テレビ業界に必要なのは人材!!継承と個性の融合で魅力的な番組を創出

大阪
株式会社 一歩本舗 代表取締役 空口 一城 氏
関西ではお馴染みの『ちちんぷいぷい』、『せやねん!』(MBS毎日放送)、『大阪ほんわかテレビ』(読売テレビ)、『なるみ・岡村の過ぎるTV』(朝日放送テレビ)などテレビ番組の制作を数多く手がけている株式会社一歩本舗。ディレクターや番組全体のデイレクションを一手に引き受ける総合演出としても活躍している空口 一城(そらぐち かずき)社長は、この仕事の魅力について「何カ月もかけて制作したものが形として残らず、1回で終わる潔さ儚さが作り手としての魅力なんです」と語ります。フリーで活躍するディレクターが多い中、このままでは若いADが育たないと業界全体の将来も慮り、社員の育成にも余念がありません。
自分が面白味を感じて作らないと魅力的な番組は作れないと、仕事に誇りと強い信念を持つ空口社長にテレビ業界への想い、また将来の展望などについてお話をうかがいました。

この業界で働くきっかけもテレビから

これまでのキャリアについて教えてください。

この業界に興味を持ったのは、中学生の時に見たテレビの制作現場を舞台にしたドラマで、そこからずっと夢がぶれませんでした。高校卒業後は専門学校に行きながら、テレビ局で天気番組の制作スタッフをアルバイトで始めたんです。早朝5時半から番組が放送されるので、夜中の3時半からスタジオに入り、一人で準備をする日々が続き大変だったのですが、現場で多くのことを学びました。その後、いくつかの制作会社で実績を積み、東京のテレビ局の仕事もしましたが、眠れない・帰れないは当たり前の時代でしたので、心身ともに結構きつかったです。AD時代はとにかく早くこの状況から抜け出してディレクターになりたい、その一心でした。ディレクターになれば、周りに振り回されることなく自分のスケジュールで進められますし、視聴率が良ければ自分の手柄になりますしね(笑)。毎日放送の「ちちんぷいぷい」の立ち上げ時にチーフADになり、当時のディレクターにその仕事ぶりを認めてもらい、その方が所属する制作会社へ誘っていただきました。そこで本格的にディレクター業等を教えていただき、関西テレビの「2時ドキッ!」で念願のディレクターになることができました。

良い人材なくして良い仕事はできない

独立されたきっかけは何ですか?

当時勤めていた制作会社の社長をはじめ、ほとんどの人が職人気質で、会社として社員を育てるとか売上の重要度をあまり考えていないように感じたんです。一人挫折しかけていた若手の男性社員がいたのですが、誰からも手を差し伸べられることもなく、このままだと潰れてしまうと思ったので、彼の才能を見込んで直接テレビ局にギャラ交渉をして常駐で置かせてもらえるようお願いしたんです。次期社長候補も同じようなタイプだったので、それならその彼を連れて独立しようと思い、会社に引き留められ2年かかりましたが退職に至りました。

雇われる側から雇う側になったことで、心境の変化はありましたか?

社員が育っていくのが本当に楽しいです。年数を重ねるごとに社員はどんどん偉そうに僕に色々言ってきますけど(笑)。例えば僕がロケのスケジュールを大まかに入れていると、入社して2年も経てば「これ無理違いますか?」とかすぐに言ってくるんです。口では「うるさいなぁ、今から調整するねん」って返すんですけれど、本音はここまで分かる位に成長したんだなって嬉しいんです。前の会社から連れて来た彼も今では局内で僕より有名になるくらいディレクターとして活躍しています。夜中に撮影が終わっても皆がこの事務所に戻ってきて、会社にあるソファーで寛いでくっちゃべっています。他の制作会社からは疲れているのになぜ事務所に戻るのか不思議がられていますけれど……。

思った事も言いやすく、皆にとって居心地がいい会社なのですね

そうあってほしいです。でないと社外で力が発揮しづらいと思います。上から怒られてばかりだと、委縮してしまって良い案が思い浮かんでも会議等で発言が出来なくなってしまいます。目上の人と居心地良く付き合うことを社内で学んで、どんな場所でも、どんな案でも思いついたことをちゃんと人に話せるようになってほしいのです。若いADの発言って新鮮で意外とヒントになることが多いんです。そういうものをどんどん取り入れていかないと新しいことって生まれてこないと思うんです。

大切なのは人を知ること

最近の御社の実績を教えてください。

関西の皆さんに馴染みのあるところで、読売テレビの『大阪ほんわかテレビ』の「たむらとすちえのヒットの秘密パクります」というコーナーを立ち上げから担当しています。これはざっくり言ってしまえば人気店の紹介になるのですが、お笑い芸人が経営する焼き肉店にもう一度活気を取り戻す方法を探る、という切り口にするだけで、美味しいハンバーグ店の紹介でも、ヒットの理由を見つけ出すというコンセプトでレシピから紹介していくと斬新な印象のものに仕上がるんです。また、毎日放送の『せやねん!』の「スマイル工務店」という若手の男性漫才コンビを起用したコーナーは、立ち上げ時から僕がディレクターを担当していたものを、社員に任せたのですが、正直、今のほうが遥かに面白いコーナーに仕上がっています。僕は要所要所で撮り終えてしまうのですが、その社員は彼らのノリを理解した上でずっとカメラを回しているんです。それが出演者の良さを引き出し、結果コーナー全体が面白くなる要素につながったんです。

出演者の特長を理解することが重要になってくるんですね。

僕が15年程ずっと一緒に仕事をさせてもらっている男性漫才コンビがいるのですが、僕が若い頃に欲張って撮り続けていると「いつまでカメラを回すつもりやねん」とよく怒られたんです。彼らが今オチを言ったというのを察知して瞬時にカメラを止める、それを阿吽の呼吸で出来るように鍛えられました。それをスマイル工務店の漫才コンビにも同じようにしようとしたら、それは彼らには合わなかったんです。それを見抜いた社員の凄さに悔しい半面、その何倍も嬉しかったですね。

テレビ局からは、どのようなオーダーがくるのですか?

既存の番組にタレントや内容に指定がある新コーナーの立ち上げや、新番組の立ち上げで、テレビ局からは予算と時間帯の枠だけを提示され後は弊社サイドで取り仕切るといった依頼もあります。現在、愛知県で担当している案件は、1時間で予算のみ設定されています。特番の総合演出をしながら、新番組やコーナーの立ち上げも並行して進めています。

空口社長にとって仕事の醍醐味とはズバリ何でしょうか?

テレビって例えば約4カ月かけて制作したものが、書道や絵画のように形に残らずリアルタイムに放送時間内に1回で終わってしまい、基本的にその後、一生誰の目にもふれないんです。そのいさぎよさ、儚さがたまらないですね。100人作ったら100通りのものができますし、コピーができないという所も作り手としては面白いところです。あと社長としてはやはり社員の成長が一番励みになります。最近は編集もパソコンでほとんどの事ができるようになり、フリーで活動するディレクターも増えているのですが、それでは駄目だと思っていて、自分はディレクターまで育ててもらったのに、なぜ人を育てないんだろうと、自分たちのことだけだとADは育たないんです。脈々と受け継いでいくものをちゃんと伝えたくて、僕は会社組織にして社員を雇い育成することにしたんです。社員にもフリーになるにしても、必ず人を雇って育てなさいと言っています。

上になればなるほど仕事は面白くなる

最近はメディア接触時間などWeb動画の台頭について、どのようにお考えですか。

僕個人としては、ボクシングもリングがあるから興行として成り立つのであって、リングを取っ払ってグローブを外すとただの喧嘩になってしまうと考えています。リングに入ろうと思えばちゃんと練習やトレーニングもしなければいけないし、体力もつけないといけない。その上、ルールや縛りがある中で限界まで取り組むという難しさもあります。テレビとWeb動画の違いってボクサーとストリートファイターの違いだと考えていて、今はストリートファイターのリアルさが受けています。ただ万が一地上波が無くなっても潰しが利くのはちゃんとトレーニングを積んだものだと思います。社員にはWeb動画の仕事をするのはいいが、トレーニングを重ねリングに上がれる状態になってからにしなさいと話しています。

今後はどのような人材を求められていますか?

怒られた10分後に普通に話が出来るような切り替えが早い人です。ロケ中にどれだけ怒鳴られても収録後、皆で食事する時には和気あいあいとして引きずらないことが一番必要な気がします。あと、入社して半年とか1年で嫌になるタイミングって誰にでも出てくるんです。1年間取り組んでいる時間は少しずつでも経験を積み重ねているのですが、辞めてしまえばその費やした時間経験全てが「無」になってしまうんです。辞める前にそのことを考え、時間に対してとことんケチになってほしいと思います。

今後の展望について教えてください

この業界ってプロデューサーの下に総合演出がいて、その下にディレクター、ADといった構成になっていて、社員全員には総合演出ができるようになってほしいです。例えば1時間番組の場合、15分間の4コーナーに各ディレクターがいて、それぞれ自分の持ち分のみ責任を持って担当するのですが、総合演出になれば統括して丸々1時間を受け持つことになるんです。視聴率が悪ければスポンサーへの責任も含め全部自分にのしかかってきます。その分目標視聴率を超えた時や出演者・視聴者などから喜びの声をいただいた時には本当にたまらないですね。自分のやりたい番組を制作できるようになり、早くそれを味わってほしいです。

取材日:2018年12月20日 ライター:川原 珠美

株式会社 一歩本舗 [IPPO HONPO.Co.,Ltd]

  • 代表者名:代表取締役 空口 一城
  • 設立年月:2014年3月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:テレビ番組の企画制作/CMの企画制作 など
  • 所在地:〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋3丁目5-3-305
  • 電話:06-6242-8781
  • FAX:06-6242-8782
  • URL:http://ippohonpo.co.jp/
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