メーカーの想いと顧客ニーズを捉え、写真と映像で製品を“見せる”から“魅せる”へ

大阪
株式会社2055 代表取締役 村田 成仁 氏
仕事を語るうえで「面白い」をよく口にする株式会社2055の村田 成仁(むらた なるひと)代表取締役。フォトグラファーとして、経営者として、多忙な日々を過ごす中でも目先の仕事だけにとらわれず、広い視野で業界を俯瞰し、これまでもデジタルカメラや3DCG、AR技術などにいち早く着目し、自分が「面白い」と思うことを、すぐに取り入れてきました。また、個人の活動としても「面白い」と思ったことにチャレンジし続け、「関西電塾※1」の運営委員をはじめ、大学客員教授、東大阪宇宙開発協同組合公認カメラマンなど活躍は多岐にわたります。
「社長であり師匠なんです」とスタッフからの信望も厚い村田代表に、仕事やスタッフに対する思いをうかがいました。

※1 電塾は1997年9月に発足した、プロフェッショナルデジタルフォトを学ぶためのユーザー自身による勉強会です。

学生のノリからプロ意識へ

スタッフも入社当時驚いたという株式会社2055の設備は700㎡以上の総面積の中に、キッチンスタジオを含む6つのスタジオがあり関西最大規模といわれている

父親が大阪市内で写真スタジオを経営していたこともあり、あまり深く考えずに大阪芸術大学の写真学科に進んだ感じです。でも大学に入ってからは写真展を開くなど積極的に取り組み、大学卒業後も東京にある早崎スタジオに入社しました。主宰者の早崎治さんは広告写真の第一人者でして、1964年の東京オリンピックのポスター写真(1962年、1963年:亀倉雄策と共同製作)を撮られたことでも有名な方なんです。僕にとっては教科書で習う歴史上の人物のような人でした(笑)。そこでアシスタントの下積みから始めました。

早崎氏から学ばれたことはありますか?

ブロとしての意識を叩き込まれました。学生の時に、枯れた花とか“味があっていい”みたいな感じで、あえて汚いものを汚く撮っていたので、早崎スタジオの写真コンテストでも、課題の「スニーカー」について、同じように使い古された汚いものをそれっぽく撮って提出したところ、早崎さんに、それは学生の作品だと言われてしまって……。新品の靴って正直なかなか絵にならないので避けていたのですが。絵にならないものを絵にするのがプロの仕事だと、広告写真家としてのプロ意識を一から教えていただきました。25、6才の頃に、父親から一緒に仕事をしたいと言われたので、大阪に戻り、社名に自分たちのルーツである本籍地の番地を入れた「スタジオ2055(にいまるごーごー)」を設立しました。

常に起動し、常に先へ

インパクトのある社名ですね。スタジオ2055では、いち早くデジタルカメラを取り入れられたようですが。

私は子どもの頃から“コンピュータおたく”で(笑)。いつもコンピュータが身近にある状況でした。ですので、デジタル一眼レフカメラが出た時もすぐに取り入れたかったのですが、当時はプロ用で1,000万円位していたんです。次の年には半額位になり、年々価格は安価になっていったのですが、メーカー側がハード面以外の使い道や運用方法の詳細についてまで把握し切れておらず、インターネットもまだそんなに普及していなかったため、情報が不足していました。そこで早崎スタジオの出身者たちがプロフェッショナルデジタルフォトを学ぶための勉強会「電塾」を立ち上げ、僕も声をかけてもらいました。

早崎スタジオの出身者による勉強会ということは、東京で開催されていたのですか?

そうです、定期的に開催されていましたので、東京までずっと通っていたんです。そんな中「大阪でも立ち上げたら?」という話になり、「関西電塾」の運営委員になりました。その頃は、ほとんどの印刷会社のカラーモードがCMYKカラーを使用していたため、デジタルカメラで表現するRGBカラーの変換に慣れていなくて、仕上がりの色味が悪かった場合、撮影者側の問題とされていたんです。印刷する度に問題が起きるなどもう散々でしたので、3~5年位は啓蒙活動的に訴えていきました。そうこうするうちにようやくRGBカラーの変換が一般的になってきたので、電塾の大きな役目は一旦果たしたという感じになり、その後はCGなどの最新情報を提供していました。今ではインターネットも普及し情報も豊富なので、不定期開催にしています。

カラーの変換についてかなり尽力されたんですね。他にも大学の客員教授や東大阪宇宙開発協同組合の公認カメラマンなどもされていたようですが。

東大阪で人工衛星を飛ばすというのを、たまたまニュースで見て、場所も弊社から近かったこともあり、以前から宇宙にも興味があったので、すぐに問い合わせ先を調べて連絡したんです。それから公認カメラマンとして色々と写真等を提供していたところ、打ち上げ時には人工衛星のプレートに社名を載せてくださったんです……でも「2055」の数字が違っていたのですが(笑)。

これだ!と思うことは積極的に取り組まれているんですね。

そうですね、それは今もずっと変わらないですね。僕自身がそうなので、会社も新しいことに対して面白そうだと思えば、すぐに取り入れています。これまでも、上を見ても下を見てもまるでその場にいるかのような視点で見ることができる「パノラマ360°」や、背景ではなく商品を回転させる「オブジェクト」、それに「AR」もかなり前から取り入れていました。でも当初はあまりニーズもなくて「もうやめようか」と思っていたんですが、ここ2、3年で急に盛り上がってきて、こっちにすれば「えっ今頃?」って感じでした。いつも取り入れるのが早すぎるんですよ(笑)。

特にARはあの『Pokémon GO』により更に有名になりましたよね。1歩も、数歩も先を行く感じですね。

1歩でいいです(笑)。電塾の影響が大きいですね。映像についても、デジタル一眼レフで撮れるようになるという情報がいち早く入り、写真と映像が近づいてきたので取り入れたんです。色々と仕事の幅が広がってきたので、社名を「スタジオ2055」から「株式会社2055」に変更しました。同じ時期に「アップルコンピュータ」がコンピュータだけではなくiPhone等新規事業を展開する中で、社名から「コンピュータ」を外し「アップル」になったように、弊社も写真スタジオだけというイメージを払拭するため「スタジオ」を取ったんです。

強みはプロ集団の連携力

現在の事業内容について教えてください。

写真制作と映像制作、それに3DCG制作です。
制作に関わる画像処理(デジタルデータの修正・加工フォトレタッチ)と、撮影の準備として、モデルキャスティング、ロケ場所手配、スタイリストさん、ヘアメイクさんなどのスタッフ手配を行う撮影コーディネートになります。

写真スタジオの場合、フォトグラファーのプロ集団という感じで、なかなかスタンスを崩さないイメージがあるのですが、御社は違いますね。

全てにおいて半歩下がってみているか、俯瞰しているんでしょうね。3DCGでいうと、システムキッチンのカメラ撮影の仕事をしていた時に、まず背景がCGになってCGで作れない小物と商品の撮影だけになり、3、4年の間に最終的には全てがCGになりました。元々CGを取り入れることは考えていたので、遂にここまで来たんだと思い社内で検討し、CGクリエイターを採用しました。

CGクリエイターの方が写真スタジオで働くにあたって壁みたいなものはなかったですか。

壁ではないのですが、写真で重要なライティングって、CGを作る上でもすごく大事なんですが、CGクリエイターは独学でCG上のカメラ設定で、レンズ何mm、絞りはF値と数値的にすることが多いんです。でも弊社はプロダクト(製品)のCGを作っているので、写真と同じクオリティーを求めます。そこは社内フォトグラファーと一緒に現場に入って連携を図りながら仕上げてもらっています。

写真、映像、CG等それぞれのプロが連携しているので、そこは強みになりそうですね。

仕上がりに差が出ると自負しています。また、メーカーが製品等をPRしたい時に、弊社であれば写真と映像の両方とも対応ができるので、カタログ写真とPVが一気に撮れたり、ご希望の素材が無ければCGで作ったりすることもできます。お客様にすればまとめて頼めるため、予算も圧縮できますし、情報提供や依頼内容を1カ所に集約できるので、時間的・作業的な効率化も図れます。

営業面はどのようにされているのですか?

紹介による問い合わせが多いですね、仕事が営業でしょうか。
制作する上で話しをすることをとても大切にしています。
写真や映像をどこでどんな方に見ていただくのか、依頼側のお客さんと同じ立場に立って制作することを常に心がけています。
その仕事が次の仕事につながっていっていると思います。

また、映像CGは、東京ビックサイトで制作会社が自分たちの技術や作品を展示する「映像・CG制作展」に毎年出展していて、そこからの問い合わせによる仕事がかなり増えています。

「おまかせで」の仕事は受けません

仕事上、大切にされていることは何でしょうか?

写真に関して言えば「再現でなく表現」ということです。物があるのを再現してもしょうがないので、プラスアルファで表現することを心がけています。ただ自分のことをアーティストではなく職人だと思っています。僕の撮るものって自分の作品ではなく、お客様のニーズがあってそれに応えることなんです。それでいくとヒアリングがとても大事で、時々「おまかせで」と言われるんですが、「おまかせではできません」って返します。例えば食べ物でも、甘いものが好きな方に自分が自信を持ってすすめる辛口カレーを出しても相手は困るじゃないですか。甘いものや辛いものどっちが好きなのか、和洋中どれが好きなのかなどを聞き出さないと、こちらに凄いものを作れる技はあっても、結局、中途半端なものしか出せなくなってしまいます。辛いものが好きだと聞けば、じゃこれ位のカレーでどうだって自信を持って提供することができ、相手にも響くわけです。それと同じでキチンと話をして、相手のニーズを突き止めていくことが大切だと思っています。

最初に内容を詰めることは、お客様の想いをカタチにする近道になりますね。

製品を利用することでエンドユーザーが得られる価値等の「ベネフィット」も大切にしています。印象に残っている話があって、例えばお客様が電動ドリルを買いに来た時に、お客様は電動ドリルが欲しいわけではなく、穴を開けたい。極端な話、穴の空いた板を売ればいいというんです。ゴルフ用品でも同じで、ドライバーが欲しいわけではなく、飛距離を出したいんだと、面白い発想の転換だと思いました。これは弊社の仕事にも当てはまるんです。以前カメラメーカーでのヒアリング時に、ピントについて、技術的な話を語っていただいたことがあったのですが、エンドユーザーにすれば、技術的な難しい話はあまり必要なくて、とにかく子供やペットのシャッターチャンスを逃すことなく素早く撮れれば良いんです。それがベネフィットなんです。だからクライアントへのヒアリングと、ユーザーのベネフィットを考えて調整することが僕の仕事の半分で、残り半分はいかに伝わるものを写真と映像としてつくるかということになります。

アメーバみたいな会社をめざす⁉︎

今後の御社のビジョンを教えてください

アメーバみたいな会社にしていきたいと考えています。様々なものを取り入れていき、型にはめずいろんな形にグニュグニュと変わっていきたいですね。現在、大阪と東京に拠点があるのですが、大阪は大阪で、東京は東京で自由に大きくなっていければいいと考えています。また、アメーバのように分裂したものが各々で成立するように、弊社内のどこで分裂しても、皆が個々でちゃんと考え判断し動けるようになって、仕事が成立するといったイメージです。もし退職者がでた場合も、2055のDNAを持って様々なところで独立すれば面白いですよね。トップダウンの型にはまった組織ではなく、むしろ皆には好きなことをしていいよって言っているんです。スタッフが好きなことしてそれが面白ければ、どんどん提案してほしいと思っています。

2018年8月29日 ライター:川原珠美

 

株式会社2055

  • 代表者名:代表取締役 村田成仁
  • 設立年月:2007年2月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:広告及びカタログ用写真・映像・3DCG制作の企画制作
         上記制作に関わる業務全般
  • 所在地:本社)大阪府東大阪市中新開2-8-8
        東京)東京都中央区日本橋小舟町7-13 3F
  • URL:https://www.2055.jp/
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