制作者として努力を惜しまず、親切、丁寧、真摯に”ものづくり”と向き合う
- 京都
- 株式会社マール 代表取締役 澤田哲平 氏
映画制作~雑誌編集~デザインの世界へ
澤田さんのご経歴についてお聞かせください。
大学在学中にアルバイトで携わった映画制作が面白くて、映画制作の業界に入り、劇中で使う小物を扱う小道具係を担当していました。そこで物を作るという楽しさに目覚め、よりデザインの専門性を高めるため、2000年頃、広告関係のデザイン事務所に入社しました。
そこからデザインのお仕事をスタートされたわけですね。
デザイン事務所で最初に担当したのは、情報誌のデザインでした。私が入社した当時はメールアドレスも会社代表のものが一つある程度で、個人のパソコンがネットワークにつながっているような時代ではありませんでした。2002〜2003年頃からホームページの需要が増えてきて、私もグラフィックのデザインをやりつつ、ウェブサイトも勉強していきました。それが今のキャリアのスタートです。
会社を立ち上げられたのはいつ頃ですか?何かきっかけがあったのでしょうか?
デザイン事務所に勤めて約8年経った、2008年の4月に起業しました。きっかけはいろいろありましたが、自分の会社を持ち、社員が頑張って働ける場を自分が作りたい。そのような思いが強かったですね。
まずは目の前にいる同僚や先輩を目標に、デザイナーとしての自分を高める努力をしていましたが、20代後半あたりから起業という目標をはっきりと持つようになりました。
その後、32歳になる年に起業しました。約8年の間に、エディトリアル、グラフィック、ウェブの全てを担当し、最終的にはディレクターというポジションでお客様との折衝や受注をしていたので、正直、起業前と起業後とやってきたことは何ら変わりがないと思います。ただ、起業すること自体、制作者としての能力を高めてくれていると今、感じています。
しっかり話を聞いてから見積もりを出す 真摯な姿勢で信用を得る
現在の事業内容についてお聞かせください。
大まかに言うと企業や大学、小売店の広告です。ウェブサイト、パンフレット、看板、ロゴデザインなど様々です。その他には、京都という土地柄、社寺仏閣や伝統芸能に関する仕事も多いですね。 またムービーの作成や商品パッケージなどお客様からのご要望にはできる限りお応えするようにしています。
どういったつながりでお仕事を受注されるのですか?
広告代理店やお客様からのご紹介、インターネットからのお問い合わせです。弊社は、飛び込み営業は一切しません。親切、丁寧に仕事をして、お客様に喜んでいただけるようなものづくりを心がけています。ですので一度お仕事をさせていただいたお客様からは継続的にご依頼いただくことは多いですね。
誠実にお仕事されているんですね。
結局のところ、そこしかないと考えています。自分自身や会社を含めて、2年後、3年後の目先ではなく、何十年先を見据えて、誠実な仕事を心がけています。
同業他社はたくさんあると思いますが、御社のこだわりはどういった点でしょうか?
ウェブサイトや電話で見積もりの依頼があっても、お客様とお会いすることなく見積もりはお出ししません。
例え、ご希望の内容が明確であったとしても、まずは直接お話を聞いた上で本当にお客様に必要なものを見極め、その上でご提案書と見積もりをセットでお出しするようにしています。打ち合わせに行くと、「他に声をかけたところがみんな見積もりを出しているのに、御社だけは出していない」と言われます。そして「だからこそ信用できる」と。まずはお話を聞いて、お客様にとって本当に必要なものをご提案するようにしています。このようにプロフェッショナルとして率直にお話をすると、とても喜んでいただけますね。
弊社はいわゆる安価を売りとした制作会社ではありません。そのため見積もりでは、そのような会社よりも金額が上回ってしまうこともありますが、ご提案内容をきっちりとご説明し、ご納得いただいた上で受注させていただくということを心がけています。また単純にウェブサイトやパンフレットを制作するのではなく、お客様に広告・PR全般のレベルアップをしていただけるよう、打ち合わせでは、自分が持っている知識をすべてお話するようにしています。
そういった思いというのは、立ち上げられた当初からお持ちだったんですか?
たくさんの経営者の方とお会いする中で、徐々に気づき始めました。いや、気づいたというよりも勉強させていただいたというのが本当のところです。
広告というのは野球で例えるとお客様がピッチャー、私たちはキャッチャーなんですね。球を投げるのはお客様で、いいところを引き出すのがキャッチャーの役目。お客様の魅力をきっちりと引き出せるようリードする必要があります。そのためには、こちらがお客様のことをきちんと知るところから始めなければいけないですよね。
受注時は今でも"緊張" いい仕事をしても必ず出てくる反省点は次に生かす
印象に残っているクライアントはいらっしゃいますか?
そうですね。クライアントは本当に多種多様で、印象に残っているところもたくさんあります。
例えば、とある着物の製造メーカー様とお仕事をさせていただいた際、単にウェブサイトを作るのではなく、業界の構造改革したいというご希望をお持ちでした。小売店ではたくさんの商品を見比べることができるというメリットがありますが、うちの着物が欲しい、と思っておられるお客様には、製造現場や織職人を見ていただき、その上でご購入いただきたい。
このような強い思いをお聞きし、ウェブサイトを作らせていただきました。結果、ウェブサイト公開から1〜2ヶ月程でたくさんのお客様が来られ、商売が上手くいったそうです。少し古い言葉かもしれませんが “三方良し” で、社長様が持っておられた信念通りに上手くいったんです。つまり自分の会社だけではなく、お客様にも喜んでいただき、全てがいい方向に向かったのかなと感じます。この事例は、すごく印象に残っています。
この事例では、それまでの古い体質を脱して、消費者にダイレクトに働きかけたんですね。
インターネットの強みはそこじゃないでしょうか。昔は大企業が発する情報の方が圧倒的に強かったのが、今は一個人が情報を発信するだけで大企業が大きくダメージを受ける時代ですから。
ウェブサイトというと、バーチャルで特殊な世界と思われがちですが、決してそうではなく、企業と個人のつながりを第一に大切にすべきで、それは現実社会と何ら変わりはありません。
広告制作を通して、お客さんの思いを具現化できるというのは、お仕事をされる上でのやりがいにつながるのではないですか?
そうですね。ただ反対に言うと、プロとしてお金をもらっているのでそこは当たり前なんです。いい仕事ができた時に感じるのは、うれしいというより「よかった、ホッとした」ということです。いつまで経っても、仕事を受注した時には、うまくできるだろうかと、とても緊張します。終わって「よかったよ」と言われても自分で納得いかないところや反省すべき点は絶対にありますし、そこは次に生かすべきだと思いますね。
ストイックでいらっしゃるんですね。
そんなことはないですよ(笑)。私は人生において仕事ばかりという風には考えていません。ちゃんとした時間に帰って、ちゃんとした生活を送って、土日は家族と過ごしたり、趣味に興じるというのが私の考え方です。起業した当時はけっこう遅くまで働いていましたが、毎日夜の12時まで働いて、やっと売り上げが取れるという状態はおかしいですよね。定時で終わって会社が安定して運営していければ、それは特別なことではなく、むしろ当たり前のことだと思います。
会社の代表である前に、一制作者として努力し続けたい
今後の展望についてお聞かせください。
一制作者の立場として自分がどうなりたいかと聞かれれば、制作スキルをこれからも上げていきたいというのがひとつです。私がデザイナーになった約20年前とは比べ物にならないほど、今は表現の幅が広がっていますし、デザイナーのレベルも上がっています。今持っている経験値だけに頼るのではなく、常に新しいものを吸収していかないと、新しい感性を持った若い人たちに負けてしまいますし、仕事自体がつまらないものになってしまうような気がします。
経営者としては、いろいろありますが、まずは働く人たちにやりがいを感じてもらえる環境を提供し続けていきたいなと。やりがいを感じてもらえれば、それは仕事の結果につながり、さらには会社の発展へつながると考えています。
一緒に働くスタッフに対してどのようなことを求められますか?
自分がこうしていきたいという思いがない人、プロとしての自覚がない人とは仕事はできないですね。私も一制作者なので、プロとしての自覚がない人の意識改革までやるつもりはありません。求めるのは、任せたポジションで切磋琢磨して伸びていってもらいたいというところです。きちんと努力をしている人であれば全力で応援しますし、今のレベルが高い低いというのは大した問題とは思っていません。自分で創意工夫している人というのは伸びますし、逆もまた然りだと考えています。
取材日:2017年5月18日 ライター:垣貫由衣
株式会社マール
- 代表者名:代表取締役 澤田 哲平(さわだ てっぺい)
- 設立年月:2008年4月
- 資本金:3,000,000円
- 事業内容:ホームページ制作・企画・運営支援、印刷媒体の制作・企画
- 所在地:〒600-8433 京都市下京区高辻通室町西入ル 繁昌町295-1 京都1号館5F2号
- URL:http://www.marl-inc.com
- お問い合わせ先:075-708-8442