幅広いジャンルを手がけるデザイナーと和菓子職人。2つの顔でワークライフバランスをキープ
グラフィックデザイナーは全国に数多あれど、和菓子屋までをも営むデザイナーは非常に珍しいのではないでしょうか?そんな異色の経歴を持つデザイナーが、今回ご紹介する武山 忠司(たけやま ただし)さん。沖縄で「株式会社机」というデザイン会社を経営する一方、「羊羊 AN Factory(ようようアンファクトリー)という和菓子屋も営んでいます。なぜデザイナーである武山さんが和菓子屋さんになったのか。そこには、デザイナーだからこその理由がありました。
Webデザイン黎明期に独学で腕を磨く
2008年に、沖縄ではなく東京で会社を作られたとの事ですが、会社設立までのご経歴を教えていただけますか?
グラフィックデザイナーとしてのキャリアスタートは大学卒業後です。武蔵野美術大学に通っていたのですがグラフィックデザインではなく映像を専攻していまして、卒業後はテレビ番組の制作会社でAD兼カメラマンとして働いていました。一方で、友人からの依頼を中心に、フリーランスとしてデザインの仕事も引き受けていました。そのような生活を1年ほど続けた後、担当していたテレビ番組終了を機にデザイン一本に絞ることに。しばらくフリーデザイナーとして働いていたのですが、取引先との兼ね合いで法人化する必要が出てきたので、社員は私1名の「株式会社机」を設立しました。
デザインを勉強されていたわけではないのに、それを仕事にできていたというのが驚きです。なぜそれが可能だったのですか?
当時がまだWeb制作の黎明期だったからだと思います。特にユーザーが更新できるようなCMSなどのブログシステムの黎明期で、触りながら独学で覚えていきました。WebデザインやCMSを出来る人が今のように多くはありませんでしたので、結構重宝されました。お笑い事務所の吉本クリエイティブ・エージェンシーさんで芸人さんのブログサービスを立ち上げたりと、様々な業種に関われたのは貴重な経験でした。
東京でのお仕事は充実されていたのですね。それなのに、なぜ沖縄に移住されたのですか?
きっかけは東日本大震災です。東京での仕事を手放してジョブチェンジする覚悟で来ましたが、変わらずご依頼いただいているクライアントが多く、沖縄でも同じ仕事を続けられています。おかげさまで、今でも東京のクライアントが多く、月に数回は東京へ行っています。
Webからフライヤー、ロゴ、イラストまで。幅広いジャンルのデザインを手がける理由
沖縄に移住後、現地での仕事はどのように広げていったのですか?
特に営業に力を入れていたわけではなく、知り合いの紹介やウェブサイトを介して少しずつ依頼が増えてきました。
どのようなデザインの仕事を沖縄で手がけられたのですか?
Webだと、沖縄の観光関連サイトや法律事務所のコーポレートサイトのデザインなど、ジャンルは様々です。Web以外では、イベントのフライヤーやロゴ、変わったところだと「沖縄おもしろカルタ」という、琉球張子の作家・玩具ロードワークスの豊永盛人さんが作った人気のカルタのラインスタンプなどがあります。
媒体もジャンルも様々ですね。なぜそれほど多くのことができるのですか?
クライアントからの依頼に応えるたびに手がけるジャンルが多くなり、結果的に幅広く対応できるようになったからだと思います。イラスト、Web、紙、どのジャンルが特別に好きということはなく、クライアントが何を求めているのかをひたすら考えて、そのために何らかのデザインを提供することが私の役目です。デザインは、クライアントの問題解決のためのツールですので、その考えさえブレなければ、どんなジャンルでも手がけられると思っています。
多くのジャンルを手がけられることは、デザイン会社としての御社の強みでもありますね。
そうですね。クライアントの業種としては医療・観光・エンタメまで幅広いので、様々な角度からの提案ができると自負しています。
また、一人だけの会社なのでフットワークの軽さも強みの一つだと思います。
デザインと和菓子店でワークライフバランスを保ち、働きやすい環境を整える
先ほど「デザインはクライアントのため」と言われましたが、時に自分の意のままに何かを作りたくなることはありませんか?
何かを作って表現したい、という欲求はさほどないのですが、デザインの仕事では叶えられない夢があり、それをを実現したものが和菓子屋かもしれません。
デザインの仕事では叶えられなかった夢とは何ですか?
デザインはB to Bの仕事なので、もっとお客様と直接触れ合えるような仕事をしてみたいとずっと思っていました。デザインの仕事と両立できる業態としてゲストハウスがいいと考えていたのですが、もう一人の店主である友人と話し合う中で、和菓子屋にすることになったのです。
なぜ和菓子屋になったのですか?
私の実家は祖父の代まで和菓子店を営んでいました。私自身和菓子作りの経験はありませんでしたが、そんなルーツがあったからか、他の業態にするよりもしっくりと腑に落ちたんです。また、相方はカフェのオーナーでもあるので、飲食店運営や調理のノウハウを活かせるとも感じました。二人で試行錯誤しながら和菓子の試作を重ね、今では10種類ぐらいの商品を並べられるようになりました。
和菓子店を始めたことで、相当お忙しくなったのではありませんか?
忙しくはなりましたが、生活のバランスは以前に比べよくなりました。デザインの仕事はデスクワークが中心なので運動不足になりますし、夜遅くまで続けてしまうことが多く、遅寝遅起きになって不健康です。しかし和菓子店は、朝早くから仕込みをするので必然的に早起きになります。午前中は仕込みとお客様の対応に費やし、午後からはデザインの仕事をするというサイクルなので、早寝早起きになり健康的です。
最後に、これからの展望があれば教えてください。
若い頃は、自分ががむしゃらに頑張ればなんとかできた仕事も、40歳の今、同じペースで今後も続けていくのは体力的に厳しくなってくると思います。今後もデザインと和菓子を無理なく続けていけるように、二つの仕事のバランスを上手くコントロールしていきたいですね。
取材日:2019年5月29日 ライター:仲濱 淳
株式会社 机
- 代表者名:代表 武山 忠司
- 設立年月:2008年8月
- 資本金:300万円
- 事業内容:ウェブ・紙のデザイン制作、イラストを使った制作、ホームページ・スマホサイトの企画立案、編集デザイン、システム構築、運用
- 所在地:〒900-0005 沖縄県那覇市天久777-1-2F
- URL:https://tsukue.jp/
- お問い合わせ先:098-979-5790