「文房具屋さん」から、印刷、ウェブ、そしてプロバスケチーム「金沢武士団」運営へ
- 金沢
- 株式会社丸藤 代表取締役社長 藤弥 昌宏 氏
文房具店から印刷会社へ
会社の成り立ちについて教えて下さい。
当社はもともと金沢市の中心部、香林坊で紙文具の販売からスタートしました。創業は1963(昭和38)年になります。今はもうありませんが、当時は店の向かいが中学校で生徒向けに文具を販売していたのをはじめ、オフィス街の企業や商店さんなどをお客様として文房具全般や紙用品を販売していました。時代の流れやお客様からの要望にあわせて、コピー機やオフィスで使われる机などの事務機器を取り扱うようになっていきました。その中で、お客様から印刷物に関するご相談やご要望が増えてきたのです。
「近所の文房具屋さん」から印刷会社へと変わるきっかけだったのですね。
最初に手がけた印刷物は、和菓子屋さんの包装紙だったと聞いておりますが、創業者の祖父は文房具店である自分たちが、お客様からの要望にどうすればお応えできるかを思案しました。まず初めに紙を仕入れ、そして印刷し、さらにものによっては製本が必要でした。そこで、それぞれのルートを開拓するため、請け負っていただける業者さんにお願いしてまわり、今の丸藤という会社の骨格を築いたようです。
印刷機を持たない印刷会社」とお聞きしました。
今では、当社は印刷業を生業としていますが、創業以来、基本的に印刷設備を持たず、全てアウトソースしています。現在、簡易印刷のデジタルプリンターは設置していますが、規模の大きな印刷については、祖父の時代から協力していただいている印刷工場の方に今もなおお願いをしています。
そんな中で、社長も家業を継がれたのですね?
高校卒業までを地元金沢で過ごし、大阪のビジネス専門学校を卒業後、3年間製版会社に勤めました。丸藤に入社したのは1997年で、2014年に代表取締役社長に就任しました。家業を継ぐことは当初は考えていませんでした。しかし、専門学校時代に父からは「いつ、戻ってくるのか」と再三いわれるようになります。「継いでくれ」ではなく、「いつ戻る」といわれては仕方がないかなと、次第に家業を継ぐことを意識するようになりました。
「紙」から「デザイン」「ウェブ制作」へ
文房具店から印刷会社へ、そしてデザインやウェブ制作の分野に進んでいきます。
印刷会社へと軸足を移したのも、お客様の要望からであったように、今度はさらなる価値を提供したいとデザイン制作に乗り出しました。社内に「クリエイティブオフィスMOO(ムー)」というデザイン事務所を新規部門として立ち上げました。最大8名のデザイナーが在籍していましたが、みんな意識が高く、その後ほとんどのスタッフが独立して、現在は当社のクリエイティブにおける外部の制作ブレーンとして活躍してくれています。今、社内でもう一度クリエイティブな部分を成長させようと、MOOに若いスタッフをいれて、デジタルプリンターを扱う制作部門の育成に取り組んでいます。
その後、ウェブ制作会社も設立します。
2000年には、急速な普及が予測されたインターネット部門を立ち上げました。印刷会社のインターネット制作部門という位置づけでは伸びしろが小さいと感じたことから、ウェブの専門性を高め、クリエイティブな展開を強く打ち出したいという思いで、インターネット部門を独立させ、株式会社MDM(エムディーエム)を2009年に設立しました。ウェブ制作に取り組み始め、分社化して10年目を迎えます。
なぜ分社化する必要性を感じたのですか?
設立当初は基本的に丸藤のお客様からウェブ制作に関する制作案件をいただいておりましたが、MDMとして独立させることにより、クリエイティブな企業としての存在感を認めてもらうことが真の目的でした。目論見通りに、MDMとしてそれまで印刷会社としては取引のなかったデザイン会社や様々な企業からも発注をいただき、新たな市場を広げることができました。
プロバスケチーム「金沢武士団(サムライズ)」の設立に奔走
男子プロバスケットボールチーム「金沢武士団(サムライズ)」の設立、運営に尽力されています。
2014年、石川県でプロバスケットボールチームを設立しようという話が持ち上がり、先輩経営者から声をかけていただいたことがきっかけです。当時、金沢青年会議所で国際会議を誘致する活動に関わり、青年会議所活動を通してまちづくりに汗を流し、自分の中でまちづくりに対する感度が高まっていた時期でした。スポーツにはまちを元気にする大きな可能性があり、スポーツを通じたまちづくりに貢献できればと考えて、発起人の一人として「金沢武士団(サムライズ)」の設立に関わりました。現在はチームを運営する北陸スポーツ振興協議会株式会社のファウンダー件副社長を務めています。チームは2015、16シーズンから日本の男子プロバスケットボールのトップリーグであるB.LEAGUEに参入しました。
印刷会社を経営するとともに、プロ球団の運営に関わることについて、迷いや反対はありませんでしたか?
もちろんありました。しかしこれまで生業にしていた印刷事業がピーク時の売上までV字回復を望めるような市場ではないということを感じていました。「スポーツメディア」という分野で、プロスポーツチームをメディア、媒体として捉え、「応援」という大義のもと、協賛を募り、そのメディアを取り扱うビジネスモデルを知りました。これまでの「紙」や「ウェブ」に代わる媒体として、地方の限られた市場で自社の立ち位置をつくるにはこれが有効だと感じ、新たな分野に踏み出すことを決意しました。
御社にとっての新たなビジネスモデルであり、新たなミッションが生まれたのですね。
球団を成長させるためにはスポンサーを集めなくてはなりません。そのためには球団も、もっと成長しなくてはなりません。球団を応援する=まちを元気にする、その導線をつくることが自分の役目であり、印刷会社を経営する私がプロスポーツに関わるということに、自分の中で合点がいきました。
プロスポーツによるまちづくりに印刷会社の強みは活かされていますか。
金沢市には、バスケットボールはじめ、プロ野球BCリーグ「石川ミリオンスターズ」や現在、J2のサッカーチーム「ツエーゲン金沢」があります。こうした地域スポーツを応援するため、公共レンタサイクル「まちのり」を活かし、自転車に乗ってスポーツ観戦するための「スポのり」というサービスの企画から関わり、「スポのりルートバック」を製作しました。
地方都市におけるプロスポーツの定着には何が課題でしょうか?
2018年、金沢市がスポーツ文化推進条例を制定したこともあり、機運は高まりつつありますし、少しずつ浸透はしてきていますが、地方都市でスポーツにお金を払うという「プロスポーツ」の文化を根付かせるのはなかなかハードルが高いと感じています。石川県は元々バスケットボールが盛んな地域でもありますので、「週末にはバスケの試合を見に行こう」という文化が定着するよう盛り上げていきたいと思います。
納品後もお客様に関心を持つことで自社の課題も見えてくる
企業としての次の一手を教えてください。
ダイレクトメールへの宛名印刷や、チケットにナンバーを記載するといったように、固定されたレイアウトに可変データを印刷する、バリアブルプリントに力を入れています。宛名印字から発送までをワンストップサービスで行っています。
ダイレクトメール印刷の効果は上がっていますか。
お客様の自動車販売店で、車検に対するPRが不足しており、車検が集中し、チャンスロスが起きているという課題がありました。そこで車検予約に的を絞ったダイレクトメールを提案しました。事前予約に対して景品をつけるキャンペーンを行った結果、かなりの反響につながりました。集中していた車検について、早期の予約が広がることで、現場が事前にスケジュールを把握し工程を立てられるようになり、現場と営業のコミュニケーションが改善され、働き方改革にもつながったと好評をいただきました。
テレビCMの制作も手がけています。
これまで、お客様とお話をしていると課題が浮き彫りになるのですが、これまで当社は印刷物やグラフィックデザインでしかその解決方法を提案できていませんでした。お客様の課題は必ずしもそれだけでは解決できません。電子機器メーカーは人材募集に課題がありました。地元における企業の認知度アップのために必要なことは印刷物ではなく、テレビCMだと判断し、当社で企画をし、制作会社と組んでテレビCMづくりにチャレンジしました。
お客様との対話で、課題を解決することにより自社の事業が展開しているようにうかがえます。
経営理念として、「様々な出会いを『良縁』とする努力を積み重ねる」と掲げています。出会いを大切にし、お客様に納品した後もその成果に関心を持って接することが大切だと社員には伝えています。お客様とより良い関係をどうやって築いていくか、常日頃から考えることで、自社が取り組むべき課題が見えてくると考えています。
取材日:2019年2月14日 ライター:加茂谷 慎治
株式会社丸藤
- 代表者名:代表取締役社長 藤弥 昌宏(ふじや まさひろ)
- 設立年月:1978年7月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:印刷事業、クリエイティブ事業、インターネット事業、地域活性化事業
- 所在地:〒920-0059 石川県金沢市示野町36番地
- URL:http://www.marufuji-gr.co.jp/
- お問い合わせ先:info@marufuji-gr.co.jp