デザインを通して“人生のパートナー”となり、共に歩みたい
- 東京
- 株式会社エミュウ 代表取締役 山路 麻美子 氏
幅広い業務をトータルで受注。統一感とコストカットが生まれる
内装から施工管理、宣伝用のパンフレットまで幅広いデザインをトータルで受けていますが、ここまで一括して請け負う会社は珍しいのではないですか?
はい。様々なデザインを注文できる会社はありますが、コンセプトからデザインまでグラフィックと設計を一括でパートナーとして提案している会社は存じあげません。オープン前の忙しい中、クライアント様ご自身が外注するのは、大変なことでもあります。ですから、デザインのプロである私たちが責任を持ってサポートさせていただきたいと思い、一括して請け負う仕組みを作りました。協力会社やチームと共に、クライアント様の思いを形にできるよう、一人一人丁寧に対応させていただいています。また、私が自らデザインすることはもちろんございますし、最終的な確認は大小関わらず私が必ず行うようにしています。
どうして、ここまでトータルで請け負うことにこだわるのですか?
クライアント様にトータルで関わることによって、本当によいデザインが生まれると思っています。設計、内装、印刷物を、様々な業者様にご注文されると全体として眺めた時に、どうしても統一感がないものになることが多く見受けられます。弊社で一括して請け負うことで、建築、内装からロゴ、家具、名刺まで全体として統一感のあるデザイン提案が可能となります。また、様々な部門にまたがる見積もりを、まとめて一つにすることで、別々に業者様に発注するよりも、コストカットにつながります。
デザインを通した“人生のパートナー”を目指す
仕事において、大切にしていることは何ですか?
“Design(デザイン)”という言葉を英訳すると、「人生を設計する」という意味もあります。お客様と共に希望や夢をカタチにしていくことで、デザインを通した“人生のパートナー”になりたいと思っています。
“人生のパートナー”とは、どのような関係なのでしょうか?
お仕事を依頼されたら、その方のお人柄や趣味、好きな国など、設計やデザインに関係ないことを知りたいと思っています。どんなものが好きか、趣味は何か……仕事の話だけでなく、その方自身を知ることによって、その方が輝ける“ステージ”をデザインしてあげられると思うのです。だから仕事が終わった後も、お食事をしたり、ご相談に乗り続けたり、というような関係が続くクライアント様も多くいらっしゃいます。
そういう付き合いを続けているお客様は、どんな方々ですか?
新宿のワイン&ソーセージバル「mosh kitchen(モッシュ キッチン)」は、内装設計からパンフレット、ポスター、看板、缶バッチまで幅広くデザインしました。完成した後、私はその店のお客さんとしてよく飲みに行ったり、美味しいお食事をいただいたり、イベントを開催させていただいたりしています。
他も付き合いが続いているのは、飲食店が多いですね。例えば、現在トータルで内装設計させていただいている人形町のブラジル料理店「Bom Fruto(ボンフルート)」は私が設計含め、ユニフォームから全てをデザインさせていただいております。大切なお店を作らせてもらう経験がまた一つ増えることに、心から感謝の思いでいっぱいです。
クライアント様と協力してくれたチームと一緒に作り上げた “ステージ”で、クライアント様が喜んでくれている姿を見ると、うれしくて何度も足を運んでしまいます。そこから、また新たな出会いが生まれることもあります。
「EMUE(エミュウ)」という社名には、どんな意味があるのですか?
英語の“emotion(エモーション)”、「胸いっぱいの感動」という意味です。感動を与えるデザインをお客様に届けたいという思いで名付けました。「設計事務所」という名前を使用しなかった理由は、従来の枠にはまらず、より多くのリクエストに応え、将来的に変化を柔軟に受け入れられるデザイン提案をしたかったからです。そこで訪れる新しいことや初めてのことについて、ワクワクしながら常に学んでいきたいと思っています。
新しく勉強して始めた、従来の枠にとらわれない仕事がありましたら、教えて下さい。
「設計士がゼロから作るウェディング」という事業で、新郎新婦のお二人が大切にしているものを生かしたウェディングを提供していました。例えば、サッカー好きなカップルなら、国立競技場で式を挙げて、誓いのキスならぬ“誓いのシュート”をする。体育館を会場にして、ケータリング会社と共に配膳人を入れ、フレンチのフルコースをご用意いたしました。
ご好評をいただき、多くのご注文をいただいていました。嬉しいことではございますが、本業のデザインに支障が出てはいけませんので、一時的にお休みをいただいています。今、ウェディングに興味のある人材を育てているので、いつか再開できるといいですね。
国際協力の仕事から建築デザイナーへ
デザインの仕事を志したきっかけは?
服飾デザインや海外の洋服ブランドの仕事をしている親戚が多い環境で育ちました。小さい頃、パリコレなどのファッションショーが載った雑誌を見ているうちに、洋服はもちろん好きでしたが、ファッションショーのステージや空間に興味を持ったのです。 当時の私にはその空間が、光や様々な色、様々な人々が入っているキラキラした“箱”に見えました。「この箱はいったい何? 私はこの箱を作りたい」と思ったのです。それが設計に興味を持った最初のきっかけです。
設計士になる前には外務省で働かれていたとか?
ハワイの大学で経済協力を学んだことを生かし、外務省で発展途上国に対する援助を専門として働き始めました。そこでは発展途上国に学校や病院を建てるプロジェクトなどを進めていました。元々興味があった設計の仕事にも関われる上に、国境を越えて人々がつながる仕事に、大変やりがいを感じていました。
やりがいを感じていた国際協力の仕事から、なぜ建築デザイナーの道へ?
そんな中、転機が訪れました。アメリカ同時多発テロ事件があり、イラク戦争が始まりました。さらに、日本の外交官2人がイラクで銃撃を受けて亡くなる事件があったのです。一人はお世話になった方、もう一人は省内で尊敬を集めている方でした。私はショックで号泣しました。世界情勢が動き、身近な人が亡くなる中で、「自分の“人生の役割”とは何だろう」と考えるようになったのです。
“人生の役割”は、設計を通して、人に寄り添うこと
山路さんにとっての“人生の役割”とは?
人が集まって、人が空間を作る。人がいないと、空間も建物も社会も意味がなくなってしまいます。私は人が好き。自分の“人生の役割”を考えた時、もっと一人一人に向き合って、寄り添っていきたいと思ったのです。
外務省の仕事は自分に向いていましたが、大きなプロジェクトだと、なかなか一人一人には寄り添えません。自分は具体的に何を通して人に寄り添えるだろうと考えた末、小さい頃から興味のあった設計を専門として学ぼうと決めました。それで、外務省をやめて、フランスの大学院で建築やデザインを学びました。
大きな決断ですね。帰国後にどのようなキャリアを積んで起業したのですか?
一級建築士の事務所で修行しました。最初は図面を引かせてもらえず、パーティーや人が集まる場所にばかり連れていかれました。それで、「図面を引かせてほしい」と泣いて喧嘩したこともありました。その時、教わっていた建築士から「しゃべれる設計士になれ」と言われたのです。
優れた図面を引ける方は多くいらっしゃいますが、私ならば得意のおしゃべりを通して、人と関わりながら新しい仕事を積極的に作っていける。そういう意味が込められていたのだと思います。今でも印象に残っている言葉です。
今後、経営者として、どんな目標を持っていますか?
元々、国際協力の仕事をしていたこともあり、国境を越えて人と人がつながることに喜びを感じます。今も海外の展示会や設計の仕事を請けていますが、今度もさらに海外の事業を請け負っていきたいですね。また、一企業として、発展途上国の学校や病院の設計に携われたらいいなと思っています。
デザインを通して、人の役に立ち、人に寄り添いたい。そんな思いで、これからも日々学び続けていきたいと思います。
取材日:2018年11月22日 ライター:すずき くみ
株式会社 エミュウ
- 代表者名:代表取締役 山路麻美子
- 設立年月:2009年5月
- 資本金:200万円
- 事業内容:設計、内装、展示会運営・施工管理、グラフィックデザイン、ウェディングプロデュースなど
- 所在地:〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿2-28-10 Shu BLDG 2609
- URL:http://emue-design.com
- お問い合わせ先:emue@emue-design.com