“和のあかり”を未来に伝える
「でんろうや」という事業ブランドを窓口に、日本の伝統的な明かりを追求したLED照明事業を展開する有限会社ウイル電子。自社ブランド商品の開発・販売だけでなく、クリエイターのオリジナル作品作りをサポートしながら大学でも教壇に立つ代表の杉岡賢一(すぎおか けんいち)さんに、起業のきっかけや手掛けているビジネス、今後の展望、クリエイターへのアドバイスなどを伺いました。
10代で「電子回路」に夢中になって
子どもの頃から起業への憧れはありましたか?
小学校の高学年で「電子回路」に夢中になり、卒業文集に「将来はエンジニアになって会社を作る!」と書きました。中学生になると世の中にマイコン(マイクロ・コンピューター、パソコンの前身)が出てきたのですが、自分では買えないので学校帰りに電気屋さんに入り浸り、そこでプログラミングを学びました。店員さんに「もう帰ってくれ」と何度も言われたのを覚えています。
社会人となり、独立・起業されたのはいつですか?
2000年ですね。ちょうど30歳で独立しました。大学卒業後は半導体の商社に就職し、その後に機械メーカーに転職して電子設計の仕事に携わっていました。大手企業だったので条件も良かったのですが、サラリーマン生活が合わずに「これは望む人生じゃないな…」と感じて飛び出しました。
何か「起業の種」を持って独立されたのですか?
「何々をしよう!」とは特に考えずに会社を辞めました。若かったからそう思えたのですね(笑)。当時はインターネットが注目を集めていた時期でしたが、そちらの方向に行くことも考えず、これまでやってきた電子設計の仕事で食べていければと軽く考えていました。
実際に独立し、どのように仕事を開拓していったのですか?
機械メーカーを辞めてしばらくした頃に、以前に勤めていた半導体商社から仕事の打診があったんです。最初は「課長のポストを用意するので復職しませんか?」という感じだったのですが、起業家として進んでいきたいのでサラリーマン生活に戻るのは難しいと伝えると、「じゃあ、仕事を振りますから口座番号を教えてください」という流れになり、ソフトウェア開発や電子設計の依頼が来るようになりました。
そして次第に取引先が増えていき、人員も必要となったため独立3年目で法人化。そこから電子設計を中心にLEDなどさまざまな新領域にもチャレンジし、20年近く経営を行ってきました。
ニッチだから、存在感を発揮できる
御社の事業について教えてください。
最近は、創業から続けている電子設計の事業はできるだけ部下に任せ、私は2010年にスタートしたLED和照明の事業に注力しています。「でんろうや」という事業ブランドを掲げ、自社でデザインしたオリジナル和照明の開発・販売に加えて他企業から依頼を受けての委託製造や、アーティストやクリエイターが生み出すオリジナル照明の制作サポートも行っています。
「でんろうや」を始められたきっかけは?
省エネ・長寿命の電力として注目を集めていたLED照明を提灯(ちょうちん)屋さんに提案したところ、猛烈に興味を示していただけたのがきっかけです。とても小さなマーケットではありましたが、私が子どもの頃から磨いてきた基板の技術やノウハウを活かせるところに魅力を感じました。そのうち自社でもオリジナル和照明を手掛けるようになりました。
LED和照明の事業の強みを教えてください。
ニッチな世界ではありますが、その分レッドオーシャン(激戦市場)にならず、価格競争に巻き込まれることがないところでしょうか。「でんろうや」を窓口にLED照明に関するさまざまな相談や依頼が舞い込み、超高級ホテルのテーブルランプに採用されたり、人間国宝のガラス作家の作品を演出する台座に採用されたりと、仕事の幅もどんどん広がっています。
会社としての強みは、商品開発のプロセスを一括で任せていただけるところにあると思います。専属のデザイナーもいるため、箱のサイズから梱包の方法、取扱説明書や納品書の段取りまでを一気通貫で行えます。商品開発のノウハウとオペレーションが揃い、メイド・イン・ジャパンのクオリティで和照明の商品化が行えるのは、当社だけだと思います。
当社でしか実現できない作品を
仕事で日々心掛けていることは何でしょうか?
すごくあたりまえのことなのですが、“役に立つ”ということを大事にしています。人や世の中の役に立ってこそ、ビジネスを行う意義があると思っています。
また、非常勤講師として大学で情報システムを教えているのですが、関わる学生が一番良い道に進めるよう心掛けています。勉学は、先生が嫌いだとその講義内容も嫌いになってしまうので、「先生のおかげでハードウェアが大好きになりました!」というところまで持っていくように努めています。
長年携わってこられたエンジニアの仕事の醍醐味(だいごみ)を教えてください。
自分が「こうしたい!」と考えたことが、思った通りにできた瞬間の喜び、そこが醍醐味だと思います。そこにたどり着くまでにとてつもない苦労があるのですが、成功した瞬間にすべてが報われます。エンジニアという仕事を選ぶ人の多くは、ビジネス以前に「やった!」という達成感のために動いているのだと思います。
ウイル電子の今後の展望をお聞かせください。
今後は世のクリエイターとのつながりをもっと密接に行っていきたいと考えています。「こんなにすごい技術があったんだ!」と見つけてもらえる環境を整え、当社でしか実現できない複雑な仕様が要求される作品作りのお手伝いをしたいと思っています。
会社組織としてもさらに充実させ、現在の社屋がある土地に立派なビルを建てることが現在の目標です。
最後に、世のクリエイターにアドバイスをお願いします。
ビジネスの世界に身を置くと、「面白いもの」と「商売として売れるもの」は違うことに気付くと思います。それをどこまで冷静に理解できるかが、クリエイターとして生きていくうえで大事だと思います。
一方で、商売とは全く別のベクトルで「自分が面白いと思うもの」を突き詰めることもすごく大事です。
この2つをうまくスイッチしながら両立できれば、いい人生を歩めると思うのです。金銭的な余裕を生み出すための割り切りや我慢は必要ですが、それらは“損”にはならないし、培った技術やノウハウは未来への土台になります。目の前の仕事に真摯に向き合い、スイッチするたびにどんどんステップアップしていくのがいいと思います!
取材日:2020年3月18日
有限会社ウイル電子
- 代表者名:杉岡 賢一
- 設立年月:2003年8月
- 資本金:300万円
- 事業内容:電子機器開発、LED和照明、照明用基板設計・製造
- 所在地:〒467-0864 愛知県名古屋市瑞穂区豆田町2-5-7
- URL:https://will-elec.jp
- お問い合わせ先:Tell(052-871-1588)または、上記HPのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
- でんろうや:https://will-elec.co.jp