仙台発ゲームで世界を目指す
- 仙台
- 株式会社ピコラ 代表取締役 金子 篤 氏
会社の立ち上げを決意させた、クリエイターの卵との出会い
仙台にゲーム制作会社があるとは知りませんでした
確かに多いとは言えませんね。私自身も23歳で当時勤めていたゲーム会社が仙台に開発拠点を立ち上げるまでは、東京にいました。東北の大学や専門学校で学んだ多くの学生も、東京のゲーム会社に就職します。しかしこの数年、仙台にもゲーム制作を行う会社が増えてきてはいるのです。
立ち上げは3年前とうかがいましたが、何かきっかけがあったのでしょうか?
東日本大震災は大きなきっかけになっています。震災後、就職のことで悩んでいる専門学校の学生と知り合いました。彼は震災で大きな痛手を負った地元を離れることに不安はあるものの、夢であるゲーム業界への就職のために上京するしかなかったのです。
彼との出会いをきっかけに、仙台に彼ら若者の働く場を作りたいと考えるようになりました。地元の若手クリエイターを育てることが、仙台のゲーム産業を盛り上げることにつながり、結果として微力ながら震災復興のお役にたてればと考えたのです。
震災から3年。使命感に突き動かされた起業への道のり
ゲーム制作会社も少ない仙台での起業に不安はなかったのですか?
一緒にやろうと言ってくれる仲間も集まり起業に向けて本格的に動き出してからは、不安よりも「やるんだ!」という使命感の方が強かったです。また仙台は古くから学都として知られており、大学やゲーム開発を学べる専門学校も多かったので、起業後の人材面でも不安はありませんでした。
仙台を拠点に活動するメリット・デメリットはありますか?
デメリットを挙げても仕方がないので、メリットを最大に活かして、それを上回る活動をすることだけを考えています。地方はゲーム関連の人材が多いとは言えませんが、弊社と同様に地元で頑張っている企業や、仙台に拠点のある企業との連携を密にできるメリットがあります。また、何をするにも人がすべてですので、専門学校の職業実践専門課程の講師をするなど、若手クリエイターの育成にも力を入れています。
現在の御社の事業内容はどのようなものでしょうか?
ゲームの受託開発が主で業務全体の8割を占めます。企画を担当するゲームディレクター・プランナー4人、プログラマー5人、3Dモデルアーティスト6人、2Dアーティストが3人とスタッフが揃っていますので、弊社内でワンストップの開発が可能です。最近はキャラクターデザインの受託にも力を入れています。残りの2割は自社のゲーム開発と教育関係を行っております。
自社制作ゲームアプリで世界中のユーザーの声を聞きたい!
自社制作のゲームアプリも配信されていますね
ユーザーからの直接の声を聞きたいと思い、自社でゲームアプリを開発し、配信しています。これまで3つのゲームアプリを配信しています。中でも日本語、英語、中国語でローカライズした『ねこのけ』は100万ダウンロードを達成しました。ネコの毛玉を集めるというシンプルな内容のアプリなのですが、「ほっこりする」「かわいい」といったお声を多くいただき人気があります。また12カ国語で配信している『LIMP HEROES』も、15万ダウンロードを超えました。キャラクターが物理挙動でグニャグニャとした奇妙な動きをするゲームです。これがなぜかブラジルやインド、エジプトでヒットしているのですが、赤道に近い国の笑いのツボに合うみたいですね(笑)。光栄なことに、どちらもAppStoreとGoogle Playのレビュー評価で星4つ以上をいただいています。
受託業務と並行して自社ゲームを開発するのは大変なのではないですか
もちろん簡単なことではありません。スタッフの仕事を調整して『ねこのけ』で3カ月、『LIMP HEROES』で7ヶ月かかりました。ゲーム業界は夜も寝ずに働いているようなイメージがあるかもしれませんが、弊社では必ず家に帰ること、寝ることを徹底しています。プライベートが全くない生活ではパフォーマンスも下がりますからね。
100万ダウンロードの大ヒット!ゲームアプリ誕生秘話
ヒット中の自社制作アプリの企画アイデアはどのようにして生まれたのですか?
『ねこのけ』はスタッフとの企画会議でヒットコンテンツについて徹底的に話し合いました。私自身ネコを飼っていたことがあるので、可愛い仕草にはこだわりました。『LIMP HEROES』は、物理挙動で人が「グニャグニャ」と動くのが“ウケる"ことはわかっていて、そこにアメコミ映画の世界観を加えれば、ありそうでなかったゲームになると思い制作しました。たくましいヒーローが、グニャグニャしたパンチを繰り出す動きのおもしろさに、私たちもゲラゲラ笑いながら作ったものです。
『ねこのけ』のようにご自身の経験をゲームにすることも多いのですか?
自分の経験をゲームに落とし込むのは重要で、既存のゲームで得たアイデアの中からは、斬新なゲームは生まれないと考えています。おもしろいゲームは、心を動かされて思わず熱中してしまいます。人がどのようなことを楽しいと思うのか、何かが起こったときにどういう感情が生まれるのか、常に意識しています。なので普段から映画を観たり、遊びに出かけたり、ゲーム以外のことにもアンテナを張っています。社内の雑談でも、何が面白かったとか、最近興味を持ったことなどゲーム以外の話題で盛り上がることも多いです。スタッフの興味・関心事も、全体の良い刺激になっていますね。
若手クリエイターの才能に触れる、東北最大級のコンテスト
講師以外にもゲームクリエイター育成の支援活動をされているそうですね
先ほどもお話しした専門学校の講師のほかに、グローバルラボ仙台(以下GLS)のGLS for Education部門でゲーム開発塾の塾長をしています。GLSは仙台・東北のゲームIT産業創出のためのコンソーシアムです。
毎年「DA・TE・APPS!」という東北最大のアプリコンテストを行っているのですが、ゲーム開発塾では、各専門学校から選抜されたチームがそれぞれ120円で販売するゲームアプリを制作します。販売数で優勝チームが決まり、審査員は実際のユーザーという、他にはないルールの 実践的なコンテストです。2018年2月には第4回目を開催します。将来を担う東北の若きクリエイターが集いますので、ぜひ多くの人に観覧に来て欲しいですね。
そのコンテストから実際に仙台で活躍する人も現れるでしょう そうですね。若い人を指導していると、ゲームを作る楽しさを知って目を輝かせる瞬間に出会えることがあります。そういう本当にゲームが好きな人が楽しんで作った作品からは、経験にかかわらず、その楽しさや熱が伝わってきます。彼らが将来仙台で活躍することを期待しています。
仲間が教えてくれることすべてがゲーム作りの糧になる
彼らから金子さんご自身が得られることも多いのではないでしょうか
専門学校生もですが、社内の若いスタッフと仕事をしていると初心に返りますね。初心は本当に大切で、心のどこかにきちんと置いていて、たまに探し出して向き合わなければなりません。それを彼らが引き出してくれるのです。また今の若い人はゲームが身近にあった世代で、新しい感覚を持っています。そんな彼らのセンスも大事にしたいですね。
彼らスタッフに求めることはありますか?
「楽しむ!」ということに尽きますね。作る仕事を選んだ人は、作る楽しみを知った人です。もちろん仕事ですのでつらいこともありますが、楽しいゲームを作るためには、作っている人が楽しくなければならないと思うのです。私自身も楽しんで、仲間たちとおもしろいゲームを作れる会社にしたいと考えています。また地元で就職したいと考えている人も、Uターンの人もIターンの人も、弊社の理念に共感できる仲間を増やしていきたいですね。
御社のフロアからは自由でフランクな雰囲気が伝わってきます
社内には普段から自由に意見を言い合える環境があるからではないでしょうか。彼らは私が考えたアイデアでも、つまらないと思えば「つまらない」とはっきり言います(笑)。「今の感覚には合っていない」「それは違う」など厳しいことも言われます。その言葉にショックを受けることもありますが、それも大きな刺激になっています。
あの日の声に応えるために―。世界が熱中するゲームを作る
会社としての今後の展望、将来のビジョンを教えてください
いつかこの仙台から世界中のゲーム好きが熱中するようなゲームを作ることを目指しています。そのために仙台のゲーム産業を発展させる必要があり、若手クリエイターの育成と地元企業との強固な連携が必要だと考えています。企業文化を乗り越え、企業と企業が手を結ぶことができれば、仙台から世界中のゲームファンに愛されるゲームが生まれるでしょう。そうなったとき、仙台に新しい仕事も増え、震災後に出会った学生の声にようやく応えることができると思っています。
取材日:2017年11月14日 ライター:飯田裕子
株式会社ピコラ
- 代表者名:代表取締役 金子 篤(かねこ あつし)
- 創立年月:2015年2月
- 資本金:300万円
- 事業内容:ゲームソフトの企画・開発・受託、キャラクターデザイン、3DGC制作、ゲームクリエイター育成支援
- 所在地:〒980-0811宮城県仙台市青葉区一番町 2丁目 5-22 GC青葉通りプラザ8F
- URL:https://www.picola.co.jp/
- お問い合わせ先:上記HPよりお問い合わせください。