人々の記憶に残る音を作りそこに人間味というエッセンスを加え世界に通用する音楽を育んでいきたい
- 福岡
- 有限会社ワンナイン・サウンドプロデュース 代表取締役 柳和人氏
誰もが知る全国的に有名な通販企業など、多くのクライアントの楽曲制作を担当
会社設立の経緯について教えてください。
私が音楽業界に足を踏み込んだのは、学校卒業後に北九州出身のラジオパーソナリティ米岡誠一さんの事務所に入ったことがきっかけとなります。こちらでライブレコーディングやPA(Public Address)の担当をする中で、「誰にでも愛される音楽を作りたい」という想いが募り、独立・起業にいたりました。これが1986年のことで、当時私は27歳という若さでした。
1986年といえば景気が加速度的に上向いてきた時期ですね。
まさにバブル前夜と呼べるタイミングでした。テレビやCMなどさまざまなシーンで音楽の引き合いがあり、福岡だけでなく九州全域から楽曲制作のオーダーを頂きました。このときに作った実績が当社の財産となり、現在も九州・中国・四国の多くの企業様とお取引をさせていただいています。
楽曲制作の依頼はどのような形で入ってくるのですか?
以前は広告代理店や映像プロダクション経由でテレビCMや企業PR用途の楽曲制作という依頼がほとんどでした。ただ、ここ最近は当社のホームページを見て企業様から直接オーダーをいただくケースも増えてきています。このあたりは時代の流れに合わせて依頼の形も変化するのが面白いところですね。
過去実績を拝見するとさまざまなクライアント名が見えますが、特に印象に残ったクライアントというのはありますか?
福岡では健康食品や通販に関連した企業に勢いがあり、そちらの方面のお客様から引き合いは多かったのは確かです。その中でも特に記憶に残るところといえば、深夜の通販番組で全国的な知名度を得た長崎の通販企業が挙げられます。 例えば仕事関係者の集まりで各自の手がけた案件が話題になったとき、私がその会社の名前とCMフレーズを口にすると、場の視線を集めるほどこちらのインパクトは強いです(笑)
設立からすでに25年以上が経ちますが、多くのクライアントと信頼関係を築いてこられた理由は何ですか?
当社はレンタルスタジオの運営やレコーディングのサポートといった技術寄りのサービスだけでなく、お客様のニーズに合った楽曲の制作も担える点が強みです。 普通、楽曲制作ではお客様の希望を満たした制作物を納品すれば終わりという印象ですが、私は制作過程において逆提案をすることも重視しています。予算との相談になる部分もありますが、サンプルを2~3パターンご用意し、その中からもっとも意にかなったものをさらに掘り下げていくという具合です。このとき自社内のスタッフで最後までまとめることもあれば、パートナーとなる地元ミュージシャンの中からもっとも音楽のイメージにあった方を起用することもします。 お客様のイメージする音を形にするために、プロデュースも含めて丁寧な仕事をしてきたから長く信頼関係が築けたのだと思います。
新しい価値観がなければ次の音楽は創造されない
福岡で音楽と関わる魅力というのはありますか?
例えば1970年代にロッカーズ、ルースターズやアクシデンツ、アンジーといった勢いのあるバンドが集まって「めんたいロック」という地方性の強い音楽文化を生み出したように、他にない何かを作り出せそうな雰囲気を持っている点は福岡の魅力だと思います。ただ、この街から次の全国的な音楽文化を独自に生み出せるかといえば、やや疑問はありますが、今後アジアとの交流も増し情報をアジア経由で世界へ発信しようという動きは盛んになってきているので、積極的に賛同したいと考えています。
新しいオリジナリティが生まれにくい理由とは何でしょう?
今の若い人たちはグループよりもパーソナルを重視する向きがあり、多くの仲間と語らってひとつのムーブメントを作り出すといった勢いが生まれにくい点がまず挙げられます。また、これは福岡に限った話ではありませんが、インディーズとメジャーの線引きが曖昧になっていることも音楽を物足りなくしているように思うのです。 インディーズはあくまでもインディーズなのだから、メジャーができないことに果敢に挑戦しなければ意味がありません。そこで示した自身の生き様や体験が次のクリエイティブを生み、その広がりが新しい音楽文化を築いていくのです。
ということは、今は音楽業界にとって厳しい時代ということでしょうか?
いえ、一概にそうとはいえません。というのも、音楽のデジタル化などはひとつの回答になるのではないかと思うからです。 現在はデジタル技術が発達したおかげで、生に近い音をコンピュータで再現できるようになりました。そのため実際の楽器は弾けなくても楽曲制作に関わる人たちが増えています。彼らが音楽と向き合う中で最初に壁にぶつかるのは、あまりにも正確に再現されるデジタルサウンドに物足りなさを感じるときでしょう。 私はグルーヴ感と表現していますが、ほかのミュージシャンたちの音と交わることで、「揺れ」つまりグルーヴが増し、楽曲には深みが出てくるものです。そのときに実際にギターやドラムといった楽器にも触れれば、デジタルの範疇を飛び越えた音の世界に改めて開眼できるでしょうね。
デジタルミュージックという面では「初音ミク」のようなキャラクターも生まれましたね。
「初音ミク」のCD編曲に関わったスタッフが当社にいたので私も知る機会がありましたが、このポップカルチャーが音楽シーンにおいて新たな一面を切り拓いた意義は大きいですね。というのも、初音ミクというキャラクターがいたから、そこに面白さを感じる人たちが集まり、新しいコミュニティが生まれたからです。 初音ミクに関する楽曲は、今ではアメリカやフランスなど海外にも浸透しました。初音ミクによって育くまれた文化が世界に通用したことは、参加した人たちのモチベーションを高めることになったと思います。前出のめんたいロックにも通じていえることですが、こうした体験が楽曲制作に次の潮流を生むきっかけとなることを心から願っております。
洋楽に触れることで音楽の持つ可能性の広さを知ってほしい
これから音楽業界と接する上で、若い人たちに意識してほしい点などはありますか?
例えばジャック・ジョンソンというミュージシャンは、レコーディングの際に再生エネルギーを利用したスタジオしか使わないという強いこだわりを持っています。そのため彼はアメリカ各地を転々としながら今日も楽曲制作と向き合っているのです。 ここで大事なことは、ジャック・ジョンソンのように皆さんにも再生エネルギーにこだわれということではありません。あくまでも自分のポリシーを貫く彼の姿勢を学んでほしいのです
なぜポリシーに従うことをそこまで重視するのですか?
音楽が生活に浸透し、それこそヤフオクでも売り買いされるほど身近な存在になったとしても、アマチュアの作る音楽がプロフェッショナルの音楽に遠く及ばないのは、訴えかけるものに大きな差があるからです。その差を生み出すものがセンスや感性であるならば、ジャック・ジョンソンは自分の持ち味を鈍化させないように再生エネルギーにこだわるのです。 さまざまなミュージシャンがどのようなこだわりで楽曲制作と取り組んでいるかを知るという意味で、皆さんにはぜひ海外の動向に目を配ってほしいと思います。
海外を知る上で参考になるものは何ですか?
やはり洋楽に触れることが一番です。現在はテレビやラジオなど多くのメディアが洋楽を紹介しなくなったため、若い人たちが洋楽から縁遠くなっています。しかし、インターネットを通じて洋楽に触れることは決して難しくありません。そして洋楽を知ったとき、皆さんは「音楽には国境がない」ということを改めて知るでしょう。 私は27歳で起業しましたが、そのきっかけは貸しスタジオで留守番をしているときに、ラジオから流れる、ある民族音楽の番組を聴いたことでした。その音楽を耳にしたとき、世の中にはこれほど素晴らしいものがあると感動し、同時にその存在を今まで知らなかった自分にも気づいたのです。 「これほど奥深い世界があるならば、人生を賭けて追究したい!」その想いが形になったのが現在の会社であり、そして音楽探究は今も続いています。私が体験したような感動を、ぜひ後進の方々にも味わってほしいです。
取材日:2013年3月26日
有限会社ワンナイン・サウンドプロデュース
- 代表取締役:柳和人(やなぎかずひと)
- 設立年月:1986年8月
- CMソング制作、イメージソング制作、サウンドロゴ制作、効果音制作、CD企画製作、PR音源制作、市町村歌制作、社歌制作、校歌制作、園歌制作、音源レンタル、ファイル変換、音楽録音、ナレーション録音、ライブ録音、PA・照明機材レンタル、楽器レンタル、音響設計及び施工、ホームページ作成、演奏者の派遣
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