職種その他2019.02.27

ブランドデザインで本質的な問題解決を行い、社会に寄与する価値を生み出す

沖縄
株式会社 折紙 代表取締役 奥平 健一朗 氏
沖縄にある「株式会社折紙」は、単にデザインを制作する会社ではありません。代表取締役の奥平健一朗さん曰く「ブランドの創造・発展・持続のために必要な全ての所作」≒ブランドデザインを事業の根幹とする会社です。実務は多岐に渡りますが、まず必要なのはブランド化したいモノ、コト、サービスの問題を突き止め、ブレイクスルーの糸口を見つけること。そのためにクライアントと向かい合う奥平さんの真摯な姿は、ドクターやカウンセラーさながらです。「どんなものにもブレイクスルーは必ずある」と断言する奥平さんに、その真意や今後の展望について詳しく伺いました。

「落とし所ありき」のサービスでは本当の問題解決はできない

折紙を立ち上げるまでの奥平さんのキャリアを教えてください。

私は美大やデザインの専門学校出身ではなく、独学でデザインについて学んできました。デザインに携わるようになった大きなきっかけは、ある出版社で営業と編集の責任者になったことです。約20年前ですが、エディトリアルの仕事というのは企画・構成、取材、レイアウトやコピー、グラフィックデザイン、タイポグラフィー、フォトグラフィーなどの知識、広告枠の営業のスキル等が総合的に必要になりますので、実践的に多くのことを学べたと感じています。また、ちょうどその頃から、「ブランディング」という概念が言われ始めました。私自身興味を持ち、自分なりに勉強していたのです。

その会社を退職後、大型セレクトショップでのGM(本部長)を経て、29歳で飲食事業、デザイン事業、不動産事業を柱とする会社を沖縄に設立します。当時は若かったということもあり万能感に溢れていましたから(笑)、かなり強引な経営をしていました。

強引な経営とはどのようなことですか?

力で周囲をねじ伏せ、自分の思うがままに全てをコントロールすることです。それが経営だと信じていましたので、ミスしたスタッフなどを日々追及していました。しかしそのような方法では、会社は当然うまく回らなくなります。5年ほど続けましたが、やがて私の心も折れてしまい退任を決意します。非常に痛い経験でしたが、経営について大事なことを学べたように思います。会社というものは、関わる人全てが有機的に結びつかないと成り立たない、ということを掴めました。

その後、心にぽっかり穴が空いたような状態が半年ほど続いていたのですが、ITサービス会社を経営する知人から声をかけてもらい、その会社のマーケティング担当役員をやることに。そこで働くうちに、「落とし所ありき」のサービスというのは、本質的なクライアントの問題解決にならないと気付いたのです。

「落とし所ありき」のサービスとはどのようなものでしょう?

その会社の事業はWebサイトやシステム、アプリの開発、制作でしたので、クライアントに販売するものもそれらになります。しかし、クライアントによっては必ずしもそれが必要ではありませんし、それでは問題解決できない場合もあります。にもかかわらず、その会社のサービスという「落とし所」が決まっているがゆえに、クライアントをうまく誘導し販売する必要があります。世の中の商売のほとんどがそのような仕組みで成立しているとは思うのですが、それがどうしても納得できなかったのです。

しかしマーケティングの責任者がこのように感じてしまうというのは、会社としてはよくないですよね(笑)。ですので退社しました。そして、会社都合の「落とし所」を無くし、クライアントの事業環境や背景、人間性や世界観を踏まえ、その事業がどうやったら世の中で必要とされ維持できるのかをテーマにあらゆるものをデザインできる、つまりブランドデザインできる会社を作ろうと「折紙」を設立したのです。

コンサルティングとクリエイティビティの両輪で、パワフルにブランドデザインを進める

御社の事業の根幹である「ブランドデザイン」とは、わかりやすく言うとどのようなものでしょう?

端的に言うと、ブランドの創造・発展・持続のために必要な全ての所作だと思います。自治体、事業体、コンテンツ、ファッションなど、ありとあらゆる対象が発展し持続するために必要なことを、設計、構築、実装、運用するまでの包括的なプロジェクトをブランドデザインと呼んでいます。

どのようにブランドデザインを進めるのでしょうか?

リサーチやオーナーとのセッションを通して、クライアントが抱える問題を見つけることからスタートします。特にセッションは大事にしています。深くセッションを続けるうちに、オーナーのトラウマや原体験にまで話が及ぶことが多々あります。カウンセラーやドクターのようだと言われたこともあります。

探り当てた問題というのは、オーナーが当初考えていた問題とは異なる場合がほとんどです。というのも、オーナーの思い入れが強すぎて近視眼的になっていたり、部分の現象そのものを問題と認識されていたりするため、真の問題、つまり病巣に気づけないからです。しかし私たちは、その案件を一消費者としてフラットに観察することを心がけていますので、オーナーよりもその病巣に気づきやすいのです。

率直に問題を指摘しますが、オーナーにとって耳の痛い話となる場合もあるため、緊張が走ることもしばしば。そうならないためにも、丹念にリサーチし根拠を整理し、紐解きながらロジカルにプレゼンすることで納得してもらえるようにしています。そうすると、みなさん目から鱗が落ちたように「ハッ」とされますよ。

その後はどのように進めるのでしょう?

問題を特定できたということは、ブレイクスルーの糸口を見つけられたということですので、解決できたも同然です。それからは様々な仮説を立て、最高のソリューションは何かを導き出します。ソリューションは様々ですが、ブランドデザインだからといって必ずしもビジュアライズするわけではありません。私たちの考えるブランドデザインとは、問題解決のために必要なこと全てをディレクションすることです。

重要なのは、ブランドに触れた時に好感を感じてもらい、信頼が伝わるUXを設計することです。そこには制約はありません。空間、音楽、香り、スタッフの立ち振る舞い、ユニフォームなどをディレクションすることもあれば、必要とあれば決算書を見たり、人事の施策に対し問題提起することもあります。もし「何もしない」ことがそのブランドにとって最善となれば、それさえもデザインです。実際そうした事例もあります。

何もしないこともデザインとは驚きです。では、御社が手がけたブランドデザインで具体例があれば教えてください。

沖縄の産業振興公社からいただいた案件に、沖縄の「伊江島(いえじま)」という離島の漁業活性化がありました。漁業従事者が高齢化し漁獲高も減少しているということで、観光漁業で活路を見出したいという依頼です。漁業体験を「海人(ウミンチュ)遊学」としてブランド化しプログラム設計したところ、全国から修学旅行の予約が入るようになり、活性化につながりました。また、紙のジュエリーブランド「Paper Jewelry」のコンセプトのリブランディングを行った際も、販路が大きく広がりました。ただし我々の仕事は、あくまでもクライアントとの共創作業によるもの。弊社の作品などとは考えていません。

沖縄から世界水準のブランドデザインを発信したい

沖縄に折紙を設立された理由はありますか?

残念ながら沖縄には、社会に価値を生み出すオリジナリティに富んだ事業が少ないと感じています。自分の地元である沖縄に、ブランドデザインの力でなんらかの貢献をしたいという気持ちがあります。

もう一つの理由は、沖縄は地方であるがゆえに、クライアントに対して本質的なアプローチをしやすいからです。東京の大企業や上場企業とも取引がありますが、クライアントが抱えている本質的な問題を導き出すための議論に到達が難しく、納得のいくブランドデザインを進められないことが多いのです。もちろん、そのテーブルに付けない、弊社の力量不足もあります。

それはなぜですか?

大企業の抱える構造的な問題があるからだと思います。先ほど、経営トップとのセッションを大事にしていると言いましたが、大企業では一つのプロジェクトが細分化されているため各担当者としかセッションできず、問題を探り当てるような深い意見交換ができません。さらに株主やトップから圧力がかかるため、大胆な改革を行うこともできず、予め用意されたブリーフシート通りにプランニングすることを求められます。それに比べ地方の方が、企業の規模が小さい場合が多く、経営トップと直接対話がしやすい環境にあります。

ブランドデザインの会社として御社の強み教えてください。

強いコンセプトを発見できることが強みだと思います。経営トップやオーナーとリアリティのある意見交換を重要視しているのはそのためです。意見交換を通して問題を浮き彫りにしてこそ、シンプルで強いコンセプトが作り出せ、それに対応したネーミングや戦略、商品、サービスが開発できるのです。もう一つの強みとして挙げられるこのは、ニュートラルな状態で常にクライアントやプロジェクトと向き合っていることです。

ニュートラルな状態とは、どのようなことでしょう?

オファーをいただいたとしても、目先の売上のために何でも引き受けるのではなく、よくよく吟味して自分たちがやるべき仕事かどうかを見極めます。その結果プロジェクトが社会や消費者、クライアントのためにならないと感じたら、辞退させていただいたり、クライアントに対して弊社の見解をお伝えし再考を促すよう提起します。できる限りクライアントとイーブンな状態で、プロジェクトに取り組むようにしています。

最後になりますが、御社の今後の展望を教えてください。

本質的なオリジナリティのある事業が少ない沖縄において、価値ある事業を誰かが生み出さないといけません。私たちが先んじて、全国、引いては世界にも引けを取らない会社にして行きたいと思っています。沖縄で存在感を発揮できれば、「こんな会社が沖縄にあるんだ」と沖縄の若者たちが誇りに思い、少しでも励みになれるのではないでしょうか。

技術や洞察力、クリエイティビティについては、日本のエージェントと遜色ない仕事ができていると自負しています。グローバルブランドの仕事をしているヨーロッパのエージェントをベンチマークにしていますが、彼らの背中も見えていると感じます。彼らもコアなディスカッションを重ねながらブランドを築き上げていきますので、そのスタイルを弊社でも続け日本や沖縄の文化の特長を掛け合わていけば、世界と肩を並べられるデザイン会社になるはずです。

取材日:2017年12月7日 ライター:仲濱 淳

 

株式会社折紙

  • 代表者名:代表取締役 奥平健一朗
  • 設立年月:2006年10月
  • 資本金:2,100万円
  • 事業内容:ブランドデザイン
  • 所在地: 沖縄本社)〒901-2114 沖縄県浦添市安波茶1-27-8 大翔ビル203
        東京サテライトオフィス)〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿南1-10-10 プランドール恵比寿ビル5F
        [Design Barcode,inc 内]
  • URL:https://orgm.jp/
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