地元企業の魅力を再発見・再構築して未来につなぐ
2010年6月、未来につなぐ、という意味を込めたミライトス株式会社を立ち上げた代表取締役の鈴木圭介さん。Web制作会社からスタートして、地域の新しい価値を提案するブランド開発、商品プロデュース、プロモーションなどを主に行っています。平行して、カフェのオーナー、NPO法人ファイブブリッジの理事、ビジネス起業家支援セミナーの講師など、幅広く活動する鈴木さんの取り組みや思いをお伺いしました。
会社を立ち上げ、経営しながら徐々に見えてきた事業の目的
起業する以前のキャリアを教えてください
出身は北海道函館市で、大学に入る時に仙台にきました。法学部を卒業して数年は司法試験に向けて勉強しながらアルバイトをしていましたが、そのうち、さまざまな事情も重なり、資格取得をあきらめて仕事をしたいという気持ちが強くなりました。
当時から、趣味で作っていたWebサイトをもっとつきつめたいという気持ちがありました。仕事をするなら、自分の取り組みたい分野の仕事に就きたくて、Web制作会社に就職しました。小さな会社でしたので、Webサイト制作から提案営業、デザイン、プログラム的なことまでいろいろやりましたね。そして、2008年、33歳ぐらいの時、会社の同僚と二人でWeb制作の会社を立ち上げました。
2010年6月にミライトス株式会社を立ち上げたきっかけや目的を教えてください。
私は提案営業でお客さんと接するなかで、例えばWebサイトは情報発信のツールであり、それ自体が目的ではないと感じるようになってきました。そしてより本質的なニーズにも応えられる会社を作りたいと考えるようになりました。会社を共同経営していたシステムエンジニアとは、今もいい関係で一緒に仕事をしていますが、方向性を分けてそれぞれでやってみようということになりました。
ひとつ目の会社を二人で始めた時は、特に明確なビジョンがなく、今にして思えば無謀だったなあと思うのですが、その後ミライトスを設立した時もやはりそれほど深くは考えていませんでした。やっていくうちにだんだんと目標ややりたいことが固まってきたというのが正直なところです。
創業当初はWebサイトを作ることやデザインすることが好き、という思いで、広告代理店さんなどから仕事をいただいていました。実績を積みながら、徐々に人脈が広がってくると、だんだん直接仕事を依頼される機会が多くなってきました。そうしてお客さんと培った関係性の中で、Webサイト等で情報発信・コミュニケーションをしていくにあたって、そもそも企業として発信する商品やブランドの価値や想い、伝えるべき情報そのものを一緒に考えていきましょうという方向にシフトしていきました。
ネーミングなどもやっていらっしゃいますが、ミライトスという社名の由来を教えてください。
未来につなげる、未来にトス、という意味を込めて「ミライトス」です。ほかに、明るい未来「とする」、「目的」を意味する「ミラ」を「意図す」る、ミライトスの社名の中にある「ライト」が周囲を照らすように、最後の「ス」は複数形の「s」で、たくさんの人たちと一緒にいい未来を作っていきたいなどいろいろな意味を兼ねています。
地元企業と伴走する
ミライトス株式会社の主な事業内容を教えてください。
もともとある商品のデザインを一新してリブランドする場合もあれば、ゼロからブランドを作り上げていく場合もあります。創業の支援もしていますが、企業の既存の取り組みを理解したうえで、そのメッセージやコンセプトを整理しながら、リブランディングしていくような仕事が多いですね。
ミライトスを創業した翌年に東日本大震災が起きて、地元の力になりたい、復興のためにできることがないかを考えるうちに、やりたいことが広がってきました。お客さんは宮城県内の企業が多く、一緒に地元を盛り上げていこうという意識が強いです。うれしいのは、関わった商品が売れて、反響がある時、お客さんに頼んで良かったと言われる時ですね。
仕事をする上で、どんなことを意識していますか?
幅広い人脈をお持ちですが、どのようにして人脈を広げましたか。
2010年頃から関わっている「ファイブブリッジ(Fivebridge)」で培ったところは大きいですね。「ファイブブリッジ」は多種多様なひとがあつまるコミュニティで、定期的にテーマを決めてセミナーやイベントを行っているNPO法人です。学生、会社員、経営者などいろんな人が気軽に集まり、ここに来れば、誰かに会える、何かが生まれる、勝手に何か始める、大人の部室みたいな場所です。
「ファイブブリッジ」の入居するビルに、シェアオフィス、貸し会議室などがあり、会社を設立した当時からよく出入りしていました。縁があって参加しているうちに、現在は理事として活動しています。 良かったと思っています。
本当に応援したいものを自らの声で発信する
鈴木社長は「ファイブブリッジ」の1階にある、カフェのオーナーでもありますね。
カフェをやろうと思ったのは、応援したいものの良さや魅力を自分の声で発信したいと思ったからです。カフェという「媒体」で、自らがその想いを伝えていくことで、高められる価値もあるんじゃないかと。
綴caféは、ハーブやスパイス、地元の食材など、自分が応援したいものを使って調理したり販売しながら、食材の美味しさ、生産者の思いを伝えています。また、綴caféは、厨房や菓子製造室のレンタルやイベント会場としての場所貸し、レンタルBOXなど、さまざまな人がこの場所を利用できるような機能も持たせています。人を知ると応援したくなる性格なのかもしれません。綴caféは、「ファイブブリッジ」と連携し、地域の活動を応援する場でもあります。
質問:会社を立ち上げてもうすぐ10年。これからやりたいこと、力を入れていきたいことを教えてください。
十年も経つのに大きな成長がなくて凹みますが(笑)、起業当時よりは視点は上がっていると思います。Web制作からスタートして、次に自社で商品づくりを始めて、飲食店(カフェ)で発信を始めたので、これからはもっといろいろな価値を提供できるように励んでいきたいです。自社商品だけでなく、他社と協同しながら、新しい価値を提案し、自身が営業していくような商品プロデュースにも力を入れていきたいです。
考えてみると、自分でこうしようと思って取り組んできたことよりも、たくさんの応援してくれる方々に巻き込んでいただいて成長させてもらったことが多かったように思います。これまで続けてきた仕事も、カフェも、ファイブブリッジの活動も、創業支援も、全部がひとつにつながっています。
どこまでが仕事で、どこからがプライベートではなく、どれも公私の境界を分けずに楽しんでやっています。乗り越えられない壁にぶつかったことは……ないですね。自分でできないことを頼める人がいる、相談できる人がいろんな分野にたくさんいます。何でも一人でやろうとしないことが大切だと思います。同じ目的や方向性を持つたくさんのパートナーとつながり、連携しながら、新たな価値や未来を作っていきたいですね。
取材日:2019年2月20日 ライター:佐藤 由紀子