ヒットを狙ったゲームではなく、面白いゲームでヒットを狙う
株式会社DANGEN ENTERTAINMENTは、素晴らしいゲーム開発者がまだまだいることや、インディーズゲームの面白さを知ってほしいと、日本・欧米をはじめグローバル展開を視野に入れた、インディーズゲームパブリッシャー(発売元)です。 メンバーは、日々面白いゲームの発掘と提供に熱い想いを持ったスペシャリストの集まりで、今回はその中から、マーケティング・マエストロ(メディアマーケティング・PR担当)のジャスティンさん、ゲーム美食家(コンテンツ獲得担当、開発者との契約営業・窓口の担当)のナイアンさん、ライブ放送男爵(ストリーミングのプロデューサー)のチャドさんにお話をうかがいました。
同じ熱い想いを持つ友人の絆からはじまった
まずは会社設立のきっかけについて教えてください。
ベン社長は株式会社カプコンでゲームプロデューサーとして、現在は長野県でリモートワークをしているスタッフと私はインディーズパブリッシャーでマーケティングを担当するなど、皆ゲーム業界に長く勤めていました。私たちは友人関係で、公私ともに大のゲーム好きなので、素晴らしいものを作る開発者をサポートして、インディ―ズゲームの面白さを、ゲームファンにどんどん提供していきたいと話していたんです。同じ志を持つメンバーが集まって2017年に会社を設立しました。
僕も10年くらいゲームのライブストリーミング(ライブ配信)のプラットフォームTwitch(ツイッチ)で配信をする仕事をしていました。DANGENはスタッフ一人ひとりがゲーム業界の各分野で活躍していたプロフェッショナルの集まりなのです。
日本に拠点を置かれた理由はなんですか?
日本のゲーム業界は大手パブリッシャーがヒットを狙ったAAAタイトルのものがメインで、海外に比べインディーズゲームが浸透していなかったんです。インディーズゲームは、純粋にゲームの面白さを追求する一人ないし少人数の開発者が手掛けるものですから、メジャーとは違いマーケティングや資金繰りをはじめ様々な苦労があります。日本ではその開発者をサポートするシステムが海外に比べて遅れています。もちろん会社として利益も大切ですが、まずは開発者をサポートすることに注力しています。
日本で初めて設立した会社ですから、苦労された点も多かったのでは?
最初はどうやって会社を回していくのかといった運営方法などで、迷ってばかりでした。その苦しい状況の中で、私であればいかにストリーミング配信で会社としてアピールできるのかといったところを全力で取り組むなど、それぞれが持っている力を精一杯出し合って過ごしました。
ベン社長のアイデアを皆でシェアし、リモートワークしているスタッフと私のインディーズパブリッシャーで培った経験と知識、それにネットワークを存分に活かし、PRに重要なライブ配信をチャドさんが担当し、ローカライズ(※1)担当と一緒に進めていきました。
(※1)直訳だけでなく、制作したゲームを海外でも違和感なく楽しめるよう、その国の文化も理解したうえで適した内容にすること。
また、私たちはインディーズパブリッシャーですから、ゲームの開発者との契約がないと会社として成り立ちません。設立当初は、ダンさんが前職でつながりのあった開発者4名で進め、毎年京都で実施される日本最大級のインディーズゲームの祭典「BitSummit」などのイベントに出向いているうちに、段々とつながりが出来ていきました。現在では20人位の方と契約させていただいており、内10名の方のゲームが既に発売済みになります。
ゲームのことはプロのゲーム好きにおまかせを
設立からまだ数年しか経っていないのに凄いペースですね。ゲームを売り出す際にどのような㏚活動をされているのですか?
ゲームによって様々ですが、例えば11月下旬に発売の「Bug Fables ~ムシたちとえいえんの若木~」の場合、「東京ゲームショウ」で紹介したり、会社のプレスリリースで公表したりしました。このゲームは、ビジュアル面でも有名なキャラクターに共通している親しみやすさや可愛らしさがあって、冒険するワクワク感も味わえますので、イベント会場等で子供から大人まで年齢問わず面白いと受けていました。11月の発売はPCだけですが、Twitchやプレイステーション4向けの展開も考えています。
Bug Fablesなど新作ゲームの発売発表やイベントのタイミングなどに、発売予定スケジュールや予告といった内容も、TwitchやYouTube等出来るだけ多くのプラットフォームを使って配信しています。
最近では他にどのようなものを発売されたのですか?
10月に発表した「DISC CREATURES(ディスククリーチャーズ)」は、携帯ゲームの黄金時代に発売された、色んなモンスターを集めていくレトロな雰囲気が魅力のシンプルなRPGゲームです。ファミコン世代にとってはどこか懐かしい感じで楽しめますし、子供には新鮮な感じを味わってもらえると思います。最近の特長としては、世界を視野に入れた多言語のものを出しています。「MINORIA」というゲームは10言語に対応していることから、かなりヒットしました。
また、ゲームによってターゲットも決めて進めていきます。例えば、謎解きホラーアドベンチャー「魔女の家」は、もともと1人の日本人が無料で提供していましたが、外国人にも受けそうだということで、ローカライズした「魔女の家MV」も米国を中心とした英語圏の国々に向け提供します。
「MV」が付いている「魔女の家MV」はローカライズに加えて、グラフィックもアップデートして画像もきれいになっていますので、ビジュアル面でも目をひくと思います。
発売するゲームはどのようにして誕生するのですか?
2通りあって、1つめは、開発者がパブリッシャーを探しているケースです。その場合は、スタッフ皆でゲームを確認して全員が興味深いものについてのみ契約を進めます。2つめは、私たちが面白いゲームを探して、「これは‼」と思うものがあれば、開発者に直接連絡を取り、お互いの条件等上手く話がまとまれば契約をします。その開発者を見つけてくる仕事をナイアンさんを含め2名で担当しています。契約後は、開発者に完成に至るまでの流れや仕上がりまでのスケジュールを確認し、こちらはパブリッシャーとしてマーケティングなどの話を進めていきます。
相手をリスペクトする気持ちが面白いゲームを生み出す
事業を進める中で御社の強みは何ですか?
DANGENの特長としてあげているのは4つあります。1つめは私たちがスペシャリストの集団だということ、2つめは、DANGENに関わる全ての人をファミリーとしてリスペクトしてお付き合いをしていること、3つめは、著名なクリエイターやアーティストとのコラボレーションを実現できること、4つめはTwitchのコミュニティやYouTuber、ストリーマー達とのつながりといった事です。
1つめはわかるのですが、2つめのファミリーとは?
DANGENに関わるパートナーやスタッフの方々を自分たちの家族のように思っています。例えばローカライズ担当の場合、他社であれば自分がゲーム制作に参加していることを明かせない場合が多い中で。DANGENでは名前を必ずクレジットに入れるようにしています。
クレジットに載せることで著作権使用料として、ワード単位で出す作業量的な報酬に加えて、特定の売上額を達成した場合はロイヤリティーを支払う契約にしています。これは業界では珍しいと思うのですが、ローカライズ担当はフリーランスで頑張っている方が多く、ファミリーとして大切に付き合っていきたいという考えから、そのような契約にしています。
それは、仕事へのモチベーションも上がりそうですね
そうですね、ずっと長いお付き合いをさせていただいている方がほとんどで、毎月かなりの量をこなしてくださる方もいます。弊社のローカライズ担当の方は、翻訳だけでなく、校正や実際に遊んでみて分かりづらいなど不備がないかを確認する試遊、言語の面で品質保証してくれるQA(Quality Assurance 品質保証)まで特化した人がいます。今はローカライズ担当も新規契約でどんどん増えています。
どのくらいの方がいるのですか?
現在ローカライズ担当の方だけで海外に20人以上、日本にいる方も入れると軽く50人は超えると思います。日本語と英語だけではなかなかヒットしませんので、日本に在住している人だけではなく、ネイティブスピーカーなど現地に住んでいる世界中のフリーランスの方との契約を増やしていっているところです。
DANGENだからできること
ネットワークがどんどん広がっていっている感じですね。
人とのつながりは事業をする上で本当に重要です。3つめのコラボレーションと4つめにも通じることなのですが、スタッフそれぞれがこれまでに築いてきた業界のネットワークが活きています。例えば、開発者が大好きなゲームサウンドクリエイターの方と、もともと繋がりがあったのでお声がけしたところ、快く引き受けていたたいたことがあって、開発者も感激してくれていたし、ゲームを発売する上での訴求ポイントにもなるわけです。
普通ではなかなか実現しませんよね。4つめはマーケティング戦略の一環ですか?
従来のメディアに加えて、最近ますますストリーミング配信が注目されるようになっています。そこで、僕がこれまでに築きあげてきたTwitchのコミュニティや、YouTuber、ストリーマーとのネットワークがあるので、発売日が迫ってくると、その人たちにゲームのプレー実況や解説などのライブ配信をしてもらっています。
ストリーミング配信は効果的なPRになりますね
ほかにも、東京ゲームショウを手伝ってくれたオーストリアの翻訳者を社内に招いてゲスト出演してもらったり、テレビ局のeスポーツゲームイベントで選手によるデモンストレーションの様子を配信するなど、機材を持って出掛けたりすることもあります。
開発者自身がゲームのマーケティングや公式プラットフォームの登録までするのは難しいので、そこを私たちがパブリッシャーとして管理します。そのうえで、クリエイターやアーティストとのコラボレーションやゲームファンに向けた効果的な配信をします。それに、今年ポーティング(※2)担当のサルバドールさんもメンバーに加わったことで、ユーザーそれぞれのデバイス環境でもゲームが動作するポーティング作業もここで出来るようになりました。
(※2)プログラムやアプリケーション、サービスなどを異なる環境上で動作させるために修正、再コンパイルなどの作業をして移行すること。
世界中の人々に知ってほしいこと
会社規模が大きくなる中で、今後描いているビジョンなどをお聞かせください
最近はNintendo Switchなどでインディーズゲームの発売がかなり多くなってきました。それに、グラフィック、ストーリー、音楽まで一人で作ったゲームなどがポーティングされて発売になるなど劇的な変化も起こってきていて、インディーズゲームの認知度が高くなってきました。しかし、まだ知らない人もたくさんいると思います。素晴らしい作品を作るインディーズチームが頑張っていて、私たちはその方々を凄くリスペクトしています。だからこそ、世界中の人々にその方々の存在を知って欲しいし、世の中に作品をどんどん提供していきたいです。そうすることでゲーム人口もどんどん増やしていきたいと思っています。
取材日:2019年10月4日 ライター:川原 珠美
株式会社DANGEN ENTERTAINMENT
- 代表者名:ベン・ジャッド
- 設立年月:2017年5月
- 資本金:300万円
- 事業内容:パブリッシング業務〔ロコライズ、マーケティング、ストリーミング、ポーティング〕
- URL:http://dangenentertainment.co.jp
- お問い合わせ先:contact@dangenentertainment.com