誰もが持つ「面白いっ!」のDNAが騒ぎ出す番組作りを
子供の頃、ただただ無心に楽しみ、夢中になって遊んだおもちゃ。そんなおもちゃを楽しんだ子供の心でクリエイトし、番組を提供し続ける株式会社おもちゃあ。「可もなく不可もなくといった作品が一番嫌いなんです」と語るのは、代表取締役社長の山根敏功(やまね としのり)さん。
学生時代は本気でローリング・ストーンズのメンバーを目指し、音楽活動に明け暮れていたという山根さんは、ハリセンチョップで一世風靡したチャンバラトリオのメンバーを父に持ち、自らも一時期その一員として活躍していました。常に“おもちゃ心”を忘れずにどんな時も前向きに取り組む山根さんに、作り手に必要な心構えや、今後の方向性についてお話を伺いました。
次々に用意される新たなステージ
この業界に入られた経緯を教えてください。
父親がお笑い芸人グループ「チャンバラトリオ」のメンバーで、家にはよく大物芸能人や有名プロデューサーが来ていたので、物心がついたときからテレビ業界は身近な存在でした。大学1回生の時に父親が病で倒れてしまい、急きょ代理でチャンバラトリオの一員になったんです。いきなり東京と地元の大阪を行き来するような生活になり、周囲も、日本を代表するような笑いの天才たちばかりでしたので、なかなかベクトルを合わせることが出来ず、戸惑いながら仕事をこなしていました。3年半くらいして親父が奇跡的に復活を果たしたので、それを機に退き、大学に専念しました。就職はテレビ業界とは全く違う分野で決めかけていたのですが、何か自分にはしっくりこないと悩んでいました。そんな姿を見た親父が、洛西ケーブルビジョンの仕事を紹介してくれたんです。
当時まだケーブルテレビは珍しかったと思うのですが、どのようなお仕事をされていたのですか?
洛西ニュータウンは京都市が造り上げたエリアで、景観を守るためにアンテナがなかったんです。そこで、きめ細かな地域密着の情報を扱うコミュニティーチャンネルも含めた、きれいな映像を送信する局として洛西ケーブルビジョンが誕生したんです。番組内容はドキュメンタリーチックなものが多かったので、一人でカメラを持って撮影に出向き、原稿を作成し、アナウンサーとして情報を発信するといった、一連の流れをワンオペでやる仕事がほとんどでした。そこで働くうちに「もっと広い世界を見たい」というのと「僕が一番やりたかったのは、育ってきた環境に深く関わっていたバラエティー分野だ」という気持ちが強まってきて、8年目に大手印刷会社の映像部門に転職し、全国に展開する大手ケーブルテレビの前身会社に出向しました。
転職されて仕事面での変化はありましたか?
まず視聴エリアが、高槻、豊中、大阪中心部、東大阪と拡大し、視聴世帯数も100万世帯以上と桁違いに増えました。しばらくして、本社が映像制作プロダクションを立ち上げることになったので出向先から戻り、本格的なプロダクション活動に取り組みました。そこで民放の仕事をするようになり、初めて本格的なバラエティー番組制作に参加することができました。親父たちが活躍していた地上波に携われたこともあって、多忙を極めていましたが楽しかったです。30歳過ぎで初めてADを経験したのですが、ケーブルテレビでのキャリアもあり、すぐにディレクターになりました。
短期間でディレクターになられたんですね。
モデルケースのない業界ですから、才能があってやる気があればすぐにディレクターにまでなれます。そこでの仕事も充実していたのですが、ある日、洛西ケーブルビジョンから「局の編成自体を一から変えたいので戻ってこないか」とのお誘いをいただいたんです。重要な局面に立ち会えるめったにないチャンスでしたので、再就職させていただきました。その後、会社の意向で制作部門を分社化することになり、洛西ケーブルビジョンの番組編成をしつつ、せっかく番組制作会社として独立するからには、目いっぱい面白いことをしようという運びになり、地上波番組制作を担当していた知り合いも呼んで、2008年に弊社を設立しました。当初、僕は副社長として実質会社の切り盛りをし、2018年に社長に就任しました。
作り手の心一つで番組の面白さが決まる
設立当初から“面白い”というフレーズが御社の軸になっているようですが。
幕末の志士・高杉晋作の句で好きなものがありまして「おもしろきこともなき世をおもしろく すみなすものはこころなりけり」というものです。つまり、面白いものも面白くないものもその人の心次第だという内容です。面白くないことを面白くしようというのが僕たちクリエーターの役目だと思っています。そこで社是を『おもしろい(未来)Future』を切り拓くために『おもしろいCulture(文化)』をおもちゃ心(子ども心)でクリエイトし、社会に貢献する」としています。作品は作り手の心一つで面白いか面白くないかが決まります。一見、面白くないことでも、懸命に面白くするための方法を考えて、あらゆる角度から物事を見ることで絶対に何かが見えてきます。それを見つけて、今度は視聴者の興味を引くにはどうすればいいのか、例えばクイズ形式でいくのか、それとも、とんでもないものを番組に入れ込んでいくのかといろいろ考えて、各過程でブラッシュアップしていくんです。常に根底にあるのは、視聴者がどういう風に感じてくれるかだけなんです。たとえクレームでも、見てくれた人が何かを感じ取ってくれるとうれしいですね。
クレームでもですか!?
その時は嫌ですよ、めげますし…(笑)。でも裏を返せばクレームを出していただけるくらい番組を見て、反応してくださっているということなんです。人権や人格を傷つけないことは大前提ですが、表現方法は自由なので、あとは好みの問題になっていきます。何か言いながらでも、引っ掛かるものがあって、最後まで見てくれたことがうれしいんです。現在ディレクター業はほぼ社員に任せていますが、僕が最終チェックをしたもので、面白くないものはやり直しをさせています。
面白くないものって具体的にどんなものですか?
作り手の思いがないものです。表現したい何かがないと、視聴者の心に刺さらないんです。制作上どうしても時間の制約があって、ルーチン的に仕事をこなしてしまいそうになるんです。そういったものは、見ればすぐに分かります。可もなく不可もなくという作品が一番嫌いなんです。どちらかといえば、「なんじゃこれ、ひどいな」と思ったものの方が心に留まり、ちょっと手を加えるだけでガラッと面白く化ける可能性があるんです。作り手本人が最大限に考えて思いを込めたものなら、表現の良し悪しはどうであれ、見るものに何かを残すわけです。
関西パワーをとくとご覧あれ!
具体的にはどのような番組を制作されているのですか?
僕が特に思い入れのある番組は「三関王」(さんかんおう)です。これは、関西のさまざまな「三大〇〇」を紹介する番組で、日本ケーブルテレビ連盟近畿支部との共同制作になり、関西一円で流れています。「日本の三大庭園や河川などは有名だけれども、関西の三大となるとあまり知られていないので、これを番組にすれば面白いのでは」という社員との会話がきっかけなんです。連盟には、地域貢献や地域密着情報になるうえ、関西という広域なエリアでの情報番組としても扱えるということをプレゼンしスタートしました。月2本制作で今年で11年目になります。
長いですね。企画からとなるとなおさら思い入れがありますね。他にはどういったものがあるんですか。
京の職人にスポットを当てた「京十色(きょうといろ)」という洛西ケーブルビジョンのドキュメンタリー番組があります。これは、伝統技術を継承している職人の仕事っぷりをただずひたすら撮り続けるものです。真剣な表情をはじめ、仕事での大変なことや愚痴、そして喜びなどの独り言、そういうもの全てを15分にまとめた番組です。京都五山送り火など、なじみのある行事に携わる人も紹介し、地元の人に改めて京都の魅力を再発見してもらえるように仕上げています。あと変わったところでいえば、関西のケーブルテレビを応援するために結成された「関ガール」という女性アイドルユニットのプロデュースもしています。
どれも御社の関西愛を感じてしまいます。
関西のパワーは好きですね。例えば東京の番組ってどうしても筋書き通りというのがあるんですが、関西ってあらかじめストーリー立てていても、演者が突発的な行動をすることが多く、それが美味しいところでもあるんです。特に大阪は、一般人でも芸人のような感性をお持ちの方が多いので、インタビューしていても予想外の方向に話が突き進んでいくんです。そのノリが大好きですから、関西の笑いを中心に、自分たちが面白いと反応するものを作っていきたいんです。
「面白い」は視聴者のために
人材としてはどのような方を求めていますか?
弊社では一つだけ条件があって、「面白い人」でないと駄目なんです。漫才でいうと“ぼけタイプ”です。漫才コンビって面白くて、MCができるツッコミ型ってほとんど体育会系なのですが、ぼけタイプってアーティスト型で、個性的な天才型が多いです。面接で僕が「どんな仕事をしたいの?」と聞いて、その回答に思わず「なんでやねん!!」とツッコミを入れたら合格です(笑)。そうやって漫才になるような人の方が、発想が絶対に面白いんです。技術やノウハウはある程度基礎があれば、入社してから磨いてもらえればいいんです。就業規則は裁量労働制を導入していて、時間よりもクオリティ重視なんです。納期までに最大限のものを仕上げればいいというのが僕の考えで、クリエイターにとってパラダイスのような会社にしたいと思っているんです。
今後、どのような番組制作を目指していますか?
番組というよりは、テレビ放送に限らず、コンテンツを増やしていきたいんです。創業時には、社員それぞれがYouTubeに作品をあげて1万ビュー超えたらボーナス10万円が出るというのをしていたんですね(笑)。今は目の前の仕事をこなすだけで精いっぱいなんですが、弊社の社員はドラマ制作などのノウハウも持っているので、知名度を上げるためにもいずれは復活させたいと思っています。それに、今後どのようなメディアが主流となっても取り組めるように、デジタルコンテンツなど世界に向けた新しいコンテンツの制作ができるクリエイター集団を目指していくことも考えています。
取材日:2020年1月14日 ライター:川原 珠美
株式会社おもちゃあ
- 代表者名:代表取締役社長 山根 敏功
- 設立年月:2009年2月
- 事業内容:ケーブルテレビ・地上波番組制作、動画制作全般、洛西ケーブルビジョン株式会社(RCV)の自主放送番組の企画・制作並びにイベントの企画・立案・運営、企業のビデオパッケージやIRに使用される資料用映像、ホームページ用の映像、CG、冠婚葬祭用映像の制作やモバイルコンテンツの企画
- 所在地:〒610-1143 京都府京都市西京区大原野東境谷町2-5-7
- URL:http://www.omoture.co.jp/