職種その他2019.03.27

経営者としての経験が、これからのデザインや会社のあり方を気づかせてくれた

広島
有限会社タブロイド 代表取締役 津江 祐一 氏
有限会社タブロイドの代表取締役 津江祐一氏に、デザイン会社の経営者としてのこれまでの経験や現在取り組まれていることについてお伺いしました。

自分にしかできないことを表現したい

デザイン会社を起業されるまでのストーリーについて教えてください。

私は、中学生の頃から漠然と「自分にしかできないことを仕事にしたい」ということを考えていました。それからしばらく、どんな仕事をしたいのか具体的にイメージできないままだったんですが、最初に就職したのがアパレル関係の会社でした。デザインに興味を持ちはじめたのはその後でしたね。ある時、自分にしかできないことを表現するのに相応しいのがグラフィックデザインだと感じ、そこからこの業界に飛び込みました。デザインに関しての専門的な教育は受けていないので、最初はなかなか大変な思いをしましたが、実務を通してデザインの楽しさを知ることができました。当初はデザイナーとして独立することなんて考えてなかったんですが、当時よく遊んでたライヴハウスで知り合ったパンクバンドのCDジャケット・フライヤーのデザイン制作、自身で企画した雑誌を発刊するといった活動の中に「自分にしかできない何か」を感じ、そういった活動が気持ち的な後押しになり、29歳でフリーランスのデザイナーとして独立しました。そして3年後には仕事も仲間も増え、法人化しました。

デザインに対してどんな考え方でお仕事をされていらっしゃいますか?

起業した頃と今では考え方が変わってきていますね。当初はとにかく「良いデザイン」をつくるということばかり考えていました。すごくエゴイスティックな考え方だと思いますが、デザイナーにとっての良いデザインをつくることがゴールになっていましたね。そこにはコンプレックスが根底にあったんだと思います。私個人としては専門的な教育を受けないままデザイナーとして活動していること、固定のクライアントを持たずにゼロから起業した分、売上を上げることにも苦労していたことなど、周りと自分を比べて勝手に劣等感を感じて「いつか見返してやる」的な想いをずっと持っていました。かなり尖ってましたね、当時は。なので、とにかく妥協せず良いものをつくりたいという一心でした。自分に対してもスタッフに対してもそれを課していましたから、良い意味でも悪い意味でも本当に厳しかったですし、社内はいつもギスギスしてましたね。

デザインに対して考え方が変わったのは何がきっかけだったのですか?どのように変わったのでしょうか?

5年くらい前ですが、主な戦力だったメンバーをはじめ大量にスタッフが辞めてしまったのです。今振り返ると自業自得だったのですが、当時は自分自身が否定されたような感覚になって、かなり落ち込みました。その時期にたまたま、本音でスタッフと話せる機会があったのですが、私が話したことに対してそのスタッフが「一人で抱え込まなくてもいい」と言ってくれたんですね。このときに色んなことに気づきました。一番大きな気づきは、今までは“経営者”という仮面を被って「自分は経営者らしくあるべきだ」というスタンスで彼らに接してきたこと。それが自分自身を苦しめていましたし、周りのスタッフにも辛い思いをさせてきたんだと思います。会社って自分の鏡なんですよね。自分の状態と会社の状態ってすごくリンクするんです。こういった経験から、自分を大事にすることや、自分が感じていることを正面から捉えることの大切さを痛感しました。

その時期からデザインに対する考え方も徐々に変わっていきました。自分自身が経営者として学んだ経験を生かして、経営者の方が自分の内面を見つめ、会社の本当の強みを見つけることができるお手伝いをデザイナーとしてやっていきたいと思うようになりました。表面上のデザインではなく内面を見つめて行き着くデザインです。デザインというのは一つの手段だと思っています。本当の意味でのクリエイティブというのは内面を見つめ、そこから作りだすものではないでしょうか。経営者の方とお話をすると、以前の私と同じようにスタッフに想いを伝えるところで壁を感じている方もいらっしゃいます。そんなとき、自分の経験も踏まえながら、自分の内面を見つめ、想いをのせてコミュニケーションを取ることの大切さも併せてお伝えしています。

個性を大切にする会社を目指して

スタッフの方とのコミュニケーションが変わったこと以外に何か変わったことはありましたか?

一昨年、労働環境の改善に取り組みました。大手広告代理店の悲しいニュースが話題になったように、私たちの業界にとって労働環境に関することは大きな問題なんです。ゴールの見えない長時間労働が当たり前になっている中で、それを何とかしたいと思いました。具体的にはフレックス制度の導入だったんですが、その制度を活用しながら法律と業務のバランスが取れる体制をつくりました。導入前はスタッフも戸惑っていたようですが、彼ら自身が工夫しお互い協力し合うことで、少しずつ理想の労働環境に近づいていっています。

また、こういった取り組みが、スタッフの自主性を以前にも増していき思わぬ副産物になりました。「工夫すること」や「協力し合うこと」の大切さが実感できている結果だと思うんですが、彼らが自分たちでスローガンをつくり、それをもとにした色んな面白い取り組みを始めてますね。その中の一つに、業務上での良かった点をお互いに発表し合うというものがあります。その内容を毎月レポートとしてまとめて提出してくれるんですが、特に強制したわけでもないのに、こういった取り組みをしている彼らを見ると本当に嬉しくなります。

少しずつ流れが良い方向に変わっていっていますね。クリエイティブというのはデザインだけではなく問題解決や時間管理といった自分から湧き上がるすべてのものにいえると思うんです。今後もスタッフにはデザインスキルだけではない本当の意味での根本的なクリエイティブに挑戦していってほしいですし、そのためにも会社として言いたいことがいえる雰囲気作りや個性を受け入れる体制というのは整えていきたいと思っています。

御社の今後の展望について教えてください。

すごく基本的なことなんですが、どんなクリエイティブな仕事も単なるものづくりで終わるのではなく、つくったものをどう役立ててもらえるかが大切だと思うんです。私がこれまでの活動の中で一番学んだことは「自分の内面を見ながら、自らをオープンにして自分の言葉で語り、人間的なつながりを構築していくこと」でした。これから先は、この気づきや経験を生かし、デザイナーとしてクライアントのより良い経営に役立ててもらえるような仕事をしていきたいと考えています。

スタッフに対しても自分らしくあってほしいと願っています。色んな個性が集まって会社が成り立っていますし、お互いその個性を尊重して自分の持つ力が最大限に発揮できるような組織をつくっていきたいですね。そして、その個性を認めた上でもし何かやりたいことがあるなら、この会社で実現してほしいと思っています。

考え方や行動に尖ったものを感じてるんですが、先程おっしゃったパンクロックがお好きなことと関係がありますか?

あ~、それ感じました?(笑)型にはまったやり方よりもっと良いものを、もっと新しいものをという考え方には影響を受けてるかもしれませんね。でも最近は、尖るだけでなく、そこに柔らかさもプラスしていけたらと思ってます。(笑)

取材日:2019年1月28日

株式会社タブロイド

  • 代表者名:代表取締役 津江祐一
  • 設立年月:2006年3月(創業 2003年1月)
  • 資本金:3,000,000円
  • 事業内容:グラフィックデザイン制作、印刷物・ウェブサイト制作、ブランド・コンサルティング
  • 所在地:〒732−0053 広島市東区若草町9-7 三共若草ビル2階
  • URL:https://www.tabloid.co.jp/
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