高い専門性とクリエイティビティで、ドローン空撮の可能性を広げる

大阪
株式会社パルフェール 代表取締役社長
Noriyuki Tawada
多和田 範之

女性の顔のアップから徐々にズームアウトし、全身が映った後、カメラは一気に上空へ…。そんな臨場感のある映像を可能にするのが小型無人空撮機(ドローン)です。株式会社パルフェールは、このドローンを使った動画や静止画の空撮サービスを展開しています。社名はフランス語で「完成させる」という意味を持つ「Parfaire(パルフェール)」。その言葉通り、クライアントに寄り添い、作品を完成させるのが社のポリシー。

20年以上にわたりテレビ・映画の映像撮影および編集などのプロとして活躍されている代表取締役社長の多和田範之(たわだ のりゆき)さんに、需要が高まるドローン撮影をどのように進めているのか、仕事をするうえで絶対に譲れないものやクリエイターへの思いについて伺いました。

起業をきっかけに花開いた、ドローン事業化の夢

起業までのキャリアについてお聞かせください。

放送局、映画会社、そして映像技術会社に勤務し、テレビのバラエティー番組やドキュメンタリーなど、ずっと映像に関わる仕事をしてきました。前職の技術会社では、編集、撮影に加えて、コンテンツ事業、営業もやりましたね。フィルムの現場と経理以外は全部やったんじゃないかな(笑)。自分が納得できるまでやらないと気が済まない性質なので、いつも夜遅くまで根を詰めて働いていました。

まさに「映像一筋」ですが、映像に興味を持たれた理由は?

父の趣味が映像と写真撮影だったので、その影響ですね。当時はまだ珍しかったVHSビデオデッキやビデオカメラが家にあって、5、6歳の頃にはすでに、父のお下がりの一眼レフで写真を撮っていました。「お前、たまにいい写真を撮るなあ」と父に褒められて、自分はいつかプロになるんだと思っていました。

その夢を見事に実現されたのですね。では、会社を設立したきっかけを教えてください。

自分の働き方を見直したいと思ったのです。映像の仕事はどうしても時間が不規則になりますが、スケジュールを自分でコントロールしたくて。そこで退職し、2011年にパルフェールを立ち上げたのですが、当時はまだドローン事業は行っておらず、知人の撮影の仕事を手伝うという感じでしたね。

本格的に事業化されたのはいつですか?

2013年ですが、実は事業化する構想自体は、会社員の頃から持っていたんですよ。しかし当時はマルチコプターや無人航空機と呼ばれていて、本体もそれほど出回っていませんでした。そんな状況ですから、事業化について上司に話しても、相手の頭に「?」がたくさん浮かぶのが見え、まだ時期ではないんだなと思っていました。

ですが次第に機材も手に入りやすくなっていたし、認知度もグッと上がっていて、事業化するにはちょうどいいタイミングでした。事実、興味を持ってくれたクライアントにデモンストレーションをしたら、「これは面白い!」とかなり好評でした。

そんなに早くから注目されていたのですか! 長年、お一人で温めていたアイデアが花開いたのですね。

今はアイデアや思いを、自分の手で具体的な形にしたい、試してみたいという気持ちが強いですね。経営者は「自分で考え、自分で実行すること」がとても重要なんですよ。先輩経営者に言われたのですが、「もうダメだと諦めてはいけない。経営者なら、頭を使って切り抜けなければ」と。考えて、考えて、考え抜く。非常に大切なことだと思います。

クリエイティビティーと操縦スキル、両方があって初めて「仕事」になる

現在の事業内容について、お話をお願いします。

ドローンのコーディネートをはじめ、運用からさまざまアドバイスまで行っています。具体的に説明すると、ドローンで動画や静止画を空撮する「アビエーションサービス事業」と、「映像機器レンタルコーディネート事業」を展開しています。

ドローン映像の人気が高まっている理由は何だとお考えですか?

例えば低空域から数秒程度の短い時間で高空域まで一気に上がったり、ドローンの正面を常に被写体に向けたままで360度旋回したりする映像など、過去に例のなかった映像が見られることに、多くの人が魅力を感じているのだと思います。映像の自由度が大きく広がりました。

ドローンを操縦するのは、難しそうですが…。

操縦もですが、求められた映像を撮ることの方が難しいです。指示された対象が映っていればいいというレベルでは不十分で、構図やアングルが優れている、いわゆる「いい絵=映像」です。

例えば、建物を撮るなら、どうやったら美しく、かつ印象的に撮れるかを考えなければいけない。これにはクリエイティビティーが必要なんですよ。我々はドローンを操縦するだけでなく、いい絵を撮るクリエイターでもあります。

ドローン撮影には、2種類の難しさがあるということですか?

その通りです。極端に言えば、ドローンの操縦がいくら上手でも、映像についての理解や経験、センスがなければよい映像を撮ることはできません。また、飛んでいるドローンがどんなアングルで風景を撮影しているか、モニターを見なくてもある程度分かるスキルも必須です。

これらがないと、クライアントが求める映像を撮れません。ただし、操縦方法や撮影アングルなどのテクニカルなスキルは訓練を積めば上達します。難しいのはクリエイティブな才能です。それらに加えて、撮影時には安全の確保が絶対に欠かせません。

安全性ですか?

我々が使っている業務用のドローンは、5~10kgほどの重さがあります。それが地上100mくらいの場所を飛んでいるのですから、もし落下して人や物に当たったりしたら大惨事になりかねません。事故を起こさないためにドローンの落下対策をしたり、撮影現場を入念に調査したり、天候を確認したり、いろいろなことを担保していかなければならないんです。

いったんドローンが飛び始めたら、気を抜く暇は一瞬もないです。本当に命懸けといいますか、楽しそうな仕事に思えるかもしれませんが、見えない苦労は多いですよ。それだけに、ドローンが安全に着陸し、さらにディレクターやスタッフの方から「今の映像はよかったです!」という声があったときは何よりうれしいし、やりがいを感じますね。

求められるクオリティーを、何度でも繰り返せてこそプロ

「マイクロドローンを操縦している多和田さん」 

ドローン空撮を仕事にする場合、最も大切なことは何でしょうか。


クリエイティブな仕事に共通する要素かもしれませんが、クライアントのニーズやディレクターが考えたことを具体的な形にして、繰り返し同じ物を作れる力です。

ドローンを常に同じ場所からスタートさせ、同じルートを通して、同じタイミングで止める。それを正確に繰り返せることが大切。極言すれば、テイク1とテイク2は全く同じであるべきで、見た人から「ちょっと違うね」と言われてしまったら、プロ失格です。

ドローン撮影のプロになるために、他に必要な知識やスキルはありますか?


映像と操縦の勉強を大前提として、気象学、電波法や道路交通法、民法などの法律に関する知識も必要です。

特に、2016年の「改正航空法」の施行をはじめとする(通称:ドローン規制法)には、いくつかの法律が関わっているので、知っておかなければ仕事になりません。案件によっては、「これはドローン撮影で実現可能でしょうか」と企画段階から相談を受けるケースもあるので、広い範囲の知識をカバーしなければ対応できないんです。

 

ドローン映像のコーディネーターみたいですね。


そうですね。実際、ある私立大学のCMの仕事は、企画段階から参加しました。絵コンテを見せていただいて、どうするか何度もディスカッション・テストを重ね、エキストラとして出演する大勢の学生やタレント、スタッフの安全を最優先して撮影したんです。

ドローンでタレントの顔のアップから全身を映し、一気に上空に上がって、背後で踊る多くのエキストラたちを見下ろす流れを15秒に収めたのですが、オンエアされると同業者から撮影方法について問い合わせが複数ありました。

「教えてください」という姿勢でいる限り、クリエイターにはなれない

多和田さんが後継者に求める資質や能力は? 

必要な要素が3つあるのですが、1つめははじめから「教えてください」と言わないこと(笑)。

以前、「ドローンの操縦法を教えてください」と言う人がいたのですが、お断りしました。もしその人が「こんな映像を撮影したので見てください」と言ってきていたなら、僕はきっと見たでしょうね。自分では何もせずに、一から教えてくださいというやり方は「ちょっと違うんじゃないの?」と思ってしまいます。

つまり、自分でどれだけ努力したかが大切だということです。「なぜ、どこがダメなんだろう?」と悩んでいる人がいたら、プロとしてアドバイスしたくなります。でも簡単に教えてもらった技術や知識は、決して身につきません。結局はその人のためにならないんです。

2つめは、既に言いましたが「映像を創る目」があること。ドローンの操縦は後からでも訓練できますが、クリエイターとしての目は、残念ながら努力で身につけるのは難しいと私は思います。

3つめはクリエイターとして必要なスキルや感性だけでなく「高みを目指す志」を持っていることです。クリエイティブな世界を目指す方には、常に「さまざまな物事を貪欲に掘り下げて見る目」を養ってほしいです。

最後に、起業を目指すクリエイターにメッセージをお願いします。

「やりがいはあるけれど、覚悟が必要だよ」と伝えたいです。ドラマの登場人物と違って、現実の経営者は各方面に頭を下げたり、仕事のためにお金を借りたり、やりたくないこともたくさんありますから。

また、私の場合は家族が協力してくれたから、ここまで経営を続けられていると感じています。加えて、金銭的・体力的な余裕があることも大切だと思いますので、人生で一度「一国の城主になる経験をする」ために、「ゆとり」を持つといいかもしれませんね。気づきとしては、会社員から経営者になると、部下と上司の両方の気持ちが分かります。それは私にとって大きな収穫でした。

取材日:2020年6月2日 ライター:櫻井 靖子

株式会社パルフェール

  • 代表者名:代表取締役社長 多和田 範之
  • 設立年月:2011年12月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:産業用無人空撮機運用と空撮コーディネート業務、放送機材レンタルおよび技術コーディネート業務
  • 所在地:〒540-0011 大阪府大阪市中央区農人橋2丁目1-35 第八松屋ビル3F
  • URL:http://www.parfaire.co.jp/index.html
  • お問い合わせ先:06-6966-1717

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