小規模事業者の機動力を駆使して印刷業界に新風を吹き込む
福岡市のJR博多駅からバスで数分。昔ながらのお店が並ぶ商店街もあり、のどかな住宅街の雰囲気が漂う美野島(みのしま)にオフィスを構える株式会社プリキュウ博多。代表の江藤玖樹(えとう たまき)さんを含む3人で社内に設置したオンデマンド印刷機による、デザインと印刷を手掛けています。「小さな会社だからこそできることがある」という信念で、あらゆる要望に応える江藤さんの仕事に対する思いと活動、これからの展望を伺いました。
「温度」の感じられるものづくりにこだわって
会社を設立されるまでの経緯を教えてください。
前職は印刷会社の営業部長でした。独立後も、前職でのクライアントを引き続き担当していたため、1年ほど個人事業主として活動していました。その後、取引先からの要望もあり、前職での仲間とともに会社を立ち上げました。
もともと起業したいという気持ちがあったわけではなく、成り行きから会社を設立することになってしまったのですが、やるからには、地域に根ざした活動で地域に親しまれ、地域に貢献できる会社になってやろう、という意気込みを表すために、「九州」と「博多」を社名に盛り込みました。「プリキュウ」は「プリント九州」の略です。
会社設立にあたって苦労なさったことは?
とにかく人が少ないので、何でもやらなくてはならないのが一番大変です。当社は、お客さまとの打ち合わせをとことん行って、考えや気持ちをしっかり共有するのを基本としているため、1日数百キロメートルを移動したり深夜まで働いたり、必死で動き回りました。
今でも、私自身に関して大変さはあまり変わっていませんが、そういった取り組みによって、厚い信頼を寄せてくださるお客さまがだんだん増えてきたのは、ありがたいことです。
相手のために手間暇を惜しまずそこまでできるのは、なぜですか?
それが私自身の「ものづくり」だと考えるからです。
以前、広告制作会社で働いていたとき、クライアントとのやりとりはメールだけで行うのがルールでした。しかし、私はどうしてもそのやり方に納得できなくて。お客さまと対面してしっかりと耳を傾けて、要望を吸い上げ、気持ちをくみ取り、嗜好(しこう)まで把握しなければ、つまり「温度」の感じられるものづくりでなければ、本当にいいもの、喜んでもらえるものはできない。そういう気持ちがどんどん膨らんでいきました。
それで、「想いを繋ぐのは人」という信念をホームページに掲げ、当社のロゴは、社名の構成要素である「プリントのP、九州のK、博多のH」に、「人」の字を絡めたデザインにしました。
お客さまの「できる?」に応える会社でありたい
会社設立の際に、ご自身の名前も変えられたとか。
下の名は、本当は「珠樹」と書くのですが、姓名判断で画数が悪いと言われたので、ビジネスネームを「玖樹」に変えました。会社をスタートさせるにあたって、できることは何でもやろうという気持ちでしたね。少人数だから何でもやらないといけない状況でもありましたし。
ただ、必要に迫られたものではあっても、「何でもやらせてください」は、お客さまに喜んでいただくため、末永い関係を築き上げるために欠かせない姿勢だと思います。
それが御社の現在の事業内容につながっていると。
私はこれまでに13回転職していまして、Webデザイナー、ゲームクリエイター、広告代理店の営業、印刷会社の営業とオペレーターなど、印刷業界に関わる仕事を幅広く経験してきました。それが、結果的に私自身のセールスポイントになっているわけですが、これまでに身に付けてきた各分野の基本知識があるので、お客さまに「お困り事は何でもおっしゃってください」と言えるんです。
例えば、当社の事業範囲ではない「看板を作りたい」というご要望に対しても、デザインは当社で請け負って、看板製作自体は専門業者を協力会社に依頼することで対応しました。当社のデザイン力と印刷技術を生かせる仕事であれば、これからもあらゆるご依頼に対して積極的に応えていくつもりです。
御社のホームページでうたっている「小さな会社だからできることがある」について教えてください。
小さい会社だからこその「機動力」が当社の強みです。クライアントの課題にワンストップで対応するし、ほとんどの作業を社内で完結させる。だから、スピーディーに進められる。大手がやりたがらない「小ロット×短納期」に特化した市場でこそ、当社の特性が発揮できるんです。
ただし、それだけでは、軽印刷を手掛ける会社との差別化ができない。そこで、当社はデザイナーを社内に置いて、「デザイン性の高さ」で顧客満足度を引き上げる取り組みに尽力しています。
デザイン性の高い商品はどのような業種のニーズに合いますか?
地元の洋菓子メーカーから、東京進出にあたって「印象に残るリーフレットを」とご依頼をいただきました。店頭で手にとったリーフレットを持ち帰っていただけるよう、折りたたむとバッグに入れやすい大きさにし、写真の周囲の余白を大きくとって清潔感のあるデザインを施しました。
商品撮影は私自身が手掛け、商品をやわらかい光で包みこむようライティングを工夫しました。デザイン系の学校を出てグラフィックデザインの会社で働いた経験や興味があったことから、カメラは起業する前から独学で勉強していたのが役立ちました。
その後も、制作過程でデザイナーを交えてお客さまとのやりとりを何度も行った結果、できあがったリーフレットをクライアントにとても気に入っていただけ、「リーフレットが魅力的というお客さまが少なくない。これからも引き続きよろしくお願いします」とまで言っていただけたときには、一つ一つの苦労が報われた思いでした。
当社は、印刷会社ですが、自分たちでは「ものづくり」の会社と捉えています。そして、お客さまの気持ちにぴったりの形を追求する、当社のものづくりの姿勢に共感していただける会社は、業種を問わずきっと多くあるはず。今後も、長くお付き合いできるお客さまを地道に増やしていきたいです。
試練を乗り越えれば、新しい世界が待っている
今後の展望について教えてください。
ネット印刷は、価格や納期面で印刷業界に風穴を開けたと思います。ただし、デザインパターンがあらかじめ決まっていてオリジナリティーを打ち出しにくい欠点もあります。その点では、デザイン性を重視した当社の商品は、今後も需要が伸びていくものと考えられます。
企画提案力の強化に力を注ぐとともに、当社が得意とする箔押し(はくおし)印刷に磨きをかけて技術を成長させ、さらなる差別化を図っていくつもりです。と同時に、少人数でマンパワーに頼っているため、一人一人に大きな負担がかかっている職務環境の改善にも、引き続き取り組んでいきたいと考えています。
最後に、苦境のなかで戦うすべてのクリエイターにメッセージを。
「新型コロナの問題で大変な時期ですが、お互いに頑張りましょう」と言うのが精いっぱい。集会、式典、催事などがなくなった分、受注に影響が出ていますが、それは当社だけのことではない。だれもが歯を食いしばって試練を耐え忍んでいるはずです。その事実が、私にとっての一縷(いちる)の希望であり一筋の光明ともいえます。
ここを乗り越えれば、きっと新しい世界にたどりつける。そう信じて、終息したときにすぐに動き出せる準備を進めるしかありません。クリエイターの一人としてアンテナを高く張りながら。
取材日:2020年3月30日 ライター:堀 雅俊
株式会社プリキュウ博多
- 代表者名:江藤 玖樹
- 設立年月:2017年12月
- 事業内容:名刺デザイン・プランニング、祝賀会・結婚式などのツールデザイン、特殊形状DMの企画・デザイン、箔押し企画提案・加工、会議資料など冊子制作、ドローン撮影事業、各種印刷全般業務
- 所在地:〒812-0017 福岡県福岡市博多区美野島3丁目20-42-602
- URL:https://www.pkh.jp
- お問い合わせ先:092-710-4150