ガラス張りの社長室は 誰もがアイデアを持ち込めるボトムアップの象徴

大阪
辰巳電子工業株式会社 モバイルコンテンツ事業部 企画セクション課長 市野壮太氏
辰巳電子工業株式会社は、プリントシール機業界で主要メーカーとして認知されている企業です。 近年新たな事業部を設立、モバイルアプリ市場に参入し、主にソーシャルゲーム開発に携わっています。しかし「初めはすべてが手探りのスタートで、思うような成果を出せずもどかしい思いをした」と、モバイルコンテンツ事業部、企画セクション課長の市野壮太(いちのそうた)さんは語ります。 最近大幅リニューアルしたモバイルアプリが、どうやって多くのユーザーに支持されるようになったのか、事業部立ち上げと、これまでのお話、創業40年以上の物づくりへのこだわりや今後の展開について、お話を伺いました。

新たな事業の柱としてモバイルコンテンツ事業部を立上げ

御社がゲーム開発に携わるようになった経緯をお聞かせください。

当社は、もともと電子基板の制作を主な事業としておりました。 きっかけは1979年のインベーダーゲームの爆発的な人気です。当社もこれを機にアーケードゲーム市場へ参入しました。 現在、当社事業の柱であるプリントシール機の開発も、アーケードゲーム事業の一環で、他社に先駆けてリソースをつぎ込み好評となりました。 ただ、プリントシール機の開発が軌道に乗り収益性が高くなる一方で、同時に新たな分野の開拓にもチャレンジする姿勢は常に持っていました。

なるほど、ではどのようにして、モバイルコンテンツ事業部を立ち上げたのでしょうか?

まずアーケードゲーム以外のゲーム事業を考えた場合、リスクが少なく大きな市場を狙えるところがモバイルでした。またプリントシール機開発で、モバイルに携わった経緯もありました。そこでモバイルに関する部分を切り分け、事業における新たな柱にしようと設立したのが、モバイルコンテンツ事業部です。 そこでは、プリントシール機事業で培った技術を使い、画像編集系のモバイルアプリを配信していました。

設立当初はゲームを扱ってはいなかったのですね。

ゲーム事業に携わるようになったのは、実は現場スタッフのアイデアがきっかけです。当社1作目のゲーム『ファンタジードロップ』は現場スタッフが企画を立ち上げ、役員と社長の承認を得て始めたものなのです。 今ではこの企画が発展し、当事業部の要となっています。

本社社屋

本社社屋

かわいらしいキャラクターからエッジの効いたキャラクターへ ダークファンタジーに転換した世界観でユーザーを魅了する

デモノ・クルセイドタイトル

デモノ・クルセイドタイトル

スタッフのアイデアから生まれた『ファンタジードロップ』はどのように発展したのでしょうか。

『ファンタジードロップ』はマッチ3パズル(同じ形を3つ合わせ消していくパズル)と呼ばれるゲームで、当社では女性や子どもにもわかりやすい操作性のシステムを導入しました。これがとても好評ではあったのですが、残念ながら爆発的な人気を得ることはできませんでした。 というのも、当社はプリントシール機開発の影響で若い女性ユーザーが多かったので、ほんわかしたファンタジーの世界観にフォーカスしたところ、大きな課金や1日中ゲームをプレイしてくださるヘビーユーザーの流入は少なく、なかなか収益が上がりませんでした。そこで、オンラインゲーム業界で実績のあるプロデューサーを当社に招き、彼主導のもと、大幅にリニューアルすることにしました。

具体的にはどのような変更があったのでしょうか?

ゲームの基本ロジック以外はすべて変更を行いました。 大きいところでは世界観、キャラクター、UI(ユーザインターフェース)等です。

(リニューアル後)ユーザーの反応はいかがでしたか?

概ね、新しい世界観やキャラクターは好評のようです。 以前よりSNSなどでの反応は上がっておりますし、全体的なDailyActiveUser数などのKPIも上昇しております。 ※ 1日にサービスを利用したユーザー。

ユーザーが求めるものと、ゲームの世界観、 ふたつの間にある大きなギャップを埋める

『デモノ・クルセイド』へのリニューアルで苦労した点はどんなことでしたか?

以前の『ファンタジードロップ』の問題点の解決と、ユーザーが求めるものとのギャップを埋める事、それといかに『ファンタジードロップ』の顧客を引き継ぐかでした。 『ファンタジードロップ』の数値を分析すると、俗にいう「かわいい女の子」がイベントやガチャで登場した時の数値が一番良い傾向がありました。しかし全体的な世界観は20~30代の男性が受け入れにくいメルヘンなものでした。 ユーザーが求めるものと、全体的なゲームの世界観、ふたつの間に大きなギャップがあり、その部分の修正を一番に着手しました。 また、以前の顧客が持っている私財(キャラ、アイテム等)をスムーズに引き継がせるという点も苦労したポイントでした。

リニューアルした『デモノ・クルセイド』の以前とは違う特徴を教えてください。

良くも悪くもシステム自体は3年前に開発されたものです。 そのため「斬新なゲームシステムがすごい!」ということはありません。しかしその分、キャラクターの設定にエッジを効かせ、コメディ色あふれるシナリオになるよう力を入れています。

辰巳電子工業株式会社

プロダクトに対する愛情の強い人 仕上がりに妥協しない人が向いている

今後の事業展開や、新たな分野への挑戦などあれば、お聞かせください。

目標は、モバイルコンテンツ事業部をAM事業部(プリントシール機開発)と対等に並び立つような、ブランド力をもった事業部へと発展させることです。 そのために現在配信中の1タイトルを軌道に乗せるために力を注ぎます。また来年初旬新たに大きなタイトルをリリースする予定ですので、1作目以上の売上を目指します。今後これらがモバイルコンテンツ事業部収益の2本柱となるでしょう。 さらに人材の確保にも重点を置き、各分野で技術を磨いた方を積極的に採用する予定です。 当社はエンターテインメントとして広いフィールドを維持しつつ、常に新しい事業への模索をしています。その意味では、チャレンジされる方にとって門戸の開かれた会社だと思います。若い方にとっても技術を学ぶ非常に良い環境になるのではないでしょうか。

モバイルコンテンツ事業部として求める人材はどのような方でしょうか。

新しい技術を取り入れ、そこからさらに新たな技術やアイデアを出していける方ですね。 なによりもプロダクトに対する愛情の強い方、仕上がりに妥協しない方が向いていると思います。私自身が気のすむまで作り込みを続けてしまうので、放っておけば予算をオーバーしてしまうのではないかと周囲から心配されるタイプです。でも、そこにストップをかけるのは上司の役目なので、思う存分力を発揮していただきたいと思います。 また担当部分だけでなく、自分の仕事がどう影響するのか、ゲーム全体の雰囲気に合わせて調整できる感覚は必要です。たとえその世界観が自分の好みと違っていても、同じ認識ですり合わせていける意識を持っていただきたいですね。

現在の課題はありますか

大きな課題は人材集めです。当社のある奈良県橿原市は都市部ではないため、地理的に人が集まりにくいという悩みがあります。いい人材に来てもらうためにも、製品が売れて認知されることが一番のアピールでしょう。もう一点アピールできるのは、当社の労働環境です。

社屋はエントランスを入ってすぐ1Fの吹き抜けに社員食堂があり、開かれたデザインでとても心地良い空間だと感じます。オフィスにも特徴があるのでしょうか?

はい。社屋は働くスタッフのことを考え、3Fのオフィスも仕切りやパーテーションのないオープンスペースにしています。開発者の特徴として、クリエイティブな表現は得意だけれども、言葉のコミュニケーションは苦手なタイプが多いんですね。けれどチャットやメールなどに頼ると意識のすり合わせが難しくなります。Face to Face(面と向かって)だから伝わることもあるので、個人の対話を増やすため、オフィスには区切りを作らない方針なのです。 そしてなにより当社労働環境における一番の強みは、完全裁量労働制です。いつ来ていつ帰ってもいいですし、残業も少なく、休日出勤の代休は必ず取っています。残業の多いゲーム業界で、この環境はかなり珍しいといわれます。

ランチが、300円で食べられる社員食堂のメニュー。

ランチが、300円で食べられる社員食堂のメニュー。

アポなしで入っていけるガラス張りの社長室は 誰でもアイデアを提案できるボトムアップの象徴

ハロウィンには仮装して出勤される方もいらっしゃるとお聞きしました。社屋もそうですが、自由で風通しのいい印象を受けますが、この風潮は業務においても同じでしょうか。

実は社長室はガラス張りでとても入りやすい雰囲気です。当社のルールでは、アポなしで社長室を訪ねてもいいことになっています。なかなかそこまで度胸のある社員はおらず、たいてい私がついていきますが……。(笑) つまりこのガラス張りの社長室は、誰でも直接上層部に自分の意見を提案できる、ボトムアップの象徴なんです。例えば『ファンタジードロップ』のように、一般のスタッフであっても、事業として成立するアイデアを提案すれば、それが反映される風土があるといえます。 社長は「できるだけ自分たちで考えなさい」という考えで、当事者である自分たちこそが一番真剣に考えなさいといいます。 市場の風潮が変わった時、社内に技術があればカスタマイズできます。この姿勢こそ40年以上会社を続けてこれた弊社の根底にあるものではないでしょうか。

開発室

開発室

取材日: 2016年11月11日 ライター: 東野敦子

 

辰巳電子工業株式会社

  • 代表者名(よみがな): 代表取締役社長 辰巳 聡(たつみ さとし)
  • 設立年月: 1970年8月
  • 資本金: 3,000万円
  • 事業内容: アーケードゲーム機の企画・開発・製造・販売 、 業務用ゲームソフトの企画・開発・販売
  • 所在地: 奈良県橿原市十市町7番地
  • URL:  http://www.tatsu-mi.co.jp/
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