他ではできないことにチャレンジし 思いを形にする風土がある
- 大阪
- 株式会社高速オフセット
◇今回お話を伺った方々 ・取締役 印刷本部長 商業印刷センター長/赤尾 一さん(下方写真右、黒縁めがねの男性) ・印刷本部 商業印刷センター 商業印刷部 部長/竹林 徹さん(上部写真中央) ・印刷本部 商業印刷センター 商業印刷部 印刷課 課長/三藤 準二さん(上部写真右端) ・印刷本部 商業印刷センター 商業印刷部 印刷課 副課長/田中 賢治さん(上部写真右から2番目) ・企画編集センター デザイナー/佐々木 はづきさん(上部写真左から2番目) ・企画編集センター ライター/沖 知美さん(上部写真左端)
偶然生まれた技術「XWidePrint」 誰でもできるが、誰もが思いつかない発想を形にする
大阪ではちょっと変わった印刷会社だとお聞きしましたが、具体的にはどんなところが変わっているのでしょうか?
竹林さん:当社のコンセプトは「発想から発送まで」、デザインも印刷もできる、仕上がった物を送ることもできるというものです。一般的に商業印刷に携わる印刷会社といえば、多くはパチンコ店やスーパーのチラシなど新聞の折り込み広告を扱っているイメージだと思いますが、当社はさらに多ページの冊子やポスター、ノリを塗る作業やインクジェット対応ができたり、はがきを貼り付けたりすることも可能です。他の印刷会社ではあまり扱わない物を印刷できるのが強みで、大阪にこの規模の会社は少ないと思います。
赤尾さん:他にも当社は印刷の工程で「水あり印刷」「水なし印刷」両方に対応できます。「水なし印刷」は環境に優しいのですが独特のノウハウがあり、どちらかといえば扱う会社は少ないです。当社は両方扱うことでお客様の希望に沿った方法を提案しているのです。
なるほど。では最近開発された新技術「XWidePrint」も、他にはない試みとして開発されたのでしょうか。
三藤さん:実は、失敗から偶然生まれた技術なんです。 「XWidePrint」とは、一般的なチラシの四隅にある白場(白フチ)という何も描かれない部分を失くし、全面印刷を可能にした技術です。これまではお客様の要望があれば、この四隅の白場をカットしていました。ところがある時、印刷スタート時に図柄の中心が大きくズレて白場であるはずの部分に色がついた印刷物になってしまいました。カットする位置の設定を間違えていたんです。 その時、デザイン次第で端から端までを印刷物として扱うことができるのでは、と思いました。この考えがきっかけとなって、今の「XWidePrint」が開発されたのです。
実際に拝見させていただくと迫力がありますね。なぜ今までこういった技術はなかったのでしょう?
竹林さん:「チラシの周囲には白場があるものだ」ということを、誰もが常識としてとらえていたためです。考えて思いつくものではありません。本来なら、オペレーターのミスです。でも三藤はそこでダメ出しをするよりも、ふと気づいたことを形にしようとしたのです。
お客様の反響はいかがでしょうか?
三藤さん:すでに継続の契約を入れてくださったお客様もいます。仕出し弁当の企業は、おせちの広告に使ったら、昨年より注文と問い合わせが増えたそうです。折り込みチラシは「新聞の中でどれだけ目立つか」で勝負が決まります。白場をカットすれば、その分定型よりサイズが小さくなります。同じサイズで端まで印刷できると豪華ですし、周りが白場のチラシの中で目立ちます。
完全分業体制から、部署間で意見を出し合う流れが生まれた
発想を商品化して運用するというのは、なかなか簡単なことではないと思いますが、いかがでしたか?
三藤さん:印刷の工程では、印刷設定の数値を変えるだけで変更が可能ですが、大変なのは、絵柄をあえてずらさないといけないデザイナーさんです。印刷の前工程である「プリプレス」チームと制作企画編集部側の方々の協力は不可欠でした。 これまでは、制作側で決定した絵柄を印刷するという流れのみで、各部署間で交流するということはありませんでした。しかし、今回は印刷部門から、印刷する際のことを考えて制作部門にお願いをしました。そして刷り上がった物を検討して 再修正をお願いするというやり取りを何度も繰り返して、実用化にこぎつけたのです。
それまで交流のなかった他部署との連携で、変わったことはありましたか?
三藤さん:そうですね、同じ会社にいながら名前しか知らなかった人と、直接メールや言葉を交わすことはとても新鮮でした。
竹林さん:これまでは営業を通して他部署に相談するのが当たり前だと思っていました。けれど先々交流が進み、制作部の方から直接「こんな印刷はできる?」と提案してもらえるようになれば、印刷の幅も広がると思います。
赤尾さん:印刷にはみんなが関わって作るのですが、これまでは完全分業制でした。今回は担当者レベルで一緒に作る過程を通して、部署間で意見を出し合う流れが生まれたのは、すごくよかったと思います。
単純な仕事を続けても、難しいことにチャレンジしても給料は一緒 それでも「やってみよう!」と思える風土
次の展開として何か考えていらっしゃることはありますか?
三藤さん: 縁がまっすぐでなくギザギザになっているチラシや、紙の端辺りに小さな穴が開いているものを見たことがあるでしょうか? どちらも紙を裁断する上で残ってしまうもので、不可欠なのですが、決してキレイではありません。これらをなんとか目立たなくする技術を試作中です。現在は裁断する刃と針の耐久性の問題について、メーカーと開発しているところです。
新たな試みの挑戦には、費用もかかると思いますが、リスクは心配になりませんか?
竹林さん:最終的にはお客様に気に入ってもらえることが一番だと思っています。「ギザギザや針穴が目立たない美しいものを提供できます」とオススメできることこそ、当社の強みなのです。
田中さん:ずっと昔から、他ではできないこと、変わったことにこだわりを持ってチャレンジして来た会社なんです。例えば、他の会社は印刷だけで終わるところを、後ではがきを張るとか、他のページとくっつける、という作業を印刷と同時にやれないかと考えて、実際にやってしまいます。そうした風潮があるので、挑戦するために費用がかかるとしても、まず提案してみようと思えるのです。
赤尾さん:単純な作業を続けても、難しいことにチャレンジしても、給料は一緒です。だから、たいていの人はややこしい仕事は面倒だと考えるかもしれません。でも我々はそこで「やってみよう」と思います。そしてやれる風土がある。これは実行する若い人たちの力であって、当社が自慢できるところですね。
絵本『かくれん…ぼ』はBtoBからBtoCへの挑戦 自分たちから発信したいものを作る
では次に制作側のお話をお聞かせください。具体的にどんな業務内容ですか?
沖さん:もともとは新聞印刷の関係で、行政の広報物を主体に制作していました。例えば、佐々木がデザインした大阪観光局の公式キャラクターが、カレンダーをはじめ、いろいろなグッズ、イベントで今でも使われています。その流れを受けつつ現在では商業媒体やWebにも力を入れ、企業のイベント案件も増えました。またメディア関連の仕事も増えており、ツイッターやSNSにも携わり、かなり幅広いご提案ができる体制になっています。
佐々木さん:企画編集センターは、ライターとデザイナーとWebチーム、総勢30名ほどの部で、印刷物からWeb媒体まで丸ごと制作できる、「発想から発送まで」プラスWebもやりますといえるのが特徴です。特にWebサイト制作では、弊社が印刷用にデザインしたデータを流用できますので、スムーズです。
沖さん:最近は当社出版の絵本を作る新事業も始まりました。
拝見させていただいた御社1作目の絵本『かくれん…ぼ』は、愛らしい絵柄の幼児向け絵本ですね。どんなきっかけでこの絵本を作ったのでしょうか?
赤尾さん:これまでのBtoB体制から、次はBtoCにも挑戦しようと考えました。依頼される仕事だけでなく、当社オリジナルの印刷物を販売しようという試みです。世の中では、印刷物の需要は年々減っていますが、特殊な紙を使った商品やパッケージは、底堅い需要で成り立っています。そこで当社では、おもちゃ的な紙の印刷に焦点をあて、自ら出版社となり「自分たちから発信したいものを作る」というコンセプトで絵本の出版を始めたのです。
社内の体制やお客様の反響はいかがですか?
赤尾さん:発売したばかりでまだまだこれからです。絵本のPR動画も制作中で、今後、第二、第三の企画を計画しています。このプロジェクト案件では新人の女性スタッフを含むチームを組みました。これまでやったことのないものに挑戦しようと、今回人気アーティスト小西慎一郎さんに協力していただき、素敵な絵本が出来上がりました。これからこのチームでシリーズ化していく予定です。
数多くの案件ごとに部署をまたいでチームを組み、いくつも兼任する
大阪観光局の公式キャラクター『大阪bob』も人気ですが、観光局からの依頼だったのですか?
佐々木さん:いいえ、キャラクターデザインのお話が初めからあったわけではないのです。 大阪観光局のサポーター向けメールマガジンのお仕事をする際、デザイン要素のひとつとして男の子の絵を描いてアップしたところ好評で、観光局からキャラクターとして使いたいとお申し出がありました。コンセプトはインバウンド向けのサイトなので、いろいろな国のイメージで12人のキャラクターをデザインしました。
竹林さん:『大阪bob』のカレンダーは、取引先でもかなりの人気です。年末にはカレンダーのために当社までお越しくださる方もいます。
佐々木さん:今年はさらに『大阪bob』を使ったフリーペーパーの提案をして、企画から進めた新事業にも取り組んでいます。
赤尾さん:社内では数多くの案件があり、全てチームが組まれています。部署をまたいで編成されたチームを、みないくつも兼任しているのです。
いくつも案件を抱えて大変なのでは……?
沖さん:兼任が大変というより、一つ一つの案件それぞれに難しさがあります。 例えば、日本着物システム共同組合(JKS)さまの案件は、組合員であるそれぞれの呉服屋さんからの条件をすり合わせるのに時間がかかりました。本のテイストに気を配りつつ、お店のカラーや地域性を考えた紙面づくりが必要でした。そこは、難しいところですが、面白くてやりがいのあるところでもあります。
どうすればいいものができるか、最先端の演出はなにか、 外に出ていろいろなものに目を向ける
制作の上で、意識していることはありますか?
佐々木さん:キャラクターのマスコットを作ったり、イベントにグッズ出店させていただいたり、紙媒体以外の新しい案件に携わる機会があるので、どうすればいいものができるか、日々外に出ていろいろなものに目を向けるようにしています。アイディアのきっかけになるものをいつも探しています。
沖さん:媒体によっては、ディレクションが必要なこともあります。その際お客様の理想に向けて効果的なツールを提案できるよう、社会の中で何が求められているのか、最先端の演出はなにか、情報を収集しています。休日に流行の場所に行き、アートセンスを磨くことも日常的に取り入れています。
求めるのは、何回もチャレンジできる人、 こだわりを持ってやれる人、細やかな女性の力、根性がある人
一緒に働くスタッフとして、どんな人材を求めますか?
三藤さん:新しいものを作ろうとすると常に苦労の連続です。考えて、試して、だめならまた考えるという繰り返しです。何回失敗しても、チャレンジできるようなタイプがいいですね。
沖さん:佐々木のように、こだわりを持ってとことんやるタイプですね。とことんやって初めてお客様に出せるものができると思います。さらに社内では自分の意見を伝える力、社外ではお客様と一歩踏み込んだコミュニケーションをとれるディレクション能力も大事です。クリエイティブが好きな人が一番ですが、社会人として何かを残そうとする前向きな人がいいですね。
赤尾さん:今後、部署間のやり取りが増えることを考えると、工場には女性の力が必要です。やはり女性は、男性にない細やかさをもっているので、現場の雰囲気が柔らかくなるだけでなく、仕事も丁寧な仕上がりになると思います。とくにプリプレス部門のようなコツコツとした作業に、女性の力が必要です。
竹林さん:確かに男性は大雑把になりがちなところがありますが、根性さえあれば、男性でも女性でも、当社は力を試せる環境だと思いますよ。
取材日: 2016年12月14日 ライター: 東野敦子
株式会社高速オフセット
- 代表者名(よみがな): 代表取締役社長 橋本伸一(はしもと しんいち)
- 設立年月: 1986(昭和61)年12月
- 資本金: 91百万円
- 事業内容: 総合印刷会社として幅広く展開。 ・日刊紙、各自治体の広報紙や業界紙、ミニコミ紙まで網羅した「新聞印刷」 ・チラシ、ポスター、カタログ、パンフレット類等を扱う「商業印刷」 ・書籍、雑誌等の「出版印刷」 ・OA機器に対応する請求書やマークシート用紙等を作成する「フォーム印刷」
- 所在地: 大阪市北区梅田3丁目4番5号 毎日新聞ビル6階
- URL: http://www.kousoku-offset.co.jp/