションを目指しての再編です。2015年にはytv100%出資となった制作会社「株式会社ワイズビジョン」を合併して今の組織形態になりました。それまでは各社で機能が分散しフルラインでの価格設定によるサービス提供ができず、成長の機会が失われて制作力の低下が予想される状態だったのです。合併による再編で、企画、制作、編集、音響効果など映像づくりのすべての機能がワンストップで単発受注できるメリットが生まれたわけです。
現在、お二人は社内で新しい分野の事業を企画開発されているそうですが、これまではどのようなお仕事をされてきたのですか?
中澤さん:もともと大阪芸術大学で舞台芸術の音響効果を専攻しました。卒業後も大学に残って「副手」として授業の手伝いや研究をしていたんですが、恩師の紹介で旧「サウンドエフェクト」社に入社して、この業界で働き始めました。それが1995年の春。「阪神・淡路大震災」や「オウム真理教事件」で世の中が騒然としていた時期です。効果音や音楽、ナレーションなどを付けて映像を作り上げていくMA(Multi Audio)の仕事を続けてきまして、今年6月までAVセンター・MA部長だったのですが、人事異動でMAを離れ、VR(仮想現実)とドローン(無人航空機)の企画の開発プロジェクトを統括することになったんです。
VR(仮想現実)とドローン(無人航空機)が取り組まれている新分野ですね。では、城戸さんはどのようなきっかけで、Nextryさまにご入社されたのですか?
城戸さん:専門学校を出て1985年から大阪の制作会社に就職しました。映像の調整や補正をするVE(ビデオエンジニア)や編集、音声の仕事をしていましたが、6年でやめて、奈良・山添(やまぞえ)村で、農家に“転職”しました。結婚して養子に行った先の農園の4代目として、映像業界から足を洗うという意気込みで仕事を始めたのですが、やっぱり映像の編集が好きでしたし、在籍していた制作会社が必要としてくれたこともあってフリーランスで映像の仕事もしていたんです。ところが、二足のわらじ生活を始めて1年くらいですかね、その会社がつぶれて30人くらいのスタッフが業界でバラバラに活動するようになりました。その結果、私に声がかかる範囲もひろがって農業と映像の割合は9対1だったのが、8対2になり、7対3になり、6対4になり……。
ということは、農園はどうなさったのですか?
城戸さん:農園は嫁さんにまかせっきり。フリーのままで1997年からは旧「映像企画」の仕事を月に2、3日やり始めて、それが月10日になり、多いときは25日を超えて「そんなん、もうフリーちゃうやん」という感じで約20年……。Nextryに入社後の2012年11月に管理職として正社員になったので、まだまだ、この会社では新入りです(笑)。
橋の点検や農薬散布にもドローンで参入?
貴社がドローンやVRのプロジェクトに挑まれたきっかけを教えてください。
中澤さん:弊社の沿革をお話しましたので、ご理解いただけると思いますが、現在ytvの仕事が9割超です。その中で関わっているバラエティ番組『ダウンタウンDX』は東京で制作しています。情報番組『ウェークアップ!ぷらす』は大阪制作ですが、日本テレビ系列でほぼ日本全域で放送されているため、全国的なブランド力への下地があります。音響セクションのみですが、東京の当社AVセンターは、東京のキー局からも受注していて、ytvだけがクライアントではありません。一方、情報受発信の環境の変化で、もうこれからは放送局も「波(電波)」を出すだけでは食べていけないという見方があります。ytvも海外にコンテンツを売り込むなど色々な展開をしていますから、そんな動きにも対応しながら放送外収入も含めて様々なことに参入していく必要があるということが新分野への挑戦の背景にあります。ドローンは2016年4月から、VRは今年(2017年)3月から、社内プロジェクトとして立ち上がりました。情報の発信側であるからこそ、新しいチャンスの可能性を“受信”するため、アンテナを張り巡らせてもいます。
新しいチャンスの可能性としてドローンやVRで映像以外の業務への参入もお考えですか?
中澤さん:ドローンに関しては橋の点検や農薬散布も事業として検討対象にはなりました。でも当社はベースが総合制作プロダクションです。まずは映像分野できっちりと仕事がしたいと考えています。今、ドローンはブームですから、ビジネスとして成熟していく流れのなかで確かな仕事をしたいというのが基本です。すでにVRとの絡みなどで実際に活用もしています。
具体的には、映像制作の中でドローンをどのように活用されているのですか?
中澤さん:ytvの主催で今年40回目を迎えた『鳥人間コンテスト』の宣伝用コンテンツとして「360度VRコンテンツ」を制作し、オンエア(2017年8月23日)の前からネット上で公開しています。多種多様なカメラを駆使して撮影し、ドローンも使いました。パイロットの疑似体験ができるんですよ。 VRだけを使ったコンテンツですが、編集スタジオやMAルーム、音効室などを一体化している当社のAVラボの紹介用に360度空間コンテンツを制作して公開しています。AVラボ内のバーチャルツアーができるんです。
映像編集の概念が変わった
まだ「社内プロジェクト」とはいえ、御社に関係の深い領域ではもうドローンもVRもすでに一般向けのコンテンツ制作で利用されているのですね。
中澤さん:3Dテレビなどはユーザーが新たに機材を購入する必要がありました。でもVRはスマホやパソコンといった、すでに普及しているデバイスで視聴や利用ができます。インフラ的には環境が整っているので、ニワトリが先か、タマゴが先か、という議論をする必要がないのがいいですね。いかに楽しいコンテンツ、見せられるコンテンツを提供できるか、それに集中できます。作ったものを、ユーザーにすぐ利用してもらえますし、試行錯誤しながら自分たちの努力で市場を開拓していけるのがメリットだと考えています。
城戸さん: VRについては技術協力だけじゃなく新しいアイデアで可能性を拡張するのが最も重要な仕事だと思っています。本来は見せたい映像を選択するのが編集の役割でしたが、VRの360度コンテンツになると見る側が「絵」を選べます。極端な話をすれば「もう編集なんて要らない」ということになります。ところが、映像のなかで「矢印」などの表示や音の効果で、こちらが見てほしい、見せたい映像を強調して誘導することもできます。編集の概念も変わったということです。そんなところも含めて、いいアイデアを提供したいです。
社会のなかでの映像の在り方も変わりましたよね。
城戸さん:ユーチューブなどの動画共有サイトでも素人が制作した作品がものすごい再生回数を上げています。私たちの側からすればセオリーが無視されているけど、そんなことは問題じゃないんですよね。プロと素人の編集の違いって何なのか、と考えます。正解はないのでしょうけど、そんな状況を謙虚に受け止めて参考にせざるを得ないです。ドローンについては、飛ばす場所の確保も簡単じゃないので山添村の、うちの田んぼや畑で若手に練習してもらって色々とアイデアは考えています。嫁の両親にしたら、ふだんはいないのに、たまに畑に来たらドローンを飛ばして、「えらい男を養子にしてしもたな」って後悔していると思います(笑)。
チームワークが大切なお仕事だと思いますが、どんな人物と一緒に働きたいですか?
中澤さん:新しいことをしたいと思ったらチャレンジができるのが当社の強みです。自分でやりたいと思ったことは、ちゃんと提案して動ける方と仲間になりたいです。
城戸さん:選択肢があったら辛(つら)い方を選ぶ人物ですね。僕はとりあえず、やったことのない方を選んで、まず体験してきました。映像業界から農業に転身したのも、そんな感じです。また帰ってきましたけど(笑)。
取材日:2017年8月31日 ライター:岡崎秀俊
株式会社ytv Nextry
- 代表者名:山西敏之(やまにし としゆき)
- 設立年月:1970年7月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:テレビ番組・CMの企画制作など
- 所在地:大阪市中央区城見2-2-22 マルイトOBPビル8階
- URL:http://www.nextry.net/
- お問い合わせ先:電話06-6947-7050