地元目線の地方創生を目指して故郷福井で起業。新潟県見附市のプロモーション映像を制作
- 福井
- 株式会社 クリエイティブ・エッジ 代表取締役 村中 克成 氏
景観や食材など地方の魅力を発掘し、地域の活性化を図る
これまでの経歴を教えてください。
NTTグループに25年間勤務していました。⼊社時はNTTが東西会社やコミュニケーションズなどに分かれる前で、ちょうどインターネットの商⽤化に着⼿ しようとしていた時期です。インターネットビジネスのための研究開発を担当し、その⼀環でアメリカ、シリコンバレーのベンチャー企業に出向し、現地でITバブルが崩壊して急遽帰国するなど歴史的な経験をしています。その後は、NTTコミュニケーションズで企業の情報システムの構築や運⽤、コンサルティング業務を行っていました。また、NTTぷららでは、TVとECとを一体化したショッピングサービスの⽴ち上げに取り組みました。ショッピング専用チャンネルの立ち上げや物流網の整備、エンタメを指向したショッピング番組のプロデュースなどいろいろやりました。商品面では、楽天にもアマゾンにも売っていないものとして地⽅の知られざる逸品に着目し、47都道府県のクラフトビールを揃えたり、小売ルートに乗っていない地酒の直販を実現しました。
NTTぷららでのご経験が起業へとつながったのでしょうか。
NTTぷららでは、積極的に⽇本各地へ⾜を運んでいます。そのうちに移住促進の相談なども受けるようになり、自然と仕事が地方創生全般に広がっていきました。地方は、課題が多いのも事実ですが、海や山が身近にありクルマ社会という環境は、かつて体験したシリコンバレーにそっくりです。これからのAI時代に、地方がフロンティアとして都会を牽引していくモデルができれば、日本全体が再び活性化していけるのではないかという思いで仕事をしていました。その思いが強くなりすぎて起業してしまったというわけです。
会社を立ち上げる場所を福井にされたのはなぜですか。
東京で地方創生の会社を立ち上げるという発想はありませんでした。地方の魅力はその唯一無二性にあります。僕はケンタッキーの罠と言っているのですが、近所のKFCが美味しいからといって、アメリカ、ケンタッキー州に行って本場のKFCを食べたいと思う人はいませんよね。東京で発想される地方創生ビジネスの多くは、知らないうちにビジネスの成功が地域からの離脱とイコールになっていることが多い。構造的に落とし穴が空いているんです。それを東京で言うよりは、実際に拠点を地方に置いて地に足をつけて言うべきだろう、故郷の福井は東京の日本列島を挟んだ反対側に位置しているのでちょうどいいんじゃないかと思ったのです。
新潟県見附市の移住促進のためのプロモーション映像を制作
現在、どのような事業を展開されているのですか。
地⽅⾃治体の観光事業、移住促進などへのアドバイスや提案、それらに関連したPR映像制作や、地域の商品プロデュースなどです。
⾒附市の映像を制作していますね。見附市はどんなところですか?またどのような映像を希望されていたのでしょうか。
2018年1⽉に、新潟県⾒附市の移住促進のためのプロモーション映像『明⽇を、みつけに』を制作しました。見附市は、コンパクトシティの成功例として有名です。病院や商業施設など市内の主要施設がコミュニティバスでつながれていて、地方ではめずらしい自家用車がなくても暮らしやすいまちです。2017年には国⼟交通省の「コンパクトシティ⼤賞」を受賞しています。⾃然も⾝近にあり、⼦どもの医療費助成など⼦育てしやすい環境も⼤きな特徴です。プロモーション映像を作るに当たっては、市長から「受けや流⾏りを狙った映像にはして欲しくない」という⾔葉をいただきました。視聴回数やネットでの拡散ばかりを追求して、実態と乖離した絵空事の映像で市の名前を覚えてもらっても意味が無いというのです。これには痺れましたね。期待以上のものを提案しようとやる気が増しました。
映像制作に当たってどのようなことを重視されましたか。
⾒附市に移住した⼈の⽣の声、本⾳を聞き出そうと考え、多くの移住者の方々に徹底したインタビューを⾏いました。市場調査のノウハウを活かして質問を工夫し、よそ⾏きの⾔葉ではなく素直な感想を引き出しました。その結果、移住のきっかけ、⾒附市を選んだ理由、住んでみての感想など、⾒附市や我々が事前には予想していなかったようなを魅⼒が多く明らかになりました。そこで、それらをできる限りそのままフィルムに収めるにはセミドキュメンタリー形式が最適と考え、ショートムービー『明⽇を、みつけに』を制作したのです。映像制作には、AKBのプロモーションビデオなどを多数⼿がけている制作会社所属のプロデューサーと組んでクオリティを担保し、インディーズの映画で実績のある監督やスタッフと組むことで破格の低予算を実現しました。実際の移住者から自然な言葉を引き出してくれたキャストも素晴らしかったです。ちなみに、監督をお願いした村⼭和也監督は、前作の短編映画『堕ちる』で、2017年バレンシア国際映画祭のグランプリなど三冠を獲得しています。『明⽇を、みつけに』は、見附市のHPで公開中です。地方暮らしの気づきが得られますので、ぜひ見て欲しいですね。
土地の個性を活かしながら、弱みを強みに転換する、地域活性化の戦略的枠組みを考案。
移住促進や観光開発など地方ビジネスにおいては、どのようなことが重要だとお考えですか。
それぞれの地域固有の強みにこだわり、活かすことだと思います。でもこれが難しい。戦略立案には、SWOT(スウォット)という分析ツールがよく使われます。S(strength)は強み、W(weakness)は弱み、O(opportunities)は機会、T(threats)は脅威。これで現状を分析し、機会はあるのに弱みなところは取りこぼさないようにしましょう、弱みで脅威のところは撤退しましょうといった戦略を立てるわけです。しかし、地方ビジネスでこれをやると、たいてい失敗します。弱みばっかり気になるからです。よそにはあるのにウチは無いといった発想が、どこに行ってもゆるキャラやB級グルメばかりといった紋切り型の振興策を生んでしまいます。また、日本列島全体が少子高齢化の脅威の環境にある中で、知名度が低いとか冬は降雪が多いなど地域の状況を弱みと捉えれば、撤退しましょうという戦略が導き出されてしまいます。地域は撤退の対象ではありません。ビジネスの足場なんです。地域のビジネスでは、従来のビジネスの思考の枠組みそのものを⾒直す必要があります。そこで、地域の現状を分析し、活性化のための戦略を考える枠組みを考えました。
地域の現状を分析する枠組とはどのようなものですか。
SWOTに代わるものとして、StW(シチュー)を考案しました。機会も含めた「S( 強み)」と脅威も含めた「W(弱み)」の真ん中に、「Turnaround( 発想の転換) / Trigger(きっかけ)」を置きます。地方にとって弱みを思いつくのは簡単ですから、そこから強みに変えられるものはないかと知恵を絞るのです。
クロスSWOTに代わるのは、UStWC(アストゥック)です。StW(シチュー)の土台となる土地の個性「Uniqueness」は何かを押さえ、戦略の実行にあたっては、予測される確実な未来年表「Chronologize」からベストタイミングを抽出します。例えば、お寺の門前町のビジネスなら、開祖の何回忌だとか秘仏のご開帳だとかを意識するのです。いつまでに実施するかを決めれば、そこから逆算して、いついつに何をすればよいかがはっきりしますし、その土地にとって意味のあるタイミングなので、土地の個性を最大限に活かすことができます。
U(土地の個性)では、「4がら」を意識します。「時節がら(イベント等)」「ひとがら(文化、出身者等)」「くにがら(歴史、交通、産業等)」「土地がら(⾃然環境・農林⽔産鉱業等)」の4つです。時節がらは瞬発力があり即効性がありますが持続力はありません。土地がらはその逆です。土地のどの個性をコアにしているかで、求められるアピールも変わってきます。
こういったオリジナルの枠組も用いながら、クライアントと一緒に戦略を考えていきます。
福井県内で、このツールを使って取り組んでいる事業はありますか。
福井県坂井市の観光ビジョン戦略基本計画策定委員会のメンバーになっているのですが、委員会での私の発言には、これらの枠組みによる発想がベースとなっています。次の新しい戦略基本計画には、これらの発想が活かされているはずです。また、福井県の名産品は越前ガニばかりが有名ですが、UStWC(アストゥック)の発想による商品プロデュースも永平寺町を中心にいくつか進んでいます。4がらの発想で、県内屈指の観光スポットである東尋坊の魅力をいっそう高めていくプランも温めています。
既存のものからストーリーをつくり出す、地域活性そのものがクリエイティブ
東京から戻られて福井の印象はいかかですか。
⾞で少し⾛れば、海も⼭もあり、週末に全部⾏くことができるのがいいですね。⾃然があるとクリエイティブな発想が⽣まれてきます。私も海岸にあるシェアオフィスでアイデアを練ったりしています。このオフィスのオーナーは内田製材所の社長ですが、地域の持つ力の塊のような方で、よき理解者です。景⾊の⼒が人格に反映している。この出会いも福井で起業したがゆえです。空とか、⽇本海の⼣⽇とか、冬の荒れた海とか、観光地ではない何気ない景⾊にとてつもない⼒がある。これが⼈を豊かにするということにもっと多くの地元の⽅が意識的になるとよいのにと思っています。
景色をはじめ、その土地のありのままをどう発信するかを御社が提案されるということですね。
借景は日本の文化です。国や歴史の意味が問われる今日だからこそ、それらを超えた存在である景⾊が意味を持ちます。これをどうビジネスや地域振興に活かしていくか、そのために知恵を絞る。他所の真似ではなく、その⼟地にふさわしいストー リーを⼀から作り上げていく。それがクリエイティブです。地域活性そのものがクリエイティブだと思っています。
そういったお考えが社名の由来でしょうか。
⼤学の恩師の一人である宮永國⼦博士の著作『The Creative Edge』からいただきました。ビジネスをフィールドにした⽂化⼈類学の本です。エッジというのは最先端という意味もあるし、 端っこという意味もある。端っこの辺境の地こそがクリエイティブを⽣み出すんだよということで、名前を頂戴しました。
今後どのような展望をお持ちですか。
「UStWC(アストゥック)」の発想を活かした地⽅創⽣を目指す中で、まずは⾜元の福井の観光地の再開発、活性化を実現させたいですね。次は、日本海側をはじめ、各地に広く展開していきたいと考えています。「幸福度No1」というのはデータ をもとにした記録ですから、No2やNo3に落ちてしまうと価値が無くなってしまう。「幸福度No1」を記録から記憶へ。「幸福と⾔ったら福井だよね」と感じてもらえるような場所を作りたいと思っています。福井県は「幸福度No1」と⾔われていますが、それを体験できる場所がない。
最後に、これから起業される方にアドバイスをお願いします。
私⾃⾝は、サラリーマンからの⾃然な流れで⼀歩踏み出した気がしています。発端はシリコンバレーでの経験で、それが今とつながっています。⼀⾒関係ないようなことが、実は繋がっていたりするものです。また、起業はさまざまな⼈の流れの中で⾏われるもので、いろんな繋がりがその後⽣きてきます。いま起業の流れにある⼈は、その流れを信じ、うまく活かして⾏ってください。
取材日:2018年10月30日 ライター:井上靖恵
株式会社 クリエイティブ・エッジ
- 代表者名:代表取締役 村中克成
- 設立年月:2017年8月
- 資本金:700万円
- 事業内容:地域活性化のためのコンサルティング及び映像制作、商品プロデュース、地域開発等
- 所在地:〒919-0475 福井県坂井市春江町東太郎丸9-12-1
- URL:http://www.creative-edge.co.jp/
- お問い合わせ先:info@creative-edge.co.jp