大切なのは、安全性と対応力。 ドローン産業の今と未来
空中を縦横無尽に飛行し、映像を撮影する――。 これまでに見たことのないような迫力ある映像を撮影する「ドローン」。 いまや国内に十数万台のドローンが飛行しているといわれ、加速度的に普及がすすんでいます。 新潟県新潟市にある株式会社ウインプラスは、ドローン黎明期ともいえる2014年に創業し、新潟県内外のドローン撮影シーンをリードしてきました。 今回は、代表の川内達也氏にお話を伺い、ドローン事業を営む上で大切にしていることからドローン産業の未来までを語っていただきました。
すべては安全運行のために
株式会社ウインプラスは、新潟県内初のドローンによる映像制作会社です。県内外の観光地などで空中撮影を行ない、高品質の映像を制作しています。事業を始めたきっかけを教えていただけますか。
創業は2014年です。その頃はちょうど、ドローンで撮影した動画がネットに上がり始めたころです。
ドローンによる映像のインパクトに衝撃を受け、ドローンの構造を勉強しながら、イチから機体を組み立てるところから始めました。当時は、自分でネットの情報を集めて、基本的にネットでホビーショップや中国の会社からパーツを取り寄せて、自作機を作り飛ばしていた…という時代でした。
法人化したのは、それを事業としてやっていけたら…と思ったのはもちろんですが、私が最も重視していた部分で必要だったというのがありました。
必要としていたこととは?
「事業としてやるならば、リスクへもしっかりと対策すべき」ということです。映像撮影はもちろん大切ですが、まずは安全性を担保することがもっとも重要だと考えました。
そうでなければ、業務として成り立たないと思ったのです。事故が起きれば当然、損害賠償の発生などが考えられますし、なによりクライアントにご迷惑をかけてしまう。
そのうえ、ドローンは、いろんな面で「危ういもの」だったんですね。 手元で撮影している画角の確認ができないし※1、そもそも、まず飛行の安定性がない。GPSの精度も高くなかった。いつ墜落してもおかしくないような代物だったのです。当時は、個人で加入できるドローンの保険は皆無でした。しかし、法人としてならば加入可能な保険が出始めていました。ならば、法人化してきっちりと損害賠償保険に入り、安全性を確保しようと。
それで、「ドローンを安全に、しっかりと運用していきたい」と考えたことが、法人会社を設立したいきさつです。
※1 当時は実際の撮影映像を手元で確認できる国内で使用可能な機体は無かった。
ドローン黎明期は、現在よりも危険性が高かったのでしょうか。
創業当時は、今では当たり前に搭載されている装備や機能がない機体がほとんどでした。カメラやGPSどころか、センサーが一つもついていないような機体も珍しくないような有様だったんです。
機体がどれくらいの高度を飛んでいて、カメラをどこに向ければどのあたりまで撮影できるのか、ということを、すべて感や予測で行なっていたんです。感覚的に映像や機体の状況を、頭の中で推測や判断しなければいけない。そういう時代でした。
そもそも「常に落ちることを前提に飛ばしていた」時代だったとも言えます。 さらに、当時はプロペラにカーボンが使われていたりと、扱いが非常に危険だったんですね。
映像制作だけでなく、操縦教育も手がける
現在手がけている業務について教えてください。
ドローンによる映像撮影・制作業務をメインに、最近では、ドローンに関する安全運行に関する講演やコンサルティング、ドローン操縦、撮影の指導を行なっています。
ドローン教育のニーズは、なぜ生まれているのでしょうか?
入り口は「まず飛ばすこと」なのですが、その先に派生する専門的領域はかなり多様化していますし、それぞれの分野でのニーズが高まっていると感じています。農業分野であったり、点検だったり。ただ、「(業務として)ドローンの世界に入っていく」ということは、まだまだハードルは高いと思っています。それは、「知るべき知識が想像以上にある」ということ。法令的なこと、機体の構造的なこと、気象関係の知識も。いろいろな情報を必要とする分野であるので、そこに対する認知・適切な情報収集能力を求められることが多くなりました。
操縦に関する知識だけでは足りなくなってきているのでしょうか?
飛行中には、想定外のことが起こります。 電波障害、等はもちろんですが、たとえば、山間部で飛行をする場合は、山肌に沿って上に持ち上げられたり、落とされたりする風が吹きまし、地表と上空とで風の向きや強さがまったく違うということも多々あります。
素早い天候判断もたいへん重要です。特に、雨量等による飛行判断はとても重要です。
経験則による判断はもちろんですが、それ以上に「飛ばすためには、どのような知識や判断を適用するか」という意識を、常に持つことが大切です。
ドローン産業、そしてドローン・クリエイティビティの今後
今後のドローン産業の可能性をお聞かせください。
「ドローンはインフラになる」と思っています。
IOT※2との親和性などを考えても、今後さまざまな可能性が秘められていると思っています。輸送分野、点検分野などでは、実際に運用され始めていますし、今後は自治体での活用も進んで行くでしょう。
最近の機体では、緊急時に自動でこちらへと帰ってくる「リターントゥホーム」の際に障害物をドローン自体が認識して、障害物を避けて戻ってくるというものもあります。
また、今後は常時の操縦を必要としない時代がくると予想しています。「自動航行」「自律航行」というのがドローンのスタンダードになると思います。
映像撮影に関しては、完全な自動化は難しいと思います。まだまだ人の目、感性で判断するべき部分がたくさんあります。
指定した物体などを自動で追いかける自動追尾機能などの補助機能は高度なものになってきていますので、そうした最新技術を生かした映像制作手法は普通のことになるでしょう。
※2 IOT …Internet Of Things(モノのインターネット)の略。家電など様々な「モノ(Things)」がインターネットでつながり、相互に情報交換を行う仕組み。
今後は「ドローンのスペシャリスト」の概念が変わるということでしょうか。
これまでは「操縦のスペシャリスト」が「ドローン撮影のスペシャリスト」とも言えました。 しかし、今後は「操縦はできて当たり前」の時代がやってきます。
飛行に関する基本的な必要知識は、ほとんど変わらないと思います。 自動航行については、「事前に指定したところをドローンが飛ぶ」ということで、どの業界でも基本的には変わりません。その先に枝分かれするのが、各分野の専門的領域です。
農業分野であれば農業管理アプリケーションの知識など、各分野での専門知識が求められる段階に入っていると思います。たとえば農業の分野であれば、ドローンの操縦技術の他に農薬散布した際の、農薬の乾燥の仕方など専門的領域のことを考える必要があります。いろいろな情報を加味した上で「どのような散布方法が最も効率的なのか」を現場で実践できるドローン・スペシャリストのニーズが高まっていくと思いますね。
飛ばせることは当たり前。次の段階としての分野別運航能力にいき、更に、細分化していく。このように進んでいくのではないかと予想しています。
また、ドローンに人工知能が搭載され、自律飛行をする時代は、そう遠くないと思っています。想像以上にさまざまな可能性があり、「ドローンの可能性」と一言では語り得ない世の中になってきていると思います。
クリエイティブの観点からみたドローンの可能性をお聞かせください。
今後は、静止画の撮影をするドローンクリエイターのニーズが増えていくのではないかと思っています。
空中から撮影した静止画を作品とするクリエーター、日本国内では意外と少なかったのですが、近年では一眼レフに近いカメラを搭載する機体も増えています。それにより、クリエイティブの現場で使用できる静止画が撮れるようになってきました。
今後は海外のみならず日本国内でも「ドローン・フォトグラファー」という静止画に特化した分野が確立されていくのではないかと期待しています。
ドローンの世界に飛び込んでみたいというクリエイターにアドバイスをお願いします。
近頃は、家電量販店に行けば、手軽にドローンを購入することができます。 いまや「誰でもドローンを飛ばすことのできる時代」であると言えるでしょう。
自動航行機能が日々進化する今、高度な操縦技術を必要としない時代に入ったとも言えます。操縦技術は、昔ほどは必要とされていません。
そうした中で今後は「その場所、その時間にしか撮れない写真・映像」を、クリエイターがどのように選別し、撮れるか。これが非常に重要になってくると思います。
「撮れるから」でなく「撮るために何が必要なのか」をしっかりと念頭に置くことが大切だと思います。
気象条件はもちろん、太陽の位置、リフレクションなど、必要な要件を揃え、録画、シャッターチャンスを判断することは必須です。
今後は、そうした情報収集能力とその活用力が求められてきます。そして、安全に飛行させ、その時にしか撮れない映像を作り上げる熱意だと思います。
ドローンパイロットとしての川内さんにお伺いします。操縦テクニックの面ではいかがでしょうか。
操縦技術面では、「安全確保は勿論として、ドローンでなければ撮れない自分だけの映像を作れるか」という点が大切です。
また、「限界の1歩手前で止める勇気」があることも重要であると思います。現場で恐怖心やリスクを負っていることを感じさせない力量範囲を知ることは重要です。
御社のスタッフや、これから御社で働きたいというクリエイターにも一言お願いします。
一緒に現場に入るスタッフに私が必ず求めることがあります。 それは、現場でのコミュニケーション能力、現場での対応力です。
ドローンの安全航行には、障害物を避けるといった物的対応力だけでなく、「人間に対する対応力」も必要だと考えています。 「特別な機械を使用しているスタッフカメラマンの一人にしか過ぎない。決して特別な存在では無い」ということです。 しかし、地上における通常の撮影カメラマンよりも、はるかに多くの危険予知能力が求められます。
それを円滑に行なうためには、ドローンスタッフ間で常に「適切で良いコミュニケーション」をとることが大切です。 現場での他愛ない会話の中からも相手の意向を汲み取って、準備や撮影作業につなげていく。
そうしたことの積み重ねが、安全なドローン運行にも繋がります。
当社では設立当初から「危ない!」「落ちる!」などの言葉を現場では決して使いません。現場で「危ない!」という言葉を聞くと、どうでしょうか。 クライアントの不安は計り知れないものがあるなと。
回避告知が必要な時には、具体的な情報を出して危険回避を行なっています。 「少し上に上げて下さい」とか「あと十数メートル先に○○があります」など、危険予知の情報をできるだけ早めに声に出して伝えるということを励行しています。
最後に、川内さんがお仕事で最も大切にされていることは何でしょうか。
撮影終了時などに「誰よりも深く頭を下げる」という気持ちで現場に立つ、ということです。
「ありがとうございました」「お疲れ様でした」という安全に現場を終えることができたことは、関係した全ての人達のおかげという感謝の気持ちを言葉はもちろん、態度でも表すことが大切であると思っています。
取材日:2019年3月14日 ライター:竹谷 純平
株式会社WIN-plus(ウインプラス)
- 代表者名:代表取締役 川内 達也
- 設立年月:2014年4月
- 資本金:3,000,000円
- 事業内容:ドローンによる空撮動画撮影、空撮映像販売、各種映像制作、各種企業向けPV 制作、YouTube動画製作、ネット動画配信事業、広告宣伝プロモーション事業、 ドローンカメラマン指導養成
- 所在地:本社 〒950-2101 新潟県新潟市西区五十嵐一の町6672-12
- URL:http://win-niigata.com/
- お問い合わせ先:025-201-6937