スペース2020.03.25

豊かさを感じ、永く愛される建築・デザインを追求

広島
株式会社SWITCH 代表
Tomoaki Tanigawa
谷川 智明

株式会社SWITCH(スイッチ)は、広島市の建築設計デザイン会社です。同市の観光ランドマーク「おりづるタワー」内のカフェ「AkushuCafe(握手カフェ)」や、日本商環境デザイン協会のデザインアワードJCD CHUGOKU DESIGN AWARDSで「最優秀賞」(2019年)に輝いたベーカリー「粉こから(ここから)大手町店」をはじめ、飲食店やオフィス、住宅などのデザイン設計をしています。ライティング(照明)の造詣が深く、その知識・技術を生かすことで、温かみと爽やかさのある空間を作り出しています。ホームページには、「豊かさを感じ、永く愛される建築・デザインを追求しています」というメッセージが。代表の谷川智明さんに、起業の経緯や愛される建物の「豊かさ」についてお伺いしました。

建築工程やインテリアへの興味が深まった電気工事時代

起業前のキャリアを教えてください。

高校卒業後、広島修道大学の商学部に進学しました。商学部を選んだ理由はこれといってなく、就職へのステップとして自然に選択したように思います。大学時代はサーフィンや音楽に没頭し、いたって普通の、いわゆる健全な大学生でした。

大学を卒業後、大手ハウスメーカーに就職。住宅営業の仕事をしていましたが約1年で退職し、家業だった広島県呉市の電気工事会社を手伝うようになりました。最初は電気工事のいろはを学ぶために現場での作業に参加し、その後、現場管理の仕事や営業を担当。この頃、電気工事の仕事を通して建物ができるまでの工程を知ったことと、もともとあったインテリアへの興味が相まって、工務店や建築会社の打ち合わせに同席し、照明器具のカタログをお持ちして取引先の方に照明プランニングのご提案をするようになりました。

電気工事って本当に、建物を作る全ての工程に関わる仕事なんです。まず施工が始まる前に、建築用の機械工具を動かすための電源が必要になります。床下の配線ができるタイミングで床下、天井裏ができるタイミングで天井裏を工事し、照明器具や電気設備の動作確認や、お引き渡し時にスイッチの位置を説明するなど、本当に最初から最後まで。

また、インテリアへの興味が深まったのには、当時の社会背景も関わっています。今でこそ検索すれば何でもわかる時代ですが、当時は流行に関する情報源といえば、もっぱらファッション誌や音楽誌でした。好きなアーティストが掲載されているページを見てどんな家に住み、どんなお店に出入りしているのかを知り、その中に「フィフティーズ」というカルチャーがあり、「イームズ」という椅子があり、「ジョージ・ネルソン」というデザイナーがいることを知っていくわけです。今が良いとも昔が良いとも思いませんが、あの時間が僕に大きな影響を与えたことは確かです。

刺激を与え合える人物との出会い

照明の専門家から一転、建築デザイン事務所を志したのはなぜですか。

広島にはいわゆる「建築家」と呼ばれる人たちが昔からいて、全国的に有名な方も何人かいらっしゃった。そのうちの一人の先生が電気工事の会社があった呉市に事務所を構えており、工事を担当させていただくことが多くありました。「世の中にはこだわりがあってストイックにものを考える人たちがいるんだな、こういう世界ってかっこいいな」と憧れるようになりました。

漠然と憧れていたところから「自分も設計をやってみたい」とはっきり思うようになったのは、現在も県内外で精力的に活動されている建築家Aさんとの出会いがきっかけです。Aさんとは、建築家の方々のさまざまなプロジェクトに呼んでいただくことが多くなった頃に、紹介で知り合いました。

呉市の会社に所属しつつもそろそろ広島市にも仕事の拠点が欲しかった僕と、当時自宅で仕事をしていたがそろそろ事務所を持ちたいと思っていたAさん。利害が絶妙に一致し、2人で古い3階建てのビルを借りてシェアしました。

僕はしばらく電気設備のブレーンとして、Aさんが手がける物件のお手伝いをしていました。同じオフィスで彼や彼の会社の人たちの仕事を間近に見ることで「自分も設計をやってみたい」という憧れへの距離がどんどん縮まり、どこから始めればいいのか分からないなりに、まずは2級建築士の資格を取りました。

資格を取ったからといってすぐに仕事が来るわけではなく、電気工事との二足のわらじを履いていた時期が数年間ありました。友人知人を介して歯科医院や飲食店の設計のお仕事をいただきましたが、すぐにお金になるわけでもなく、電気工事の会社の中に「建築デザイン事業部」を作って取り組んでいるような状態でした。

ターニングポイントは2012年。家業の電気工事会社をたたんだことをきっかけに、現在と同じこの事務所でSWITCHの前身となる会社を立ち上げました。場所の決め手は、呉との行き来のしやすさと家賃の安さ、そして川が見えること。Aさんとシェアしていたビルも、川のすぐそばだったんです。

二足のわらじの頃は大変でしたが良い面もあり、建築デザインの仕事がないときにも日々電気工事の仕事があったので、困ることはありませんでした。専業になってからは、常に仕事のタネを見つけ続けなければならず、その点でプレッシャーがありました。いろいろな方に助けていただき、人とのつながりで仕事を発注してもらい、いただいた仕事で確実に期待に応えて次へつなげることのくり返しでした。

永く愛される建築にはストーリーが紛れ込んでいる

お仕事で喜びを感じるのはどんな時ですか。

設計したお店にたくさんのお客さまが足を運んでくださったと耳にしたり、リノベーションした個人宅の家主から「毎日家に帰るのが楽しみになった」と聞いたりしたときはやはりとてもうれしいです。自分たちの内なる作家性や作品性にこだわるのではなく、お客さまのニーズに沿い、たくさんの方に喜んでいただけるデザインを作るよう意識しています。

また、デザイン、スケジュール、コスト、ビジネスあるいは住まいとしての機能といった全ての要素がバチっとかみ合う手ごたえを感じる瞬間があり、それもまた自身の喜びの一つです。

ホームページのメッセージにある、永く愛される建築・デザインが持つ「豊かさ」とはどういったものですか。

僕の先輩が以前、「何でも検索できる昨今、検索で出てくるおしゃれなデザインを切り貼りしていけば70点くらいの店はできる」と笑い話で言っていたのですが、その70点のデザインは、クライアントやユーザーにとって何の意味も持ちません。永く愛されるものには、好きな色や素材、モチーフ、歴史、エピソード、思いなど、「愛してもらえるストーリー」が紛れ込んでいます。「こんな形になったのはなぜかと言うと○○で……」というストーリーがあると、より永く愛してもらうことができる。お客さまとの対話の中でその要素を探り出し、デザインに反映しています。

最後に、クリエーターを目指す人たちにアドバイスをお願いします。

やらずに後悔より、やって後悔! 興味のあることには、何でもできるだけすぐにチャレンジする癖をつけてみてください。クリエイティブの仕事は共同作業なので、さまざまな職種の人と関わることができます。できるかどうか分からなくても思い切って飛び込んでみることで、皆さんも長く刺激を与え合えるような人と出会うことができるかもしれません。

取材日:2020年2月5日 ライター:甲斐 寛子

株式会社SWITCH

  • 代表者名:代表 谷川 智明
  • 設立年月:2012年8月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:建築デザイン、リノベーション、不動産企画、プロダクトデザイン
  • 所在地:〒730-0054 広島県広島市中区南千田東町1-6大段ビル203
  • URL: https://switchdesign.jp/
  • お問い合わせ先:082-247-4822

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