女性の幸せを、子どもの幸せ、社会の幸せに
男性の育児休暇が認められる時代になってきたといえど、クリエイターに限らず、キャリアを重ねる上で出産や子育てなどの変化は少なからず、女性の選択肢に影響を与えがちです。仕事をしてきた女性が、出産によって一度社会から遠のいてしまうことも少なくない現状で、その女性の力を最大限に生かし、女性たちに勇気を与えながら、女性視点のマーケティングでパナソニックやイオン九州などの大企業とのタイアップを多く展開している「オフィスat」。大きな志を持って女性に絞った事業を展開、福岡市ステップアップ奨励賞など数々の賞も受賞する注目の企業です。その志と強みに迫りました。
ミッションとしているものが同じで、大きな夢を語れる二人が手を組んだ
お二人が会社を設立するまで、それぞれ違う道を歩いてきたようですが。どうしてお二人で会社を作ることになったのでしょうか?まずは寺島さん。
私は大学卒業後、タウン誌の編集を経て、販促プランナーの仕事をしていましたが、子どもができたことで、いったん仕事を辞めることになりました。広島県で専業主婦になり、それまで「売る側」にいた自分が「生活者」になったことで新たに見えるものもありました。専業主婦になっても、これまで組織をまとめてきたキャリアを活かしたいと、広告会社などに、一人で営業に回りました。しかし子どもがいると門前払いのところが多く、最初の仕事は友人から依頼を受けた小学三年生の漢字ドリルを作るようなものでした。そんな中、子どもがいる私に「子育てもキャリアよ」と声をかけてくれたのが株式会社ハー・ストーリィ(本社:東京都港区)でした。女性目線のマーケティングを手掛け、女性の力を生かした仕事をしている先駆け的な会社で、外部ディレクターとして仕事で関わり続け、以後2002年に福岡に戻ってからも、途切れず経験を積み上げていくことができました。
阿部さんもまた違った経緯でハー・ストーリィと関わりを持っていたようで、そこから独立につながったようですが?
私は、人材派遣の会社で10年働いていました。やりがいは感じていましたが、正直少し仕事をやり切ってしまった気持ちにもなり、ある時から広告を手掛けるようになりました。でも、例えば女性に向けた広告A案とB案があり、女性チームでさんざん考えて「A」という答えを出して、練りに練って上司にもっていっても、その男性上司の鶴の一声で、すべてがおじゃんになって、「B」案に決まってしまうことが良くありました。女性向けの広告でも、トップの男性が「B」と言えば通らない。その状況に悔しさを感じていました。また、派遣の仕事を扱うときにも、主婦を派遣先がなかなか受け入れてくれない現状にも歯がゆさがありました。そんな時、本屋のマーケティングの棚をなんとなく見ていたら目に留まったのが、ハー・ストーリィの社長の本で、その内容に衝撃を受け、気が付いたらその本の感想を手紙に書き社長に送っていました。すると、その手紙にメールで返信があり、「働いてみない?」と声をかけられ、2003年にハー・ストーリィに入社しました。その後、福岡での人脈を活かしたした仕事をするため、福岡にサテライトとして、一人で拠点を作り、営業で仕事を取ってはメーリングリストで他の社員と情報を共有して進めていくスタイルをとっていました。そして2008年さらに自分らしく仕事を展開するため、ハー・ストーリィから独立して仕事を始めました。
お二人とも、女性の生き方、そして女性ならではの強みや特徴を活かした仕事に惹かれたのですね。
そうですね。それで、福岡で似た意識を持ち、同じ会社と関わるもの同士、必然的に私たち二人が仕事をする機会が増えてきました。
私が営業をして、とってきた仕事を寺島にお願いすることも多くなりました。そうやって信頼関係も深まって。
当時私は、阿部との仕事のほかにもディレクターとして、全国各地の在宅の女性たちと一緒にプロジェクトを行っていました。名前も顔を知らない人たちのディレクションをする、阿部からの仕事以外にもそんなこともやっていましたね。それでも志が同じもの同士、夢を語り合ったり、阿部と一緒に仕事をすることも多くなってきました。
一度寺島が産休に入ったときには、産休が明けるのを待ちきれず、近くのドーナッツ屋さんで仕事の打ち合わせをしたこともありましたね。そのくらいお互いに欠かせない存在でした。そして、二人が同じ仕事を手掛けているのに別の名刺を出すことで、お客様に「どちらに連絡したらいいの?」と聞かれたり「一緒に会社をしたら?」と言われることも増え、2014年現在の会社を作りました。長年同棲していたカップルがやっと籍を入れた、みたいな感覚ですかね。
コンペのある仕事は受けない。私たちだけにできることを。
はじめは、便宜上の都合で2人の会社を作ったと。
はい。でも結局それが個人の意見だと世間に届きにくいものを、会社の組織としても言葉にすることでミッションを明確化することにもつながりました。
社名の由来はお二人のイニシャル(阿部のA、寺島のT)だそうですが、ほかに込めた思いは?
女性同士や企業同士をつないで、「あっと」驚く科学反応を起こしたい。そして企業と生活者、女性の活躍、関わる人と社会の未来づくりの「場」になりたい、という思いを込めました。
そんなあっと驚く「場」づくり御社で手掛けてこられたお仕事の中でも特徴的なものを教えてください。
どれも印象的ですが、一つ挙げるならば、オフィスatになる前から11年手掛けているPanasonic(パナソニック)の女性向けショールームの企画です。水周り商品は女性の目で見られることが多いですが、土日に来ても家族でなんとなく確認する程度。平日のショールームをより主婦に身近な場所にして、認知度を上げるため、主婦5.6人を集めショールームへの意見を発表して集約する「めきき倶楽部」や、食育を身近なものにする「KAMADO倶楽部」という場を作りました。その場の意見が企画に反映されることもあるし、時にはイベントも開催して彼女たちの周りに「クチコミ」として広がる。女性の商品選択において、「クチコミ」はとても大きい。これは企業側にとっても主婦から直接アイディアを得られ、クチコミによるお客様獲得にもつながるという絶好の機会です。メンバーたちも勉強しながら意見を伝え、主婦である自分が大企業の企画に貢献できているという「自信」を得ることができる。この企画にかかわった主婦たちはOG会を作って今でもつながっていますし、ここで得た自信が社会に出るきっかけになった方も多いです。
最近では採用のブランディングのお手伝いの仕事も増えています。女性の採用がうまくいかない富士通のコールセンターからご相談を受け、あえてビッグな企業名を隠して、女性にとって働きやすい職場であることを伝える柔らかい印象のホームページを作り、主婦など、企業名だけで「自分には難しいのでは」と尻込みしている女性たちが応募しやすいようなご提案をしたこともあります。採用の目線でも、やはり女性の視点だと違うご提案ができるんです。
企業の利益だけでなく、女性たちが自信を持っていける。御社の強みをさらに語っていただくとすれば。
社員は私たち2人ですが、OL、ママ、起業家など顔が見える関係の一万人の女性にすぐリーチできるネットワークです。それを最大限に生かし、女性の集客で悩む企業さんに、女性の購買特性を生かした女性視点のマーケティングをご提案できます。そしてそれを通して、何より、働きたいけれど働く場がない女性の力になれていることが誇りでもあります。
阿部:派遣会社で働いていた時代、子どもを産んでから働くことに対して自信を失っていく女性を見てきました。私は子どもがいません。だからこそ、子どもを持つことができたお母さんたちにはもっと幸せであってほしいし、それが子どもたち、そして次の社会の未来につながると信じています。だからこそ、私たちは競合のいない仕事をしています。コンペで争うような仕事はお受けしていません。私たちだからこそできることであれば、全力でお手伝いしています。
これから何かを始めようと考えているクリエイターや女性にメッセージをお願いします。
やりたいことはあるけれど「子どもの手が離れたら」と思っている女性は多いと思いです。でも一度キャリアが途切れるとそこからの復活は精神的にも物理的にもかなり難しいものになります。ちょっとずつでも社会とつながり、途切れないように働いていくことが大切です。キャリアがない人が働ける場は今の日本には残念ながらあまりありません。
自分のスキルや特性、強みを少しずつでも磨いて、品質を上げる。どんなものでもかまいません。自分がどうやったら生き抜いていけるかを考えてほしいです。
取材日:2019年6月5日 ライター:有村 千裕
株式会社オフィスat(アット)
- 代表者名:代表取締役 寺島みちこ
- 設立年月:2014年2月
- 事業内容:女性ファンマーケティング、主婦採用ブランディング、女性マネジメント・育成
- 所在地:〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2丁目2-1MIKIビル5階
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