「よそ者視点」×「地域密着」で地方の課題を解決へ
- 新潟
- 株式会社クーネルワーク 代表取締役 谷 俊介 氏
東京在住・独立志向ゼロから、新潟へ
会社立ち上げのきっかけを教えてください。
私は現在31歳、“ゆとり第一世代”と言われる世代です。丁度リーマンショック後の就職氷河期を目の当たりにして、大手に就職しても安定は望めないし、100社もエントリーしてどこか就職できても頑張れるイメージが湧きませんでした。そこでベンチャーの方が合っているのかもしれないと思い、友人の兄が立ち上げた不動産に特化したWebサービスを展開するベンチャー企業に大学4年でアルバイトとして入り、卒業後社員になりました。特に「この業界で働きたい!」ということはありませんでしたが、Webであればどの業界とも関われるし、新しいサービスがどんどん出るので新鮮な気持ちで励めるかと思ったんです。
独立願望は当時なかったのですか?
ありませんでした。自分が成長できるとか興味を持てるという基準でWeb業界に決めました。当時は主に大手不動産会社にマーケティングやSEOなどのコンサルティングを行ったり、自社の新卒採用などあらゆることを担当していました。 しかし、社会人経験がほとんどない自分がコンサルティングを行うことに違和感が募り、また社内では離職者が多かったことにももどかしさがあり、同期や後輩が辞めるとなった時に「一緒に何かやろう」と声をかけて、4人で東京から新潟に移住して独立することにしたんです。
当時は今ほど「ローカル」は注目されていなかったかと思います。
「何かやろう」と言い始めた時は、全く新潟に行くことは考えていませんでした。ただ社会人経験の浅い自分たちが東京で事業を立ち上げることは現実的ではなく、自分たちで着実に事業展開していこうと考えた時に、地方のほうが地域の人や資源との繋がりを基にやっていけるのではないか、地方でやるのも面白いのでは、という話になりました。新潟は祖父の出身地であることなど縁があり、東京からすぐ行けることもあり(新幹線で約2時間)候補になりました。
創業時の事業展開の試行錯誤を教えてください。
新潟に来た段階では本当に何も考えておらず、しかもWebには携わっていましたが技術職ではなかったので、まずはみんなアルバイトをしながらサイトの作り方などを勉強していました。それが2011年の4月です。事業を考える上でヒントになったのが、前職で知った「ドロップシッピング」という在庫を持たずにネット販売を行う仕組み。現在事業の核としているネット通販サイト「新潟直送計画」の前に2~3個通販サイトの立ち上げを行っているのですが、そこでドロップシッピングを生かしながらノウハウを磨いてネット通販に可能性を見出しました。時代的なこともあり、当時は放射線測定器やシムフリーのiPhoneを販売していましたね。
「よそ者視点」を生かして新潟の産品をネット販売
そしてついに「新潟直送計画」が誕生します。
生産者さんと直接連絡を取りながら、2011年の年末に約10店舗が参加する形で「新潟直送計画」を公開しました。 新潟に来た時に「(生産者は)作るのはうまいけど、売るのが下手だよね」という話を聞き、実際私も枝豆が美味しいから東京の両親に送ろうと思っても手軽に送れる手段がないなど、意外に販売環境が整備されていないことに気づいたんです。それに新潟で有名な「へぎそば」「ぽっぽ焼き」「タレカツ」などは、県外においてはほとんど知られていません。「知らない=探している人がいない」状況。聞いたこともない、試食もできない商品はまず売れない。その前提で、じゃあどう伝えたら興味を持ってもらえるか、という発想で、丁寧な取材で産品それぞれの魅力にフォーカスして紹介サイトを作っています。生産者の皆さんも作る作業で忙しいので、サイトの構築だけではなく、生産者さんの負担が少なくなるよう売買や配達のシステムも独自に開発しています。丁寧な取材と独自のシステムは、大手のネット通販企業では真似できないと思います。 この「新潟直送計画」は、私たちが「よそ者」だったからこその気づきや視点が設計に反映されているサービスなんです。
最初から手応えはありましたか?
分かってはいましたが、最初はなかなか売れませんでしたね。本当に最初の4〜5年は大した動きがありませんでした。「なんとか軌道にのるまで頑張ってよ」と生産者さんにも結構言われて頑張ろうとしても難しい。創業時はサイトの管理、取材、注文対応しながらバイトも続けていたので、生産者さんの新規開拓もなかなかできませんでした。 またネット通販の重要性を理解してもらえなかったり、「うちは農協で出すからいいよ」と言われると、地域のために必要なサービスだと思って作ったけれど、意外と必要とされていないんじゃないかという思いも湧いてきます。何度もやめようと思いましたが、そこは意地で続けました(笑)。
時間をかけて認知を広げつつ、2016年にもう一社と合併した前後から参加店舗が100店舗を超え、売上が伸びはじめました。 「よそ者視点」をポジティブに生かしてサービスを形にして、今は新潟に思い入れのある出身者が頑張ってコンテンツを充実させています。人手がかかる事業なので、その地域への思い入れが大事だと感じています。 現在は「新潟直送計画」の他に、Web関連の別事業も手がけています。「新潟直送計画」で得た取材情報を基に農家さんのホームページやリーフレット、パッケージなどを提案したりする事業が一つ。そして広告やマーケティングも含むクライアントの事業内容に合わせたホームページ制作と、大きく分けて2つになります。
新潟、山形、長野…地方の困りごとをビジネスの力で解決へ
地方で起業するメリット・デメリットを教えてください。
地方のほうが、その地域で求められているものが明確です。正直なところ東京にいた時は「これをやらないと!」というものは思いつきませんでした。地域は困っていることがあるから、それを解決するというシンプルにビジネスを組み立てることができるんです。 また、ネットはあくまでもツールなので、そこに何を載せるか、どうコンテンツを作るかが重要です。その点、地方は他の人が手をつけていないコンテンツがたくさんあるので、コンテンツそのものが資源になります。 デメリットは採用ですね。地方から都市への人口流出は採用にも大きな影響があります。それに地域活性化が叫ばれていますが、ビジネスでしか解決できないものがあると思っています。だからこそ、地元に根付いた魅力的な企業が若い人を雇い、県内外から広くお金を生む仕事を作ることが大事であり、東京からあえて新潟に来た時点で、そこはやらなければいけないことだと思っているんです。 私自身はやりたいことはあまりないんです。地域に求められているから事業を展開しているし、人を雇って育てている。その結果会社や事業が成長し、そこで働くメンバーが成長していくこと自体が面白いですね。
今後の展望を教えてください。
そう遠くないうちに、資金調達をして長野や富山、山形などでも「直送計画」を出すつもりです。新潟で求められているものは、きっと他県でもニーズがあると思うので、ローカルからローカルへの水平展開ですね。また「直送計画」以外にも地域のニーズに合ったサービスをたくさん作っていきたいです。飲食店や観光の分野に特に可能性を感じています。 また、若い子が意欲を持って働ける会社や地域に貢献する仕事が求められていると思うので、組織的には若い子が生き生き働ける環境を作り、人をどんどん増やしたいです。
取材日:2019年1月15日 ライター:丸山 智子
株式会社クーネルワーク
- 代表者名:代表取締役 谷 俊介
- 設立年月:2016年1月
- 資本金:750万円
- 事業内容:サイト制作・開発、広告・プロモーション、コンサルティング、グラフィックデザイン、アプリ開発
- 所在地:〒950-2022 新潟市西区小針3-37-30 樋口ビル15号
- URL:https://cunelwork.co.jp
- お問い合わせ先:025-378-0158