人気店生み出す秘訣は、魅力を伝えるストーリー。ベトナムとダラスに進出したデザイン会社の挑戦!
株式会社ピコ・イノベートは、ストーリー性ある多角的で自由なコンセプトと日常を非日常に変えるデザインを売りに、飲食店やオフィスのデザイン設計、施工を行っている。最近では活躍の場は国内にとどまらず、ベトナムをオペレーションの拠点とし、アメリカのダラスにも進出している。「流行(はや)る店を日々研究している」という代表取締役の阿部勝和(あべ まさかず)さんに、デザインで大切にしていることや、今後の会社の展望を聞いた。
お客様の気持ちが高まるような仕掛け作りを
どんな店舗のデザインを手掛けているのですか? 最近手掛けた店を教えてください。
ニューヨーク、マンハッタン発の「ベンジャミンステーキハウス」が日本で初めて出店した六本木店と2店舗目の京都店をデザインしました。ニューヨークの「ベンジャミンステーキハウス」は、お客様が以前頼んだメニューを覚えているなど、接客が素晴らしいのが特長です。今回のデザインはニューヨーク店のマインドやテイストを保ちつつ、日本風にアレンジするというのが課題でした。何度もアメリカとやり取りしながら、デザインしていきました。
どんな点に注意してデザインしたのでしょうか?
六本木店では、地上の入り口から地下のレセプションカウンターまで階段をおりて20メートルほど距離があります。そこをお客様が通過する間に気持ちが高ぶるよう、NY本店の雰囲気が伝わる写真や音響、リラックスできる照明計画にこだわりました。さらに、階段を降りてきたお客様をスタッフがすぐにお迎えできるように、レセプションを配置しました。
デザインにおいては、店内の賑わいや活気が伝わるような仕掛け作りや演出を考えています。
同時にスタッフが動きやすくサービスのしやすいレイアウトが重要になります。どんなに格好いい店でも料理の提供時間が遅ければ仕方ありません。お客様の導線とスタッフの導線、両方に気を配っています。また、地域に合わせることも大切にしています。京都店は日本家屋を改造して、暖簾(のれん)がかかったステーキハウスにしました。
会社設立までのキャリアと経緯を教えてください。
私の実家は住宅の工務店で、学生時代から現場でアルバイトをしていましたが、住宅よりも商業施設に興味を持ちました。商業施設は、立地・ターゲット・コンセプトを変えていくオートクチュール的な要素に魅力を感じました。専門学校でインテリアコーディネートを学び、卒業後に施工会社で4年ほど経験し、設計事務所に転職してデザイナーとなりました。
それから幾度か転職し、アパレル大手のワールドでは、雑貨店「ITS’DEMO (イッツデモ)」の1号店の立ち上げチームに参画し、平林デザインではデザイナーとして、大手ハンバーガーチェーンや携帯電話会社のショールームのデザインを担当しました。
その後、前身のピコ・プロダクトを立ち上げました。インテリアデザインだけでなく、テーブルやいす、照明器具などのプロダクトデザインも一から自分たちでデザインしました。そして2010年9月、活躍の場をグローバルに広げてデザインで新たな挑戦をしたいと思い、ピコ・イノベートとして独立しました。
積極的に海外展開 ベトナムとダラスに拠点を開設
海外展開を積極的にされていますね。今の体制を教えてください。
昨年、ベトナム支社とアメリカのダラスに支店を開きました。東京でマスターデザインをして、ベトナムをデザインセンター的役割とし、ダラスでは日系企業の進出支援と世界の企業に対し日本のデザインを見ていただく場として開設しました。ベトナムでは日本人デザイナー1人、現地の方が7人働いています。人件費や固定費などが抑えられますし、情熱ある人たちにデザインを任せたい。2025年までに現地のスタッフ数を35人まで増やしたいです。
これから5Gの時代になると、国境や時差など関係なくなっていくと思います。ダラスは税金が優遇されるため、世界から本社機能の移転が多くなり、人口の伸び率がアメリカで上位に入っています。ダラス進出の企業様へ、ハード面でのサービスを提供していきたいと考えております。
ストーリーのある店作りを提案
会社の強みや特色は何でしょうか?
空間を作るときに固定概念に縛られず、お客様のご要望に“プラスアルファ”で幅を広げたご提案をしています。お客様との打合せ時にはまだ明確な答えが見出せない場合には、企業様のカラーや思いを継承しつつ、新たな要素を付け加えたデザインとストーリーをご提案するように心がけています。
ストーリーのある店作りとは?
中野にあるグリルの店は、当初は企業様が居抜きを利用したきれいなお店にして欲しい、という要望でした。その企業は、お客様へのおもてなしの気持ちも強く、料理もおいしい。そこで私は、さらにお店がお客様に受け入れられるには、分かりやすいコンセプトが必要だと考えました。そこで、企業を「風が気持ちいい丘の上の村」に例えて、「村から都会へ、食べてもらいたいお料理をトレーラーで運んできた」というストーリーを作り、「トレーラーハウス」のようなレストランをご提案しました。内装はトレーラーのコンテナの素材を使ったり、手書きの黒板メニューを設置したりして、アットホームな雰囲気を出しました。すると、企業様が当初の予算を組み直して、提案したデザインを採用していただけることになりました。
店ごとのストーリーはどうやって思いつくのですか?
レストランや会社で打合せすることが多いので、スタッフの雰囲気や社風からいろいろと感じるのです。店はやはりコンセプトが命だと思います。どうしてこんなデザインになったのか、答えは分かった方がいいと思います。
一つでも人に伝えたいことがあれば、店は流行(はや)る
流行(はや)る店とはどんな店でしょうか?
シンプルな店でも、何か一つ人に伝えたいことがあれば、お店は流行(はや)っていくと考えています。例えば「ベンジャミンステーキハウス」京都店には、ガラス張りの3階建てのワインセラーを設置しました。デザインするときには、何か自慢できることをストーリーに仕立てて、人に伝わるように心掛けています。
ただ、1回来てすべてが分かってしまうのではなく、店には“奥深さ”が必要だと思います。
例えば居酒屋でも、最初は普通にメニューを頼むだけなのが、通ううちに店主と仲良くなって、常連になっていく。流行(はや)る店には“奥深さ”が隠れているので、その辺りも意識しています。
会社を経営していくうえで大切にしている考えはありますか?
革新していくことです。社名にある「ピコ」は1兆分の1、ディテールから革新していくという意味を込めています。デザインだけではなく、デザインをやりやすくする環境、発想を生む環境についても、意識して常にバージョンアップしていきたいと思っています。
将来目指していることを教えてください。
日本のデザインや技術が海外でどれだけ通用するかチャレンジしていきたい。今がその足場作りのときだと考えています。
取材日:2020年1月8日 ライター:すずき くみ
株式会社ピコ・イノベート
- 代表者名:代表取締役 阿部 勝和
- 設立年月:2010年09月
- 資本金:700万円
- 事業内容:インテリアデザイン、プロダクトデザイン、グラフィック/WEBデザイン
- 所在地:〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷1-4-6若菜ビル3階
- URL:http://pico-innovate.com/
- お問い合わせ先:03-6407-1586 FAX:03-6407-1587