デザイン×地方×女性 地元広島にデザインの土壌を作って次の世代へ
広島に、女性スタッフだけで運営するデザイン事務所があります。創業者は、現在も代表を務めている川上佳代さん。起業前はもともと勤めていた大手広告会社で「社内フリーランス」をしていたという変わった経歴の持ち主です。
そんな川上さんは出身地が広島であるだけでなく、広島でデザインを学び、広島でデザインの仕事に就き、さらに広島でデザイン事務所を設立して今に至ります。
今回は、有効なデザインを生み出す女性ならではの視点や、川上さんが地元広島に作ろうとしている「デザインの土壌」についてお話をうかがいました。
会社設立までの経緯と現在の事業内容
会社設立までのキャリアを教えてください
広島のデザイン学校を出た後、大手広告会社の制作部門に入り、学生募集のための広報ツールを作っていました。中四国9県すべてを担当し、午前3時まで仕事をするような日も。当時はまさに、「24時間働けますか」といったような時代だったんです(笑)
その後、結婚を機に退職しようとしたところ、会社側が「契約ディレクター」と言う雇用形態を新設してくださり、会社の中で個人事業主として働くような形でもう2~3年勤めることになりました。
子供が生まれてからは自宅でデザインの仕事をしていたのですが、仕事と生活時間の区別をつけるのが難しく、子育てが落ち着いた時期に事務所を別の場所に移し、会社を設立しました。
現在の事業内容を教えてください
主に印刷物の制作を手がけており、数十部のものから数万部のものまで幅広く作っています。クライアントさんは学校や企業、特に地域に根ざしたB to Bの会社が多いです。
地方にあるB to Bの会社は、(例えば)高い工業技術を持った優良企業でも一般の認知度は低く、新卒採用に苦労しているという相談をいただくことがあります。
そういう時、まずは新聞広告を打って認知度を上げ、ホームページを作り、パンフレットを作成し……といった提案や制作を行います。同じデザインを使って名刺や封筒を作り、ブランドとしての統一感を出したりもします。こういった一連の広報は、対外的な認知度アップだけでなく社内の活性化にもつながります。ブランドを確立していく過程で会社の方向性が明確になるためです。
紙媒体へのこだわりはありますか
印刷物における紙の価値は、出版不況と言われて久しい現在でも変わらず残っていると思います。メッセージ性の強いものや後世に残すものは、やっぱり紙。紙の持つ様々な厚みや風合いは、手に取ってめくっていただくことでブランドのイメージやコンセプト、高級感などを伝えることができます。
有効なデザインを生み出す女性ならではの視点
従業員が全員女性とのことですが、女性ならではの視点はお仕事に活かされていますか
実は「自然に任せていたらたまたまこうなった」というだけで、性別にこだわっているわけではないんです。でも、女性ならではの視点は確かに制作に活かされていると思います。グルメでも旅行でも楽しむ人は男女・年齢問わずですが、購買の決定権は女性にあることが多く、女性の心を打つ表現や広告戦略を求められることは多いですね。
ではどういったものが女性の心をつかむかと言うと、より感覚や生活者目線に添った内容になります。
例えば最新式トイレの広告なら、何ℓ節水できるとか何㎝省スペースであるといった情報ではなく、見た目のおしゃれさや掃除の手軽さ、このトイレのある暮らしが「いかにハッピーか」といったことに焦点を当てます。「かわいい!」と感覚的に手に取ってもらえるような広告デザインだけでなく、訴求内容が共感できる表現になっているかどうかが重要です。
そういったものの有効性がクライアントさんに伝わらず、苦労したことはありませんか
そこに至るまでのコミュニケーションの積み重ねがあるので、苦労する事はあまりありません。どんな目的を達成するためにどんな物を制作するかを事前にしっかり共有しておきます。
また、すべてのデザインは論理的に作ったものなので、きちんと意味を説明することができます。「かわいいもの」を目指して作るのではなく、論理的に作られた意味のあるものの細部を整え、最終的にそう見えるように作るのがわたしたちの仕事です。
地元広島でデザインの土壌を作り次の世代へ
川上さんが所属されている「広島アートディレクターズクラブ」について教えてください
広島アートディレクターズクラブ(HADC)は、クリエイターが個人で加入して切磋琢磨するクラブ活動のようなものと位置付けられています。年に一度、県内のクリエイターから作品を募集し、審査会で選ばれた優秀な作品を集めた年鑑を発行するのが主な活動です。
ニューヨークADC、東京ADCなど世界の中心都市で展開されるコンペティションはありましたが、「地元広島のクリエイティブ業界を活性化したい」という思いを持った仲間の声にメンバーが集まり、富山・札幌・新潟に続く地方ADCとして2009年に立ち上がりました。
広島のクリエイティブの「今」が詰まった年鑑は地元のみならず各地で評価され、デザイナーの顔(仕事)がはっきり見えるようになりました。10年経った現在、広島のクリエイティブは大きくレベルアップしたと感じます。
地方には地元を知り尽くした良いデザイナーがたくさんおり、またデザインを必要とする企業や組織もたくさんあります。お互いのマッチングがうまく進めばデザインを活用できる場面はまだまだあると思っているので、土壌を作り、次の世代に渡していきたいです。
御社の今後のビジョンと、記事を読んでいるクリエイターの方々へのメッセージをお願いします
今後は、従業員が家庭のために仕事を辞めなくてもいいような、働きやすい仕組みづくりをしていきたいです。結婚や出産をしても、その人が積み重ねてきたスキルやセンスはなくなりません。しかし自分の経験から言っても家事と仕事の両立は大変だったので、スタッフが長く穏やかに働けるよう多様なワークスタイルも視野に入れ、工夫をしていきたいです。
クリエイターのみなさまへのアドバイスは、まず「お客様に何を求められているか」を確実に理解することです。それによって、制作中の摩擦と行き違いをなくすことができます。 また、相手が最初に期待した通りのものを言われた通りに作るのではなく、新たな視点や提案などの付加価値をつけてお返しすることも重要です。それが次の仕事の依頼に繋がっていきます。
ありがとうございました
取材日:2019年5月7日 ライター:甲斐 寛子
有限会社コンセプトワーク
- 代表者名:代表取締役 川上 佳代
- 設立年月:2004年
- 事業内容:機関誌、広報誌などの企画編集制作・学校案内、会社案内、各種パンフレットの企画、制作・取材、撮影、コピーライティング、原稿制作、エディトリアルデザイン・マーク、シンボル、ロゴタイプデザイン
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