社会になくてはならないプロダクトとはなんだろう? メディア事業から総合サービス創出へ
- 東京
- 株式会社アラン・プロダクツ 代表取締役CEO 花房 弘也 氏
“『人が変わる』を創造する”という企業理念を掲げ、人々が暮らす社会の課題解決に向かうこの会社の取り組みについて、CEO 花房 弘也(はなふさ ひろや)さんにお話を伺いました。
田舎暮らしがイヤで東京に出たけれど、想像するよりも大学生活はつまらなかった。起業家たちが眩しくて、こうなりたいと刺激を受けた
花房さんのご経歴について教えてください。
兵庫県出身、1992年生まれの26歳です。もともと横浜国立大学在学中に、起業に興味を持ち始め、インターン先にピクスタ株式会社を選んだところから大きく人生が動いた気がします。ピクスタでは営業統括に従事させていただきました。そこで、自分自身が背中を押されるようにして、在学中の2014年1月にゴロー株式会社を設立しました。はじめは、ショッピングアプリ『melo(メロ)』を開発・運営するのですが、これはうまく事業化できませんでした。その後、いまに至るバーティカルメディアに軸足を移し事業化を進めました。2016年9月にユナイテッド株式会社に事業売却し、同社の最年少執行役員に就くことに。
さらに、2017年10月には株式会社アラン・プロダクツと社名変更し、現在では、髪の毛の悩みと向き合うバーティカルメディア『ヘアラボ(旧ハゲラボ)』以外にも複数のメディアを開発・運営しています。
学生起業に至るまでの詳しい経緯は。
兵庫県の田舎町出身なので、大学に入って東京に出るというのは希望に満ちた出来事でした。が、実際に大学に通い始めるととにかくつまらない毎日で、それに悶々とする自分自身も歯がゆかった。そんな状態で2年間が過ぎてしまっていました。大学で、「ベンチャーから学ぶマネジメント・リーダーシップ」という講義を受けて、リアルな経営者のみなさんの声と実像に触れ、大いに刺激を受けました。インターンとしてお手伝いすることになるピクスタ株式会社の代表である古俣大介(こまた だいすけ)さんのお話も印象的でした。一方、自分自身を振り返ればそもそも父親が経営者だったので、「経営者としての自分」がよりリアルに自分の中で浮かび上がってくることになったのです。
自分の中でそう決意をして、さまざまな経営者に話を聞いたりする活動を始めたときには、自己啓発セミナーのような詐欺グループに騙されそうになり、自身の脇の甘さを実感したりもしました。そこで、まずはきちんと仕事を覚えることが大事だと思い、インターンを志望したのです。
結果的には、就職して経験を積んでということは選択されなかった?
はい、実際に当初はインターンを終えたらどこかに就職して3年くらい濃い経験をして、起業をしようと考えていました。ピクスタのインターンでも「営業統括」という環境も与えていただいて、大学では学べないリアルな事業の変化をたっぷり吸収できていました。そうこうするうち、古俣さんから「花房くんなら起業しても成功できるよ」という言葉をいただきまして、その時間軸が一気に崩れてしまった。「起業するなら、いまからでいいんじゃないか」と思ってしまったんです。
「VC(ベンチャーキャピタル)も紹介するし、事業アイデアにも協力するよ」とまで言っていただけている。チャンスだ、と感じないわけがなかった。
いま振り返ると、その判断に後悔することはないのですが、告白すると家族の反対はありました。父母はもちろん、自分は5人兄弟の一番下なのですが、兄弟からも反対されて、その反対を押し切っての学生起業でした。「社会はそんなに甘くないぞ」と最後まで言われていました。これは辛かったです。
最終的には、「そんなに言うなら、一度やってみろ」という感じでしたね。もちろん、若いからこその「一度やってみろ」でもありました。
当初始めたプロジェクトからは撤退されたということですが。失敗から学ばれたということですか?
もともと「melo」というスクレイピング※1技術を活用したショッピングアプリを作りました。さまざまなECサイトのファッションアイテムを、一括検索できたり、お気に入り登録できたり、実際に買い物ができたりするアプリです。
面白いし、実用に堪えるだろうと思っていたのですが、売り上げがまったく上がりませんでした。そもそもユーザーが増えなかったのです。結果として、追加資金が集まらないという状況に陥り、サービス継続は無理だと判断しました。
これを真摯に反省をして現在につながっているのですが、失敗の理由は、ユーザーの課題解決ができていなかった、という一語に尽きると考えています。「とても便利なアプリだ」という自信がありました。が、当時はそれだけで終わっていたのです。そもそも洋服などアイテムでさらにおしゃれになりたいユーザーは、「満たされている(プラスをプラスにする)」状態。「満たされている」人たちの「ちょっとした課題」を解決しても、大きな価値にはならない、ということだったのです。
それでは、ビジネスとしての飛躍はできるわけがなかった、という整理をしています。
※1 ウェブサイトより情報を収集するコンピュータソフトウェア技術のこと。ウェブ・クローラーあるいはウェブ・スパイダーとも呼ばれる。
髪の毛の悩みと向き合う日本最大級のメディア『ヘアラボ』を立ち上げて、順調に成長軌道に乗せられた。これからだ、と思う
メディア事業のこれまでを振り返って
新しい事業を生み出すにあたって考えたことは、「プラスをさらにプラスにする」のではなく、「マイナスをゼロやプラスにする」ビジネスをしようということ。具体的には、人のコンプレックスに向き合ってビジネス構築していきたいということでした。その過程で、「髪の毛の悩み」というテーマが出てきて、それは自分自身の悩みの一つでもありました。これをテーマに、バーティカルメディアを作ろう、と決まっていきました。現在、ビジネス顧問として関わってくださっている建入弘樹(たちいり ひろき)氏との出会いも、このプロジェクトの始まりには欠かせなかったと感謝しています。
一方では、このプロジェクトの立ち上がり時期に、DeNA(株式会社ディー・エヌ・エー)のメディア事業が社会的な批判を受けるという事件がありました。それは、私たちにも無関係とは言えず、体制の見直し、ワークフローの再構築などで半年間以上もの時間を費やすことになりました。さらにタイミングが前後しますが、ゴロー株式会社はユナイテッド株式会社の傘下に入ることになりました。ユナイテッドから優秀な人たちが何人も来てくれることになって、これはとてつもない力になりました。なにしろ、それまでインターンや20代前半の若手しかいなかった環境にビジネスの酸いも甘いも知っている大人たちが加わった、と想像していただけると当時の様子がわかるのではと思います。
いま振り返ると、アクセルを踏むタイミングでこのような半ば外部の圧力で強制的に見直しを迫られた、しかも新しい大人の知見が加わることになったということはその先の成功へのきっかけであるとも言えるかもしれません。それでも、本当に当時は大変でした。2016年の春から秋にかけてのことでした。
御社の強みとはなんでしょうか。
代表的な「ヘアラボ」を例にあげますが、このメディアの一日あたりのユーザー数は数万人。ユーザーの男女比はほぼ同率で、検索流入が多いという特徴があります。このユーザーの方々は、リアルなヘアケアに関する悩みを抱えていて、その解決のための情報を得るためにアクセスしてくださっています。バーティカルメディアだからこそ、そうした明確な動機を持つユーザーを抱えることができるわけです。この点で、キュレーションメディアとは大きく差別化できます。コンテンツの充実を図るために、アンケートの実施や分析には力を入れています。
そうした信頼を確保できていることが前提で、このメディアを核とした「メーカー」「ユーザー」「メディア」それぞれのスクラムが生まれて、そこに新しい価値があるのだと思っています。つまりは、ヘアケアに関する総合サービスであることが大事だということです。
他にも様々なこと挑戦されていますが
セクシュアリティにおける課題と向き合うパレット事業も順調に事業推移しています。セクシュアリティに関わる「常識のアップデート」を掲げ、セクシュアリティの正しい情報を発信するメディア、そしてLGBTQ+当事者の方々の課題を解決するサービスを創っています。社会性のみが注目されてしまいがちな分野ですが、事業メンバーと共有している大切な価値観として「事業、ビジネスとしてサステイナブルであること」と云う点があります。つまりこの事業を通してビジョン、ミッションを実現することはもちろん、言い訳なしにしっかりと売り上げ・利益をあげること。そうすることで、世の中に”継続的な”価値提供を行うことができると信じています。
もちろんまだまだこれからの事業ではありますが、強い思いを持ったメンバーが集まり事業を推進してくれていることに対して、心から頼もしく感じています。
社名の「アラン」はアラン・チューリングから
ところで、そういう意思表示はそもそも社名にも掲げていまして、アランというのはアラン・チューリングのことを指しているんですよ。コンピュータ科学の祖とか、コンピュータを生んだ科学者とか、有名な紹介だと「エニグマの解読をした科学者」と言われます。その生き様は映画『イミテーション・ゲーム』でも描かれていましたが、彼自身がゲイであり、当時の誤った社会常識によって、不遇な晩年を過ごしました。コンピュータという人類にとっての新しい価値を、社会に見事に生み出し大きな貢献をした大人物の背中を、私たちの事業も追いかけていきたいと思っています。
自分たちが創るプロダクトが「存在する」世界と「存在しない」世界で大きな差がある。そんななくてはならないプロダクトこそが、自分たちが果たすべき役割だと強く思う
今後の事業展望について教えてください。
先ほどのパレット事業に加えて、現在は新規事業の立ち上げに向かう「スタジオ・アラン」というセクションも設けました。先に紹介した通り、私たちはアラン・チューリングの後に続くような新しい価値を連続性を持って世の中に提出できる事業者でありたいと考えているからです。スタジオアランでは、バーティカルメディア事業に止まらず、ミッションである『人が変わるを「創造」する』を実現できる事業であれば、積極的に立ち上げています。
まさにいま、複数の事業を同時に立ち上げている真っ最中です。
一方では、ユナイテッドからの資金提供をもとに、M&Aなどを念頭に事業規模の拡大を考えています。
そのためには、やはりまず人材
"「人が変わる」を創造する "という言葉は、企業理念でもあります。働く仲間にとっても同様で、そのように働ける仲間を求めるということは、今後も変わりません。いま、「スタジオ・アラン」では、新規事業創出にあたって、エンジニアとデザイナーを求めています。0→1、1→10、で楽しめるエンジニアとデザイナー。
新しい価値を作り出せることにワクワクできる仲間が欲しいです。これまで、まだエンジニアやデザイナーの力で自らの事業を加速させるという経験がアランには少なかったと思うのです。今後は、そういうエンジニアリングやデザイン力で事業を成功させていくという新しい喜びを会社の中に得たいと強く思っています。
また、ベンチャーというと、一人ひとりが数字に責任を持ち、とにかくがむしゃらに働いてもらう、という環境をイメージする人も多いと思います。
もちろん数字に責任を持つことは大切ですが、それよりもビジョンとミッションを持って業務に取り組んでいただくことを重視しています。
なぜなら、それによって自身の仕事の意味を考えられ、結果、より成果に繋がっていると実感しているからです。
そういう意味でも、個人の持てる力を最大限に発揮していただける環境も用意できていると自負しています。
取材日:2018年10月11日 ライター:野田収一
株式会社アラン・プロダクツ
- 代表者名:代表取締役CEO 花房 弘也
- 設立年月:2014年1月
- 事業内容:インターネットサービスの開発・運営
- 所在地:〒107-0061 東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル7F
- URL:URL:http://alan-products.co.jp