WEB・モバイル2019.04.17

まずは情報や思考を整理することが第一、 その先にクリエイティブとしての表現がある

福岡
株式会社TOE 代表取締役社長 小嶋 譲司 氏
Webと紙媒体のデザイン・制作を主軸とする株式会社TOE。福岡を拠点に関東や関西、海外向けのクリエイティブも積極的に手がけています。代表取締役社長の小嶋譲司(こじまじょうじ)さんは、ユニークな経験と独自の哲学の持ち主。20年にわたる業界経験から、仕事をする上で大切なことや、会社の在り方についても自らの考えを深めています。キャリアから仕事の本質論、福岡の会社だからこそ感じることまで、ざっくばらんに語っていただきました。

20代後半で将来を真剣に考え、本気モードに

小嶋さんが会社を立ち上げるまでのキャリアを教えてください。

私は長崎県の対馬出身で、福岡のデザインの専門学校に進学しました。自分のアイデアやイメージを具現化する仕事をしてみたくて、選んだ分野がデザインでした。
でも、何となく就活しないまま、卒業後はフリーターになり、たまに親戚が営む屋台を手伝っていました。すると、お客さんから「うちの会社でデザイナーを募集しているから来ない?」と誘われて、21歳で大手印刷会社に就職しました。最初はオペレーターとして単純作業ばかりでしたが、半年後に異動で企画デザイン部へ。先輩に教わりながら広告などのデザインを手がけて、仕事が面白くなりました。しかし、だんだん慣れてきて、与えられた仕事が終わると空いた時間は会社で寝てました(笑)。今思えば、与えられた以上のことをやらない、ほんとダメな社員だったと思います。

印刷会社を退職して、デザイン事務所に勤務。その後、広告代理店のディレクターを経て、29歳で独立しました。
25歳の時、30歳を目前に初めて真剣に自分の将来について改めて考えはじめ、「このままではヤバい」と思ったんです。方向性を定めずフラフラと生きていた部分があって、「これではろくな大人にならないな」と。それからはデザインの勉強はもちろん哲学や宗教学などを中心にいろいろな勉強をし、仕事にも本気で打ち込むようになりました。
その時に影響を受けたのが、日本の土着信仰である神道の思想でした。
ざっくり言うと、人間はただ自然の中で生かされているちっぽけな存在にすぎず、故に「八百万(やおよろず)の神」とも言うように、いろいろなものに感謝して生きるという考え方です。
僕自身はあくまで無宗教のスタンスをとっておりますが、経典も教祖もなく、宗教でもない、そのある意味自由な考え方が、スタイルに縛られたくない自分の生き方にも合っていたのかもしれません。

いつか独立したいと思っていたのでしょうか?

いえ、特に考えていませんでした。代理店を辞めた後、原付バイクで日本一周の旅をしようと出かけたら、日本一周どころか、隣町で事故っちゃって(笑)。バイクは壊れたのですが、幸い体は何ともなかったので、時間はあるし、軽い気持ちでこの際自分で起業してみようと思い立ったんです。試しに友達に「なんか仕事はない?」と聞いて回ったら、たまたま少しあって、それを1か月続けてみたら、自分にはこっちの方が性に合っていると感じました。

会社で働くより、個人でやる方が合うと気付かれたのですね。

会社って、自分の正義を通せないじゃないですか。社会の正義と会社の正義、自分自身の正義がある中で、会社の正義を第一に考えることにいつしかストレスを感じていたんだと思います。個人でやれば責任さえ負えば、自由でラクだとわかりました。何しろ、自分自身の正義を通せることが、精神衛生上、気持ち良かったのかもしれません。

紙からWeb、アプリ、動画まで幅広く対応

個人で働き始めた時から、屋号は「TOE」ですか?どんな思いが込められているのでしょう?

はい、29歳の時に個人で始めて、5年後に会社組織にしました。屋号は個人の時からTOEでした。将来を考えたとき、スケール感のある名前にしたいと思い、いろいろ迷う中で出会った言葉です。TOEはTheory of Everythingの略。いわゆる万物の理論で、宇宙の真理がわかるような理論とされているものの、まだ解明されていない。説明を聞いて「これだ!」と即決しました。

業務内容について教えてください。

もともとは印刷物のデザインでしたが、時代の需要に応じてWebもやるようになりました。自分で学びつつ、初めの頃はコーダーと組んだりして。今はアプリや動画も手がけています。業界は特に絞らず、上場企業のホームページも多く、東京や大阪の仕事も幅広くやってきました。これまで営業らしい営業はしたことがなく、おかげさまで基本的には紹介で仕事が続いてます。

いいものを作るカギは「情報整理」と「コミュニケーション」

紹介で仕事が続くというのはすごいと思います。御社の強みは?

クリエイティブは表現ありきと思われがちですが、私はビジネスモデル視点で考えますし、スタッフにもそういう視点を意識させてます。自分たちの仕事は、社会とのコミュニケーションを構築すること。そのためには、単に表現としてかっこいいものや美しいものを作るのではな く、そもそも今の売り方でいいのか?求められる要件そのものが正しいのか? というところから考える必要があります。ブランディングやマーケティングの 考え方も大切にしています。

なるほど、根本から問い直していくわけですね。

他の仕事にも当てはまることだと思いますが、仕事のスタートは情報の整理が重要で、クリエイティブの表現は末端にあるもの。ビジュアルや感性で考えるのではなく、情報を再構築する過程を大切にしています。
お客さんから仕事を依頼される時って、意外とこうしたいというものがなく、まだボヤっとしていることが多い。私の経験上、お客さんがしっかりした哲学を持って仕事をされると、一緒に作った完成物のクオリティが確実に上がります。ですから、まずお客さんの思考を整理することを大事にしています。

まず情報や思考を整理することで、より良いものができると。

デザインは感性の表現とはいえ、コミュニケーション能力が欠かせないというのも実感しています。相手が何を感じ伝えようとしているのか察知することで、表現につながっていく。デザイナーは自分の内面と向き合う仕事であり、一方でコミュニケーションも大事。世の中で成功しているクリエイターって、コミュニケーション能力が高いのではないかと私なりに分析しています。

「完全7時退社」でスタッフに余裕が生まれた

まずは小嶋さんがお客さんと打ち合わせをされるのですか?

いえ、できるだけスタッフに任せています。私は、仕事の醍醐味は「責任」だと思っていて、責任のない仕事は面白くないし、任せた方がスタッフの成長スピードもはやい。会社は本来、人が成長するための場所だと思っています。

経営についても哲学があるのですね。

独立前に数社を経験してみて、会社って働く人の個性をつぶしてしまうものだと感じました。それに、「こんな大人にはなりたくない」と思う人も見てきて…。それは会社の責任も大きい。うちの会社は「こんな大人になりたくない」と思われるような人を輩出しない責任があると思っています。

働き方という面では、御社のホームページに「今年より完全7時退社です」と書かれていました。

これまで夜も長く働きがちで、これではいけないと思い、今年から完全7時退社と決めました。だいたい守れています。そのかわり、仕事が終わらないスタッフは朝早く来て働いています。結果として、スタッフの心に余裕ができたように感じます。夜はオフにしてしっかり寝ないと、メンタルにも良くないんじゃないでしょうか。

関東・関西はもちろん、海外の仕事も増やしていく

今後の展望について聞かせてください。

今は関東と関西に拠点があり、そちら方面の仕事が増えてきました。福岡は住みやすく面白い都市ですが、クリエイティブの単価が安く、やはり東京の仕事の方が高い。ですから、積極的に関東や関西の仕事を受けていこうと思っています。
そして、海外の仕事にも力を入れます。すでに中国やタイの企業とご縁があり、日本から海外に発信したいとか、海外で事業を展開したいといった需要は結構あって、海外向けのWebも作っています。海外の仕事は面白そうで需要があるので、これから拡大していくつもりです。

すごいですね。最後に、どんな会社にしていきたいか教えてください。

いろんな会社の企業理念を見ていると、社会貢献とか未来のために、などとうたっています。しかし、うちはまず、子どもや若い世代から見て「こんな大人になりたくない」と思われるような大人を輩出しないという目標がベースにあります。そして遊び心を育むような会社にしたい。人それぞれの多様な働き方や生き方を許容し、楽しそうに生きている人を生み出す会社でありたいし、そんな社会になってほしい。まずは自分の会社から実践していきます。

取材日:2019年4月3日 ライター:佐々木 恵美

株式会社TOE

  • 代表者名:代表取締役社長 小嶋 譲司
  • 設立年月:2004年8月
  • 事業内容:Web事業、紙媒体事業、通信販売支援事業、モバイル事業
  • 所在地:〒810-0004 福岡県福岡市中央区渡辺通1丁目9-3 1丁目ビル203号
         〒253-0055 神奈川県茅ヶ崎市中海岸2丁目5-5-112
         〒537-0012 大阪市東成区大今里2丁目9-5-615
  • URL:https://www.gtoe.info/
  • お問い合わせ先:050-7508-5631

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