イラストやキャラクターを北海道PRに繋がるお土産にしたい
道内在住のクリエーターたちと連携し、北海道ならではのお土産やグッズ展開、イベント活動を行っている「工房アルティスタ」。そこから誕生した「テレビ父さん」や「ジンギスカンのジン」くんは、「ゆるキャラ」ブームを経て安定した人気を確立。現在もSNSによって全国にファンが広がっている。そんなキャラクター事業の魅力や今後の目標などについて、代表の永谷久也(ながたに ひさや)氏に、お話を伺いました。
北海道の作家さんの、作品の魅力を届けたい
起業までの永谷さんの職歴について教えてください。
大学卒業後は、長く書店員をしていました。ある時文庫フェアの担当になったのですが、替わりに知り合いのイラストレーターのポストカードを並べたら、これが意外と売れたんです。それまでは本や雑誌といった問屋から来る商品を扱っていたのですが、自分で見つけた作家さんが作ったものが売れたのが面白くて。その経験から、こういうことを仕事にできないかなと思って、35歳で書店を辞めました。
退職後は何から取りかかったのですか?
イラストレーターの絵をもとに、ポストカードやTシャツを作っては土産店に持ち込んでいました。そのうちの一軒がさっぽろテレビ塔にあるショップで、たまたま知り合いに紹介してもらいました。ちょうどテレビ塔が色を塗り替えた直後で、公式キャラクターも出来たばかりだったんですが、「テレビ塔に関係するキャラクターが描かれているなら、お土産のひとつとして置いてもいいよ」と言っていただいたので、イラストレーターにオーダーして完成したのが、「テレビ父さん」だったんです。それが2002年のことですね。
「テレビ父さん」は北海道内でも話題になりましたし、かなりヒットしましたよね。
「非公式キャラクター」ながら、おかげさまで気が付けば20年近く経ちますね。当時はようやく「ゆるキャラ」という言葉が生まれた頃で、ブームが来るなんて思ってもいませんでした。それが気付けばお土産品としてブレイクして…。その頃は自宅で作業をしていたのですが、それでは手が回らなくなり、当時テレビ塔の担当者だった人間とイラストレーターと3人で資金を出し合って「合同会社工房アルティスタ」を設立しました。とはいえ、当初は手持ちの商品がなく、売り上げの8割がテレビ父さん関連でしたね。
そこから、他のキャラクターへと展開していったのですか。
そうですね。2002年にクリスマスカードのイベントを主催しまして、道内在住の作家さんから集めた作品をポストカードにして、2003年から大通公園で開催している「クリスマスミュンヘン市」で販売しました。そこで知り合った「まうのすけ」さんという作家さんが描く、新撰組の土方歳三をモチーフにした「幕末観光ヒジカタ君」が気に入って、第2号としてグッズの製造販売に取り組みました。ほかにも、とうきびワゴンのおばさんや、昭和新山をモチーフにしたり…。基本的に、勝手に描いて勝手にグッズにして持っていく後出しスタイルでしたので、怒られることも多かったですね(笑)。テレビ父さんも売れたからいいですけど、実は最初、テレビ塔の上層部の方にもいい顔はされませんでした(笑)。
「ジンギスカンのジンくん」で会社の認知度が高まる
御社で扱っている「ジンギスカンのジンくん」はかなり人気が高いですよね。
ジンくんは、北海道出身のイラストレーター・はしあさこさんが仲間内で自分たちの地元の特産品を描こうという流れから誕生したキャラクターです。その人気が高かったことから、北海道でも売りたいと言ってうちに持ち込んでくれたので、ポストカードや缶バッジを作ったところ、とても評判が良かったんですね。そこからジンくんのマスコットが勝手にさっぽろ雪まつりに参加したり、平日に札幌や小樽のショッピングモールをウロウロしてみたり…。売り方が分からなかったので、ひたすらあちこちに出没しては、写真を撮ってもらっていました。それがツイッターで少しずつ広まって、かわいいと話題になっていったんです。
それが「工房アルティスタ」が拡大する転機だったんですか?
ジンくん人気ももちろんありますが、もう1つは、土産枠にとらわれるのはやめようと決めたことです。北海道のお土産だけだとシーズンオフが長過ぎるので、量販店に売り込んでみようという話になり、札幌ロフトでイベントをさせてもらったんです。それまでは北海道のキャラクターなので、北海道だけで販売してお金を落としてもらおうと思っていたのですが、札幌でのイベントが好評だったことから、全国のロフトを廻るツアーを始めることになりました。
道外のお客様の反応はいかがでしたか?
実際に東京に行ってみてマーケットの大きさを実感しましたし、全国のロフトに何度もお邪魔しているうちに、今度は道外から会いに来てくれるようになりました。毎年4月29日のジンくんの誕生日には羊ヶ丘展望台レストランを貸し切ってイベントを行うのですが、この日は全国からファンが集まり、ジンくんを囲んで盛り上がっています。道内だけで収まっていたらこんな風にはならなかったと思いますので、改めて道外イベントの必要性を強く感じましたね。
作家さんたちの世界観を大切にし、一緒に盛り上げていく
作家さんとの繋がりはどのように生まれ、広がっていくのですか?
きっかけとしては、毎年行っているクリスマスカードイベントでしょうか。参加条件は、道内在住であれば、子どもから大人までプロアマ問いません。毎回200人くらいの作家さんが参加してくれて、約600点の作品の中から400点を採用します。テーマは「クリスマス」というだけ。イベントでは、売り上げ金額がそのまま人気のバロメーターになりますので、その中からいいなと思った作家さんに声をかけます。その結果、現在10人くらいの作家さんとお取り引きさせていただいています。
キャラクター事業を進める中で、大切なことは何だと思いますか?
大切なのは作家さんの想像力や妄想力です。キャラクターの性格や家族構成、クセ、好みといった設定が明確であるほど世界観が伝わりやすいですし、グッズ製作の可能性も広がります。購入する側も、「私とこんなところが似ている」「見た目があの人にそっくり」といった共感性があるほど、ファンになってくれますしね。私たち工房のスタッフは、パートナーとして作家さんの世界観も一緒に育てるというスタンスで取り組んでいますが、あくまでもベースは作家さんにありますので、長く展開していくためには、ストーリーの組み立てはとても重要になると思います。
スタッフが楽しく笑顔で働ける会社でありたい
御社の強みを挙げるとしたら、どういった点だと考えますか。
とりあえず、お土産系に販売ルートがあるということでしょうか。それと、作家さんたちよりはグッズの作り方を知っていることですね。缶バッジやステッカーなどは自社製作していますので、イラストだけ預けてもらえれば形にはなります。もちろん売れるか売れないかはお客さんの問題になりますけどね。それと、しばらく卸ばかりやっていましたが、もともとは書店員だったこともあって販売がしたいと思い、2015年に購買部と銘打って事務所に店舗を併設しました。昔はお蔵入りになったものもたくさんありますが、今はこうやって、自分たちが自由に作ってすぐに店頭に並べられたり、情報発信が出来る点も強みだと言えるでしょう。
売店を設けたことで変わった点はありますか?
店頭でお客様の反応を直に感じられるのはもちろん、SNSを見て来てくださる方も増えましたね。さらに2018年からは電脳購買部としてネット通販もスタートさせました。北海道に来てもらいたかったので、それまでは店頭やイベントでの販売のみでしたが、ネットであれば夜中でも早朝でも時間に関係なく購入してくれますし、新作に対する反応や感想も早いので、どのくらい作ろうか、ここをもう少しこうしようといった次の手も打ちやすくなります。そうしたメリットも踏まえると、このスピードの時代に、頑に通販を否定する必要もないのかなと思いましたね。
今後の事業展開について、構想や展望を教えてください。
3人から始めた会社ですが、知り合いが手伝ってくれているうちに社員になったり、紹介などで入ったり、ジンくんが大好きで入社したというスタッフもいて、現在は15名にまで増えました。みんな楽しく働いてくれれば、特にこれ以上会社が大きくなる必要はないと思っています。うちはたまたまキャラクターが目立ちますが、実はそんなにキャラクターにこだわっているわけではなくて、動物でも風景でもいいので北海道のPRに繋がるようなイラストを売りたいと思っています。そのイラストの世界観を表現するアイテムとしてのグッズやお土産、イベントを考えるのは簡単ではありませんが、基本的に自分たちが面白いと思うものに作家さんたちと一緒に取り組んで、その結果、お客様が笑顔で平和であれば、それが1番いいかなと思っています。
取材日:2019年7月5日 ライター:八幡 智子
工房アルティスタ
- 代表者名:永谷 久也
- 設立年月:2007年4月
- 資本金:45万円
- 事業内容:ポストカード、缶バッジ、キャラクター雑貨製造、卸、販売。イベント企画
- 所在地:〒060-0052 北海道札幌市中央区南2条東2丁目16番地 堀尾ビル1階
- URL:kobo-artista.com
- お問い合わせ先:上記HPの「お問い合わせ」より